生き残った彼は   作:かさささ

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第8話

 

 

 

 

 

 それは突然だった。今日も観戦しようとランク戦ブースに向かっていた柊は、物陰から飛び出した誰かに両手を広げられ、いきなり道を塞がれた。

 

「こんのん先輩!リベンジマッチさせて!」

 

 その誰かは緑川だった。その表情からは、今回は勝つよ!という意気込みが伝わってくる。彼は柊に敗れてからずっと「打倒こんのん先輩」を掲げて特訓に励んでいたのだ。

 

 まず緑川はランク戦を繰り返すことで、グラスホッパーの扱いに今まで以上に慣らした。これによって彼は背後に回り込むような動きやフェイントを取り入れる、などの攻撃パターンを増やすことに成功した。

 

 前回してやられた妨害シールドについてもしっかりと対策をとった。グラスホッパーを使いながら障害物を躱すという単純な練習だったが、加速中にも周りがよく見えるようになるなど、十分な成果を得ることができた。ちなみに、これについては緑川が幼馴染に協力してもらうように頼み込む際に、土下座したという小話があったりする。

 

 他にも緑川は、前回のランク戦のログを見返すことで柊の研究もした。何度も何度も繰り返し見ることによって、彼の動きや攻撃への対処方法、立ち回りなどを頭に叩き込んだのだ。

 

 緑川はできる限りのことをした。あとは目の前の柊に挑んで勝つだけである。

 

「……リベンジマッチ?何でまた急に」

 

「急じゃないよ!こないだのあれ、割と本気で悔しかったんだから!」

 

 本気で悔しがる緑川を見て、柊はその話が本当であることと、リベンジのために相当練習してきたことを理解した。

 

「……わかった」

 

 寄ってこられた時は適当に言い訳をして回避しようとしていた柊だったが、緑川の熱意に折れてリベンジを受けることにした。

 

「ホント!?」

 

「ああ、けど前と同じで10本だけだから」

 

「全然いいよ!ありがとう!こんのん先輩!」

 

 勝負を受けてもらえてご機嫌の緑川に続いて、柊もランク戦ブースに向かった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 斬って斬られてを繰り返して、2人の戦いは10本目に入っていた。

 

 飛び込んでくる緑川に対して、柊はシールドを張って妨害を試みる。しかしそれはもう通用しないと言わんばかりに、緑川は追加のグラスホッパーを展開した。角度をつけたことでスピードを落とすことなく躱す。

 

 詰め寄った緑川はその勢いを保ったまま、スコーピオンで柊に斬りかかった。だが、柊はこれまでの戦いで、今の緑川には単純な妨害シールドが通用しないことはわかっていた。間合いに入った瞬間に斬ってやろうと、孤月を構えて緑川を迎え撃つ。

 

 柊の間合いまであと少しになったその時、緑川はグラスホッパーを使って真横に飛んだ。いくら素早くても正面からでは反応されやすいため、前回の反省を生かして緑川はフェイントを入れたのだ。

 

 さらに飛んで緑川は柊の背後に回り込んだ。彼の刃が柊の首を狩ろうと迫る。なんとか反応できた柊は孤月でそれを防いだ。しかしこのまま受けに回れば勢いに乗った緑川に押し切られるだろう。

 

 それを避けようと、柊は孤月を無理やり振り切ることで緑川を自身の背後に吹っ飛ばした。そのまま振り返って上空にいる緑川を旋空孤月で攻撃するも、グラスホッパーを使って離脱される。

 

 着地と同時に再びグラスホッパーで距離を詰める緑川。それをさせないように柊はもう1度妨害シールドを張るが、緑川はそれを先ほどと同じように回避し、さらに距離を詰めてくる。もうそれ単体では、緑川相手に妨害の役目を果たすには力不足になっていた。ならば、と柊は孤月を振う。

 

 

旋空孤月!!

 

 

 横に振るわれた柊の旋空孤月を、緑川は上に飛ぶことで避ける。孤月を振り切った今をチャンスと捉えた緑川は、一気に近づこうとグラスホッパーを展開しようとしてーー頭頂部にぶつけたような衝撃を受けて減速させられた。

 

 緑川は一体何だと確認する。ここは道路の真ん中で、頭上には何も無いはずだった。緑川が振り返ると、そこにはやはりというかシールドがあった。それが柊の妨害シールドだと気づき、緑川は急いで離脱しようとする。しかし彼が妨害を受けた時点で、彼は柊の策にはまってしまっていた。

 

 柊は振り切った孤月を持ち直して再度旋空を発動させる。動揺した隙を突かれた緑川は、首を斬られてベイルアウトした。

 

