生き残った彼は   作:かさささ

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第2話

 

 

 

 結局予想していた米屋とバッタリ会うということにはならず、静かに過ごすことができ任務は特に大事も起こらずに終了した。夕食の買い物や準備をするにしてもまだ時間があるのを確認した柊は、朝と同じようにランク戦ブースへと向かうことにして歩き始めた。

 

 今朝は米屋を相手に勝つことができたが、それを差し引いても最近は負けが続いていたため、ポイントが一時期より減ってしまっている。ランク戦をする際、柊の方が所持ポイントが高いことが多いため、負けたらかなりの量を持っていかれてしまう。逆に柊が取れるポイントは取られるよりも少ないので、数をこなして元を取らないといけないのだ。

 

「お、またまた柊発見〜」

 

 出やがった。またお前かよ。そう思う柊だったが、それを表に出すことはなかった。柊が振り返るとそこにいたのは米屋だけではなく、となりにもう1人少年がいた。黒いロングコートの隊服を着た出水公平だ。

 

 出水はA級1位の太刀川隊所属の天才シューター。膨大なトリオン量を持つ彼から放たれる弾丸トリガーはまさにマシンガン。そして「千発百中」とはそんな彼の言葉。なんてバカ丸出しなのだろうか。命中率10%だなんてそれでいいのか天才。などと周りから好き放題に思われている。

 

 出水も米屋ほどではないが、柊によく話しかけるやつである。槍バカ米屋に付き合える数少ない人物である柊(本人はそんなこと思ってない)に興味を持ち話しかけて以来、出水も柊によくからみに行っている。柊としては米屋と同じようなやつが2人に増えたことに当時落ち込んでいたが、貴重なランク戦相手が増えたと無理矢理自分を納得させた。

 

「またランク戦かよ」

 

「そちらも"また"でしょう?」

 

「そういえば朝もやってたんだったな。ログ見たわ。相変わらず脳筋だったなお前ら」

 

「トリオン量で圧倒してるやつに言われたかないなー」

 

「バーカ、俺はちゃんとバイパーとか使って相手追い詰めてるんだよ槍バカ!」

 

「うるせー弾バカ!千発百中とか意味わかんねえんだよこのやろう!」

 

「なんだとっ!」

 

 このように、使うトリガーと普段の姿から槍を使う米屋は槍バカ、バカスカ撃ちまくる出水は弾バカと呼ばれている。2人合わせてボーダーA級が誇る2大バカである。

 

 目の前でじゃれあいを始められたので柊は無視してブースに向かおうとした。

 

「「こらぁ!逃げんな柊!」」

 

 目ざとく気づいた2人は声を合わせて叫んだ。面倒になりそうだったので逃げようとしたのに!逃げられなかった柊はテンション下げ下げで2人を睨む。

 

「そんな目で先輩見んなやこら、お前朝これ(槍バカ)とやったんだろ?次は俺とやろうぜ」

 

「まてよ!俺は今朝のリベンジするんだよ!」

 

「お前もう1回やってんだろ!俺はまだなんだよ!だから先俺!」

 

「いや、リベンジ!」

 

 やっぱり面倒になったと、柊は逃げられなかった数分前の自分を恨んだ。

 

 

 

***

 

 

 

 結局2人ともと戦うハメになった柊はブースに連行された。まずは出水からである。

 

「さて、今日もポイント頂くぜ」

 

 アタッカーの柊はシューターの出水に対して相性が悪かった。現在3連敗中である。出来れば戦いたくない相手ではあるのだが、もう既に戦うことは決定事項のようだし、仕方ないと諦める他なかった。これ以上ポイントをむしり取られたくない彼は、いい加減そろそろ勝っておく必要があった。

 

 ブースに入った2人は端末を操作し、一瞬の浮遊感に包まれた。

 

 

 

***

 

 

 

 浮遊感から解放された出水が立っていたのは住宅街のど真ん中だった。周りの様子から建物が密集している市街地Bだろうと、あたりをつける。今回ランダムで選ばれたマップは、その密集度という特徴から立ち回りが難しく、あたりを吹き飛ばせるメテオラ持ちが有利に動きやすい、という特徴を持っている。そして、出水はそのメテオラを持っている。

 

 出水はレーダーを起動して柊を探す。けれどもレーダーにはなんの反応もなかった。単純にリーチの差から、正面からのぶつかり合いならばアタッカーの柊はシューターの出水に歯が立たない。おそらくそれを避けるためレーダに映らないバッグワームを起動しているのだろうと予想する。

 

 しかしランク戦において、相手方とは一定の距離をあけて転送される。具体的な位置は分からなくても彼我の距離さえある程度分かればーー

 

 

「ビンゴ♪」

 

 

ーー防御のタイミングはつかめる。

 

 タイミングと狙いを読んだ出水のフルガードに、背後から首を狙い振り切られた柊の孤月は止められ、弾かれた。弾かれた柊はその勢いに逆らわずに下がり、着地と同時に距離を詰める。シューターの出水に距離を置くということはそれすなわち自殺行為だ。

