DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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ということで、オリジナルの話もあと少しで終わりを迎えようとしています。
きっと皆さんはこの話の時間軸が分かっていると思います。


それでは、どうぞ


第9話 予兆

僕が寮に入ってから2週間の時が過ぎた。

本土の方から無事に荷物が届き、何とか日常生活に差しさわりのない状態となった。

特に肌着関連が無事に届いたのがありがたい。

 

(とはいえ、たった2日間の滞在が、半永久的になるんだもんな)

 

人生何があるかわからないとは、このことを言うのだろう。

2週間僕のやってきたことは地味なことばかりだ。

例えば、確認試験に向けて資料に目を通したり、実務と訓練を受けたり等々だ。

まだ学院が始まっていないので、集中して学ぶことができたのは不幸中の幸いだろう。

確認試験が行われたのはつい3日ほど前のこと。

結果も先日言い渡されたりした。

その結果は……

 

「あ、おはようございます。早いんですね」

「あぁ、おはよう稲叢さん」

どうやら共有スペースにたどり着いたようだ。

 

(考え事をしているのに、ちゃんとたどり着けるっていうのは、慣れなのかな?)

 

現に、考え事に浸っているのにこうして共有スペースにたどり着いたのだから。

2週間と言う期間はなんだかんだ言って、僕自身に新たな生活を順応させるのに十分な期間だった。

 

「夕食はもうすぐ完成するので、もう少し待っていてくださいね」

「あ、うん。何だかごめんね毎日ご飯作ってもらって」

 

この2週間、ほとんど毎日稲叢さんが料理をしているため、申し訳なさを感じたりしている。

 

「いえいえ。楽しくてやっていますので」

 

そう言って笑顔で答える稲叢さん。

 

「それじゃ、向こうの方にいるから、完成したら声をかけてくれる? 料理を運ぶくらいはするから」

「ありがとうございます。高月先輩」

 

これ以上は彼女の邪魔になると思ったため、僕はキッチンを後にするとリビングに向かう。

 

「あら、今日は早いわね」

「お願いだから、人を寝坊助みたいに言わないで」

 

大体最後の人が来る1,2人前に来ているから、正しいんだけど。

 

「それよりも、これを飲みなさい」

「どうも」

 

美羽さんに手渡されたのはいつもの合成パック(B型)だった。

僕はそれをいつものように口にする。

 

(これを飲むと本当にバナナジュースを飲みたくなって困る)

 

ある意味どうでもいい悩み事だった。

バナナでも買ってバナナジュースを作ってみんなに振舞おうかなと思いつつ、稲叢さんの声がするまで僕は合成パックを飲み干すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「おう、矢来に布良に、あと高月か」

 

いつもの制服(軍服)に着替え風紀班の仕事場に顔を出した僕たちを出迎えたのは主任だった。

 

「高月、お前も本採用になったのだから、これからはより一層働いてもらうぞ」

「はい。よろしくお願いします」

 

主任からの激励に、僕はお辞儀をして答える。

先日言い渡された確認試験の結果によって、見事採用されることとなった。

本当に学院が始まっていなくてよかった。

本土の方でもそれほど悪い成績でもなく(かといって良くもないが)中間の成績をとっていたが、それでも心配なものは心配だった。

 

『この試験で終わるだと思うな。これが始まりだ』

 

それが採用を言い渡されたときにかけられた主任の言葉だった。

その言葉は今でも僕の心の中で活き続けているほどだ。

 

「さて、今日の予定だが、捕り物がある」

 

さっそくやってきた大きな仕事に、思わず背筋を正してしまう。

 

「今日はとある犯罪グループの摘発だ」

「どんな犯罪グループなんですか?」

 

主任の言葉に布良さんが尋ねる。

 

「人身売買を主に行う組織だ。とはいっても吸血鬼は確認されていないからそう難しいものではないだろう」

「そうですか」

「でも、銃とかは持ってますよね?」

 

僕の言葉に、主任は無言で頷いた。

巻き込まれた時が巻き込まれた時だ。

銃の一つでも所持している可能性が高かった。

 

「摘発はどのように?」

「グループのアジトもわかっていない。よって、おとりを用意して摘発を行う」

 

今回はおとり捜査となった。

おとり捜査で一番危険なのは、おとり役だろう。

仲間のミスで自らの身が危険にさらされる。

ミスがなくとも危険にさらされているのだが、それは言わないお約束だろう。

 

「それじゃ、そのおとりには自分が――――」

「いや。高月にはほかにやってもらいたい仕事がある」

 

”やります”と言う言葉を遮るようにして主任が口を開いた。

 

「なんですか?」

「巡回だ」

 

(あぁ、またですか)

 

そんなことを思いそうになった自分に、僕は喝を入れる。

どのような仕事であれ、都市の治安を守ることには変わりないのだから。

 

「そんな顔するな。別にお前さんに期待をしていないからと言うわけではない」

 