 

近野

○×○××○○○○○

緑川

×○×○○×××××

 

 『7-3、勝者 近野柊』

 

 アナウンスが柊の勝利を告げ、緑川のリベンジマッチは幕を閉じた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「くそー!!今回は良いとこまで行けたのになあー!」

 

「流石に、2回目で負けるわけにはいかないし」

 

 緑川の努力が実り、5本目の時点では緑川の方が勝ち越していた。前回痛い目を見ていた彼に、もう油断も慢心もなかった。

 

 しかし簡単には負けられないと、柊も意地を見せた。

 

 妨害シールドに対応されたことで前半5本のうち3本を取られた柊だったが、まだまだ取り返せる、と慌てることはなかった。彼は対応してきた緑川に合わせてシールドの使い方を変えた。結果として6本目を取ることで流れを引き寄せることができた。

 

 ある時は妨害シールドをブラフにして緑川を誘導して倒した。またある時は10本目の時のように死角に出すことで緑川の動きを止め、動揺したところを一気に仕掛けた。

 

 それ単体では効果を発揮しなかった妨害シールドだったが、他の()と組み合わせたことで柊は勝ちを拾ったのだ。

 

 スコアから見ても、前半は前回の敗北を糧にした緑川が、後半は経験から対応策を見つけ出した柊がそれぞれ優位に立っていたのがわかる。

 

 緑川の今回の敗因は、対策した通りに戦おうとしすぎて柔軟な対応ができなかったことくらいだろう。

 

「うーん……。なかなか先輩相手に勝ち越せないなぁ」

 

「なかなかって、まだ2回目。それで負けたら流石に凹む。けど前回と違って動きはかなり良かったんじゃないか?」

 

 柊は緑川の動きを称賛した。前回から大して日が経ってるわけでもないのに、緑川のキレはかなり違っていたからだ。初の戦闘訓練を4秒でクリアしたことからも、かなり素質があるのだろう。彼は緑川の成長スピードの高さを身をもって理解した。

 

 

いつか、追い抜かれるかもな。そう遠くないうちに。

 

 

「2回目とか関係ないよ。勝ちたい相手にはなるべく早く勝ちた「駿」」

 

 モニターがあるフロアまで戻ってきていた柊と緑川。名前を呼ばれた緑川は、その声は、と思い歩みを止めた。

 

「あ、双葉!」

 

「あ、じゃないでしょ。次で絶対勝ち越すから!って私に土下座までして特訓に付き合うよう頼み込んで来たのに、結局負けてるじゃない」

 

「わーわーわー!なんでバラすの!しかも先輩目の前だし!」

 

 声をかけたのは彼の幼馴染である黒江双葉だった。緑川は顔を赤くして猛抗議したが、既に遅かった。柊はしっかりと聞いていたからだ。しかし彼はそれを聞いても、彼の本気度の高さに改めて感心しただけだったので、緑川の心配は杞憂に終わっている。だが、余裕のない彼はそのことに一切気づかない。

 

「駿にこんのん先輩って呼ばれてる方ですよね。私、黒江双葉と言います。一応、駿の幼馴染です。まだまだ入ったばかりなんですが、よろしくお願いします」

 

 周りにもその名前で言ってるのか!と柊は緑川に目を向けるも、先ほどの暴露のせいでそれどころじゃない緑川はその視線に気づかない。

 

 緑川を問い詰めたかった柊だったが、どうやら無理そうである。諦めて柊は黒江に名乗り返した。

 

「まあ、そう呼ばれてる。不本意だけど……。俺の名前は近野柊。こちらこそよろしく」

 

「近野先輩ですね。よろしくお願いします」

 

「ああ、君がまともで良かった」

 

 自己紹介をする2人。黒江にちゃんと苗字で呼ばれたことに、柊はホッとする。詳しくは知らないが、緑川と名前で呼び合う仲だったから同族だったらどうしようと心配していただけに、黒江の対応はありがたかった。

 

 一体なんのことかと首をかしげる黒江に、柊は気にしないでいいよと言った。

 

「近野先輩。私と個人(ソロ)ランク戦をしてくれませんか?」

 

 それから1度深呼吸を入れた黒江は、柊にランク戦を申し込んだ。

 

「え、どうして?」

 

「ここのモニターでさっきの駿とのランク戦を見てました。駿を相手に勝ち越しているのを見ても、先輩の実力の高さがわかります。だから私も同じ孤月使いとして、先輩と戦ってみたいんです」

 

 黒江の目は真っ直ぐに柊を見ていた。柊は彼女の目を通して、その思いを受け取る。

 

