生き残った彼は   作:かさささ

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第6話

 

 

 

 

 昼食をとろうと、ラウンジに向かっていた柊だったが、隣に那須と熊谷が並んで歩いていることによって、普段より注目を集めてしまっていた。ガールズチームの2人と歩いていることで周りの人がすれ違うたびに驚いた表情を浮かべて振り返る。それが彼には居心地が悪かった。

 

「どうしたの?近野くん」

 

「いえ、いつもと違う注目のされ方をしているので、すごく……居づらいです」

 

「私たちと一緒に居るからだろうね。いつも1人の近野柊が誰かと歩いてる!って。慣れなさい、友達増えないわよ」

 

「ふふっ、頑張って」

 

 ランク戦の後など注目されたことはままあったが、その視線は普段のそれとは全く異なっている。彼はそれによる居心地の悪さを訴えたが、2人とも助けずに静観の構えをとる。普段と違う環境に投げ出されたみたいな感覚だったが、この程度で根を上げたら情けない奴などと思われると思ったので、我慢することにした。

 

 ラウンジに着いた3人は券売機で食券を買い、係の人に渡す。それぞれ出来上がった料理を受け取り、席に着いて食べ始める。那須はパスタ、熊谷はカレー、柊は牛丼だ。

 

「あんた、そんな量で足りるの?」

 

 熊谷が食べ進める柊に問う。彼が食べているのは並盛りの牛丼1つ。たしかに、育ち盛りの男子中学生にしては少ない量である。

 

「えっと、あまりお金かけたくないんですよ。外で食べると作るより高いですし、そもそも大食いじゃありませんから」

 

「料理できるの?」

 

「まあ、一応」

 

「すごいじゃない!」

 

「別に、そんなことないですよ。妹と当番制にしてるから出来るだけです。それに、妹の方が上手いですから」

 

「え!?あんた妹いんの!?」

 

「妹さんがいるのね、私には兄弟いないから羨ましいわ」

 

「……そんなに、驚きます?」

 

 妹がいる、というさりげない衝撃発言に熊谷は声を上げて驚いた。今までのイメージから、柊に妹がいるなど考えたこともなかったからだ。逆に一人っ子の那須は、妹がいると聞いて羨ましがった。

 

「午前中にも言ったじゃない、意外だなって。そうそう玲聞いてよ、近野がさ」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 なんとか止めようとした柊だった。しかし彼は熊谷を抑えることができずに、今朝の恥ずかしい行動が那須へとバラされてしまった。

 

「ふふ、可愛いところもあるのね、近野くんって」

 

「か、勘弁……してください…………」

 

 いっそのこと熊谷のように笑って欲しかった。しかし那須はそんな柊を可愛いと称した。彼の心に言葉のナイフが突き刺さる。もちろん那須に悪気は1つもないのだが……。

 

「玲、熊谷さん」

 

 柊の話で盛り上がる2人に、精神的ダメージを受けてテーブルに突っ伏していた彼の背後から声がかかった。

 

「透くん、こんにちわ」

 

「あ、奈良坂」

 

 2人に声をかけたのは奈良坂透。A級三輪隊に所属しており、スナイパー2位の成績を持つ凄腕スナイパーだ。奈良坂は那須の体調を案じて、問いかけた。

 

「体調は良いのか?」

 

「うん、最近はいい感じだよ。検査も問題なしだったから」

 

「そうか、よかったな」

 

 そんな話をしている側で、柊がようやく再起動して起き上がった。柊が起き上がったことで、奈良坂はやっと柊がいたことに気がついた。

 

「……!おまえは」

 

「あ、透くん紹介するね。彼は近野柊くん。アタッカー4位で今日はくまちゃんと特訓してたの」

 

 奈良坂が柊に気づいたので、那須はそれぞれに対して紹介を始める。紹介を受けて、柊は奈良坂にお辞儀をした。若干ぎこちなかったが。

 

「そしてこの人は奈良坂透くん。私のいとこで、スナイパーよ」

 

「奈良坂だ、よろしく。……なるほど、おまえが柊ってやつだったのか」

 

「知ってたの?」

 

「ああ、米屋のやつがよく話していたからな。顔は知らなかったが、名前は聞いている」

 

