組織の人間として、スタンドプレイは厳禁です。
ちなみに、飲食店の名前は某ドラマから拝借しました。
支部に戻った僕たちは既に巡回を終え戻ってきていた主任に巡回の報告を行った。
もちろん、あの酔っぱらいの喧嘩の相手が落とした袋のことについても
「で、これがその男が落とした落とし物か」
「らしいです」
「そういえば、自分たちが風紀班だと気付いた時に驚いていたようにも感じました」
主任の言葉に、答える僕に続いて佑斗君が口を開く。
「ただ、あの時は喧嘩を止めるのに注力していたため気づきませんでしたが」
「自分は気付いてましたが、驚いただけで犯罪者とするのは乱暴と思ったのと、けんかを止めることが最優先だと思い特に言及はしませんでした」
「中身は……錠剤か?」
僕たちの話を聞きながら主任は袋を開けて中身を取り出す。
袋の中に入っていたのは、クリアパックのようなものに小分けされて、タブレット状の白い塊が複数個入っていた。
「何かのお薬かな?」
「そうだったらいいのかもしれないけど、ドラッグとかだったら問題ね」
美羽さんの言うとおり、ただの薬ならばそれほど問題はない。
だが覚せい剤の場合は、少々よろしくない。
「ここって、覚せい剤とかが流行るのか?」
「うーん……流行るってほどでもないかな。吸血鬼さんには覚せい剤とか効かないから」
「とはいえ、ここに住んでいる人の中には人間とかもいるから、需要がないわけでもない。他にも観光客を相手に売りさばくことだってできる」
佑斗君の疑問に答える布良さんに続いて、僕も説明する。
ここの人間と吸血鬼の比率は知らないが、多少は需要が存在する可能性もある。
「でもリスクは大きいけど市場が小さいからあまりメリットがないんだよね」
「とはいえ、私たち吸血鬼はすべての薬が効かないわけではないから、いつしか吸血鬼用のドラッグとかが出てくる可能性もあるわ」
たしかに、全ての薬が効かないのなら、病気の際の薬や入院していた時の点滴なども意味がなくなってしまう。
とはいえ、そういう時代が来るというのは、あまり考えたくないことだった。
「とりあえず、不審な薬物と言うことで成分分析をしてみるか。既存のドラッグなら出てくるかもしれない」
「あ、主任。警察への拾得物の連絡はどうしますか?」
そんな話をしていると、袋の中にクリアパックを戻しながら主任が今後の行動を口にすると、布良さんが主任に訊いた。
「逃げたのだとすれば、取りに来ることはないとは思うが……とりあえず報告だけはしておくか。もしかしたら取りに来るバカがいるかもしれない」
確かに間抜けな人なら取りに来るかもしれない。
ちなみに、美羽さんの話によれば、基本的に落とし物などは警察の方で取り扱ってくれるらしい。
そもそも風紀班ができた理由が理由なだけに、かなりややこしいことになって入るけど。
「俺は警察に連絡をつけてくる。新人にはきついかもしれないが、六連持落とし主の調査に参加しろ」
「やれるだけやってみます」
佑斗君の答えに満足したのか、主任は僕たちに基本を叩きこむように告げると連絡をつけに向かった。
(とはいえ、気軽な初出勤が怪しい雰囲気になってきたな)
「俺、まだ訓練とか受けてないんだぞ」
「開始早々にこういうのを引き当てるっていうのも才能だと思うよ」
「あまり、うれしくない才能だな」
どんな表情をしていいのかわからないのか複雑そうな表情で、相槌を打った。
とはいえ、うれしく思われたら僕の方が困ってしまうわけだけど。
「これからどうするんだ?」
「刑事ドラマと一緒。現場に戻って付近の人に聞きこみ」
「観光客だったらどこかの飲食店とかに入っていて顔を覚えているかもしれないし、そうでなくても目撃証言は取れるはずよ」
佑斗君の問いかけに答える僕に続いて美羽さんが口を開く
「でも、足が棒になる覚悟はした方がいいかも」
その後、調査に向かった僕たちは布良さんの言うとおり、足が棒になるほど歩くことになることを僕はまだ知らなかった。
「ありがとうございました」
手分けして付近の飲食店の人に男性のことを聞いて回るが、めぼしいものは何一つ出てこなかった。
(うーん、これはかなり難しいな)
どうしたものかと頭を悩ませながら、店名の記された紙に今訪れた店名の部分にチェック印を付けていく。
これで5点目だ。