「わかった。受けて立つ」

 

「ありがとうございます」

 

 2人はそれぞれブースへと入っていった。ちなみに緑川は復活していなかったため、2人がいなくなったことにまだ気づいていなかったりする。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 転送された柊は、前方に見える黒江を目指して走り出した。2人とも大通りに転送されたので、お互いにお互いのことがよく見える。黒江も柊に向かって距離を詰めていき、真っ向からのぶつかり合いになった。

 

 間合いに入った黒江めがけて、柊は孤月を振り下ろした。それを見た黒江はさらに加速し、体勢を低くして通り過ぎることで回避。そこから反転して、柊の背後から斬りかかった。

 

 柊はシールドで防御を試みる。ヒビが入ったものの、それは黒江の孤月を完全に受け止めた。面積を絞ったおかげでなんとか堪えられたようだ。そこから彼は、遠心力を使って孤月でシールドごと黒江を斬りにかかった。

 

 孤月で咄嗟に防いだ黒江は吹っ飛ばされたが、その勢いに任せて後退し柊から距離を取ったため、追撃を食らうことはなかった。

 

「やっぱり凄いです。背後から斬りかかったのに、きちんと防がれて追撃もできませんでした」

 

 わかっていたことだが、やはり見るのと実際に対峙するのでは得られる情報の量は大きく違う。黒江は改めて柊の実力の高さを実感した。

 

「いや、そっちの初撃の躱し方も見事だった。あんなにスムーズに反撃につなげられるなんて思わなかったからな」

 

 一方で柊も黒江の実力の高さを感じ取っていた。特にそのスピードを生かした高速戦闘が素晴らしい。速さに振り回されることなく、体を操る技量は流石だ。その辺は緑川の幼馴染ということと関係してるのだろうか。

 

「ありがとうございます。けど次は……当てますっ!」

 

 今度は黒江から踏み込んだ。

 

 低い姿勢から斬り上げられる孤月が、柊に迫る。彼女の狙いは孤月を握る右腕だ。

 

 それに気づいた柊は孤月を逆手に持ち替えて受け止める。しかし順手持ちの黒江の方が力は上だ。このままでは柊が押さえ込まれるだろう。

 

 それを避けようと柊は力を抜いて孤月を引いた。支えを失った黒江は前に倒れこみそうになってーー蹴りを食らった。

 

 予期せぬ衝撃に驚いた黒江だったが、持ち前のセンスですぐに立て直しを図る。しかし今度の柊はその隙を与えなかった。

 

 旋空を起動して黒江を追撃する。旋空孤月によって伸びた刃はギリギリで反応できた黒江の右脚を掠めるにとどまったが、これを攻め時と見た柊は再度距離を詰めた。

 

「っ!」

 

 右脚を斬られたために、黒江は自慢の機動力を半減させられてしまった。今の状態では柊の攻撃を防ぎきることはできないだろう。勝つ可能性は薄かった。しかし、それでも彼女は諦めなかった。思い出すのは先ほどモニター越しに見ていた緑川の姿。

 

 黒江は思った。あのバカ(駿)は最後まで1度も諦めてなかった、と。なら自分もこんなところで諦められない。最後まで戦い抜いてみせる……!

 

 そんな決意のもと、黒江は柊を迎え撃った。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「いい勝負だったんじゃないの?おれの初勝負より動けてたと思うし」

 

 緑川は出てきた黒江を労った。混乱状態から立ち直った時には、2人が居なくなっていて少し焦ったが、モニターで見つけてホッとした、というのはこのまま隠し通すつもりらしい。

 

「そんなことない。ぜんぜん通用しなかったし」

 

 8-2で負けた黒江としては、緑川の言葉に納得できなかった。

 

「いや、悪くない動きだった。勝ちこそしたけど危ない場面も何度かあったし」

 

「本当ですか?ありがとうございます」

 

「ねぇ、なんか対応違くない?」

 

 しかし柊の称賛は素直に受けた黒江。対応の違いにツッコむ緑川だったが、黒江がそれに応えることはなかった。

 

「近野先輩は、どうやって強くなったんですか?」

 

 そこでふと黒江は彼の強さの理由が気になった。思い切って、柊にその理由を聞いてみる。隣にいる緑川も気になるのか、視線を黒江から柊に向ける。

 

「俺は……一刻も早く強くなりたかった。だから何度も何度も戦った。そしたら体が慣れていったんだ。思考も、戦いを繰り返してるうちに、どんどん働くようになったから更に動けるようになった」

 