 彼と同じチームのメンバーに米屋がいる。彼が頻繁にその名を出していたため、奈良坂は顔は知らずとも名前を覚えてしまったのである。そこまで話して、奈良坂は思い出したように柊に声をかけた。

 

「そういえば三輪も何度かおまえのことを話していたな」

 

 奈良坂の口から出てきた名前は彼のチームの隊長の三輪のことだった。そしてそれを聞いた全員が意外だと驚いた。三輪隊に所属している奈良坂はもちろんよく知っているが、そうでない3人も三輪のネイバーへの恨みのことについては少なからず聞いたことがあった。そんな四六時中ネイバーのことを考えていそうな三輪が、同じ隊ではないのにもかかわらずそいつの名前を出した。

 

 そんな三輪が想像できなかった柊は、何か気に触るようなことをして怒らせてしまっていただろうかと不安になった。

 

「ああ、恨みつらみを言っていたわけではなかったから安心してくれ」

 

 その不安は彼の様子から察した奈良坂がフォローすることにより杞憂で終わる。しかし三輪が柊について話した理由は分からなかった。奈良坂も知らないと言っていたので、これ以上は今は知りようもないことだ。

 

「もし気になるのなら、直接聞けばいいさ。あいつも拒みはしないだろう。じゃあ俺はこれから防衛任務だから失礼する。玲、熊谷さん、近野、またな」

 

 

 

***

 

 

 

 その後は3人のところに誰かが訪問するということもなく、会話を楽しみながら昼食を食べ進めた。

 

 やがて昼食を食べ終わった熊谷は、2人に今後の予定を訪ねた。

 

「私は帰るけど2人はこの後どうする?」

 

「検査も終わったし、私も今日はもう帰ろうと思うわ」

 

「……俺はブースに行きます。ログでわかった反省を修正したいですし」

 

「わかった。近野とはここでお別れね」

 

 今後の予定も決まり、3人はトレーを返してラウンジの出口まで歩いた。那須と熊谷は外、柊はブースへ向かうので、ここで解散だ。

 

「じゃあまたね、近野くん」

 

「またね近野」

 

 2人は柊にまたねと告げる。いつもなら柊もここで背を向けて別れるのだが、それでは彼は今までと何も変わらない。だから柊は勇気を出した。彼が思い描くのは先ほどまでいた奈良坂。

 

「あの…………、那須さん……熊谷さん」

 

「「?」」

 

「……また」

 

 それは途切れ途切れで、かろうじて聞き取れるくらいの小さな言葉。しかしその内側には、近野柊の勇気と思いが込められていた。その勇気と思いはーー2人にしっかりと届いた。

 

「「うん!」」

 

 まだまだ足らない部分は多い。しかし初めて会った時と比べて彼は変わってきている。またねと挨拶をしてきた柊に2人は成長を感じた。

 

 那須と熊谷と別れて、柊はブースへと向かう。午前中の特訓の反省を踏まえて、何本かランク戦をしたいからだ。

 

 今まで彼は、ログを見返したことが1度も無かった。ただ戦い続ければその分強くなれると信じていたからだ。

 

 今回の熊谷との特訓では、戦いながら改善点を指摘するのは不可能だと判断したためログを初めて活用した。しかし彼にとって、ログを見返すことは彼が思っていた以上の収穫があった。自分の動きを客観的に分析できたため、その時に最善だと思った行動が逆に最悪の行動だった、など所々にあった課題に気づくことができた。

 

午前中に気づいた動きの修正のために戦うけど、いつかログとかを観るだけのために来てもいいかもしれないな。

 

 そんな風に今後の行動の予定をなんとなく決めていた時だった。

 

「あ!こんのん先輩!」

 

 誰だ、と柊は思った。彼はそんな独特な呼び方で呼ばれたことなんてないからだ。

 

 怪訝に思った柊が振り返ると、以前出水にクソガキと称された中学生がいる。見覚えはある。しかしまだまだ周りに興味がなかった時に出会った以来なので、柊は目の前にいる人の名前を既に覚えていない。

 

「あれ?もしかして俺のこと忘れちゃってる?緑川駿だよ!ちゃんと覚えて!」

 