 

 しかし出水もはいどうぞと詰めさせてはやらない。メインとサブのトリガーを器用に使い、柊の進行を妨げる。孤月とシールドを使い、ガードしながら接近しようとした柊だったが、防ぎきれずに数発被弾する。あまりの弾幕の細かさに強行突破を断念。進路を変えて路地へと逃げ込み射線を切る。

 

「逃すかよ」

 

 出水は自動追尾するハウンドを選択。路地の入り口と上に撃ち、簡単な挟撃の形を作る。しかし着弾による破壊音は2ヶ所から聞こえてきた。ということは柊がバッグワームを着てレーダー追尾のハウンドから逃れたということ。

 

 出水は路地に隣接する家の屋根に登ってあたりを見渡し、アステロイドを展開して見つけ次第撃てるように構える。しかし柊の姿はどこにも見えない。もっと遠くに逃げたのかと移動しようとしたその時、斬撃が出水の足場の屋根を右足ごと斬り裂いた。

 

「うげっ!」

 

 破壊した屋根の下から柊が飛び出す。柊が隠れていたのは出水の真下だった。

 

 慌てて路地を挟んだ隣の屋根に跳び退いた出水にダメージを与えたことを確認し、旋空孤月を一閃。2人の距離は10m弱、旋空の範囲内。出水は慌ててフルガードするが踏ん張りの効かない体制だったため、孤月からの衝撃に吹っ飛ばされ地面に墜落する。受け身をとって落下の衝撃を抑えた出水をーー柊のアステロイドが貫いた。トリオン器官を破壊され、1戦目は出水の負けで決着した。

 

 

 

***

 

 

 

 2戦目開始のアラームを聞いた柊は再びバッグワームを着て、レーダーに示した出水の元へ走る。今の勝負は、下がった出水に畳み掛けることで押し切ったが、連続でそんなチャンスを与えてくる程、出水は優しくない。しかし柊が出水に勝つためにはやはり先ほどと同様に奇襲から始めるしかなった。

 

 柊もアステロイドとハウンドをセットしているが、それはあくまで牽制と追撃用。天才シューターである出水と撃ち合ったところで、押し負けるのは目に見えている。どうしても柊が得意な近距離に持ち込む必要があった。

 

 そしてそれは出水も読んでいる。だから柊にとって大事なのは初撃とそこからの動きだった。さっきの奇襲のように、出水のフルガードに弾かれないように注意しなければ。そこまで考えて、飛んできたメテオラの爆発に巻き込まれた。

 

 柊を炙り出すために、出水は周りの建物をメテオラを使って更地にした。柊は咄嗟にフルガードで防いだのでダメージこそないが、周りの建物は全て崩れ、彼の居場所は簡単に目視できるようになってしまった。

 

「見つけたぜ」

 

 柊を見つけた出水のはアステロイドのフルアタックを仕掛ける。回避を選択しようとして、柊は気づいた。

 

「(瓦礫が邪魔で……これが狙いか!)」

 

 出水の本当の狙いは柊の炙り出しではなく、足場を崩すことだった。今までのランク戦で柊は出水のフルアタックを全て建物を盾にするか回避するかで凌いできた。それは出水のトリオン量から繰り出されるフルアタックを、フルガードでも防ぎ切ることができないからだ。

 

 だから出水は先手を打った。メテオラで辺りを更地にすることで遮蔽物を全て壊してフルアタックに対する選択肢を回避一本に絞り、作り出した瓦礫でそれをさせないように仕向けた。

 

 回避しきれないことを悟った柊はダメージを最小限に抑えるためにフルガードした。アステロイドのフルアタックが止んだそこには、なんとか致命傷は避けたものの、体中を撃ち抜かれ、左手の肘から先を失った柊がいた。

 

「全部は防ぎきれなかったようだな。どうよ!今まで散々避け続けてきた俺のフルアタックの味は!」

 

「……最悪ですね。2度と味わいたくないです」

 

「そうかよ。なら、今すぐ2度目を味合わしてやる!」

 

 フルアタックの準備を始める出水。柊の残りのトリオンでは、2度目は防げない。ならば、打たせてはいけない!

 

 アステロイドを撃ち込まれた足ではスピードが出せず、フルアタック発射までに間に合わない。ならばここから届かせるしかない。右手に握る孤月を構え、旋空を起動する。

 

 旋空孤月!