成果は……察してもらいたい。
「きゃっ!?」
「あ、すみません」
よそ見をして歩いていたのが悪かったのだろう、道行く人とぶつかってしまった。
慌てて僕はぶつかってしまった女性に謝る。
「別にいいですよ。気を付けてくださいね。もう」
「本当にすみません」
僕の謝罪に不快そうな表情を浮かべ嫌味を言った女性は、そのまますたすたと去っていく。
かと思えば、道行くサラリーマン風の男性に声をかけると、チラシのようなものを見せはじめた。
(なんだ客引きの人だったんだ)
邪魔をしてしまったかなと、申し訳ないと思いつつ別の飲食店に向かう。
「ん?」
と、そんな時足元にチラシのようなものが落ちているのを見つけた。
おそらく先ほどの客引きの女性とぶつかった際に落としたものなのだろう。
僕はそのチラシを拾うと内容の方に目を通す。
「なっ!?」
チラシを見た瞬間、思わず叫び声をあげそうになるのを僕は必死にこらえた。
なぜなら、そのチラシに記されていた内容は
『開店10周年、セール開催中』と大きく書かれ、全品75%割引を謳う内容だったからだ。
しかも店名は『Alexandre』と英語表記であることも一致していた。
(間違いない。これは類似店詐欺に使われたのと同じチラシ。と言うことは……)
あの女性客引きは、類似店詐欺の関係者と言うことになる。
(あ、連れて行く!)
客引きに成功したのか、女性がお店の方まで連れて行こうとしていた。
せっかく手に入れた手がかり。
みすみす手放すわけにはいかない。
(でも、ここを離れるわけには……あれ、あそこにいるのは)
どうしようと思った僕の視界に入ったのは、別区画の聞き込みに回っていた布良さんだった。
「布良さん、ちょっとこっちもお願い!」
僕は布良さんの方に駆け寄ると、半ば強引に資料を押し付けると、去っていく客引きの後を追うために駆け出す。
「え? あ、ちょっと、どういうことか説明を……って、高月君! ちょっと待ってよ!」
(ごめん、布良さん)
背中にかけられる布良さんの声に、心の中で謝りながら僕は客引きの女性の後をつけるのであった。
それからしばらく歩いて女性が男性客と共に入っていったのは、とあるビルであった。
(階数はわからないけど……)
僕は周囲の気配に注意して女性が入っていったビルの出入り口に歩み寄ると、ビルに入っている企業名などの看板に目をやる。
「何々……『BAR・remember』か」
他の階には飲食店を連想させる企業はないため、ここで正解だろう。
(住所とビル名は……よし)
しっかりと場所と名前を頭に叩き込んだ僕は、足早にその場を後にする。
「あれ、電話だ」
少し離れた場所で、突然電話の着信音が鳴り響く。
僕は携帯電話を取り出すと、発信者の名前を確認する。
「うわ、主任だ」
用件がわかっているだけに、あまり出たくはなかったが類似店詐欺の件もあるために、出るしかなかった。
「はい、高月です」
『高月、おまえ仕事を布良に押し付けてどこで油を売ってる?』
以外にも、声は普通だった。
だが、言葉の端端から怒りのようなものが感じられた。
「すみません、主任。ちょっと気になる人物を見かけて尾行していました」
『そいつは、今回の対象か?』
主任に事情を説明すると、そんな言葉が返ってきた。
事情が事情なだけに、こういう切り返しをされることも想定はしていた。
「いえ。類似店詐欺の被疑者です」
『………』
僕の答えに、主任は言葉を失っていた。
「す、すみません。すぐに戻ります」
『なるべく早く戻れ。あまり布良に負担をかけるな』
そんな主任の様子に、僕は慌てて謝ると布良さんと別れた場所まで駆け出した。
「あ、すみません。一つ頼みたいことがあるんですけど」
『何だ?』
僕は駆け出しながら主任に頼みごとをすることにした。
「類似店詐欺を行っているであろう店舗を確認しました。警察の方に引き継ぎをお願いしてもらえないでしょうか?」
『……分かった。警察の方に連絡をつけるから、とりあえず場所とその飲食店の名前を言え。報告書の方はこっちで作成しといてやるから、とっとと元の捜査に戻れ』
「ありがとうございます。5分以内に戻ります」
承諾してくれた主任にお礼を言いつつ僕は携帯の電話を切ると先ほど布良さんと別れた場所へと駆けていくのであった。
「あ、高月君!」
