しばらくは原作沿い。
Chapter4(実質的には5ですが)からは原作の話をベースにした話を書いていく予定です。
とはいえ、まだ予定の段階などで、そうなるという保証はできませんが。
それでは、どうぞ
「はぁ……」
とある日の深夜休み。
食堂で夜食をとっている中、布良さんが深いため息を吐いた。
「どうしたの?」
「最近セクハラまがいの仕事が多くていやだなぁって」
布良さんにしては珍しいため、訊いてみるとどうやら風紀班の仕事のことのようだ。
「時期の変わり目に取り締まりを強化することはあったけど、どうしてこの時期に?」
「政府から連絡があったのよ。暴力団の資金源でその手の市場を使っているって」
ニコラの疑問に、美羽さんはサラダを食べながら何とも言えない表情で答えた。
「なんでも、その手の市場が大きくなり始めたらしいんだ」
「それで、今のうちに少しでもダメージを入れておこうということになったんだ」
僕の説明に続くようにして、佑斗君が補足してくれた。
「大変なお仕事なんですね。お疲れさまです」
「別にいいんだけど、内容がね……」
大房さんの労いの言葉に、力のこもらない声で返事を返す。
「でも、そうですよね。私もそんなの確認するなんてできませんし」
そういう大房さんも頬を赤らめていた。
「それでそれでっ。どういう内容だったの!」
「よりによってそれを聞きますか」
エリナさんらしいと言えばそうとも言える質問の内容に、項垂れそうになるのをこらえながらツッコンだ。
「普通のもあったけど、SMにお尻に緊縛……あと動物もあったわね」
「そして、応えますか?!」
「ゴホッ、ゴホ!」
エリナさんの疑問に普通に答える美羽さんに思わずツッコみを入れていると、ニコラが突然急き込んだ。
「食事中にそういう話はやめてほしいんだけど」
「ごめんなさい。配慮が足らなかったわ」
「それ以前に、内容を全部確認していることの方が問題だと思うんだけど」
ニコラの苦言に、申し訳なさそうに謝る美羽さんに、僕はそう指摘した。
「う・る・さ・い。別に全部確認しているわけじゃないわ。変な嫌疑をかけないでくれる?」
「失敬」
とは言いつつも、パッケージの裏側までじっくりと見ていたのを知っている人にとっては説得力がないが、僕はあえて言わないことにした。
なんとなく、これ以上下手に突っつくととんでもないのが飛び込んできそうだったから。
「あの、すみません。それってどういう内容のDVDなんですか? 動物はなんとなくわかるんですけど」
「え? 莉音君分かるのかい?」
純朴な稲叢さんの問いかけに、どう返そうかと考えようとした僕の頭は一瞬フリーズした。
なんと、稲叢さんが無修正DVDの内容がわかるというのだ。
ニコラもそうだが、僕も非常に驚いていた。
稲叢さんには失礼だけど。
「ネコさんやワンちゃんたちが映っている映像なんですよね。前にも『ネコ箱』とかで見たことがあります」
その返答は、ある意味予想通りと言えばいるかもしれない。
「ま、まあ。リオだったらそうだよね。でも、犬とかは出てそうだけど」
「いや、犬じゃなかったよ」
なんとなく浮かんできた衝撃的なパッケージが内容を鮮明に思い出させた。
「確かヤギだったはず。タイトルは『ヤギ対ロシア男』だったかしら」
「なにそれ! まったく中身が想像できない。見たい見たい!」
美羽さんが告げたある種の衝撃的なタイトルに、エリナさんが食い付いた。
「ヤギさんと男の人が戦う……プロレスですか? それが無修正と言うことは大けがをしちゃったんですね」
きっと彼女の頭の中では、ヤギとロシア男との壮絶な戦闘映像が繰り広げられているのだろう。
「何だか、僕たちの心がものすごく穢れているような気がするね」
「俺も同じことを思っていたところだ」
僕のつぶやきに、佑斗君が頷いて同意してきた。
「毎回銃撃戦とかになるから、非常に優れている布良さんの射撃技術が頼りにされるのは仕方がないと言えば言えるんだよね」
「頼りにさえるのはうれしいんだけどね……」
どう言えばいいのかわからずに戸惑う表情に、苦労の色が見えたような気がした。
「でも、どうしてそこまでするのかな。こういったらあれなんだけど、罪としては軽いんだよね?」
「確かにそうなんだけど、本土とつながっているとルートを確保しようとして抵抗が強くなるんだ」