 

 振り切った旋空は出水の首に吸い込まれてーーフルガードに阻まれた。

 

「っ!」

 

「引っかかったな!」

 

 フルアタックと見せかけてフルガード。出水のフェイクに騙された柊に一瞬の隙が生じる。そこを逃す出水ではない。今度こそフルアタックで柊は蜂の巣にされた。

 

 

 

***

 

 

 

「いやぁ、取った取った!」

 

 2本目で白星を掴んでから調子を上げた出水は柊から連続で勝ちを拾い、そのままの勢いで圧倒し続けた。

 

近野

○×××○×○×××

出水

×○○○×○×○○○

 

 3-7。結局柊は3本しか取れなかった。それも全て最初と同じ奇襲からのゴリ押し。2戦目で出水がやったメテオラローラー作戦はあれっきりだったが、それでも勝てなかった。出水に真正面から挑んでも、柊はたどり着く前に蜂の巣にされる。現状奇襲しか勝つ手がない柊だが、出水がそれに対応しつつあるので以前のように点が取れなくなってきた。これで4連敗。過去最低記録である。

 

「なんでお前俺に勝って弾バカに負けてんだよ」

 

「つまり俺の方が強いってことだよ槍バカ」

 

「なんだと!」

 

 ホントじゃれあいやめてほしい。柊は辟易していた。目の前でうるさくされて、鬱陶しくなって無視して逃げようとしたら今度は2人してその矛先を柊に向けてくる。結局柊は出来る限り2人を意識の外へ追い出し、たた時が過ぎるのを待つことにした。

 

 

 

「そういえは柊さ」

 

 やっと終わったか、早く解放しろ。そんな文句を秘めつつも、顔には出さず、目線を合わせることで米屋に先を促した。

 

「最近コイツに負け続けてね?何連敗?3?」

 

「今俺が勝ったので4だな」

 

「前はもっと勝ってたろ?何かあったのか?」

 

 何か、聞かれても柊にはそれが何なのか自覚がなかった。というか、自覚があったらとっくに直している。柊はそう2人に伝えた。

 

「ふーん。まあいいや、何かわかったら話せよ!面白そうだし!それよか次俺とだぞ!」

 

 そう言って米屋はブースに走っていった。そんな米屋を見ながら、出水が言葉をつなぐ。

 

「まああんなこと言ってるけど本心から嗤ってやろう、って訳じゃないから安心しろよ。楽しんでるのは事実だけどな」

 

 2人の言葉に柊は驚いた。他人との関わりが少ない分、周りからこんな事を言われると考えたことすらなかったからだ。

 

「(意外によく見てるんだな)」

 

 普段のおちゃらけた態度が目についてばかりの米屋と出水が、柊の状態をなんとなく察していたということが、柊には意外だった。

 

「なんかあったら聞くぜ?先輩は後輩に頼られるものだしな」

 

 驚きで固まっていた柊に出水はそう声をかけた。普段先輩らしさなど微塵も感じたことがない柊だったが、この時ばかりは少し頼もしく見えた。

 

「おい!早く来いよ柊!ギッタギタにしてやるからよ!」

 

 叫んでくる米屋を見て、柊はなんか色々と残念な気になった。取り敢えずあれの処理が先か、と考えた柊は感じた先輩らしさの余韻を感じる暇なく、ブースに入った。

 

 

 

***

 

 

 

「おかしい、何故弾バカが勝てて俺が勝てない」

 

「つまりそういうことだろ槍バカ」

 

「うるせぇ!お前も似たようなもんだろ!」

 

 柊と米屋のリベンジマッチは結局5-5の引き分けに終わった。あと一歩勝ち越せなかった米屋は不満を漏らす。いい時間になったので帰ろうとする柊と横に並び共に歩く2人。何故さも当然のように一緒に帰っているのか。もう柊は突っ込まない。

 

 2人の事を一旦意識から外して、別のことを考える。今日のはポイント貯める予定だったのに米屋と出水のせいでそれもできず、さらに出水にポイントを取られてしまった。

 

 柊が出水に負けるのは単純に相性の問題のみである。これ以上ポイントを取られないためにも、シューター出水の対策は早急に取り掛からなければならない問題である。しかしそれをどう覆すか、それが柊にはまだ見えていない。頭も少しぼーっとしてきた。

 

 そこまで考えて柊は気づいた。朝から米屋と戦い、昼間まで防衛任務、昼食を兼ねた休息を少し挟んで戻ってきたら出水とまた米屋。中身が濃すぎる。そりゃ疲れる。流石に柊も疲れを隠せなくなってきた。

 

「そういえば昨日の入隊式で訓練生が最速更新したらしいぞ?」

 

 2人の話は先日行われた入隊式へと移る。入隊式では力試し的な意味も兼ねて、1対1で仮想トリオン兵と戦う。制限時間5分の中で、1分をきれば優秀と言われるレベルだ。ちなみに柊は最初勝手がわからず、1分13秒かかった。柊の強さは最初からあったものではない。沢山の時間をつぎ込んだ結果である。

 

「前が木虎ってやつの9秒だろ?そいつのは何秒だったんだ?」

 

「ああ、それがーー

 

 

「4秒」

 

 

 米屋の問いに返ってきた答えは3人の後ろからだった。一体誰だと振り返ると、まだ中学生くらいの小柄な少年が立っていた。

 

 

「その時の記録は4秒。で、俺がそれをした緑川駿。よろしくね」

 

 

 

 

 




前話で誤字報告をしてくれた方ありがとうございました。
しょーもないミスをしてしまって大変反省しています。

それとお気に入り登録をしてくださった方たちにもお礼を申し上げます。皆さんに楽しんで頂けるよう頑張っていきたいと思います。

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