一つのルートが終わったとき何話になっているのかが地味に気になっていたりします。
しかし、一日に1話ペースだと100話到達まで早くても74日はかかりそうです。
あの後、大房さんから返信があり、プールで一緒に遊んでもいいとのことだったので、僕たちは湖が広がる公園のような場所で大房さんと待ち合わせをすることになった。
だが、ここで問題が二つ。
それは僕と倉端君が水着を持っていないことだった。
僕の場合は、そもそも記憶がないのに水着を持っているかいないかの記憶もない。
ちなみに、本土の方で水泳の授業があったのだが、毎回プールサイドに行っただけで体調を崩していたため僕だけはプールサイドから離れた場所で見学(レポート)をすることになっていた。
それがわかったのは最初に水泳の授業があった時なのだが、その時はたまたま水着を忘れ(もとより、水着があるのかないのかもわからず)プールサイドで見学するようにと言う教師の指示に従ったところ……と言うことだ。
(体は特に健康体そのものだって言ってたし大丈夫だよね)
プールのそばまで行って体調を崩すことはないだろうと根拠はないが自分に言い聞かしていた。
そんなこんなで、無事に水着を買った僕たちは待ち合わせ場所へと戻った。
「お待たせ」
「おはようございます。高月君」
なるべく待たせないように走って待ち合わせ場所に向かうと、そこにはすでに大房沙の姿があった。
「こんな時間から大丈夫?」
「ええ。今日はちょっと早めに寝ていたので、睡眠時間としては十分です」
寝不足で泳ぐのはかなり危険なため、心配だったのだが、どうやら大丈夫そうだ。
「それだといいんだけどね」
とりあえず、あまりしつこく聞いてもあれなので、そこで納得することにした。
「悪い、遅れた」
「これで全員そろったか」
少し遅れてやってきた倉端君(とはいえ、僕はかなり全力で走ったため当然と言えばそうなのだが)で参加メンバーは全員そろったことになる。
ちなみに、ニコラは仕事があるらしく参加はできないとのこと。
「それで、どこのプールに行くんですか?」
「そういえば決めてなかったな」
大房さんの問いかけで、僕たちはプールの場所を決めていないことに気づいた。
ここは観光地のこともあって、ホテルなどにプール施設が設けられているところが多い。
大抵はプールかカジノかのどちらかになるが、ホテルによっては両方を取り入れている場所もある。
そのため、プールと言っても選択の幅が大きいのだ。
「それだったらホテル『オーソクレース』がおススメだよ」
「確かに、あそこのプールはどちらかと言うとレジャー用で広かったようにも思えるし」
前にパンフレットに掲載されていた写真から受けた印象を口にする。
とはいっても、実際に見てはいないので、断言はできないが。
「やっぱり、コースケは一回行ったことがあるんだね」
「やっぱり?」
エリナさんの言葉に首をかしげる大房さん。
「でも、他のホテルもそんな感じでしょ?」
「他のプールですと、運動用だったりしてとても静かなんです」
「でも、あそこだったらにぎやかだし、ぶつかる心配もないよ」
何とか話をそらせることができたみたいで、僕はほっと胸をなでおろした。
「それじゃ、プールはそこで決定だね」
布良さんの言葉を合図に、僕たちは中に入るとプールがある場所に向かい更衣室前までやってきた。
「それじゃ水着に着替えて中で集合と言うことでいいかしら?」
美羽さんの確認の言葉に、全員は問題ないと頷くことで答えた。
「それじゃ、またな」
全員が女子用の更衣室に向かっていくのを僕たちは見送くることにした。
「ねえねえ、コースケ、ユート。エリナの着替え、見たい?」
「「馬鹿なこと言ってないで早く着替えに行け!」」
