【完結】天才科学者と恋の話   作:オルトルート

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 ちょっとシリアス強めかもです。


篠ノ之束とヒトの話

 某日 篠ノ之神社 にて

 

 ☆

 

 やっほ、よく来たね。

 急に呼び出してごめんね。

 

 

 うん、今日呼び出したのはさ。

 ほら、分かる? あれ。

 今日は夏祭りなんだよ。

 だから、せっかくだし一緒に回ろうかなー、と思って。

 …………ダメ?

 

 

 ……いいの?

 ホントにいいの? 

 

 

 あ、あとね!

 手を繋ぎたいんだ。

 せ、せっかくその、お付き合いしてるんだし。

 いいでしょ?

 

 

 そ、それじゃ失礼して……。

 ――――お、おぉお……。

 いや、なんかびっくりしちゃって。

 久々につないだけど、やっぱりおっきい手だね。

 

 

 む、そうだよ、ぜんぜん繋いでないんだよ。

 まぁ、束さんとお出かけする機会がなかったっていうのもあるけど……。

 とにかく! 今日はずっと手を繋いでてね。

 ふふふ、さぁレッツゴー!

 

 

 ★

 

 

 よっこいしょっと。

 いやー、回った回った。

 あの屋台の親父、束さんのこと見て相当驚いてたよね。

 まぁ、あの束さんが男を連れてこんなところにいるとは思わないか。

 

 

 それにしても。

 いやー、なかなか侮れないもんだね、この夏祭りっていうのも。

 昔はうるさいし人が多いしで大嫌いなイベントだったんだけどねぇ。

 ほら、ちょうど箒ちゃんが生まれる前の年さ。

 ちーちゃんと三人で祭り荒らししようとしたじゃん。

 そうそう、型抜きとかの景品全部総取りしちゃおーって。

 ……結局、ちーちゃんを騙しきれずに未遂に終わったけど。

 

 

 あれもこんな祭りは大嫌いだ! っていう意思表示だったのかも。

 束さんってばあの頃人嫌いだったし。

 ついでに言うとカミサマってのも大嫌いだったんだ。

 ふふ、仮にも神社の娘が言う事じゃないね、これ。

 

 

 ――――ねぇ

 ちょっと聞いてほしい話があるんだけど、いいかな。

 ……別れる、なんて話じゃないから、安心して。

 うん、大事な話。

 少なくても、束さんにとっては。

 ……ありがと。

 そこに座ってもらっていいよ。

 

 

 ――――さて、と。

 さっき言ってた、箒ちゃんが生まれた頃の話なんだけど。

 あの頃の束さんってさ。

 世界には束さんと、キミと、あとちーちゃんと。

 それにいっくんと箒ちゃんだけしかいないと思ってたんだ。

 我ながらバカバカしい発想だよね。

 けど、当時は本気でそう思ってたんだ。

 

 

 他の“人間”なんてみんなヒト未満。

 世界中の誰もが“ヒト”になり切れなかったやつら。

 だから、束さんの周りにしか人間はいなくて。

 あとは全部、ヒトの形をした化け物かなんかと思ってた。

 ……B級映画みたいな設定だよね。

 割と本気で信じてた束さんが言うのはなんだけど。

 

 

 あれから十数年経ってさ。

 世界にはいろんな人が居る事を知ったんだ。

 ――――バカみたいな妄想をマジで信じてるやつとか。

 ――――束さんの知らない未知を提唱してるやつとか。

 ――――国のために命をささげる覚悟をしたやつとか。

 いろーんな人を二年かけて見てきたんだよ。

 

 

 で、一つ分かったのがさ。

 ――――アイツらも、人間なんだよね。

 束さんみたいに天才じゃないし。

 物事を理解するために何十年もかかるし。

 ISの一つも生み出せないやつらだけどさ。

 アイツらもちゃーんと人間なんだよね。

 

 