 緑川は柊が名前を忘れていることを察知して再度名乗る。緑川と聞いて柊はようやく初めて会った時、やたら自慢げな様子で名乗ってきた少年だと思い出した。そのときはあまり表には出さなかったが、その態度に少しイラっとしたのも一緒に。

 

「そうそう!俺B級に上がったよ!草壁隊にもスカウトされたんだ!早速バトろうよ!」

 

 B級に上がったことだけ伝えればいいものの、緑川は草壁隊に入ったとも言ってきた。そしてそれは彼が既にA級隊員になったということ。4秒という最速記録を打ち立てたから妥当な昇級だが、超スピード出世である。

 

 柊は緑川を相手にするつもりもなど全くなかった。柊のA級との戦績は彼が負ける可能性の方が高いからだ。しかし柊としてもこれ以上目の前でうるさくされるのは非常に困る。

 

 以前までは徹底的に無視を決め込んでいた柊。しかし今回は、自分が勝ったら大人しくなるだろうか、なんてらしくないことを考えて柊はランク戦の申し出を受けることにした。

 

「……いいよ、やろう」

 

「やった!そうこなくっちゃ!」

 

 受けて立つと宣言した柊に緑川は歓喜する。その顔は、A級の自分が負けるなどあり得ないと、勝つことを疑わない表情だった。

 

 

 

***

 

 

 

 仮想空間に転送された柊。マップはランダムでオーソドックスな市街地Aになっている。これでお互いステージによる有利不利はない。マップを確認した柊は、緑川を探して行動を開始した。

 

 緑川がスコーピオンを使うアタッカーだというのを、柊は先ほどのパネルで確認していた。体のどこからでも自由に刃を出せるスコーピオンの応用力は高い。しかしその強度は孤月と比べて圧倒的に低い。打ち合いになれば強度で勝る柊が有利だ。周りを警戒しつつ、距離を詰められすぎて孤月の間合いの内に入られないように立ち回ろうと考えていた柊のもとにーー

 

 

「っ!!」

 

 

 ーー緑川が飛びこんできた。なんとか反応できたものの、柊は右腕が斬られてしまいトリオンが漏れ出す。

 

一度引き剥がすためにまずは旋空で仕掛けてみるかと考える柊。孤月を構える。

 

「うーん、決まったと思ったんでけどなー。流石はアタッカー4位ってとこかな?でもま」

 

よゆーだね!

 

「はっ!!」

 

 またも緑川が飛びこむ。先ほどより距離が近かったため、見えていたのだが柊は攻撃を食らってしまった。走り出す挙動など一切見られなかった。それなのにあの急加速。そこまで考えて、その動きの正体を柊はグラスホッパーだと見破った。

 

 ーーグラスホッパー。パネル型のトリガーで、踏むと加速力を得ることができる。一見超便利トリガーだが、はじめのうちはその加速に感覚が追いつかず、うまく扱えないシロモノだ。

 

 そんな扱いの難しいトリガーにもかかわらず、入隊してわずかな期間で緑川はうまく使いこなしていた。草壁隊にスカウトされるのも頷ける実力である。

 

 緑川は柊の背後でまたも急加速。既に崩されていた柊はなす術なく首を斬られて落とされた。

 

 

 

***

 

 

 

 あの後さらに1本落とした柊は、3本目になって緑川の動きを捉え始めた。しかしその機動力はなかなかのもので、シールドでガードするのが精一杯である。

 

 前後左右。時に正面から、時に死角から斬り込んでくる緑川を相手に柊は防戦一方であった。

 

 右斜め前から緑川が斬りかかってきてーーそれを孤月でそらす。

 次に背後から来るのをーーシールドでガードする。

 反転して右側から攻めてくるーーもう一度孤月で防ぐ。が、弾かれて柊は体制を崩した。

 

ここだ!