「しかも、今なら競争相手だっていないわけだから、色々とおいしい思いができる場所なのよ」
僕の説明に補足するように答える美羽さんの表情は困惑が混じっていた。
「何だか新しい薬が出回るっていううわさまで出てきてるから、早めにルートを閉ざしたいと思うんだけど、なかなか手がかりがつかめなくて」
「それもやっぱり違法なものなのかい?」
ニコラの問いかけに、布良さんは静かに頷いた。
何件か摘発をしたが、めぼしい情報は出てくるようなことがなかった。
普通ならば、ただの噂話として扱うのだろうけど、これはただの噂話ではないのだ。
「でも、情報のソースは萌香さんなんだよね」
『それは間違いないね』
布良さんの言葉に、全員が納得したようにつぶやく光景を目の当たりにすると、萌香さんのすごさを再び思い知ったような気分になる。
「布良さん。少ししゃべりすぎかもしれないわ」
「あ、ごめんなさい。みんな、このことは誰にも言わないでくれるかな?」
美羽さんにとがめられた布良さんははっとした表情を浮かべるとエリナさんたちに口止めをしていた。
もし、彼女たちが他の誰かに話して、下手に興味を抱かれて手を出す危険性がある以上、ここで話を止める美羽さんの判断は正しいのかもしれない。
皆も誰にも言わないと言ってくれているので、一安心だ。
「内緒にするのもそうだけど、もし妙な噂があったら私たちに教えてくれるかしら?」
「分かりました」
稲叢さんを筆頭に、美羽さんの頼みを快諾してくれた。
「とはいっても、調べなくてもいいからね。日常生活の上で知ったことでいいから」
「そうなんですか? 分かりました」
(やっぱり調べるつもりだったんだ)
稲叢さんが使命感に燃えているような感じがしたため、釘をさしてみたが本当に良かった。
いくら何でも友人を危険な世界に巻き込むのははばかられる。
それはもしかしたら、
放課後、今日は特に風紀班の仕事もなかったため、前々から扇先生に受けるようにと言われていた、定期検診を受けるために病院を訪れていた。
「はい。もう大丈夫だよ」
「お世話になりました」
簡単な問診と検査を終えた僕は、扇先生にお礼を言う。
ちなみに、僕の両手首のギブスを外すことも兼ねていたりする。
「なんだか疲れている様子だね」
「あ、やっぱりわかりますか?」
自分でも疲れているという認識がある以上、指摘されるとやはりかと言う認識になってしまう。
「僕はこれでも医者だよ。患者のことくらいは知っていて当然さ」
「確かに、そうでしたね。そう見えなくなっていたので忘れてましたけど」
若干皮肉交じりに扇先生に相槌を打った。
「それって、僕がもう君の恋人にしか見えなくなったということだねっ!」
「世界が破滅したとしても、一生恋人には見えないので、ご安心ください」
やはり、扇先生は扇先生だった。
とはいえ、今の自分の発言を思い起こすと、そうとしか取れない感じだったりするのだが。
「今日はいつにもまして毒舌だね。まあいいや」
ため息交じりにつぶやいた扇先生は医者の表情に戻っていた。
「結果としては、さほど問題はない。ただし、貧血気味だから血液パックを飲むこととしっかりと睡眠をとるように。いいね?」
「分かりました」
考えてみれば、最近血液パックを飲んでいない。
もしかしたら疲れ気味なのはそれが起因しているのかもしれない。
(とりあえず、帰ったらすぐに血液パックを飲んでおこう)
僕はそう心に決めると病室を後にするのであった。
病院を後にすると、夜明けなのか空にうっすらとオレンジ色の明かりが見え始めていた。
「検診でかなり時間かかったもんね」
何時間かは自分でもわからないけど、色々な検査をしていたのだから、夜明けになっていても不思議ではない。
「ん?」
空から視線を前方に移すと、横断歩道を挟んだ向こう側で空を眺める車いすに乗った青い髪の女性の姿があった。
「………」
その女性を見ていると、何とも言えない感情が込み上げてくるのを感じた。
(なんなの? これは)
その感情の正体がわからず、僕は戸惑っていた。
いや。
分かってはいた。
この感情が何なのか。
それは
――恨み・妬み・憎しみ――
そのいずれかにあたる感情。
どうして僕は見ず知らずの女性にそのような感情を抱くのだろうか?
