DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第29話です。

ずっと三人称なのもあれかと思い、初の裏浩介(たった今命名)視点となりました。



第29話 潜入調査

目的地に着いた車は、その場で停止すると小夜が口を開いた。

 

「浩介は、ワシから合図があるまでそこで待っておるのじゃ」

「はいはい」

 

浩介の適当な返事に、小夜はため息にも似た物をだし、車を降りた。

 

「にしても、この私が潜入捜査の相棒とは」

 

車の窓から見える景色に、浩介は鼻で笑う。

 

(何を黄昏ているんだ)

 

そして、今度は反対側の窓を見る。

そこには数人の男女の姿があった。

 

(小夜の姿が見えない。まあ、仕方がないが)

 

見えない理由を知っている浩介は声を上げないように笑う。

小夜に声が聞かれればのちに何をされるかがわからないからだ。

 

「うむ。今回の任務に最適な者を選んでおる」

「それはとても頼もしいですね」

 

外から聞こえてきた小夜たちの話声に、浩介の表情は険しいものとなる。

 

「それで、その最適な人物は?」

「今連れてきておる」

 

兵馬の問いかけに、小夜が答えると間が生まれた。

 

(まさか、今のが合図とか言うまいな?)

 

そう考えたが、この間を考えると、今のが合図とみて間違いはない。

浩介はそう結論付けると、ドアを開ける。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「は?」

「………え?」

 

車から降りる私の姿を見たとたん、そこにいる者たちは豆鉄砲を喰らったように固まった。

 

「えっと……もしかして、高月君?」

「…………なぜわかる?」

 

私はできる限り”彼”の話し方に似せなければいけないという、何ともはた迷惑な制限がつけられている。

だが、私は彼と記憶を共有しているわけではない。

断片しかない情報で、彼の口調をまねるというのは至難の業だ。

 

「あの、これはどういうことですか?」

「条件はちゃんとクリアしておるぞ。悪ずれしてある程度の威圧感もあり、そこの小童の足りない部分を補っておる」

 

男(確か主任だったか?)の信じられないと言わんばかりの疑問に、小夜が答える。

 

「失礼ながら、浩介に威圧感のようなものは……」

 

(本当に失礼だなっ)

 

悪ずれしていると言われるのもいやだが、威圧感がないと言われる方がもっといやだ。

 

「お望みならば、威圧感を全開にしてやろうか? 美羽さんや」

「ッ!?」

 

威圧感に合わせて殺気を軽く当てると美羽……さんは息をのんだ。

 

「た、確かに条件は満たしているようですが………おい、高月。一体どうしたんだ?」

「知りません。さ……市長にラムネを飲まされて、こうなりましたので」

 

嘘は言っていないし、言い方も何とかギリギリのラインだろう。

さすがにこれ以上軟化はできない。

 

「まあ、いいが。後で病院で見てもらえ」

「…………了解」

 

私は精神異常者のような扱いにされてしまった。

 

(これは、彼が後で大変だな)

 

「それじゃ、そろそろ時間だし。待ち合わせ場所に向かうわよ」

 

ピンク色の髪の女性……萌香さんに付き添われる形で、僕は佑斗……君と共に待ち合わせ場所へと向かうのであった。

 

(心の中でも、敬称とかをつけないと口に出そうだ)

 

そんな自分にため息を漏らしたくなるのをこらえながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい」

 

待ち合わせ場所と思わしき場所に到着すると、そこには一人の男が待ち受けていた。

剛腕な腕に図太い体。

一見すると人を委縮させる気迫がある大男だった。

 

(ドラッグをやっているということはなさそうだな)

 

男の目は正気にも見えた。

薬漬けの相手は非常に面倒くさい。

まあ、ひねりつぶせばいいだけなのだが、こういう場所ではそういうことをすると後々面倒なのだ。

 

「それじゃ、今後ともご贔屓に」

「それで、まさかこじゃれた喫茶店で取引をするわけじゃないだろうな?」

 

