「こんのん先輩の腕一本、いただき!」
柊の腕を斬ったのは、グラスホッパーの加速を活かして飛び込んだ緑川だった。戦場を東に移してきたBチーム。そこで緑川が先行して攻撃したのだ。
『悪りぃ柊。知らせんのが遅れた』
「いえ、俺も周りが見えていませんでした」
緑川がここに来たということは、他のメンバーもここにいる可能性が高いということ。
そこまで柊が考えた時、柊の背後から黒江が飛び出した。ソロランク戦では目の前の人物にのみ集中するため、集団戦が不慣れな柊はまたも反応が一歩遅れる。
しかし黒江の攻撃は、復帰した辻の手によって止められる。辻としても即席とはいえ、チームメイトがやられるのをただ見ているわけにはいかなかった。
そしてもう1人の柊のチームメイトも、このまま黙って見てるわけがなかった。
『アステロイド!』
出水がフルアタックで太刀川や緑川たちを狙う。そのあまりの弾幕の多さに、全員が距離をとる。その隙に柊と辻も下がって距離をとった。
柊は傷口を手で押さえてトリオンの漏出を抑えようとするも、すぐには止められず、かなりの量のトリオンが漏れてしまう。
「揃っちまったけど、この方が周りを巻き込めそうだな」
犬飼や加古たちも追いつき、BチームとCチームも味方と完全に合流した。相手の体制が完全に整うまでに太刀川を仕留めたかった出水だったが、その太刀川がいつも以上に構ってくる以上周りをうまく利用した方が楽そうだと判断する。
チーム戦初参加の柊にはこの乱戦は少しきついだろうが、そこは出水がフォローするつもりのようだ。
「三つ巴の状態か。だがまずは、手負いの近野からだろ!」
太刀川が柊に突撃してくる。利き腕が使えない柊には勝ち目がないだろう。
だがそれも一対一での話だ。
「!!」
太刀川を狙って旋空孤月が振り降ろされる。辻の攻撃によって太刀川は一瞬足を止めた。
「ナイスだ辻!」
ハウンド!
辻を労った出水はすぐさま細かく分割したハウンドで太刀川に追い打ちをかける。堪らず太刀川も1度下がり、旋空で一掃する。
それを隙と捉えた緑川が出水に向かって飛び込んだ。
しかし柊も助けられっぱなしは容認できない。緑川に対して妨害シールドを張り、避けて浮き上がったところを攻撃する。
しかし緑川はもうその手に慣れている。シールドを躱してすぐ旋空も難なく躱し着地する。
その隙を狙って緑川に突撃しようとする素振りを見せた米屋だったが、それは犬飼の威嚇射撃で断念させられた。
状況は膠着状態に陥っていた。どこかが深く攻め込まれない以上、それは崩れないだろう。
「太刀川くん。狙いは変えない?」
「もちろん。これからだぜ」
やはり太刀川は一貫してAチームを狙うようだ。定石通り、堕としやすいところから倒すつもりらしい。
「わかったわ。出水くんは私が止めるから、そのうちに2人とも獲りなさい。いい?」
「おう」
「じゃあ俺は緑川たちの方だな。俺の獲物だ、ってやつで」
方針を決めたCチームが行動に移る。太刀川は柊と辻、米屋は緑川と黒江に向かって駆ける。
加古はその後ろから出水に仕掛けるようだ。
「アステロイド」
「アステロイド」
出水と加古が同時にアステロイドを繰り出す。威力や弾数に多少の違いはあるものの、2人の弾丸はほぼ全て相殺された。
出水はもう1度トリオンキューブを構える。しかし今度は2つだ。
「アステロイド!」
出水が加古に対して取れるアドバンテージを活かしてフルアタックで攻撃する。加古もいくらか撃ち落とすものの、やはり数が足らなかった。
正面から撃ち合うのは困難だと判断した加古は、素直に下がって建物を使い射線を切る。
加古がレーダーから消えたわけじゃない。場所が割れている以上、注意を払っていれば今なら奇襲されても反応できるだろう。ならば獲れるポイントを取りに行く。今一番浮いているのは援護のために1人孤立している犬飼だ。
バイパー+メテオラ
「トマホーク!」
バイパーとメテオラを掛け合わせた合成弾が、横から角度をつけて犬飼を狙う。その威力は犬飼のフルガードを大きく削るほどだった。致命傷は避けているものの、犬飼はダメージを負ってしまった。
もう一度出水が角度をつけて撃ち込もうとして、その前に犬飼が動いた。
突撃銃の銃口が出水を向く。アステロイドの弾が撃ち出され、出水を蜂の巣にしようと迫った。
「アステロイド!」
それを出水はメインのアステロイドで相殺する。続けてサブのバイパーを起動。細かく分割したそれは、不規則な動きをもって犬飼を追い詰めていく。
「まだだ!」
再び銃口を出水に向けて発砲するが、それは建物の影に隠れることで防がれた。やはり直線にしか動かないアステロイドではハウンドやバイパーを持っている出水相手に不利だった。
「ハウンド!」
だから犬飼はサブのハウンドにかける。弾幕を張って相手の視界を制限している間に、ハウンドを高く撃ち上げた。
しかしその瞬間、犬飼は盾にしていた建物ごと撃ち抜かれた。その正体は、貫通力の高いギムレットだ。視界から消えている間に合成弾を用意していたらしい。
トリオンの漏出が激しい。ここで犬飼はベイルアウトしてしまうだろう。だが彼はまだあと一手残している。
行けっ!
