DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第20話です。

今回は少々長めです。



第20話 情報

話もそこそこに切り上げ、教室へと戻っているときだった。

 

「おい」

「枡形先生?」

「どうしたんですか?」

 

突然枡形先生に呼び止められた僕は、なんだろうと心の中で首をかしげる。

 

「ちょっと来い、頼みがある。例の件だ」

 

それで、枡形先生の要件が分かった。

 

「風紀班の話かな?」

「でしたら、私たちは先に教室に戻っておりますね」

 

それは一緒にいたニコラと大房さんも同じだったようで、大房さんは気を聞かせてくれた。

 

「ああ」

「またあとで」

 

礼儀正しく頭を下げて去っていく大房さんに返事を返して2人が去っていくのを見送った。

 

「それで、なんですか?」

 

2人の背中が見えなくなったところで、布良さんが話を切り出した。

 

「こいつを持って、”アレキサンド”に向かってくれ」

 

そういって手渡されたのは先日佑斗君が拾得した、袋に入っていた錠剤だった。

 

「何の薬かわからなかったんですか?」

「ああ。落とし主も現れず、正規に販売されている薬でも、病院から処方された薬でもなかったらしい」

 

その主任の言葉で、この薬の正体が限定され始めた。

正規ルートには出回らない薬と言うことは、裏のルートに出回る薬である可能性も高い。

 

「だが、もしこれがドラッグであるならば、流通ルートを放っておけん」

「そこで、萌香さんですか」

 

確かに萌香さんなら適任なのかもしれない。

特に、あのものすごい情報収集能力を考えれば。

 

「既に連絡はしてある。授業が終わったらすぐに迎え」

「あい・さー」

 

主任の指示に、真っ先に答えたの布良さんだった。

それに続いて美羽さんが返事をする。

 

「そうだ、高月。落とし主の男を見つけたとしても、布良や矢来に仕事を押し付けて消えるなよ」

「あの、十分反省したので、念を押さないでください。これでも自己嫌悪してるんですから」

 

あの始末書と、布良さんのお説教は、意外にも精神的に答えていた。

 

「知るか、馬鹿野郎」

 

そんな僕の嘆きは、主任のその一言で一刀両断されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、萌香さんというのは?」

「あれ? 会ったことなかったの? アレキサンドに行ったんだよね?」

 

放課後、アレキサンドへと向かう途中に問いかけてくる佑斗君に、僕は思わず聞き返してしまった。

大房さんの話では、佑斗君たちはアレキサンドに一度行っているので、会っていると思ったのだ。

 

「行ったけど、覚えがないんだ」

「カウンターの方に、チャイナドレスを着た人がいたはずよ」

 

首をかしげながら答える佑斗君に、美羽さんが助け舟を出した。

 

「そういえば、いたような気がする」

「その人が、淡路萌香さんっていって、カフェバー『アレキサンド』のオーナーさんなの」

「あと、補足すると特区管理事務局の監督班に所属しているんだよ」

 

特区管理事務局に所属していることまでは想像できなかったのか、佑斗君は目を見開かせて驚きをあらわにする。

 

「でも、どうしてその人のところに?」

「お店を開いているからなのか、色々なことを妙に知っているんだよ」

「それこそ、噂話から企業の秘密までありとあらゆることを知っていたりするらしいよ」

 

僕も実際に聞いたわけではないので、分からないが。

 

「でも、そうは言ってもヒントが少なすぎるだろ」

「それなら心配はないわ。あの人少ないヒントとか手がかりでもしっかりと情報を集めてくるから。しかも本人が忘れているようなことまで突き止めてくるほどにね」

 

(何だか、それっと情報ツウと言うよりはスパイみたい)

 

美羽さんの話に、そんなことを考えてしまう。

しかし自分で思っておいてあれだが、妙に納得感がある。

 