萌香さんが去っていく中、佑斗君が口火を切った。

 

「そこの車に乗れ。中には袋がある。そいつを頭にかぶるんだ」

「警戒厳重だねぇ」

「嫌なら帰れ」

 

男の指示に、佑斗君がやれやれと言った様子で声を上げると、男は若干いらだった様子で告げてくる。

 

「わあったよ。かぶりますよ。ほら、お前も来い」

「……御意」

 

命令口調に、少々頭にきたがこれも任務だと思い水に流すことにした。

 

「おい、そのガキはなんだ?」

 

だが、私より数百分の1しか生きてもいない人間に”ガキ”扱いされるのだけは我慢できない。

 

「ああ、こいつか? 俺の頼もしいビジネスパートナーだ。こいつも同伴させる。それとも、同伴者がいたら問題でもあるか?」

「……そいつにも袋をかぶせろ」

「そう来なくっちゃ」

 

佑斗君の問いかけから少し間をおいて、男は同伴を認めた。

 

(まあ、佑斗君に免じて許してやるか)

 

何気に”優秀”と言われただけで、舞い上がる私はまだガキなのかもしれない。

そして、車に乗りこみ、袋をかぶるとそのまま車は動き出した。

私たちを乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着したのは開発地区と呼ばれる場所だった。

倉庫が立ち並ぶ中、私はある倉庫に連れて行かれると身体検査を受ける。

 

「おい、こいつらはなんだ?」

 

私の身体検査を行い、懐から覚醒用の血液パックとメモ帳とペンを見つけられた。

 

「そっちは合成血液。そいつはただの紙とペンだ」

「それはわかってる。なぜ、こんなものを用意している」

 

その問いかけは、想定済みだ。

 

「メモ帳とペンは連絡先を書いて相手に渡すため。口約束では危険な商売だからな。合成血液に関しては、単純に喉の渇きをいやすため。人間が飲み物を持ち歩くのと同じ原理さ」

「………いいだろう」

 

私の説明に、納得がいったのか男は私に覚醒用の血液パックとメモ帳にペンを渡してくる。

 

(まあ、一見してでは中身にまで見分けはつかないからな)

 

「そのまま奥に迎え」

 

身体検査を一通り終えた男は、私たちに指示を出す。

 

「ようこそ。あんたが、今回例のブツを買ってくれる人? いや、吸血鬼か。吸血鬼なんだろ?」

「ああ、そうだよ」

 

そして奥の方に向かうと私たちを出迎えたのは、若い男だった。

服装もカジュアルタイプで、肌色もいい。

おそらくこいつも薬には手を出していないはずだ。

 

「まあ、適当に腰掛けてくれ」

「それでは、遠慮なく」

 

男……高野に促らされるまま、私たちは荒野の対面に置かれた木箱に腰掛ける。

 

「さて、初めまして高野さん。俺はムトウ・ユウトだ。今回は――」

「あーあー、そういう口上とかはいいから。俺が知りたいのは、お前が捌けるかどうかだ」

 

佑斗君の向上を遮るようにして高野が口を開いた。

 

(難しいな、こりゃ)

 

友好的でないのは一目瞭然だ。

それどころか信頼もされていない。

このままでは取引自体がご破算になるだろう。

 

(かといって、食い付きすぎると今度は怪しまれる)

 

引きすぎず、食い付きすぎず。

その微妙なラインを保ちつつ、向こうと同じ立場に立つことをアピールする必要がある。

 

(せいぜい頑張るといい。佑斗君)

 

「それで、捌けるのか?」

「さぁ? しらねぇな」

「舐めてんのか、てめぇ!」

 

高野の問いかけに応じる佑斗君の言葉に、高野の仲間の男が反応する

 

「実物がなきゃわかんねぇよ」

 

(素晴らしい切り返しだ)

 

最初の出だしは好調だ。

ぎりぎりのラインを維持している。そして、交渉は始まった。

私はただ無言で、事の成り行きを見ている。

 