高く弧を描いた犬飼のハウンドは、出水の頭上に弾丸の雨となって降り注いだ。犬飼の出方と加古の居場所の2つに意識を割いていた出水は反応に遅れ、即ベイルアウトとはいかなくても、腕や足にかなりのダメージを受けてしまった。
「取り敢えず、最低限の仕事はしたかな」
そう言い残して犬飼の戦闘体は崩壊し、
そう、仕事は果たした。点を獲れずに落とされたものの、今の攻防は無駄ではない。犬飼は一瞬の隙をついて出水を手傷を負わせた。そこからフィニッシュに持っていくのは、ーーチームメイトである緑川の仕事だ。
飛びかかってくる緑川にギリギリで反応できた出水はシールドで防御する。そこからすぐに弾丸を放って反撃するも、既に緑川は離脱していた。
「速えなクソ」
初めて緑川のグラスホッパーによる機動力を目の当たりにして、出水はそう溢す。
同じチームの太刀川もグラスホッパーを使うが、遠くの的に攻撃を届かせるために使うくらいなので、使用頻度はかなり少ない。しかし緑川はこちらを撹乱するために、連続で使い続けている。彼は飛び回ることでこちらの死角に入り込もうとしていた。小柄というのも、より素早く見える要因になっているだろう。
柊と辻が太刀川を相手にしている以上、援護は期待できない。なんとか距離をとるか、または緑川が動きにくい場所に移動したい出水だが、犬飼の最後の攻撃で削られた足では満足に移動できず、その場で応戦するしかなかった。しかし、あまりの緑川のスピードに、だんだんと出水の防御が間に合わなくなっていき、ついに、緑川の刃が出水に届いた。
「やるじゃねえか」
その一撃が決め手となり、出水も
***
黒江の相手をしていた米屋は、彼女の戦い方に軽い既視感を覚えていた。立ち回りや攻め方、それらが誰かに似ていると感じていたのだ。十合二十合と撃ち合っているうちに、やがて米屋はその理由に気がついた。
なるほど、柊の動きに似てるわけね……。
それは黒江が柊と戦い柊から盗んだ技術。見よう見まねではあるものの、米屋に似ていると感じさせるほどの動きに至っていた。それは偏に、黒江の才能と努力によるものに他ならない。
しかしそれでも所詮は付け焼き刃。何度も何度も柊と戦ってきた米屋は、それの崩し方を十分に理解している。斬り合う中で、米屋は虎視眈々とその時を待った。
そして訪れたチャンス。米屋は槍を引き絞り、一気に突き出した。
幻踊孤月!