(分からない)
理解できない。
自分のことのはずなのにまったく理解できなかった。
「私に、何か用かな?」
「ッ!?」
気づけば、横断歩道の向こう側にいた女性は僕の前にまでやってきていた。
「先ほどから、私を見ているようだが。何か用かい?」
「あ、いえ。ちょっとボーっとしてただけです。不快な思いをさせてしまいすみません」
女性の眼光が鋭くなるのを感じた僕は、慌てて女性に謝った。
見ず知らずの女性を、じっと見つめるというのは失礼にもあたる行為だ。
謝るのが普通だろう。
「そうかい? まあ、私に用がないのなら別にかまわないのだけれどね」
そういって女性は僕から興味を無くしたのか、視線を外すと病院の方へと去って行った。
「あの人が―――――――。………え?」
一瞬、何かの言葉が口から漏れ出たような気がした。
だが何を口にしたのかが分からなかった。
それどころか、一瞬の間ではあるが無音になったような気がした。
(これは、早く帰った方がいいかも)
僕は自分の身に起きた異変に、慌てて寮の方へと戻るのであった。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。高月先輩」
寮に戻ると、そこには稲叢さんの姿があった。
「今日は遅かったですね。どうされたんですか?」
「ちょっと野暮用がね」
そう答えながら、いつの間に入れてくれたのか稲叢さんが持ってきたお茶を席につくと飲み干す。
「あ、そうだ。稲叢さんに話があったんだ」
「はい、なんですか?」
僕は前々からしておこうと思ってできなかったことを、首をかしげて僕が話すのを待っている様子の彼女に告げることにした。
「料理のことだよ」
「料理……もしかして、私の料理に問題が?!」
僕の持ち出した言葉に、最初はわからない様子だったが、慌てて稲叢さんが聞いてきた。
「いや、そういうことじゃない。料理はとてもおいしいよ。それは僕の命にかけてするよ」
「そ、そうなんですか? 安心しました。では、料理の話というのは?」
僕のフォローが功を奏したのか、ほっとした様子で納得していた稲叢さんは不思議そうな表情を浮かべると訪ねてきた。
「もうそろそろひと月になるけど、稲叢さんはずっと料理を作ってるでしょ?」
「ええ。あ、別に気にしなくても大丈夫ですよ。好きで作っているだけですから」
僕の言葉に頷くと、稲叢さんは気付いたようにフォローを入れてきた。
「でも、ずっと人任せと言うのも申し訳ないから、ローテーションを組んでみようと思うんだけど、どうだろう?」
「ローテーション、ですか?」
僕が考えていたのは、料理の当番制のことだ。
稲叢さんにだけ料理当番を押し付けるというのは、非常に申し訳ない。
いつの間にかそういう雰囲気になってしまったが、稲叢さんは下級生。
悪く言えば、雑用係を押し付けているような状態だ。
それを解消しようと案を考えていたわけだが、それを提案する機会が中々なかったために、ここまで時間が経ってしまったのだ。
「大丈夫ですよ、高月先輩。料理を作るのは私の意思でやっているので、別にやらされているというわけではないですから」
「そう? だったらいいんだけど」
笑顔で答える稲叢さんに、僕はそれ以上異論を唱えることはできなかった。
「それじゃ、僕が早く起きた時とかは、料理を作らせてもらうよ」
「分かりました。楽しみにしてますね。高月先輩」
果たして彼女より早く起きることができる日は来るのだろうか?
