生き残った彼は   作:かさささ

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第10話

 

 

 

 

「チームランク戦?どういうことだよ」

 

 ランク戦をやろう!と言った米屋に対し、出水は聞き返す。米屋が好む一対一(サシ)の勝負ではなく、チームとしてのランク戦をしようと言ったのだ。おそらく発案者は米屋ではないだろう。

 

「いやな?さっきブースで犬飼先輩らと会ったんだけど、話してるうちにそうなったんだよ」

 

「その話してるうちにを聞いてんだよ」

 

 望んだ回答は得られなかった出水だったが、大まかな状況は理解することができた。おそらく米屋と犬飼の共同で企てたのだろう。

 口では文句を言っている出水だが、実際のところ彼はもう今日の予定がなかった。昼飯を食べた後はランク戦のブースにでも行こうかなと考えていただけに、結局出水は二つ返事で了承した。

 

「俺も行きたい!」

 

 緑川も元気よく名乗り出た。これでこの場にいる4人のうち3人が参加することとなった。答えていないのは柊だけとなり、彼のもとに3人の視線が集中する。

 

「えっと……はい。俺も参加します」

 

 もともと拒否するつもりもなかった柊だったが、3人からのプレッシャーによって頷かざるを得なくなった。

 柊が参加を表明したことによって、メンバーが一気に3人増えた。その事実に米屋はご機嫌になる。

 

「よっしゃ!そうと決まったら早速行こうぜ!」

 

 早速移動を促す米屋。しかし柊たちは……

 

「「「まだ食い終わってない!!」」」

 

 まだ昼飯が残っていた。もう少し待ってろと3人は叫ぶ。しかしそれでも米屋は早く食えと急かした。結局昼飯を掻き込む羽目になった柊、出水、緑川であった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 昼飯をつめこんだ3人を従えて、米屋はブースに到着する。そこには既に犬飼らが待っていた。

 

「米屋くん。いい人いた?」

 

「はい!もうバッチリっす!」

 

 犬飼が成果を尋ねる。それに米屋は自信満々に収穫した人物を披露した。

 

「へぇ、いい人たちじゃん。これは楽しくなりそう。近野くんたちは初めましてだね。俺は二宮隊の犬飼澄晴。よろしくー」

 

 柊たちの紹介を受けて大いに満足する犬飼。そのまま初対面の近野と緑川にも自己紹介をする。

 

「んじゃ、こっちの成果を発表ー」

 

 そう言って一歩横にずれる犬飼。それによって隠れて見えなくなっていた人物が誰だかはっきりする。

 

「あら、昨日ぶりね。今日もよろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

 後ろにいたのは柊がつい昨日知り合った黒江と柊たちに地獄を見せた加古だった。

 

「犬飼くんから聞いたわ。面白いことするそうね。私たちも入れてくれない?」

 

「いや別に大丈夫っすけど、犬飼先輩と加古さんって知り合いだったんすか?」

 

「顔合わせはしてるわ。私と犬飼くんのとこの隊長と知り合いだからそのつながりでね」

 

 犬飼は知り合いの加古を呼んだらしい。そしてそれについて来た黒江も一緒に参加、という流れだ。

 

「ほら辻ちゃん、いつまでもそんなとこいないでこっち来なって」

 

 そう言って犬飼は振り返る。しかしそこにはブースのソファしかない。

 と思っていたらそこからひょいと顔が出てきた。軽いアシメントリーな黒髪の辻ちゃんと呼ばれたその男は犬飼に弱々しく反論する。

 

「いや……だって犬飼先輩。チーム戦やるって言うから参加したのに。加古さんたちを誘うだなんて聞いてないですよ」

 

「いい機会じゃないか。ここでその女性に対する苦手意識を克服しようよ」

 

「…………無理です」

 

 そう言って再び辻は顔を引っ込めた。たしかに犬飼の言う通り辻は顔を出してから1度も加古と黒江の方を向いていない。本当に女性が苦手なようだ。

 

「これで何人だろ。1、2、3……8人か。あと1人だね」

 

「アタッカーならバランスよくなりますね」

 

 今集まっているのは全部で8人。そのうちアタッカーが5人でシューターとガンナーが合わせて3人なので、あとアタッカーが1人いればバランスの良い3人チームが3つできる。この調子なら三つ巴のチーム戦ができそうだ。

 問題は誰を呼ぶか、である。

 