その一撃を黒江は辛うじて避けたものの、幻踊孤月によるトリオン操作で黒江の首を浅くではあるが斬り裂く。避けたはずの首からがんがんトリオンが漏れ出していく事実に、黒江は思わず動きを止めてしまった。その一瞬で仕留めようと、米屋はもう1度槍を引き絞る。
「させない、よ!」
トドメを刺そうとした米屋めがけて、戻ってきた緑川が背後から斬りかかる。離脱した緑川が戻ってくる可能性を十分に考えていた米屋は、それに難なく反応して攻撃を防いだ。
「あらら、揃っちまったか」
「遅い」
「ごめんて」
戻ってきた緑川に黒江が軽く文句を言う。予定より出水に粘られてしまったために、緑川の到着が遅れてしまったのだ。
揃った2人は再び米屋に対して強みである連携で攻めていく。
しかし米屋も簡単にはその形を作らせてやらない。槍のリーチを活かして陣形の外から攻撃をしていく。
リーチで有利を取られている2人はじわじわと削られてしまっていた。
「グラスホッパー!」
流れを変えるために緑川がグラスホッパーで強引に迫った。高速で米屋の周りを跳び回る。
柊と戦い続けるうちに考えついた攻撃方法。まだ完全に慣れていないため角度が鈍いが、初見の米屋に対しては十分に効果を発揮した。
至近距離で跳び回る緑川に米屋は反応しきれない。しかしだからといって対処法がないわけでもなかった。
「旋空孤月!」
刃が伸びる槍を器用に振り回して緑川を追い払う。高速で跳び回っていた緑川にピンポイントで合わせて手傷を負わせていく。米屋の方が彼より一枚上手だったようだ。
しかしこれはチーム戦。この場には、緑川の味方がいる。
「韋駄天!」
米屋の注意を引き付けた時点で、緑川の仕事は達成されていた。米屋の注意が逸れたその瞬間、黒江の姿が霞むほどの速度で移動。高速の斬撃をもって米屋を斬り裂いた。
つい今朝に完成した韋駄天。まだ直線的な動きしかできないが、そのスピードはグラスホッパーにも匹敵する。いや、それ以上か。温存していた
「揃いも揃って、速えな」
反応できなかった米屋は致命傷を受け、
「ダメよ双葉。気を抜いちゃ」
「加古さ、ん」
それはチャンスを伺っていた加古のハウンド。米屋から受けた損傷と合わせて黒江も
加古に気づいた緑川が戦闘態勢に入るも、通信越しに犬飼がそれを止めた。
『今ここで加古さんとやりやっても意味ないよ緑川くん』
「犬飼先輩……!」
『手負いで不利な状態ならなおさらだ。ここは一旦引いて、チャンスを待ったほうがいい』
「……わかった。そうするよ」
犬飼の説得を受けて緑川は離脱した。
「あら?構わず来ると思ったのだけれど、犬飼くんの指示かしらね」
緑川の性格から飛び込んでくると予想していた加古は、素直に下がった緑川に驚き、犬飼の助言の可能性を考えた。加古としては今戦った方が楽だっただけに少し残念がる。けれどもまだまだ機会はあるだろう。
加古も建物の陰に消えていった。
***
柊・辻vs太刀川は、柊が片手を失っていることと、出水からの援護がなくなってしまったために劣勢に立たされていた。まだ倒されていないのは、辻のサポート能力の高さのおかげだった。
今の状態の柊が一対一で太刀川と対峙したら、1分も持たないだろう。そんな状態の柊だが、辻が絶妙なタイミングでサポートしてくれるおかげで生き残れていた。太刀川も、辻のせいでいまいち攻め切れていない。
なので太刀川は、いつでも倒せる柊を後回しにして辻から優先して倒すことに決める。その後孤立した近野を倒せばいいという判断だ。
方針を決めるや否や、二刀の連撃を全て辻に叩き込んでいく。片腕の柊は先ほどの辻のように上手くサポートができず、一気に押され始めた。
ここから挽回できるのか。
そんな不安が頭をよぎったその時、共に戦う辻から通信が入る。それは太刀川を倒すための提案で、しかしそれには相当のリスクがあった。柊も辻も、失敗したら終わりだろう。
『わかりました、やりましょう』
しかしこのままでは、劣勢の状況を崩すことができずにやられるだろう。なら一か八か、その作戦にかけるしかない。柊は辻の作戦に乗ることを決意した。
配置を変えて、柊と辻が太刀川を挟むようにして位置をとる。そして同時に攻撃を仕掛けた。
「お、なんか企んでるな?」
しかし太刀川は冷静に対処していく。両手の孤月を巧みに使って、2人の攻撃を次々に落としていった。
