少女が歩む道   作:霧熊童子

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語られない一面と偶像

「――月の使者がかぐや姫を迎えに来てかぐや姫が月へと帰るというのは皆も知ってますよね」

 

夏休みが明けて9月の中旬。4月から授業で扱っていた竹取物語ももうすぐ終わりに差し掛かっていた。

 

「確か帰る際にかぐや姫が帝に不老不死の薬を渡した…だったでしょうか」

「そう、けれど帝はその不老不死の薬、一般的に呼ばれている蓬莱の薬を服用せず山に埋めることにしたのです。不老不死の薬がある山、不死の山、富士山と実は富士山の名前の一説にもなっているのです」

 

先生は黒板に富士山の名前の成り立ちを書きながら話す。

 

「しかしかぐや姫が月の使者と共に月へと帰る際にその使者を虐殺して地上へと逃げ延びるといったお話も存在するのです」

 

と、そこでキーンコーンとチャイムが鳴り響く。

 

「最後に一つ、先程話したもう一つの話はテストには出さないからちゃんと勉強するように。以上」

 

クラス委員長が起立礼と言って昼休みを迎える。

 

 

「巡は竹取物語のもうひとつの話ってどう思う?」

 

学食を食べながら巡に話しかける?

 

「どうって言われてもねえ……かちかち山みたいな感じじゃないの?というかそんなに気になるんだったら図書館で調べてきたら?」

「うん、そうする」

 

巡の提案に私は頷き、食べ終わった後図書館へ向かう。

 

 

――――――――――

 

 

図書館の閲覧室へと入り、竹取物語に関しての本を探す。

 

「んー中々見つからないなー……」

 

10分ほどかけて数冊の本をテーブルに置いて椅子に腰かける。

 

 

「まずはこの本から……」

 

1番上に積み上げられた本から順に確認をしていく。

 

「多分最後の方かな……あったあった」

 

探していた箇所を見つけ、そこから読み始める。

 

『かぐや姫が月の使者を虐殺して地上へと逃げ延びるという描写は長い歴史の中で改変・削除されていき、月へ帰るという描写に差し替えられる。かぐや姫が罪を犯して地上に来たという理由すらも民話のかぐや姫の物語は愚か、竹取物語ですらも描写されなくなった。つまりこの物語も罪と罰が無く、上辺だけを綺麗に整えた物語になってしまったという事だ』

 

「教科書にかぐや姫が地上に来た理由書かれていたかな…」

 

教科書をここに持ってきてないので頑張って内容を思い出そうとすると声を掛けられる。

 

「ねえ君」

 

後ろを振り返ると2年か3年の人が立っていた。

 

「私に何か御用でしょうか?」

「人違いだったらそれで良いんだけど、もしかして君って()()()()()()()()()?」

「なッ…!」

 

あまりにも驚いてシラを切り損ねてしまった。私は立ち上がって先輩の手を引いて慌てて図書館の外へと出る。

 

「な、なんでそれを知ってるんですか!?」

「弟がよく君について話すんだよ。今日はカエルのお姉ちゃんと砂遊びしたーとかな。それで7月位に一緒に公園に行ったら君に似ていたんだよ」

 

まさかあの子供たちの中に先輩の弟がいるとは思わなかった……

 

「いつも弟の遊び相手になってくれてありがとう」

「いえ、別に……。好きでやってるので」

 

唐突にお礼を言われ挙動不審になりながらも言葉を返す。

 

「先輩いいですか。この事は私と先輩の秘密ですからね!」

 

なんでと問う先輩に対してなんでもと言い返す。

長い時間話し込んでいた訳では無いのにいつの間にか昼休みの終わりを告げるチャイムがなる。

 

「出しっぱなしにしていた本を片付けないといけないのでこれで失礼します!」

 

先輩にそう言い残して私は大慌てで図書室に戻る。

 

 

 

(私の変装ってバレバレだったのかな?)

 

確かに伊達眼鏡に手作りお面というお手軽変装アイテムだからバレてもおかしくないけれど……

あの先輩の言葉を聞いて、そんな事を考えながら本を元の場所に仕舞い教室に戻る。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

「私の変装ってバレバレでしたか?」

 

学校が終わり、家に帰って夕食を食べた後に諏訪子様達に尋ねる。

 

「いきなりどうしたんだい?」

「昼休みに先輩の人に私の正体を当てられてしまって……。それで変装はバレバレだったのかなと」

「私達は早苗を知ってるから変装しても認識出来るからねー。もう1人くらい部外者がいたら分かるんじゃない?」

 

神奈子に訊かれ、説明したところで諏訪子様が答える。

 

「今度変装無しで子供達の相手してみたらいいんじゃない?」

 

そんな恐ろしい提案を諏訪子様が持ちかける。

 

「ヒーローは秘密でなくちゃいけないんですから!」

「その先輩とやらに既にバレてるじゃないか」

「うぐッ……。まぁ、確かに、そうですけど……」

 

神奈子様の正論によって何も言い返せない。

 

「もっもし変装がバレバレだった場合更に増えるじゃないですか!」

 

なんとか反論するとテキトーに返事してあしらわれる。

そこそこ真面目に悩んでるのに諏訪子様達のテキトーさ加減に呆れ部屋を出る。

 

「早苗、どっか行くのー?」

「気分転換に散歩してきます」

 

それだけを言ってドアを閉める。

 

 

 

 

 

「あちゃー、神奈子のせいで早苗拗ねちゃった」

「何他人事みたいに言ってるんだい…」

 

部屋を出ていく早苗を見てから諏訪子は呑気に話す。

 

「まぁあの子なら直ぐに元気になるだろうさ」

「そうだね」

 

そして諏訪子と神奈子は引き続き早苗の部屋でくつろぐ。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「もう二人ったら…」

 

ブツブツと呟きながら昏い街を1人歩く。夏至が過ぎ、あと数日もすれば秋分になるけどそれでもまだ夏のそれである。

 

「っと、すみません」

 

下を見ながら歩いて居たせいで前から来た人にぶつかる。

 

「大丈夫だよ。今急ぎじゃないならさ、これから俺と一緒に遊ばない?」

 

ナンパされた事にあきれ果てる。

 

「急いでるのでいいです。では」

「そんなこと言わずにさー」

 

そう言って男はその場から立ち去ろうとする私の腕を掴まれる。危機的状況の筈なのに思考はこの危機から脱する事ではなく、いつかテレビでみた偶像(ヒーロー)に持っていかれる。

 

(ヒーローは決して負けない……)

 

ボロボロになりながらも悪と戦い、そして勝つヒーローの姿がフラッシュバックする。

 

(ヒーローはいつも――)

「――無敵だからーッ!」

 

叫ぶと同時にもう片方の腕で八つ当たり気味にストレートを放つ。綺麗に決まったのか相手は腹を抑えてうずくまる。

そんな相手を一瞥したあと、早足にその場を立ち去る。




富士山の名前の由来に蓬莱の薬が関わってるのを遠い昔にどこかで見た気がするんですよね…

月の都の医療技術って凄いですよね
蓬莱の薬もそうだし変若水(おちみず)という容姿を若返らせる水もあるし、嫦娥に遣わされた玉兎が中国の疫病を治すという逸話もありますからね笑
ちなみに兎児爺(トゥルイエ)と検索すれば疫病のやつがヒットするので是非
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