「そうだよ。だから、萌香さんを敵に回さない方がいいよ。じゃないと脅迫されちゃうよ」

「き、脅迫?」

 

鬼気迫る表情で注意してくる布良さんに、僕は飲まれかけた。

 

「うぅぅ~思い出しただけでも鳥肌が」

「とりあえず、必要以上に自分のことは話さない方がいいってことよ」

 

恐怖のためか体を震わせる布良さんをしり目に、美羽さんは何とも言い難い表情で僕たちに忠告した。

 

「そうだよ。そうしないと自分が何歳までおねしょをしていたかをからかわれることになるから」

「……」

 

何だか、布良さんが自爆しかけているが、言わないようにした。

さすがに二度苦はかわいそうなのと、そういうことを口にするのがはばかられたためだ。

僕はついでに佑斗君に目配せをしてツッコまないようにさせた。

 

「ち、ちちち違うよ。たとえだよ、たとえ!」

 

だが、僕たちの視線で何を言っているのかはわかってしまったようで、慌てて否定をする布良さん。

 

(結局意味なかったような)

 

そんなことを思いながら、フォローを考える。

 

「まあ、そんなことは置いといてその人が恐ろしい人であることは理解した」

「そ、そんなこと……嬉しいような、悲しいような」

 

佑斗君がすかさずフォローを入れてくれた。

とはいえ、布良さんは違う意味でダメージを受けていたが、これ以上反応すると藪蛇になるため、あえてスルーすることにした。

 

(とりあえず、萌香さんにだけは気を付けよう)

 

僕は心の中でそう決心しながら、目的地でもあるカフェバー『アレキサンド』へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ……って、皆さん、さっそく来てくれたんですね」

「すまない。今日は飲みに来たわけじゃないんだ」

 

アレキサンドに足を踏み入れると、真っ先に反応したのは稲叢さんだった。

 

「萌香さんに会いに来たんだけど……確か枡形し……教論が約束を取り付けていたと思うけど」

 

一瞬”主任”と言いそうになるのをこらえて、稲叢さんに説明する。

 

「そうなんですか? 今、オーナーは事務所の方でお仕事されているので、呼んできますね」

 

そんな僕の説明に稲叢さんは礼儀正しく一礼すると、事務所があると思われる奥の方へと入っていった。

 

「皆さん、いらっしゃいませ。お二人とも律儀な方ですね。言ったその日に来てくださるなんて」

 

稲叢さんと入れ替わるようにして出てきた大房さんは感心した様子で言ってきた。

 

(そういえば、深夜休みの時に一度来てほしいと言ってたっけ)

 

「いや、今日は仕事でなんだ」

 

まあ、来たことにはなるのだからいいのかなと思いつつ、佑斗君の言葉を聞いていた。

 

「……? えっと、今日は何を飲まれますか?」

「えっと、今日は―――」

「いいじゃない。別に風紀班の制服を着ているわけじゃないんだし」

 

断ろうとする佑斗君に、美羽さんはそう告げるとお酒を注文した。

佑斗君もそれに倣って飲み物を注文していき、僕はいつもの”チャイナブルー”を頼んだ。

注文を取り終えた大房さんは、僕たちに待つように告げると一礼してカウンター席を離れていった。

 

「もう、2人ともまたお酒なんか頼んで」

「だって、お酒を飲んでも酔えないんだし」

「それに依存症とかもないんだから、ジュースと同じでしょ」

 

布良さんの咎めるような視線に、僕に続いて美羽さんが反論する。

吸血鬼として、お酒を飲んでも酔うことができないのは実証済みだ。

 

「佑斗も飲めばいいのに。酔えないことは実証済みのはずよ」

「酔えないからこそ、ジュースを飲んだ方が安いしうまい」

 

コーラを注文した佑斗君は、美羽さんの言葉に表情を変えずにそう答えた。

 

「それもそうだね」

 