「布良さん!」
布良さんはわりと早くに見つかった。
僕を見つけた布良さんの表情は若干ではあるが怒りが混ざっていた。
「ご、ごめん布良さん。ちょっと放っておけないのを見つけて」
なので、僕は布良さんが何かを言うよりも早く謝ることにした。
「もういいよ。でもね、いきなり渡すのはやめてね。びっくりするから」
「本当に申し訳ない」
僕は布良さんからやりかけの店舗リストを受け取ると、再び調査の方を続行する。
結局この日、めぼしい情報が出てくることはなかった。
ちなみにこれは余談だが、
「なあ、美羽。浩介は何をやってるんだ?」
「始末書よ」
僕がデスクの上で一生懸命に書類に書き込む姿を見ていたのか、佑斗君の問いかけに美羽さんが答えた。
「始末書って、いったい何をしたんだ?」
「えっとね、仕事を放って関係ない事案の捜査を勝手にしたんだって」
首をかしげているであろう佑斗君に、布良さんが説明する。
僕は、今回の一連の行動によって、主任に始末書(と言う名の反省文)を書くように指示されたのだ。
上司の命令を守っていなかったため、当然のことだが。
(こういう書類を書くのって、かなり空気が重くなるな)
そんなどうでもいいことを思いながら、僕は始末書を書くのであった。
「んぅ……」
ふと意識が覚醒する。
それは目覚めの兆候でもあった。
「ふわぁ……」
目が覚めた僕は、上半身を起こすと筋肉を伸ばすことでほぐす。
「もう朝か……いや、夕方か」
時間が経ってもいまだに言い間違えてしまう。
だが、少しすればこれもなくなるだろう。
何せ、僕はこれから夜を生きていくことになるのだから。
「さて、早く着替えないと……」
「これはチャンス!」
そんな時、声が聞こえてきた。
「何がチャンス?」
「それはもちろん夕○ち、しているか否かだよ」
「いきなり下ネタ全開だな、エリ……ナ?」
そこで、ようやくこの部屋に今いてはいけないはずの人物の存在に気付いた。
「あ、おはよう。コースケ」
「おはよう、エリナさん」
満面の笑みであいさつするエリナさんに、僕も挨拶を返す。
「それで、どうしてここにいるの?」
「それはね、コースケの夕○ちを見ようと思ったからだよ♪」
臆することも、悪びれる様子もなく答えるエリナさんには、ある意味尊敬したくなる。
「見てどうするつもり?」
「別にどうするつもりはないよ……ただ興味があっただけだもん」
何だかエリナさんの答えに背筋に寒気が走ったような気がしたのは、気のせいだろうか?
「コースケは、女の子のおっぱいに興味ない?」
「お、おおおおおおおおおお!!?」
「おー、ユートと違って初々しい反応!」
エリナさんの発言に、思わずドモル僕にエリナさんは嬉しそうな(楽しんでいる)表情を浮かべていた。
「そ、それで、どうやって入ったの? 鍵はちゃんと閉めていたはずだけど」
先日、寝る前にしっかりと鍵を閉めておいたはず。
だが、エリナさんから返ってきた答えは意外なものだった。
「閉まってなかったよ?」
「……うそでしょ?」
ちゃんと戸締りをした記憶があるだけに耳を疑いたくなった。
「エリナは嘘を言わないよ」
「だよね……」
エリナさんが嘘を言うはずがない。
まさか男の朝……いや、夕○ちを見るために、強硬手段を取るようなことをするはずがないからだ。
「今度からはしっかりと鍵をかけることにする」
「そうだねー。とても不用心だもんね」
僕の宣言に、エリナさんは頷きながら答える。
「ところで、そろそろ出てってくれないかな?」
「どうして?」
僕のお願いに、きょとんとした表情で理由を聞いてくるエリナさんに、僕は理由を説明する。
「これから着替えるからだよ」
「もう、エリナに着替えているところを見せたいだなんて。コースケってばエッチなんだから」
僕の説明に、なぜか僕は露出狂みたいな扱いを受けていた。
「どこをどう取ればそうなるの!? いいから、早く出てって!」
「ほーい。あ、そうだ。もう夕食だから、早くねー」
強めに言うと、エリナさんはすんなりと部屋を後にした。
「はぁぁ」
それを見届けて、僕は思わずため息をつくのであった。
(って、昨日と同じじゃないか。これじゃ)
何気に昨日と同じことを口にしているあたり、何も変わってないと感じてしまう。
とりあえず、僕は制服に着替えるのであった。