このゲームがきっかけでブラックジャックを知ったのはここだけの話です(苦笑)
無事ホテル『オーソクレース』にたどり着き、ルームキーを受け取った僕は、一泊することになる部屋へと足を踏み入れた。
「うわぁ、広いな」
中に入った瞬間口に出たのはそんな言葉だった。
内装は非常に高級感が漂う物で、花瓶やらシャンデリアなどまであるほどだ。
(壊さないかどうかが怖くて寝れそうな気がしないんですけどっ)
そんなどうでもいいことを思いながら、僕は荷物をテーブルの上に置く。
「ん? これはテレビの使い方……こっちはルームキーの取り扱いの注意、それとチェックアウト時間のお知
らせ」
荷物を置いたテーブルの横に置かれた書類に僕は目を通す。
ルームキーはカードタイプで、ドアは閉じた瞬間に鍵がかかるオートロックの為に、常に持ち歩き紛失に注意
するようにとの旨が記されていた。
(チェックアウトは明日のお昼か)
チェックアウトの時間を知らせる用紙に書かれた時間を、僕は頭に叩き込むことにした。
「それにしても、これをどうするかだよな」
ベッドに腰掛けた僕は、先ほど受付でもらった特典のトライアルクレジットを掌の上でもてあそびながらつぶやく。
カジノなどのギャンブルに興味がないといえばうそになるが、そこまでやりたいと思うほどではない。
だが、タダでできる物があるのならば、行ってみるのも手だ。
(あれ、何か書いてある)
最初は気付かなかったが、トライアルクレジットの裏面に注意事項のようなものが記されているのに気付いたため、僕はそれに目を通す。
――本券を使用して得た勝ち金は現金に変換できませんのでご了承ください。
そこまでうまい話はないということのようだ。
(だったら行くか)
勝っても負けても得損がないのならば、行っても問題はないだろう。
「その前に、パンフレットとかに目を通しておこう」
さすがにホテル内で迷子はごめんのため、僕はパンフレットに目を通すことにした。
「よし、行くか」
パンフレットを読み終えると、時間は午後の1時を回っていた。
いい時間帯のため、僕はトライアルクレジットを手にカジノへと向かうことにした。
前もって場所を調べておいたため、カジノには迷わずにたどり着けた。
(それほど騒がしくないんだ)
カジノと言えばパチンコ屋と同じで騒々しい場所と言うイメージが濃かっただけに、驚きながらも僕は奥の方へと歩いていく。
奥の方にカジノが初めての人でも楽しくできるテーブルがあるらしいのだ。
初心者が混じって場が白けるのではないかと不安に思い、足が遠のいてしまう人向けのものらしい。
僕はその初心者向けのテーブルに向かうと椅子に腰かける。
そして手を上げる。
それはディーラ―と言う立会人のような人を呼ぶ合図みたいなものらしい。
後はディーラーの人がテーブルの方に来てそしてゲームの指定をする。
扱うゲームはルーレットやバカラ、ブラックジャックなどだ。
後はディーラーがルール説明をしたのちに、ゲームをするということになる。
手を上げて少しすると、長く伸びた銀色の髪にウサギ耳をつけバニー服を着込んだディーラーの人がやってきた。
服装がバニー服なのは制服のようだ。
「ブラックジャックでお願いします」
「はい、畏まりました」
僕のゲームの指定に、ディーラーは静かに頷くと、ルールの説明を始めた。
ルールは僕が知っているものと大差はなかった。
僕はディーラーにトライアルクレジットを手渡す。
そしてそれと引き換えにチップが手渡される。
女性ディーラーの指示に従ってチップを置く。
これが掛け金になるのだ。
「それじゃ、始めます」
女性ディーラーはそう告げるとカードシューターと呼ばれるものから慣れた手つきでカードを取り出すと、僕の方には表向きのカードを2枚、自分の方には表裏にされたカードを置いていく。
ディーラーは10を示すA、僕の方は6と4。
「どうされます?」