僕たち吸血鬼にとってお酒は”ちょっと高いジュース”程度のレベル。

ならば、金銭面的にもコーラなどの普通の飲み物を注文するのが賢いのかもしれない。

 

「でもアタシはどちらかというとお酒の方が好みかしら」

 

カウンターの向こう側から、声がしたかと思うとそこにはいつの間にか萌香さんが立っていた。

 

「いらっしゃい、矢来さんに布良さん。それと……」

 

2人の名前を呼んだところで、萌香さんは突然言葉を詰まらせる。

その表情は戸惑いが含まれているようにも思えた。

 

(あ、そういえば名前まだ言ってなかった)

 

何度か通ったことはあるものの、まだ名前を名乗ったことがないのを思い出した。

 

「あ、俺は――」

 

それは佑斗君も同じで、はっとした表情を浮かべて名前を名乗ろうとした時だった。

 

「初めまして、六連佑斗君に高月浩介君」

「あの、初めて会うと思うんですが?」

「名前を言ったことはなかったはずなんですけど?」

 

ものの見事に名前を言われた僕達は、萌香さんに尋ねずにはいられなかった。

 

「知っているわよ。例の事件でちょっとした噂になっていますもの」

 

(どんな噂?!)

 

確かに、布良さんの言うとおり気を付けたほうがいいのかもしれない。

 

「その噂も風紀班のごく一部の人しか知らないはずなんですけどね」

 

”情報漏えいを疑わないといけないから言わないでください”と付け加えた布良さんは萌香さんにジト目の視線を送る。

 

「ちなみに、それ以外に知っていることってありますか?」

 

佑斗君にしては、何を知っているのかを聞きたいという考えもあるのかもしれないけれど、僕としては彼女の口から何が飛び出すかと思う時が気でない。

 

「あはは。特筆することなんてあまり知ってないわよ……私が知っているのは名前とせいぜい……」

 

そんな僕の心情など知る由もなく、萌香さんは苦笑を浮かべながら佑斗君についての情報を口にしていく。

本土の出身学園や、友人の名前や資格に血液型等々。

いくらなんでも詳しすぎて、本当は知り合いではないのかと聞きたくなってしまうほどに。

 

「佑斗君って、年上だったんだ」

「六連君じゃなくて”さん”の方がいいのかな?」

「いや、”さん”づけだと気を使われているみたいだから、今まで通りで頼む」

 

そんな中で知った”実は年上”という情報に、布良さんが尋ねるが、佑斗君はきっぱりと断った。

 

「ついでに高月君について知っていること言いましょうか?」

「いや、別に言わなくていいです」

 

矛先がこちらに向かってきたため、僕はきっぱりと萌香さんに断った。

萌香さんの場合、どこまで知られているかが、恐ろしくて聞けないのだ。

 

(もし僕がライカンスロープだってことを知っていたら)

 

この場でそれを公にされた瞬間、僕はどうなるのか、想像するだけで恐ろしくなった。

 

「通っていた学園は、豊角学園。成績は中の上くらい。運動神経はそこそこで、無類のチーズケーキ好き」

 

そんな僕の言葉を無視するように話し始めた萌香さんの情報は、僕がここに来るまで通っていた学園の話から入った。

 

(でも、僕チーズケーキなんて好物じゃないけど)

 

どちらかと言えば、イチゴのショートケーキが大好きな方だ。

きっと何かの勘違いだと思いつつ、僕は萌香さんの話に耳を傾ける。

 

「無口で何を考えているかがわからなかったためか、親友らしい友人は一人もいなく。そのためか中学生のころ、何故か番長と言うあだ名をつけられていたようね」

「………番町」

 

萌香さんの口にした僕に関する情報に、美羽さんたちの視線が突き刺さる。

 

「でも、高月君はそのことを覚えていない。いいえ。正確には学園に入ってから少し経った頃までの記憶がない(・・・・・)と言ったほうがいいかしら」

「え?」

「そうなの? 高月君」

 