「そうね、なら知り合いのアタッカーに声をかけてみるわ」

 

 そう言って携帯を取り出した加古は電話をかけるために席を外す。果たして、加古の知り合いとは一体誰のことだろうか。

 それぞれ待っている間会話を楽しみつつも、その場にいる全員が加古の動向に注目している。

 

 

 しばらくして電話を終えた加古が戻ってきた。代表して米屋が加古に問いかける。

 

「どうでした?加古さん」

 

「ばっちりよ。これから来るって」

 

 加古が読んだのは一体誰か。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「よう。面白いことやるって言われてな。よろしく頼むわ」

 

「「「た、太刀川さん!?」」」

 

「これは…………なかなかの大物だね」

 

 少し経って、来たのはアタッカー1位の太刀川だった。まさかの大物に騒然とする一同。どうやら加古が呼んだのは太刀川だったらしい。

 

「へぇ、出水もいたのか。……お!近野じゃん!前は戦えなかったから楽しみだぜ」

 

 集まったメンツを見て、太刀川がさらに興奮していく。

 

「それじゃあ、チーム分けをしましょう?」

 

 皆が太刀川の登場に衝撃が抜けない中、呼んだ張本人の加古がチーム分けを促す。

 加古の声にみんなはようやく落ち着きを取り戻した。

 

「チーム分けはどうします?」

 

「適当でいいんじゃないかな?アタッカーとその他だけ分けてやればバランス良くなるし」

 

 犬飼は遊びも兼ねているのだからどうせなら普段とは違った感じにしようと提案する。反対意見が出なかったので、くじを使ってチーム分けを始めた。

 

 

 

「お前らとチームか、よろしく頼むぜ」

「初めまして、よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく、近野くん」

 

 

Aチーム

出水公平(L)

近野柊

辻新之助

 

 

 

「緑川くんに黒江ちゃんよろしくー」

「よろしく!」

「よろしくお願いします」

 

 

Bチーム

犬飼澄晴(L)

緑川駿

黒江双葉

 

 

 

「2人ともやる気満々ね」

「マジでやったらその分マジで返してくれるからな」

「楽しみでしょうがないっす!」

 

 

Cチーム

加古望(L)

太刀川慶

米屋陽介

 

 

 これで近距離2人と中距離1人の編成のチームが3つ出来上がった。面子だけ見ればCチームが頭1つ抜けてそうだが、コンビネーションのことを考えると幼馴染が揃ったBチームも侮れない。名アシストとして知られている出水と辻のいるAチームも組んで戦えばかなりいい感じだろう。

 個人の強さだけでは、チーム戦の勝敗は決まらない。

 

「それじゃ、軽い作戦会議とかも含めて15分後にスタートってことで」

 

 犬飼の指示に全員了承し、それぞれチームごとにブースの中に入る。

 

 

「お前ら、俺がリーダーで本当にいいのな?」

 

「俺はチーム戦の動き方とか全然わからないのでできません」

 

「俺も……か、加古さんとかに当たったら何もできなくなる。出水の方が良いと思う」

 

 柊も辻もリーダーを務めるには不安要素があまりにも大きかった。本人たちもそれを自覚しているため、出水にAチームのリーダーを託す。

 

「了解。じゃあ柊と辻は自己紹介してくれ」

 

 出水リーダーは2人に自己紹介を促す。お互いに今日が初対面だからだ。

 

「改めて俺は近野柊と言います。アタッカーです。よろしくお願いします」

 

「アタッカー4位の近野くんだよね。噂は聞いているよ。俺は辻新之助。よろしく」

 

 自己紹介を済ませたのを見て、出水が作戦を伝える。と言っても即席チームなので簡単なものだが。

 

「今回は柊をメインにして俺と辻で援護する方針で行こうと思う」

 

「俺がメインですか?チーム戦の経験もないのに」

 

「だからこそだ。チーム戦の経験がないからこそ攻撃に専念してもらう。少しくらいは連携を頼む場面はあるだろうけどな。それに、アタッカー4位の攻撃力を活かさないなんてもったいないだろ」

 

 手元のカードは少ないが、柊がいるため攻撃力に関しては問題ないだろうと考えた出水。足らない部分は辻と協力して埋めていけば良い。出水も辻もそういう役割を担うことが多いため、ある程度はチームとして機能させることができるだろう。

 

「細かいところを詰めていくぞ。まずは……」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「へぇー。緑川くんと黒江ちゃんは幼馴染なのか。所属は違うみたいだけど連携できるかんじ?」

