某日 夕刻 篠ノ之神社にて
☆
……おまたせ。
ごめんね、ちょっと待った?
どこ行ってたのか、って?
あそこだよ、ほら、見える?
そう、あの離れ。
覚えてるかな、キミも入ったことあるはずだよ?
そう、束さんの第六号秘密基地。
ちーちゃんとキミと、三人で作った秘密基地。
あそこにちょっと隠してたものがあってね。
ちょっと気になったから取ってきたの。
……何かって?
あとで教えてあげる。
それより見て、ほら、演武だよ演武。
あそこで舞ってるのがマイプリティーシスター箒ちゃん!
わかる? ちょうどちーちゃんの横あたりに見える。
そう、その子。 綺麗でしょ?
だよね!! 束さんもそう思う!!
……え? 束さんが、アレを?
いやー、えー、あのー。
あれはティーンエイジャーだから許されるものであってね。
束さんが巫女服着てるの見ても誰も喜ばないだろうし……。
お、おう。 なかなかコアな趣味を持ってるね。
……そのうち、一回だけ着てあげるから。
今はちょっと、ね?
ん? ここに来た意味?
ほら、演武が終わって、そろそろ祭りも終わるよね?
で、毎年恒例の花火をやるわけだよ。
この場所はね、誰にも見つからずに花火を見るにはちょうどいい場所なんだ。
ちーちゃんにだって教えてない、ホントのホントに束さんの秘密の場所。
ふふ、キミに教えちゃったから、もう秘密とは言えないね。
で、ここでキミと一緒に花火をみたいなーと思ったんだ。
ほら、これも覚えてるかな、えっと。
秘密基地を作った年の夏に――――。
……そう、勢い余ってその、キスしちゃったこと。
……その様子だと、しっかり覚えてるみたいだね。
あはは、はは……。
ん、んん!
あの時は、何やかんやで花火を見れなくてさ。
それ以降も、なんとなく気まずくなって、二人で花火を見ようなんて言い出せなくて。
結局、今日まで延びちゃったんだけど。
――――今日ね、キミと一緒に花火を見て。
ついでにキミに見せたいものがあるの。
っていうか、さっき取ってきたやつなんだけどね。
えっと――――――――。
☆
「これ、ちょっと読んでみてよ」
「……なんだこれ、ノート?」
手渡されたのは、古ぼけた大学ノートだった。
使い込まれた跡が相当残っている。
表紙には篠ノ之束、とかわいらしい字で書いてあるだけで、他には何も書いてない。
中に何が書いてあるのか想像もつかないが、汚れ具合からするに相当の量だろう。
恐る恐るそのノートを開いて。
「…………なぁ束」
「なにさ」
「俺の見間違いじゃなきゃこれはあれか。
――――なんかの理論式か」
篠ノ之束は何も言わなかった。
ただ、笑みを深めて曖昧に頷くだけだった。
しかし、――最近付き合いはじめて分かったことであるが――篠ノ之束は無駄なことは嫌う。
しからば、この乱雑に書かれた数式のようなものにも意味があるはずだ。
そう心を奮い立たせ、一心不乱に読み進める。
そうしてからどれほど時間がたったか。
読み進めている間、束は何も言わなかった。
ただ、嬉しそうな瞳がこちらを覗き続けていた。
「……束」
「なにさ」
「なんだこの式。全然わかんねーわ」
ひらひら、と手を挙げて降参の意を示す。
式自体は理解できるものが多かった。
しかし、その解はまったくもって理解不能であった。
世の科学者の何割がこの式を理解できるというのか。
いや、そもそも。
「……多分、これオリジナルの式をいくつか混ぜてるだろ」
「えへへ、ばれちゃったか」
「……」
道理で途中から急に理解できなくなった訳である。
解が出てきたと思ったら、他の解と不可思議な展開を見せ、新しい理論が顔をのぞかせる。
その飛躍の一つでも論文にしておけば、篠ノ之束の功績がまた一つ増えるだろうが。
こちらを微笑みながら見つめる彼女は、そんなことはしないだろうな、とも思う。
意味不明な骨子から理論が構築されていく――――。
このノートを表すならば、まさにそれだ。
「……で、結局なんなんだ、このノート」
「ふふ。 いいよ、教えてあげる」
そういって、篠ノ之束はそのノートを手に取った。
どこか懐かし気に、そして得意げに。
その内容を、説明し始めた。
「このノートに書いてあるのはね。
――――ISコアの基礎理論、だよ」
「――――は? 」
瞬間、思わず気の抜けた声が出てきた。
ISコアの基礎理論。
篠ノ之束が生み出したIS、そのブラックボックス。
それを紐解くカギが。
こんな、古ぼけた大学ノートに――――?