 結局は経験を積むしかないのか、と黒江は思った。しかし柊の話はそこで終わらなかった。けど、と言葉を続ける。

 

「それは下地しか作れていなかったんだって、最近気づいた」

 

「どういうこと?」

 

 隣で静かに聞いていた緑川も疑問を呈した。

 

「ずっと1人だと限界があるんだ。その人の1通りの考え方しかないから、1度躓くとそこから這い上がるのが難しい。結局俺は、体を操れるようになってから伸びなくなった」

 

「なるほど…」

「な、なるほど」

 

「最近仲良くなった先輩に頼まれて一緒に訓練したことがあるんだけど、その時に意見交換をして衝撃を受けたんだ。ああ、そんな考え方があったのかって」

 

 思い出すのは熊谷との訓練。あれを機に、柊の戦いの幅は広がり始めたのだ。

 

「それからは思い切って戦うのを控えてランク戦を観るようにしたんだ。そしたら、思ってた以上の成果があった」

 

「観るだけで、ですか?」

 

「そう。他の人の戦い方を観るだけで、自分1人では考えもしなかった新しい発見があった」

 

「新しい……発見」

 

「だから1人でも強くなれるけど、周りの人の戦い方を観たりした方が早く強くなれるし、強さの()も上がると思うよ」

 

 そこまで聞いた黒江は、少し俯いて考えた。しかしそれもほんの少しの間だけで、再び顔を上げた黒江は柊に告げた。

 

「近野先輩。もしよかったら、私を弟子にしてくれませんか?」

 

「…………え?」

 

「ボーダーの中ではマンツーマンで教え合う師匠と弟子の関係の人もいると聞いたことがあります。モニターで見て、実際に戦って、私は先輩のように強くなりたいと思いました。なので、先輩に教えを受けたいんです」

 

 今までそんなこと1度も言われたことなかったから、柊は少し戸惑った。けれど黒江のまっすぐな気持ちに、適当に追い返すこともできないと思った。慎重に言葉を選びながら、柊は黒江に答えた。

 

「俺は……今まで独学でやってきたから、そんなに大したことは教えられないと思う。誰かにちゃんとものを教えたこともないし」

 

「くどいようで申し訳ないんですが、私は先輩がいいんです」

 

 なかなか意志が固い。中途半端な気持ちではないことがよくわかる。

 

「……俺より強い人だって、指導が上手い人だって沢山いる。俺にこだわらなきゃいけない!って理由は、無いと思う」

 

 そこまで聞いて、黒江はダメか、と思った。もともと無理を言っていた自覚はあったのだ。そう思った黒江が謝ろうとしたところで、さらに柊の言葉が繋がれた。

 

「だから、もっといろんな人を訪ねるんだ。まだ入隊してから対して時間も経ってないだろうし、今師匠を俺に決めるのは少し性急だと思う。もう少しボーダーを見て回って、それでも気が変わらなかったらもう1度来てくれ」

 

「え……じゃあ」

 

「ああ。俺が、君を鍛えるよ。黒江」

 

 黒江は、断られるだろうと思っていた。もともと今日が知り合って初日なのだから、気持ちは本物であっても、ダメ元に近かった。

 

 けれど柊は、嫌な顔1つせずに受けた。しかも、黒江が後悔しないように配慮してじっくりと考える時間を作ってまで。

 

「ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」

 

「おお、来る気満々だ」

 

 他の人でいい人がいなかったら師匠になると言った柊だったが、黒江は自分の気持ちが変わるなんて微塵もないと思っているらしい。来る分には構わない柊だったが、次に会った時にボロ負けして「やっぱりいいです」なんて言われたら柊は心が折れる。

 

「なあ、緑川」

 

「なに?」

 

 柊は黒江の隣で大人しく話を聞いていた緑川に声をかけた。

 

「ランク戦に付き合ってくれ」

 

「よっしゃー!今回こそ、こんのん先輩にリベンジだぁ!」

 

 柊の強くなる理由が、また1つ増えた。

 

 

 

 

 




本編補足

・近野柊
黒江に配慮したのも事実ですが、突然のことだったので1度ゆっくり考えたいと考えるため、というのもありました。2%くらい。


はい。評価が赤になったのだけでも驚きなのに、確認しただけでも日間ランキング37位に入っていたので変な声が出てしまいました。

皆さんに楽しんでいただけているようで大変嬉しく思います。これからも皆さんのご期待に添えるよう頑張りたいと思います。

何か疑問等ありましたら、遠慮なくお尋ねください。


最後に誤字報告、評価、お気に入り登録をしてくださった方たちにお礼を申し上げます。
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