 

 一方犬飼が率いるBチームは、緑川と黒江が幼馴染であることに注目した。連携を取ることができればその分他より優位に立ちやすくなるからだ。

 

「どうだろー。入ってから双葉と共闘とかしたことないし」

 

「けどソロランク戦で戦った時のことから考えると、ある程度はできると思わない?」

 

「たしかに。全く知らない人とやるよりは上手くやる自信があるね」

 

 緑川と黒江は勝負した時のことを思い出した。その時は協力ではなく対決だったが、ある程度お互いの癖を把握していたこともあって互いに決定打を与えることができずに、勝負が長引いたりしたこともあった。

 

 その話を聞いて、犬飼は緑川と黒江の2人の連携を軸に作戦を立てることを決める。

 

「よーし。じゃあ軽く作戦立てるよ」

 

 即席のチームで連携を取れるということは大きな強みとなる。そこで有利になれるよう、Bチームは打ち合わせを始めた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 加古・太刀川・米屋のCチームは、他のチームとは少し様子が違っていた。

 

「じゃあ始まったら俺は1番近いやつのとこに突っ込めば良いのか?」

 

「だってあなた私の指示にいちいち従わないでしょう?」

 

「それもそうだな」

 

「いいんすか?そんな適当で」

 

 他のチームと違って具体的な作戦を立てていない。リーダーの加古が太刀川に指示したのは開始直後の単純な動きだけ。もっと作戦を練るべきではないのかという米屋の疑問に、加古は確信を持って答えた。

 

「こっちの方が良いわ。太刀川くんは細かい指示で縛るより自由にやらせた方が活きるもの」

 

 今回の場合、太刀川はチームで連携するよりも単騎での崩し役の方が適任だと加古は考えたのだ。

 

「それに今回はオペレーターもいないもの。あまり細かい指示は出せないわ」

 

 今回のチーム戦はブースのチーム戦モードを使うため、どのチームもオペレーターがついていない。そのためいつもとは勝手が違ってくるのだ。

 ちなみに太刀川はもう話を聞いていなかったりする。ワクワクしてチームランク戦の開始を今か今かと待っている。

 

 子供か。

 

『15分経ちましたー。マップは市街地Aでどのチームもオペレーター無し、いつも通りポイント制です。準備いいですか?』

 

『いつでも良いっすよー』

 

「こっちも良いわよ」

 

 犬飼から通信が入り、諸注意などが改めて伝えられる。犬飼の最終確認に出水と加古がいつでも大丈夫だと応える。

 

 程なくして、3チーム9人が1つの仮想空間に転送された。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 転送が完了する。

 レーダーで位置を確認すると、柊の位置は北の端にあった。マーカーの数を数えると自分のを含めて4つしかない。バッグワームでレーダーを避けている人がいるようだ。

 

 そこまで考えが及んで、柊の元に出水から通信が入った。

 

『柊、お前どのへんにいる』

 

「映ってるマーカーの1番北です。出水先輩は?」

 

『俺はその1つ東だけど辻が1番南東にいて遠い。2人ともお互いの位置を目指して最短で合流してくれ。俺もそこで落ち合う。柊はバッグワーム使って間にいるやつうまいこと避けてこい』

 

『辻了解』

 

「了解です」

 

 出水からの通信でお互いの位置が判明する。この後の行動も示してくれたおかげで出遅れることはなさそうだ。指示の通りに動くためバッグワームを着ようとしてーーすぐにそれは無理だと気づいた。

 

「すいません出水先輩。捕まりました」

 

『マジか早いな、相手は?』

 

 レーダーを見ると柊のすぐ南に転送された誰かがまっすぐ柊を目指していた。このままだとあと数秒でぶつかるだろう。

 柊が身を寄せていた塀と道路を挟んだ向かい側の屋根の上に、それは降り立った。

 

「ラッキーだな。まさか1番近いのが近野だったとは」

 

 逆光で柊からは顔がはっきり見えない。けれどもその声は聞き間違えようもなかった。ロングコートを着て両腰に孤月を差しているその男は、

 

「太刀川さんです」

 

「戦おうぜ」

 

 ソロ最強の男、太刀川慶だった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方でマップの西側。Bチームが全員で集合できたものの、米屋と加古に挟まれる形になってしまった。

 