そんな僕の考えが顔に出ていたのか、やれやれと言わんばかりの表情で、主任が口を開いた。

 

「お前さんには、最近都市で多発するひったくりを行っている奴の確保だ」

 

主任の言葉で、前にニコラが”最近ひったくり事件が最近多発している”とつぶやいていたのを思い出した。

 

「こっちの方も重要な案件だ。夜間、観光客などを狙ってひったくりが発生している。よってこれより巡回に出て犯罪を未然に防ぐか、犯人の確保をしてもらいたい」

 

そこまで聞いて主任の采配の理由がわかった気がした。

おとりは、比較的難易度が高い。

何せ”被害者”を演じなければいけないのだから。

しかも、僕は同じようなパターン(人質だけど)で吸血鬼となっている。

おそらくは、主任はそのことで気を使っているのだろう。

もっとも、一番大きく締めているのは新人だからなのだろうけど。

 

「おとり役には矢来、頼めるか」

「分かりました」

 

犯罪グループの摘発のメンバーは美羽さんで決まったようだ。

 

「高月と布良は数日間ともに巡回をしろ。もし怪しいやつを見かけたら連絡をよこせ」

「「了解(いえ・さー)」」

 

主任の指示に、僕と布良さんは答えた。

どのような内容だろうと、僕にできることをするまでだ。

 

「それじゃ、巡回の方行ってきます」

「おう、気を付けるように」

 

主任の言葉に駆け出したくなる気持ちを抑えて部屋を後にした。

 

「って、待ってよ高月君!」

 

とはいえ、本当に駆け出していたようだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。怪しい人はいないね」

「そうだね」

 

巡回を始めてかなり歩いたところで、布良さんが口を開いた。

今日は平穏な日のようだ。

とはいえ、ひったくり事件が発生しているのは事実なため、気は抜けない。

 

「布良さん。直近での被害者についてわかってることはあるかな?」

「あ、えっとね……」

 

僕の問いかけに、布良さんは思い出すように考え込むと、顔を上げた。

 

「女性の人だったと思うよ。前にエリナちゃんがそんなことを言っていたし」

「言っていたって……あれがそうだったのか? 僕にはその女性としての価値云々の話に聞こえたんだけど」

 

具体的に言ってしまうと、確実に怒られるためぼかしていうことにした。

具体的には、

 

『今度胸が大きい方がいいのか、小さいほうがいいのかをコースケに聞いてみよう』

『にゃ、にゃにを言ってるのエリナちゃん! 寮内でエッチな話は禁止―っ!』

 

というものだが。

さすがに飛び火が怖かったので、この時は自室に逃げたが。

とはいえ、その少し後に『コースケは胸が大きい方がいい? それとも小さいほうがいい?』などと聞かれる羽目になったのだから、あまり変わらないが。

 

「ニャーっ! 破廉恥だよ、エッチだよ、変態だよ!」

「いや、最後のはおかしいでしょッ!」

 

破廉恥だとかエッチだとかはまだ理解できるが、変態は納得がいかない。

そんなこんなで、僕と布良さんは巡回中にも関わらず押し問答を繰り返しているのであった。

ちなみに、仕事場に戻った際に

 

『まじめにやれ、馬鹿野郎』

 

などとお叱りの言葉を受ける羽目になったのは、余談だ。

今度布良さんに何かお詫びをしようと心の決めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼間、いつもはまだ寝ているであろう時間帯に僕と布良さんは起きていた。

 

「別に見送りなんてしなくてもいいのに」

「いや、おとり役は大変かなって思って」

「美羽ちゃんが頑張っているのに、私たちだけ寝ているなんてできないしね」

 

その理由はおとり捜査による犯罪グループ摘発の、大役を任された美羽さんを見送るためだった。

尤も、当の本人はため息をついていたが。

 

「それじゃ、行ってくるわ。そっちもがんばりなさい」

「ああ、努力するよ」

「ありがとう、美羽ちゃん」

 

僕と布良さんの返事に満足したのか、美羽さんは外に出るとドアを閉めるのであった。

 

「さて、僕たちももう少し寝よ……ふぁー。か」

「そうだね」

 

思わず話しながらあくびが漏れ出てしまった。

そして僕も、夜の巡回に備えてもう一度眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も収穫なしかな?」

「さあ、まだわからないね」

 

僕の疑問に、布良さんが首をかしげながら返してくる。

巡回二日目、巡回のコースをほとんど回り終え残すはショッピングセンターのような通りだけとなった。

 

「このあたりって酔っ払いさんが多いから、気を付けないと」

「おい、兄ちゃん。ぶつかってんのに謝らねえとはどういう了見だ? ひっく」

 

布良さんの言葉を体現するように、喧嘩が発生した。

相手はどこにでもいそうな若者だった。

 

「と言うことになるんだよ」

 

なるほどと喧嘩が始まったところを見ながら頷いた。

 

「ちなみにあれって止めたほうがいいよね?」

「もちろんだよ。見てて、お手本を見せるから」

 