 

 そしてその隙を緑川が見逃すことはなかった。一気に突き崩そうとするあたり、勝負勘も流石である。彼は自身の勝ちを確信した。

 

「あがっ!!」

 

 これで決まりと思っていた緑川は、しかし突然現れた障害物に妨害された。顔面を強く打ち付けて止められた緑川を柊は見逃さずにハウンドでサイドから攻撃。

 

 勝ちを確信したそばから突如現れた障害物と追撃のハウンド、一瞬で形成逆転されてしまった緑川は大混乱に陥った。動揺から動きを止めてしまった彼を、柊はアステロイドで撃ち抜き、緑川をベイルアウトさせる。

 

 緑川から初白星を勝ち取った柊だが、先ほどの攻防はただ押されていただけではなかった。動きを捉え始めたのは事実。しかしガードで精一杯だったのも事実。その様子に外のギャラリーと緑川は防戦一方だと判断した。

 

しかしそう見えていたのは外のギャラリーと緑川本人だけで、柊は致命傷を避けつつ反撃のタイミングをうかがっていたのだ。

 

「ねえ、さっき何したのさ」

 

 復帰した緑川が戻ってきた。今まで通り奇襲すればまた自分の有利な展開に持ち込めただろうが、それではまたさっきのリピートだ。そう判断した緑川は柊に問いかける。

 

「シールドを展開しただけだ。()()()()()()()にな」

 

 今の彼には、グラスホッパーのスピードに対抗する手段はなかった。しかしだからといって、打つ手がないわけでもなかった。

 

「確かにその速さは脅威的だったけど、その動きは直線的。それに単純なのかフェイクもなかった。だからその軌道上にシールドを置いて動きを止めた。それだけだ」

 

「そんなやり方で……」

 

 シールドを防御ではなく()()に使う。その発想は、彼が熊谷との特訓でシールドの使い方について議論した時に考えついたもの。その時は立ち回り的に実践しなかったが、スピードタイプで、さらに経験がまだ浅い緑川にバッチリはまったのだ。これも彼1人ではたどり着けなかった領域である。

 

「でも……」

 

 緑川はここで1つ深呼吸を入れて頭をリセットする。

 

「だからって負けていい理由にはならないよね」

 

 ここで緑川の雰囲気が変わった。過信、慢心を捨てて気持ちを引き締める。わずか2本の対戦で自分の動きを少しずつ捉え始めるだけでなく、クセを見抜き、自分では考えられない方法で即座に対策を打ってきたのだ。あれは舐めて勝てる相手ではない。それを頭に刻みつけ、構える。

 

「……よし、来い」

 

 柊もそれを感じ取った。ここから先は油断も隙もない真剣勝負。そんな緑川に、柊も本気で応えた。

 

 

 

***

 

 

 

近野

××○○○○○×○○

緑川

○○×××××○××

 

 それからも柊のペースで進んだ。一度緑川も意地を見せて取り返したが、流れは覆らずに7-3で幕を閉じた。

 

「たぁー、負けちゃったー!」

 

 負けを認めて悔しがる緑川。しかしその表情は悲壮感を漂わせるどころか、どこかスッキリしていた。

 

「ねえ!お願いもう1回!もう1回やってください!」

 

 再度ランク戦をねだる緑川。もうそこに慢心はなかった。自身の強さをアピールするためではない。そこには、自分より格上の相手と戦って少しでもそのスキルを盗もうとする緑川の勤勉さが光っていた。

 

「お願いします!こんのん先輩!」

 

結局その呼び方は変わらないのか。しかも前より構ってくるし……。

 

 変わらず目の前で飛び跳ねる緑川に若干憂鬱になる柊。しかし緑川のから生意気さが消えて、相手を敬う気持ちが出ていることに気づいた。うざくなくなっただけマシか、と思った柊は後1回だけなと未だ目の前で飛び跳ね続ける緑川の再戦を受けたのだった。

 

 

 

 




本編補足

・近野柊
戦闘時の彼は集中しているので、特に言葉に詰まったりはしません。普通に受け答えできます。

・緑川駿
うざさが抜けて、年相応の少年に生まれ変わりました。



一応それなりに仕上げましたが、自分でも納得しきれてない部分もあるので、おかしいところがありましたら遠慮なく言ってください。

あとルビとか傍点とか新しいことを少しずつ試していこうと思っています。書き方に違和感を感じましたらこれも遠慮なく言ってください。修正します。





最後に誤字報告、評価、お気に入り登録をしてくださった方たちにお礼を申し上げます。
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