からかうようなまなざしで聞いてくるエリナさんに、僕と佑斗君はほとんど同時に答えていた。
「ダー」
そんな僕たちに、エリナさんは頷きながら”分かった”とロシア語で答えると女子更衣室へと消えていった。
「それじゃ、俺たちも着替えようぜ」
心なしか浮かれている倉端君に苦笑しながら、僕たちも男子更衣室へと向かうのであった。
着替え終えた僕は、プールのそばの方で女子たちが来るのを待っていた。
「いい天気だな」
「うん。清々しいほどにね」
「いいことじゃないか。温度も高くて絶好のプール日和!」
上空からさんさんと照りつける太陽に、すこしばかり恨めしく感じていると、少し離れたほうから女子たちがぞろぞろとやってきた。
「ノリで、決めたけど、やっぱり少ししんどいわね」
「そう? 私はちっとも平気だよ! もう楽しみでしょうがないくらいだよ」
ピンク色のビキニタイプの水着を着た、少しばかり覇気がない様子の美羽さんとは対照的に緑と白色の線が入った水着を着ている布良さんは、テンションが上がっていた。
「寝不足の状態で、こうも晴天だとね」
「でも、ここは吸血鬼さんも配慮されているって聞いたけど?」
「あれ、そうなんだ?」
あまりそういった感覚がなかったので、布良さんの説明に僕は思わず聞き返していた。
「確かに、普通に太陽を浴びるよりはマシだけど、それはあくまでも”マシ”なだけよ」
寝不足状態でしかも吸血鬼が苦手な日光。
二つの最悪な組み合わせが、美羽さんが元気がない状態の理由だったらしい。
とはいえ、こればかりはどうにもならないわけだが。
「あぁぁ~、素晴らしい素晴らしいよ」
「何だか、変態に見えるのは気のせいなのかな?」
佑斗君が二人の水着姿をほめ始める中、僕はうっとりとした表情を浮かべながらつぶやいている倉端君に、そんなことを思ってしまった。
「お待たせー」
「遅れてしまってすみません」
「着替えるのに手間取ってしまいました」
エリナさんたちも遅れて水着姿で僕たちの方に向かってきた。
「急に水着を着たので……少し恥ずかしいですね。あはは」
「でも、とても似合ってると思うけど」
照れた様子で苦笑する大房さんの水着はピンク色のワンピースタイプのものだった。
お世辞ではなくとてもかわいらしい感じでいいと僕は思う。
(あ、今語彙が増えた)
そう思ったが、それを言えなければ意味がないのは言わずもがなだ。
「あの……男の人に水着姿をほめられるのは初めてで……こんな時、どう反応すればいいのでしょうか?」
「いや、僕に聞かれても。思ったことをそのままいえばいいと思うよ」
若干頬を赤らめた大房さんの問いかけに、僕は疑問形にならないように気を付けながら答えた。
「それでしたら、あの……ありがとうございます」
そういって恥ずかしげに眼を伏せる大房さんの姿に、僕は顔が熱くなるのを感じた。
(きっと太陽が照りつけているせいだ)
僕はそう理由づけることにした。
「むー。コースケ、ヒヨリにばかりずるい」
「いや、別にそんなつもりじゃないんだけど」
頬を膨らませるエリナさんに、そう言い返した時には平静を装うくらいはできるようになっていた。
「だったら、エリナのはどう? 去年買った水着だけど、結構お気に入りなんだ。セクシーでしょ?」
「セク……シー?」
黒にピンク色のリボンのビキニタイプの水着。
確かに、そうも見えなくはないが……なんとなく違うようなきがする。
「あー! 何その反応。失礼しちゃうよ」
「悪い。似合ってないわけじゃないんだ。とてもよく似合ってるよ」
僕の微妙な反応に、エリナさんは不機嫌な表情で抗議してきた。
まあ、あの反応だと当然だけど。
「でも、今微妙な反応をしなかった?」