「ヒット」
ディーラーからの問いかけに僕は一枚弾くことにした。
引いたカードは7だった。
続いて女性ディーラーもカードを引く。
(ここで勝負に出るか)
「ステイ」
僕は一気に勝負に出ることにした。
女性ディーラーのカードが開かれ、それに習うようにして僕もカードを表にする。
女性ディーラーの手札はAと5と4の合わせて20。
対する僕は6と4と7の合わせて17。
結果は僕の負けだった。
「すみません、もう一ゲームいいですか?」
「ええ、いいですよ」
僕は悔しさのあまり、女性ディーラーに再戦を申し込むと、女性ディーラーは顔色変えずに応じた。
再び配られるカード。
今度は女性ディーラーの手札が二枚とも表面になっている。
8と5。
それが女性ディーラーの手札だった。
対する僕はAと3。
とりあえず3のカードを表にする。
「ヒット」
女性ディーラーは一枚カードを引く。
それに続いて僕もカードを一枚引く。
引いたカードは6だった。
(これは勝てる)
どう考えても向こうに勝ち目はない。
そう、奇跡が起こらない限りは。
「ステイ」
女性ディーラーの宣言で同時に、自分の手札を表向きにする。
女性ディーラーの手札は8と5と7の合わせて20。
対する僕はAと2と6の合わせて19。
結果は僕の負けだった。
(また負けた!?)
「どうされます?」
「っく……毒を食らわば皿まで。もう一ゲーム!」
まったく違うことわざを口にしながら、僕は女性ディーラーに挑戦する。
「またのお越しを、心からお待ちしております」
女性ディーラーの言葉を背に受けながら僕はカジノを後にした。
(10連敗……)
10回やって10回とも僕は敗れた。
まあ、考えてみれば向こうはプロともいえるような人だ。
そんな人に素人の僕がかなうはずがない。
だが、10連敗はさすがに精神的ダメージが高い。
(トライアルクレジットがあってよかった)
もしなかったら今日はかなりお金を浪費していたことだろう。
(まあ、僕にはギャンブルの素質がないことがわかっただけでもよしとするか)
僕はポジティブに考えることにした。
「そろそろ頃合いだし、夕食でも食べてお風呂に入るか」
僕は腕時計で今の時刻を確認すると、夕食を食べにホテルに内設されているレストランへと向かうのであった。
「ふう、おいしかった」
夕食を食べ終えた僕は、部屋で味の余韻に浸っていた。
ちなみにレストランでの代金は実費負担だった。
念のためにアルバイトでためてきたお金を持ってきていたのが幸いした。
(にしても一食5000円はきついな)
値段は高かったが、それに比例して美味しかったので不満はあまりない。
「さて、お風呂に入って休むとしよう」
僕はお風呂に入るべく肌着などの用意をするべくバッグを開ける。
「あれ? 肌着がない」
バッグを開いた僕は、肌着が入っていないため首をかしげた。
最初は気のせいだと思ったが、慌ててバッグの中身をあさってみても、見つかることはなかった。
「おいおい、どんだけツキがないんだよ」
おそらくは荷造りの際に入れ忘れたのだろう。
自分のいい加減さにため息が出そうだった。
「と言うことは、今着ている肌着をもう一日着るしかないか。でも……」
それって人としてどうなのだろうか?
どうしても躊躇してしまう。
かといって取りに帰るような馬鹿な真似はしない。
ならば残る方法はただ一つ。
「買いに行く……しかないか」
幸いここは歓楽都市だ。
観光客向けに肌着を売っているところがあってもおかしくはない。
「うぅぅ、明日からは節約生活だ」
夕食代で予想外の出費をする羽目になったところに、さらなる追い討ちに涙が出そうだったが、気分を入れ替える。
「この時間ならまだお店は開いているはず。急いで買ってこよう」
僕は財布とルームキーをポケットにしまいこむと部屋を後にするのであった。
この行動が、僕の運命を大きく変えることになるとも知らずに。