 加古としては、太刀川には自由に動いてもらうが、流石に1人でチームに突っ込んで100%勝てるというほど楽観視しているわけではない。B級下位なら可能でも今回のメンバーではそれは難しいだろう。だからチームと合流する前に叩くよう加古は太刀川に指示した。

 そしてそれを援護出来るように米屋と加古は最短で合流を目指した。その時ちょうど間の位置に全員バッグワームを着て合流しようとしていたBチームを挟む形になったのだ。

 

「さて、この挟まれてる形をどうにかしたいね。数では勝ってるんだ。距離が開いている今のうちに俺が加古さんを抑える。だから」

 

「こっちは駿と2人で米屋先輩を、ですね」

 

「おっけー任せてよ」

 

 犬飼の意図を理解して黒江が食い気味に言葉をつなぐ。緑川も異議なしで素直に従った。

 

「優秀だね!」

 

 会話の終了を合図に2人が飛び出す。残った犬飼も加古の迎撃のためにアステロイドの弾丸を撃ち出した。

 

「おっ!2人ともか!」

 

 接近してくる緑川と黒江を視界に捉えた米屋は、槍を構えて2人を迎え撃った。

 

「グラスホッパー!」

 

 緑川がグラスホッパーを使って先行。角度をつけて米屋に斬りかかった。

 しかしそれは囮、本命の黒江が米屋の背後から攻める。それに気づいた米屋は緑川を弾いた後、槍の柄の部分を器用に使って黒江の攻撃を受け止めた。

 

 ステップを入れて下がり2人が視界に入る位置に移動した米屋。

 

 

 それから何度か攻め込んだ緑川と黒江。しかし米屋が上手く立ち回るため、2人がかりでも米屋に決定打を与えることができないでいた。

 

「ダメ、米屋先輩上手い。駿と挟み撃ちができないし、どうする?」

 

 米屋が2人に挟まれないよう常に位置を取っているため、2人は連携が満足にとれていないのだ。

 

「犬飼先輩そっちはどう?」

 

 緑川は通信を通して犬飼の方の様子を尋ねる。帰ってきた返事は、こちらと同じように旗色が悪かった。

 

『ダメだねー。加古さん上手いから少しずつ押されてるよ』

 

 加古はハウンドとアステロイドを駆使して犬飼を攻撃している。射程でのボーナスはガンナーの方にあるが、シューターの売りである自由度を活かして加古は犬飼を押しやっていた。

 

『このままやっても削られるだけかもね。東の戦場に行こう。そこを巻き込んで点を獲る』

 

「なるほど」

 

 レーダーで周りの様子を確認していた犬飼は、このままここで戦っても得はないと判断。東側の戦闘に乱入すればまだマシだろうと思い、犬飼は移動することを判断した。

 

『よし、行くよ』

 

「「了解」」

 

 じわじわと下がりつつ、Bチームの3人は東側の戦場へ向かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 東側の戦場では、柊が太刀川の猛攻に晒されていた。出水と、遅れて合流した辻のサポートのおかげで落ちてはいないものの、あまり良い状況ではない。

 

「旋空孤月!」

 

 下がった太刀川が旋空を起動して一歩前に出ていた辻を狙う。体制を崩された辻に追撃をかけて、弾き飛ばす。これによって今、柊たちの太刀川迎撃体制が崩された。

 決定的に崩されないように柊が斬りかかって戦線を維持しようとするも、太刀川は左手に持つもう一本の孤月でガードする。

 

『柊!』

 

 出水からの警告が響いた途端、柊は太刀川が身を引いたことでバランスを崩した。その隙に飛び込んできた人物に、柊は腹から肩にかけて大きく斬られ、右腕を肩から落とされた。

 

「こんのん先輩の腕一本いただき!」

 

 その人物は、緑川だった。

 

 

 

 




ーーーーーーーーーー転送位置

             近野
 米屋                 出水(b)

        犬飼(b)
                 太刀川
      
    黒江(b)

            加古(b)
緑川(b)                  辻


ーーーーーーーーーー※bはバッグワームを着た人

本格的なチーム戦は次回です。すいません。

次は割とすぐに投稿できると思います。

リアル感?を出したかったのでチーム分けと転送位置は全部あみだで決めました。これが吉と出るか凶と出るかはわかりませんが……。


何か疑問等ありましたら、遠慮なくお尋ねください。


最後に誤字報告、お気に入り登録をしてくださった方たちにお礼を申し上げます。

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