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第1話 ようこそアクア・エデンへ
「ついに、たどり着いた」
巷で話題の尽きることのない歓楽都市アクア・エデンに、僕はとうとう足を踏み入れたのだ。
感慨深いことこの上ないが、僕にはやらなければいけないことがあるため、あまりここでは楽しめないのがとても残念だ。
歓楽都市であることと、駅前であることが重なってか人通りもやはり激しい。
気を付けないと人の流れに飲み込まれて迷子になりそうだ。
(とりあえず、ホテルのほうに向かうか)
何時にチェックインかはわからないが、早くても時間を教えてくれるので、早く行くことに越したことはない。
そして僕は、ホテル『オーソクレース』に向けて歩き出すのであった。
ホテル『オーソクレース』に向けて歩き出した僕だが、ある重大な問題に直面していた。
「迷った」
そう、迷子だ。
もちろんだが、歩道の横に設置された案内図を頼りに歩いていたはずなのだが、僕の記憶力の問題なのか、一向に到着する気配がない。
それどころか目的地へと遠ざかって行ってるような気もする。
そして気づけばショッピングモール内のような通りへと迷い込んでいた。
(このままだとホテルに着くのは、夜になりそうだな)
それだけはなんとか避けたい。
それに予約の時間もある。
早ければ早いほうがいいため、できるだけ早くたどり着きたい。
一番いいのは誰かに道を尋ねることだが、ふと目に留まったお店の人は先ほどから忙しそうに動いているし、道行く人もここのことをよく知る人であるという保証もないため、完全に手詰まりだった。
(ええいっ。こうなったら覚悟を決めよう!)
僕は崖から飛び降りるような心境で道行く人に声をかけることにした。
声をかけるのはちょうど僕の横を抜いて行った巫女装束のようなものを着ている黒髪の少女だった。
「あの、すみませんっ」
「は、はい!?」
少々大きな声で呼んでしまったためか、声をかけられた少女は飛び跳ねるような勢いで驚いていた。
「驚かせてしまってすみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「はい、なんですか?」
驚かせてしまったことを謝りつつ、尋ねると少女は先を促すように聞いてきた。
「ホテル『オーソクレース』に向かいたいんですけど、道に迷ってしまって。道を教えてもらってもいいです
か?」
「もちろんです。よければ、私がホテルまでご案内しますよ」
完全に観光客丸出しにも思えなくもない問いかけに、少女は顔色一つ変えるどころか、なんと道案内まですると言ってくれたのだ。
「そんな、悪いですよ」
「困ったときはお互い様ですから、遠慮しなくても大丈夫ですよ」
一度躊躇したものの、少女の言葉と口で説明されるよりも実際に案内してもらったほうがいいのではないのだろうかという二つの思いがぶつかり合う。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「それじゃ、私の後についてきてください」
結局、僕は変な意地よりも後者を選び、先導する少女の後をついていくのであった。
歩き出して数分。
驚くべきことに、歩いて行こうとした方向とは逆だった
「ここが、ホテル『オーソクレース』です」
「すみませんわざわざ」
僕はここまで案内してくれた少女に軽くお辞儀をしながらお礼を言った。
あのまま変な意地を張って歩いていたらどうなっていたかを考えると恐ろしいい。
「いえいえ。楽しんでくださいね」
「ありがとうございます」
もう一度お礼を言うと、少女はお辞儀をしてホテル前から去って行った。
(すごくいい子だったな)
少女の後姿を見送りながらそんなことを思いながら、僕はホテル内に足を踏み入れるのであった。
ホテル内は、外見からして高級ホテルのような印象を持っていたがその印象通りの光景だった。
地面には絨毯が敷かれ、宿泊客だろうか、人がたくさんいた。
そんな中、僕はフロントへと向かっていく。
「あのすみません」
「はい、なんでしょうか?」
フロントにいた受付の人に、僕はあらかじめ胸ポケットの方に入れておいた予約券のようなものを取り出す。
「予約をしたものなんですが」
「少々お待ちください」
予約券のようなものを受け取った受付の男性は、そう断りを入れるとキーボードでカタカタと打ち込んでいく。
おそらくは番号のようなものを打ち込んでいるのだろう。
「恐れ入りますが、身分証明書をご提示していただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。こちらです」
受付の人の言葉に、僕は素直に従い入島審査の際に提示した学生証を受け付けの人に提示した。
「確かに。高月浩介様ですね。少々お待ちください」
名前の方を確認した受付の人は確認の意味をこねてそう口にすると、フロントを後にして奥の方に向かっていく。
おそらく、部屋のカギを取りに行ったのだろう。
「高月様、お待たせしました。こちらがお部屋のカギになります」
そういって差し出されたのは部屋番号の記されたルームキーだった。
「それと、こちらが特典のトライアルクレジットでございます」
「特典? トライアル?」
受付の人の口から出た聞きなれない言葉に、僕は思わず首を傾げて聞き返してしまった。
「ええ。お客様はトライアルクレジット付きのコースでご予約されていらっしゃいます」
「あの、トライアルクレジットとはなんですか?」
特典の意味が分かった僕は、トライアルクレジットについて尋ねた。
「トライアルクレジットとは、当ホテルに内設しておりますカジノにてお使いになれる物です。ちなみに、カ
ジノでは現金をご使用になるのが普通ですので……よろしければ、パンフレットの方もお付けしましょうか?」
『これは手土産じゃ。受け取るとよい』
受付の人の話を聞いた僕は、あの便箋に綴られた一文を思い起こした。
(手土産って、まさかこれのことだったのか?)
考えすぎのような気もするが、文面通り素直に受け取っておくことにした。
「すみません、お願いします」
そんなどうでもいいことを考えながら受付の人からの説明を聞いた僕は、受付の人の好意に甘える形でパンフレットとトライアルクレジットを受け取ると、”ごゆっくり”という受付の人の言葉を背にうけながら、ルームキーに記された部屋に向かうのであった。