本当に、この人は恐ろしい。

今更だが、本気でその片鱗を味わったような気がする。

 

「まあ、そんなところだけどあんまり気にしないで。昔のことを知ろうとも思っていないし、思い出してもろくなことがなさそうだから」

「浩介がそう言うんならいいんだけど」

 

しぶしぶと言った様子で佑斗君が口を開くとほかの二人もそれ以上何も言わなかった。

 

(どうして本人が忘れているようなことを知ってるのか、本当に聞きたくなってきた)

 

とはいえ、僕がライカンスロープであることまではつかんでいないようなので、僕は心の中で胸をなでおろす。

もしかしたら、行っていないだけかもしれないけれど。

その後、萌香さんは飲み物を頼んだ大房さんに声をかけると特別サービスと言うことで、飲み物代はタダになった。

 

「それで、稲叢さんから話があるって聞いたのだけど、何か用かしら?」

 

注文していた飲み物がカウンターに置かれた頃を見計らって、萌香さんが本題を切り出す。

 

「主任が頼みごとをお願いしていたと思うんですけど?」

「ああ、薬のことね。とりあえず現物を見せてくれるかしら」

 

布良さんの説明で、用件がわかったのか、実物である薬を見せるように言ってきた。

その要求に佑斗君は手にしていたクリアパックを萌香さんに手渡すと、それを注意深げに観察し始める。

 

「うーん………何か文字でも刻印されていれば分かりやすいんだけどね」

「有名なものではないみたいです」

 

萌香さんでも心当たりがないのか、難しい顔をしていた。

 

「何か新しいドラッグについて情報とかありませんか?」

 

僕はためしにとばかりに、萌香さんに尋ねてみた。

 

「そうね……最近新作ができたから流したいという与太話は聞いてるけれど。誰も胡散臭いと言って取り合わなかったほどだから、あまり関係ないかもしれないわね」

 

新作の正体が何なのか疑問を抱いたが、今は関係ないと判断して頭の片隅に追いやることにした。

それがのちにとんでもない手がかりになるとも知らず。

 

「ただ、この薬はちゃんとした製造ラインを通っているのは確かね」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

 

萌香さんの口から出た言葉に、布良さんが問いかけるが僕たちも同じ気持ちだったはずだ。

佑斗君は目を見開かせているし、美羽さんも驚いた様子だからだ。

 

「一概には言えないけど覚せい剤のような錠剤はお菓子のラムネみたいにきれいに作られ……って、どうかした?」

「この店、一回徹底的に調べたほうがいいかしら」

 

美羽さんの鋭い視線とともに告げられた言葉に、僕も心の中で同意の言葉を贈る。

 

「とりあえず、噂の線で当たってみるわ」

 

美羽さんの視線に、萌香さんは証拠品で見たことがあると答えると、そう言って話を切り上げた。

 

「よろしくお願いします」

「ごちそうさまでした」

「あ、高月君」

 

佑斗君たちと共にお店を後にしようとした僕を、萌香さんが呼び止めた。

 

「何ですか?」

「例の件だけど、どうなっているかしら?」

 

いつにもまして真剣な表情を浮かべながら聞いてくる萌香さん。

おそらく萌香さんの言う”例の件”とは、この間の類似店詐欺のことだろう。

 

(そういえば、進展とか全く話していなかったっけ)

 

僕もあの後のことは知らないが、一応途中までのことなら知っている。

 

「それでしたら、対象(ターゲット)の特定ができたので、確保も時間の問題かと」

「そう。ありがとね。このお礼はまたいずれ」

「いえ、今回のサービスで十分ですよ」

 

嬉しそうに表情を緩めながらお礼を言う萌香さんに、僕はそう返す。

 

「それじゃ、失礼します」

 

そして、萌香さんに一礼し今度こそ僕たちはお店を後にするのであった。

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