僕の問いかけに、布良さんはそう答えると、自信満々に喧嘩をしている二人の男たちの元へと向かっていった。

 

「ストーーップ!」

「あん、なんだお前? 小学生が夜遊びはダメだぞ。ひっく。早くうちに帰ってミルクでも飲んでな」

 

止めに入る布良さんだが、酔っぱらいの男の人はある種の禁句を口にした。

 

「なっ!? 失敬な。私は小学生じゃありません!」

「ほら見ろ。まともな思考能力がないくらいよってるじゃねえか。どう見ても中学生だろ」

「中学生でもないよっ?!」

 

布良さんの反論はとうとう無視され、再び言い争いを始める二人の男性。

そんな中、布良さんはトコトコと僕の方に戻ってきた。

 

「ううう~~! 高月君、あの人たち私のことを子ども扱いするよぉぉ~」

「えっと……よしよし」

 

いきなり泣き出す布良さんに、僕は頭をなでることで答えた。

 

「酔ってると、思い込みが強くなるんだよ」

「そう?」

「そうだよ。だから泣かないで」

 

何とか泣き止まさせることができた。

”たぶん”と言う単語を使いそうになったが、何とかこらえることができた。

 

「それじゃ、次は僕が言ってみる」

「大丈夫? あの二人話を聞いてくれないよ」

「頑張ってみるよ」

 

布良さんにそう応えると、僕は二人のもとに近寄る。

 

「はいはい、喧嘩はやめてください」

「なんだぁ、今度は」

「次から次へとなんなんだよ」

 

あからさまに嫌そうな顔を浮かべる二人の男性だが、一人は違った。

 

「ん? お前さん、風紀班の人間か」

「ええそうです」

「ッ!?」

 

酔っぱらった男性は服装か何か走らないが僕が風紀班のものであることがわかったようなので、頷くことで答えた。

 

「貴方も怒る気持ちはわかりますが、大人なんですから、許してあげたらどうですか?」

「仕方ねえな。気をつけろよ兄さん」

 

僕の言葉に、あっさりと酔っぱらった男性は引いていった。

もしかしたら風紀案であることがわかったからかもしれないが。

 

「貴方も大丈夫ですか?」

「え、ええ。すみません」

 

喧嘩相手がいなくなり幾分か落ち着いたのか、男性は先ほどとは打って変わって謝りだした。

そんな時、地面に落ちている物が目に留まった僕は、それを手に取る。

 

「……これあなたの持ち物ですか?」

「ええそうです。 では失礼します」

 

僕が手に取ったものを男性は受け取ると、そのまま足早に去って行った。

 

「すっ、すごいよ高月君。あんなに簡単に解決させることができるなんて」

「……」

 

そんな中、布良さんが感嘆の声を上げながら近寄ってくる。

 

「高月君?」

「ごめん、少し黙ってて」

 

僕は、男性が去って行った方向を見ながら携帯を取り出すと電話をかける。

相手は主任だ。

 

『枡形だ』

「主任、ひったくりの犯人と思わしき被疑者を発見しました」

「ええっ!?」

 

電話に出た主任に、僕は単刀直入に報告をする。

 

『それは間違いないのか?』

「はい。彼が落とした荷物に、女性物の財布や免許証がありました」

 

先ほど、僕の目に留まったのはぶつかった拍子に落としたのだろうか、バックだった。

具体的には女性物の財布がバックから見えただけだったが、免許証は違う。

免許証は完全に地面に落ちており、拾う際に確認したのだ。

その結果、女性のものであることがわかったのだ。

 

『なら間違いはねえな。よし、その男の身柄を確保しろ』

「分かりました。あと一つ」

『なんだ? こっちは少し忙しいから、用件は手短にしてくれ』

 

主任の指示に頷きつつ、僕はある頼みごとをすることにした。

どうやら向こうの方も最終段階に入っているようだ。

 

「布良さんからの吸血の許可をいただけないでしょうか?」

「えっ?!」

『どうしてだ? 吸血鬼が混ざっているという報告は受けてないが』

 

僕の言葉を聞いていた布良さんが驚きの声を上げる。

 

「万が一吸血鬼がいた場合のための保険です」

『……分かった。ただし、布良の許可はとれ』

「ありがとうございます」

 

僕の説明にしばらく間が空き、主任から許可が下りた。

 

『逃がすんじゃねえぞ』

「分かっています。そちらの方もがんばってください。失礼します」

 

僕はそう答えると電話を切るのであった。

 

「えっと……私の血を吸うの?」

「いや、まだ向こうに吸血鬼がいるかはわからないから、いたらの話だよ」

 

不安げな表情の布良さんに、安心させるように僕はそう答える。

まだ、血を吸うと決まったわけではない。

許可をもらったのも、不測の事態に備えてのものだ。

そういう事態にならないことに越したことはない。

 

「それじゃ、追うよ。布良さん」

「うん、わかったよ!」

 

そして、僕たちは闇へと消えた男性の後を追うのであった。




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