「セクシーと言うよりは、どちらかと言えば可愛いと言う言葉が似合ったからつい」
そもそもセクシーと言う定義すらはっきりと知らなかったりするのだが、感じたままに言っていた方がいいのだろう。
……たぶん
(年齢=彼女いない歴ってこういうところで損をするんだね)
思わずそんな悲しいことを考えてしまう。
「よかったー。常日頃から、体の手入れは怠ってないからね」
「……何だろう。すごいと思えるはずなのに、妙に感じる悲しさは?」
「ごめんごめん。にひひ~。でも、褒めてくれたのは嬉しかったよ」
エリナさんは笑いながらでそう言うと、僕から離れていった。
「しかし、お前はよくそう次から次に褒め言葉が出てくるよな」
「そうか? 見たまま感じたままを口にしてるだけだが。それに語彙も少ないし」
そんな中、倉端君の言葉に、佑斗君は首をかしげながら不思議そうに答えていた。
(やっぱり、ポイントはそこなんだね)
先ほどのでなんとなく感覚はつかめてきただけに、佑斗君の答えはとても納得させる物があった。
「ねえ、ユート。エリナにオイルを塗ってくれないかな?」
「………これはまた定番のネタで攻めてきたな」
オイル用のローションが入ったボトルを片手に佑斗君に頼むエリナさんに、佑斗君は戸惑ったような表情を浮かべていた。
(でも、どちらかと言うとそれは海に行った時のような気もするんだけど)
まあ、僕たちは海に行くことは早々ありえないので、ここではそれが正しいのかもしれない。
「つか、ここは屋内だぞ。オイルを塗る必要はあるのか?」
「女子にもいろいろあるんだろ」
倉端君の鋭い指摘に佑斗君は冷静に返していた。
それに倉端君も納得した様子だった。
「エリナ、お肌が弱いからムラができると困るし……だから、お願いユート」
「……」
エリナさんの頼みに、佑斗君は考え込むように顎に手を当てていると、不意に僕と目があった。
(何だろう。ものすごく嫌な予感)
「浩介」
「な、なに!?」
嫌な予感を覚えていた僕をしり目に、佑斗君は僕の方に声をかけてきた。
「浩介は確かテクニシャンだって言ってたよな?」
「え? 何のこと? と言うよりテクニシャンって、何の!?」
佑斗君の問いかけに、僕は意味がさっぱり分からなかった。
「俺は童貞だからしっかりオイルを塗れるか心配だ。だから、頼んだっ!」
「ちょっと! それを言うならこっちだって同じだよ!」
自分で言っていてむなしくなるが、こうなっては体裁なんて気にしていられない。
「おー。コースケはテクニシャンなんだね。それじゃコースケにお願いしようかな」
だが、時すでに遅し、エリナさんは僕にオイルの入ったボトルを差し出していた。
(うぅ、断れない)
「分かった。僕も男だ。毒を食らわば……いや、男は度胸だ!」
「おー。コースケが燃えてる!」
燃えてるのではなくて、意地になっているだけ。
そう答える余裕などはなかった。
「それじゃ、お願いね」
「わ、わかった」
場所を移してエリナさんと僕は、ブールサイドに設けられたベンチに座る形で腰かけるとオイルを掌に溜めていく。
(よ、よし。ここまでは完ぺき)
若干手が震えているが問題はない。
「……う」
いざ塗ろうとしたが、思わず固まってしまった。
きめ細やかな白い肌にうなじの部分が見えるという水着のスタイルはとてもドキドキさせるものがある。
(まるで変態だね、僕)
「コースケ?」
「わ、悪い。すぐに始めるから。背中だけでいいでしょ?」
「もちろん」
髪を持ち上げてオイルを塗りやすくしていたエリナさんが、いつまでも始めない僕に怪訝そうな声を上げる。
僕は慌てて答えると、エリナさんの背中に手を向ける。
向ける……のだが、
(動かない!)