 ちーちゃんにこのことを伝えたらさ。

 すっごい真面目な顔で

 「お前以外の人間が生まれた時から知っていることをわざわざ話すな」

 って。 もうびっくりしたよね。

 束さんの知らなかったことが、世界中では当たり前のことだった。

 

 

 で、キミに聞きたい事っていうのはこれから。

 大事な話だから、ちゃんと答えてくれるとうれしいんだけど。

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 生物的には人間なんだろうけどさ。

 精神的、っていうかさ。

 

 

 さっきも言ったけど、昔の束さんにはね。

 他の人が自分と違う生物に見えてたんだよ。

 なにも理解しないし、理解しようともしてくれない。

 束さんの言葉は聞かないのに、他のやつらの話は聞く。

 束さんの理論は否定するのに、他のやつらの理は拍手で受け入れる。

 ――――束さんが異常だってのは、その時点でわかってたんだけど。

 

 

 それから何年か経って、ちーちゃんとかキミと会って。

 イロイロあって、しばらく経って。

 束さんがちゃーんと感情を理解でき始めた時。

 ――――束さんはね、怖くなっちゃんたんだ。

 感情を理解して、誰かの考えを推し量ることができるようになって。

 その考えが、やけに他人と違うってのも分かってきて。

 ……そのズレが、とっても大きいものだ、っていうのも分かっちゃってね。

 

 

 もしかして、人じゃないと思っていたのが人で。

 人だと思い込んでいた束さんこそが異形の化け物じゃないかって思っちゃって。

 

 

 それから、束さんは必死に否定しようとしたんだ。

 自分は人間だって。

 化け物なんかじゃないって。

 でもできなかった。

 自分が化け物じゃない、って確証が持てなかったんだ。

 

 

 皮肉なものだよね。

 自分が人間かどうかも確証が持てないやつがさ。

 他の人間を“自分未満”って言って見下してたなんて。

 

 

 

 だからね、保留してたんだ。

 束さんが本当に人間を理解できた、って思ったとき。

 改めて、自分は化け物かどうか考えてみよう、って思って。

 ――――で、今に至ったの。

 二年くらい世界を回って人を見て。

 キミに自分の想いを打ち明けて。

 ちゃんと感情を学んで、最近もう一回考えてみたんだ。

 

 

 ……結局、答えは出なかった。

 いまもまだ、出せてないんだ。

 ――――だから、キミに判断してほしい。

 束さんは人かどうか、キミから見た姿を教えてほしいんだ。

 キミの出した答えなら、多分信じられる。

  

 

 ――――なんでこの話を今したかっていうとさ。

 束さんだって幸せになりたいんだ。

 キミに出会って、恋して、やっと結ばれて。

 これからもキミと一緒にいたいと思うんだけどね。

 ……でも、化け物じゃキミを幸せにできない。

 あまつさえ、キミを不幸にしちゃうかもしれない。

 そんなことは耐えられない。

 

 

 ――――ねぇ、――――。

 私は、人だよね? 

 ちゃんと、キミと同じ、人だよね?

 

 

 ☆

 

 今にも泣きだしそうなほど悲痛な声で、束はそう訴えかけてきていた。

 そして、そう言ったきり、束は俯いてしまった。

 ――――相変わらず、考えすぎる癖があるというか。

 それも彼女の美点なんだが、今回は裏目に出たようだ。

 一つ息を吐く。

 

「束」

「……」

 

 呼びかけても返事はない。

 いつもなら全力で甘えてくるのだが、その予兆もない。

 ――――ここで、気休め程度に「お前は人間だ」というのは簡単だ。

 けれど、それじゃあ束は満足しないだろう。

 今俺にできる事は一つ。

 

「――――しょーじき、お前が人か、とか俺が人か、とか難しい話は分からん」

「……」

 

 沈黙。

 それも仕方ない。

 俺は天才ではない。

 彼女のように物事を深く考える事なんてできない。

 彼女のように知識を豊富に持っているわけでもない。

 

「けどな」

 