呆然とする俺をよそに、束は話し続ける。
「知ってると思うけど、ISコアの基礎理論っていうのは言っちゃえばISコアの作り方。
で、今現在ISコアの製造法を知ってるのは、この地球上だと束さんだけ。
それ以外の人間は知らなかったわけだけど」
「…………」
ISコアの基礎理論は莫大な価値を生む。
それは何十億、何百兆なんて言葉では言い表せないほどのものだ。
なにせ、それを知れば、ISコアの製造技術を導き出せる。
今まで束が独占してきたその方法が、世界に知れ渡る。
その結果、何が起こるかなんてことは天才ではない俺でもわかる。
――――世界を変えるに足る力が、あちこちで乱立する。
「ふふ、ここに二人目が誕生しちゃった。」
そんなことも予測できない束ではないだろう。
いつにもまして何を考えているのか分からない。
そこで、ふと気が付く。
束は、笑っていた。
声色も、どこか嬉しそうで。
「今、キミはこう思ってるでしょ。
『なんでこんなことを今言うんだコイツは』って」
「……」
「むぅ、沈黙は肯定と受け取るよ」
肯定も何もその通りだ。
今の状況で、このノートを見せてきた意味が分からない。
ついでに言えば、何故笑っているのかも理解できない。
あのね、と束は続ける。
「――――キミに、知ってほしかったんだ。
篠ノ之束が生み出したISのことを」
そう語る彼女に、ふざけた様子は一切ない。
ともすれば、本気で俺にISの基礎理論を見せたことになる。
天才でも何でもない。
篠ノ之束の彼氏というだけの、この俺に。
「きっと君が理解できないってことも分かってる。
でも、知っておいてほしかったの」
だってね、と束は続ける。
無邪気に笑いながら。
ためらう様子もなく。
本当にうれしそうに、彼女は語った。
「私の好きな人には、私の全部を知ってほしいと思うでしょ? 」
「――――――――」
あぁ、もう。
初めからわかっていたことだが。
俺は、コイツに勝てる気がしない。
「――――あー、でも困っちゃったな-。
キミが理解できなくでも、このノートの中身を流出されちゃったらなー。
他の人が理解しちゃったら、束さんとーっても困っちゃうなー。」
あまりにわざとらしく、感情のこもっていないセリフ。
甘えたように声を出す彼女に思わず苦笑いを浮かべる。
もしかして彼女は、俺がそう簡単に秘密を漏らす男だと思っているのか。
そんなことはしない、と大げさに誓ってみればいいのか。
何の気なしに、とりあえず弁明の言葉を言おうとして。
「――――んっ」
「――――」
――――束の唇が、俺の唇を強引にふさいだ。
まるで、初めてキスしたあの時のように。
いきなりかつ大胆に。
けれど、初めてのキスとは真逆で。
触れ合うように優しく重ねられて。
俺の唇は、あっさりと束に奪われてしまった。
「――――だからね。」
唇が離れていく。
その感触は、まだそこに残っている。
あんまり驚きすぎて呆然とする俺を見て何を思いついたのか。
ぎゅっ、と束が抱き着いてきた。
胸に顔をうずめるようにして、しっかりと抱き着いてくる。
「キミはこれからずーーっと、束さんと一緒にいなくちゃいけない。
なにせ、束さんの一番大事な秘密を握っちゃったんだから」
束が顔を上げる。
笑みを浮かべていた。
いたずらが成功した子供のように、無邪気な笑みだった。
呆然としていた俺は、その笑みをただ綺麗だと思うだけだった。
「束さんは君が秘密を漏らしたりしないように、キミを監視しなくちゃいけない。
もちろん、いつだって、どこだって、ずっと隣で監視させてもらうからね。
どんなことがあっても、ずっと、ずーーーっと一緒」
「……束」
あぁそうか、と理解する。
これは、言うなれば、束なりの――――
「束さんはそう簡単にキミから手を引かないよ。
一生かかってもキミを監視し続けるかもね。
――――それでもキミは、一緒にいてくれる? 」
「……まったく、お前ってやつは」
そんなの答えるまでもないだろ――――と。
そう伝えるように、再び二人の唇が重なった。
真夏の夜空に、大輪の花が咲いた。
それは、まるで二人を祝福するかのようで。
世界が闇に包まれ、黄金が暮れた今。
輝きはまばらに、けれども確かにそこにあって。
白と赤の花火が、いつまでも二人を照らしていた。
登場人物
・束さん
ヒロイン。
オリ主くんが好きすぎる。
このあとめちゃ(
・オリ主くん
主人公。
束さんのことが大好き。
このあとめちゃ(
いろんな質問
Q.束さん神社の娘なんだし巫女服着よう?
A.巫女っていうのは穢れの無い人しかなれないとかなんとか。
つまり、そういうこと。
Q.ISコアの基礎理論ってなんだよ
A.ISコアの基礎理論です
Q.束さんの見せた大学ノートに書いてあるのはマジのやつ?
A.マジのやつ。
Q.二人はこの後どうなるの?
A.いつまでも二人、幸せに暮らしました。
「天才科学者と恋の話」、これにて完結です。
あとがき→活動報告にて公開予定