まるで腕が石になったように固まってしまった。
(っふふ。何を緊張しているんだ? 胸を揉むわけじゃないんだ。背中だ、背中。平面をただ塗っていけばいい。簡単じゃないか。そうだよ、簡単なことだ)
完全に自己暗示を仕掛けているような気もするが、僕は自分に言い聞かせていく。
すると、固まっていた腕は動くようになっていた。
いざっ!
「ひゃん!」
「な、何?!」
いきなり悲鳴を上げたエリナさんに、僕は慌てて声を上げた。
「なに? じゃないよ~。つーめーたーいー」
「ご、ごめん。優しくしたつもりだったんだけど」
不満げな表情で文句を言ってくるエリナさんに、僕は謝った。
緊張のあまり思いっきりやってしまったのかもしれない。
「そうじゃなくて、オイルが冷たいの。もっとこねて温めないと。それとも、エリナを悶えさせるのがコースケの趣味なの?」
「違うから。謝るから、僕の趣味にするのはやめて」
僕は慌てて掌でオイルをこねるようにして温めていく。
「よし、今度こそ」
「どんとこいっ」
十分に温めた僕は、エリナさんのわき腹に手を当てる。
「ん……んん。コースケの手ぬるぬるするよ。それに温かい」
「ちょっと、変な言い方しないで」
若干危ない言い方をするエリナさんに注意する。
こうでもしないとどんどんエスカレートするからだ。
「ゴメンゴメン。でも、本当にぬるぬるするんだもん」
「そりゃ、オイルだからぬるぬるするのは当然だと思うけど」
「それにくすぐったいし」
そう言って振り返りながら笑うエリナさんに、僕は顔が赤くなるのをごまかすようにオイルを塗っていく。
そして背中の大半はオイルを塗り終えることができた。
(後は……)
残すは禁断の箇所の実となっていた。
そう、ブラのベルト部分の下。
(これは、このままでいいのか?)
「どうしたの、コースケ。もう終わり?」
そんな僕の様子に、エリナさんが不思議そうに尋ねてきた。
「いや、まだなんだけど。このベルトの方はどうすればいい?」
「ベルトを引っ張ってそこに手を差し込んでいいよ」
僕の言葉を聞いたエリナさんは明るい声でアドバイスをしてくれた。
「でも、大丈夫なの? 外れたりは……」
「心配しなくてもいいよ。引っ張ったくらいでブラは外れないから」
「そ、それじゃ……」
手が震える中、僕はエリナさんのベルトを軽く持ち上げ、その隙間に手を差し込んでいく。
そこから先のことは覚えていない。
「ありがと、コースケ」
「どういたしまして」
一通りオイルを塗り終えた僕は、ふらつく足取りで元来た道を戻る。
「お、高月。どうしたんだ? そんなにフラフラで?」
「あー、倉端君。オイルを塗るのって、こんなに大変だったんだね~」
そんな僕に声をかけてくれたのは倉端君だった。
なんだかんだで彼とも普通に話せるようになっていた。
ちなみに最初に話した内容は”童貞か否か”だったけど。
「なにぃ!? チクショー。佑斗と言いお前と言い。リア充爆ぜろ!」
「不吉なこと禁止。佑斗君は?」
ちょっとだけ気になったため、僕は叫ぶ倉端君に尋ねてみた。
「聞いてくれよ。あいつご主人様にオイルを塗ってやがったんだ」
「結局塗ったんだ」
罰が当たったと言ったらかわいそうだけど、勝手に僕をテクニシャンにしたことを考えれば、自業自得なのかもしれない。
そんなこんなで、僕たちはプールを満喫するのであった。
プールで遊ぶこと数時間。
時刻は夕方となり、ようやく僕たちがいつも起きる時間となっていた。
「いやぁ、楽しかったぁー」
「んふぅ。さすがに眠い」
さっぱりとした表情で満足している倉端君とは対照的にエリナさんたち吸血鬼組はぐったりとしていた。
かくいう僕もだが。
(眠い。そこはかとなく眠い)
その後、倉端君の提案によって、夕食を食べて寮へと戻ることとなった。