「ハウンド!」
2人がかりで同時に攻めることで攻勢に出ようとした柊と辻。しかし太刀川が冷静に防いで反撃してくるため、抵抗も虚しく辻が押し返され始めた。そしてその瞬間、柊が動いた。
射撃トリガーを使って太刀川に面での攻撃を仕掛ける。太刀川は余裕を持ってグラスホッパーで飛び上がって回避するも、そのトリガーの正体はハウンドだ。相手を追尾するハウンドが、飛び上がった太刀川を追いかける。
「旋空孤月!」
十分に距離をとった太刀川が両手の孤月でハウンドを全てぶった斬った。叩っ斬られたハウンドの残りカスの煌めく中をーー旋空の刃が通過して太刀川の左肩を深く斬り裂く。傷口からトリオンが漏れ出していく。
斬撃を放ったのは辻。太刀川の一瞬の隙をうまくつくことができたため、やっとまともなダメージを入れることに成功した。そしてこのチャンスを逃さないよう、柊がアステロイドでさらに追撃する。
地上に降りることでそれを躱した太刀川は、弾丸を飛ばしてくる柊を堕とそうとする。柊に迫る太刀川の元へ、横から辻が旋空孤月を振り下ろす。しかし太刀川はそれを待っていた。
一歩引くことで余裕を持って躱し、逆に辻に旋空を叩き込む。供給機関が破壊された辻は光の柱となり
再び柊からのアステロイドが太刀川に迫る。太刀川は最低限の防御をシールドに任せ、奥でトリオンキューブを構えているであろう柊もろともに斬ろうとする。しかし振り切ったその一振りに、手応えはなかった。
そこには抉れた地面のみ。ベイルアウトの光もなかった。ならば一体どこへ。
その時、辻に潰されて使えない左腕の方から旋空の刃が迫る。反応した太刀川だったがあと一瞬間に合わず、柊の攻撃が彼に届いた。
「なるほど、置き弾か。出水の指示か?」
その言葉を残して、太刀川は
辻からの作戦はとても単純。どちらかが作った隙をもう片方が狙う、というだけ。
ただ攻めるだけでは太刀川は崩せない。それは辻もよく理解していた。だからここで太刀川を墜とすべく、トリオンの温存を度外視した特攻を提案した。たしかにそうでもしなければ倒せないだろうと、柊もそれに乗った。
通信でそれを聞いていた出水は、柊がセットしていた射撃トリガーに目をつけ、それを使った置き弾を作戦に組み込むことを提案したのだ。
辻が隙を作り出し。
出水の提案が最後のピースを埋めて。
それら全てを駆使して柊がフィニッシュを決めた。
どれか1つ欠けていたら、この勝ちはなかっただろう。
柊・辻・出水vs太刀川の戦いは、3人の力を合わせた柊たちの勝ちで終結した。
「……くそっ」
しかし代償は大きかった。特攻した分戦闘体に細かい傷が増え、さらにトリオンが漏れ出していく。加えて射撃トリガーをトリオンの温存を考えずに出せる最大火力で放ったため、柊のトリオンはもう残りわずかになっていた。柊の戦闘体にヒビが入り始める。
「こんのん先輩、まだやれる?」
柊がもたれかかる民家と反対の屋根に姿を現した緑川。しかしもう柊は戦えない。戦闘体のヒビがさらに大きくなっていく。トリオンが漏れ出す傷を抑えても、トリオンの漏出を止められないのだ。
「悪いな。もうトリオンがない」
『戦闘体活動限界、
アナウンスが機会的に柊の終わりを告げ、光の柱となって柊が脱落した。太刀川が与えたダメージより、緑川が腕を切り落としたダメージの方がトリオンの漏出量が多かったため、Bチームの点となる。
柊を見送った緑川。次の瞬間、緑川の元にハウンドの雨が降り注いだ。戦局を見ていた加古が緑川を仕留めにかかったからだ。
角から姿を現した加古が再びハウンドを放つ。遠距離の攻撃手段を持たない緑川は距離を詰めるしかない。グラスホッパーを踏んで最速で近づいていく。ハウンドが描く円形の軌道の内側を縫うように進み、間合いまであと数メートルとなったところで緑川はスコーピオンを構えた。これで決める!と緑川がスコーピオンを振り下ろそうとした瞬間、緑川が首を斬られた。
「!?」
「ごめんなさい。私スコーピオンも使えるのよ」
ハウンドで
得点 生存点 合計
A 2 2
B 3 3
C 2 2 4
オペレーターなしのルールのせいで客観的な視点の描写が入れらませんでした。戦闘の様子などが伝わりにくくないか大変不安です。
何か疑問等ありましたら、遠慮なくお尋ねください。
最後に誤字報告、お気に入り登録をしてくださった方たちにお礼を申し上げます。