 俺は天才ではないから、思ったことだけを言える。

 ありのままの気持ちを、ただまっすぐに伝える。

 天才でない俺が、天才に言葉を返せるのであれば。

 束の満足する答えを返せるというならば。

 この方法しかない。

 

「たとえお前が化け物だろうと、俺が化け物だろうと。

 ――――お前が俺を好きでいる間は、ちゃんと人間だよ

「…………! 」

 

 我ながら恥ずかしいセリフだ。

 だが、そうだと確信をもって言える。

 だって、この少女が。

 ――――ずっと自分を好きでいてくれた少女が。

 ――――ずっと隣にいてくれた少女が。

 化け物だなんて、思えるはずがない。

 

 

「それに、だ」

「……? 」

「世界の中で誰がお前を化け物だと嗤おうが知ったこっちゃないし。

 俺がお前を不幸にすることはあるかもしれないけどな。

 その逆だけは絶対にありえねぇって言わせてもらおうか。

 ――――お前といれれば、俺は幸せだ。 俺が言うから間違いないだろ」

 

 

 顔が赤くなるのを感じる。

 変なことをいってないか不安だが、後悔しても仕方ない。

 束といれれば、幸せだ。

 どんなに辛くても、束の隣にいられることが嬉しい。

 そして、それを何より誇りに思っている。

 その気持ちに、嘘偽りなんて存在しないのだから。

 

 

 気持ちを切り替えて、束の手を握る。

 ここにお前はいると示すように。

 ぎゅっと強く、強く握った。

 

 

「……ちょっと、痛いんだけど」

「おぉっと、すまんすまん」

 

 

 声を上げられて、慌てて力を緩める。

 束を見れば、もう顔を上げていた。

 

 

「さて、と。

 束、なんか買おうぜ。 何食いたい?」

「……綿あめ」

「おっし了解、行こうぜ」

 

 

 そう言って二人、手をつないで綿あめの屋台を探して歩く。

 束の頬の水滴は、見なかったことにしてやった。

 

 

 ★

 

 

「――――自分が人間かどうか、なんてことでお前が悩むとはな」

「……束さん、これでも超真剣に聞いてるんだけど」

「分かってる。 そうさな、私では答えられん。

 答えるべきではない、とも言えるな」

「……ちーちゃん? 」

「そう怒るな。 ま、どうしても知りたいならアイツに聞け。

 その手の回答なら、私よりもアイツが答える方がいい」

「……アイツに? 」

「私も自分が人間かどうかなんてことは知らん。

 アイツは自分は人間だと確信をもって言うだろう。 その差だ。

 それに、お前らはもう付き合ってるんだろ? 弱みの一つでも見せてやれよ、束」

「……分かった」

 

 

 

「……全く、世話の焼けるカップルだな、アイツらは」

「千冬姉? 」

「なんでもない。 行くぞ一夏」




登場人物
・束さん
 幼いころは自分と自分が認めた人以外はヒトではないと思っていた。
 オリ主くんと過ごしている中で、異常なのは自分の方ではないかと思うようになる。
 これを「まぁいいか」で済ませると原作みたいな性格になる。

・オリ主くん
 天才ではない一般人。
 なんだかんだ束さんのことをよく理解してる。

 

いろんな質問
Q.なんか今回の話いちゃラブ少なくない……?
A.束さんがこんな性格になった理由を示そうとしたらこうなってしまいました。

Q.お前シリアスはないって……
A.まだオリ主くんが死んでないからセーフです

Q.束さんのいう"化け物"はどういうこと?
A.自分と自分が認めたやつ以外は人間じゃない!
 ⇒あいつらもちゃんと人間だった
 ⇒でも自分はあいつらとは違うのは確実
 ⇒なら自分は人の皮を被った化け物じゃないの? っていうことです。


Q.原作みたいな性格のままオリ主くんと過ごすとどうなるの?
A.オリ主くんが死ぬか監禁されるかのニ択です



 次回は(多分)最終回です

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