「それじゃ、私は部屋に戻りますね」
「あ、寝ようとしてたの? それだったらなんか悪いことをしたかな」
席を立つ稲叢さんに、僕は寝る時間を削いだことに、罪悪感を感じていた。
「い、いえ。そういうのではなくて。その……」
稲叢さんは言い詰まると、頬を赤く染めていた。
一体何を口にするのだろうかと僕が内心で首をかしげていると、稲叢さんは再び声を上げた。
「シャワーを浴びるだけですので」
「あー、なるほどね」
若干小さな声で答える稲叢さんに、僕は頷く。
どうしてお風呂に入ることを言う程度で恥ずかしがるのかと言う疑問はあったが、聞くと確実にセクハラになるので心の中にとどめておくことにした。
「そういえば、佑斗君は今寝てる?」
「いえ、六連先輩はまだ帰ってきていませんよ」
僕は、稲叢さんから返ってきた言葉に尋ねた自分をほめたくなった。
なにせ、起こりそうなトラブルを回避させることができるのだから。
「それじゃ、僕は稲叢さんがお風呂から出るまで、ここにいさせてもらうよ」
「え?! ど、どうしてですか?」
僕の宣言に、頬を赤くしながら聞いてくる稲叢さんに、僕はその理由を告げた。
「佑斗君に、稲叢さんが起きていてお風呂に入っていることを言うから」
「~~~~っ!!」
その僕の言葉に、稲叢さんが声にならない悲鳴を上げる。
「あ、勘違いしないでね。これは稲叢さんのためでもあって、佑斗君のためでもあるんだ」
「わ、私と六連先輩の?」
慌てて説明をすると、落ち着きを取り戻したのか、稲叢さんは首をかしげながら僕の説明を待っていた。
「稲叢さんが脱衣所で着替えている時に、何も知らない佑斗君が脱衣所に入って……という事態を防げることだよ。佑斗君からすれば、後に待つ寮長からの厳しいお仕置きを受けずに済むし、稲叢さんは恥ずかしい思いをしなくても済む。ほら、お互いの為になるでしょ」
「た、確かに。そうですね」
同じ男として、それくらいは気を利かせる必要がある。
べたな話でしかも起こりえない話ではあるが、ここではそういうことが平気で起こりうるから恐ろしいのだ。
「それじゃ、高月先輩。よろしくお願いしますね」
「ああ、任せて」
僕は稲叢さんに安心させるように威勢よく答えると、稲叢さんはリビングを後にした。
(僕はここで待つか)
玄関から自室に戻るには、ここを通る必要がある。
ならばここで待っていれば帰ってきた佑斗君に会えるということだ。
と言うことで、僕は誰もいないリビングで佑斗君が返ってくるのを待つことにした。
誰もいないリビングに響くのは時計の秒針が動く音だけだった。
「………新聞でも読もう」
他の人は寝ているため、テレビをつけるわけにもいかず、僕は新聞に目を通すことにした。
雑誌などが挟まっている場所から、今日の朝刊を取り出すと、それをテーブルに置いた。
「えっと、何々」
一面から僕は新聞を読み進めていく。
(あ、まずい。眠気が)
まだ一睡もしていないため、眠気が一気に襲ってきた。
(ダメだよ! 稲叢さんがお風呂に入っていることを知らせなければ!)
僕は使命感で眠気を押さえつけようとする。
だが、僕の意思とは関係なく徐々に瞼が重くなっていく。
(やばい。とりあえずページをめくろう)
僕は、新聞の見開きから違うページにめくろうと新聞に手を伸ばした。
そこで、僕の意識は途切れるのであった。