「しかし、新規開拓だろ? きっちり支払えるのか?」

「それに関しては問題はない」

 

高野の問いかけに、佑斗君ではなく私が応じる。

いい加減黙っているのもつらくなってきた。

 

「おや、あんたは」

「オオツキ・コウスケ。こいつのビジネスパートナーだ。主に仕入れやルートの開拓を行う、まあ、参謀のようなもんだ」

 

高野の興味深い視線に動じず、私はサングラスを持ち上げながら答えた。

 

「と言うことは、お宅に聞いた方がいいようだね」

「新規開拓に関しては問題はない。吸血鬼からの問い合わせもあったほどだ、ブツさえあればすぐに開拓ができるだろうよ。まあ、”本当に効果があれば”だがな」

「おい、貴様! さっきから聞いていれば調子のってんじゃねえぞ!」

 

私の返答に、仲間の男が劇場するが、それを高野が止める。

 

「では、どうやって開拓するんだ?」

「こいつは学生の身でね。その学生が顧客になってくれてるのさ。しかもその顧客のつてで吸血鬼もいる。私のところに来る吸血鬼と合わせれば十分だ。若いころに火遊びをしたくなるのは人間や化け物も同じだからな。そうだろ?」

「確かに」

 

私の言葉に、高野は頷いて答えた。

 

「それに、いい女がいるんでね。そいつを窓口にするだけさ。不安があるのだとすればそちらの方になるけどな」

「まあ、冷たくないアイスを買うバカはいないからな」

 

そこで、佑斗君が切り出す。

 

「どうだ、お互いの生活を向上させたくはないか?」

「ふーむ……」

 

佑斗君の言葉に、高野は顎に手を当てて考え込み始める。

だが、それはただのポーズ。

口元の笑みが隠せていなかった。

 

「いいだろう。あんたのことが気に入ったぜ」

「おいおい。悪いが俺にはそっちの趣味はねえぞ」

 

(そうなのか?)

 

資料には”BL”と言う記載があったのだが。

 

(成程、それも演技と言うことか)

 

私はそう納得することにした。

 

「俺にもそんなものはない」

「何だったら、いい女でも紹介してやろうか? 一見小学生程度のロリ体系とかはどうだ?」

「やめておこう」

 

口に笑みを浮かべながら、高野は断ってくる。

 

「そうか。ロリはいやか………では、上品そうに見えるが実際は自称ドMのビッチ女とかはどうだ?」

「おいおい、俺たちを勧誘しに来たのか?」

「すまないな。こいつは誰彼かまわずに勧誘してルートを拡大させようとする癖があるんだ。できれば放っておいてもらえるとありがたい」

 

目元を若干きつくする高野に佑斗君がフォローを入れる。

 

「まあ、別にいいけどね。仕事熱心なのは嫌いじゃないしな。で、話を戻すが―――」

 

そして、話を続ける高野を見て私はそれを確信するのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「し、信じられない! 高月君がそんなことを思っているだなんて!」

「お、落ち着け。あれは演技だ」

 

底知れぬ怒気を漂わせながら非難の声を上げる梓に、兵馬はフォローを入れる。

 

「ですが、一見小学生とか、ロリとか本心のように聞こえましたっ!」

「あれは仕事上の演技だ。ただ、うますぎてそのように感じるだけだ…………たぶん」

 

その力なきフォローは、2人には届かなかった。

 

「これは、帰ってきたら追求の必要があるわね」

 

(それにしても、失敗しても地獄。成功しても地獄、だな。可哀そうに)

 

そんな二人に、兵馬は心の中で浩介に同情するのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「佑斗君」

「なんだ?」

 

話が一瞬止まったのを見計らい、私は小声で佑斗君に話しかける。

 

「気をつけろ。あいつ、態度では友好的だがまだ完全に警戒を解いてない。奴の背後に隠れるようにして数人の気配を感じる。おそらくは武装しているとみて間違いないだろう」

「どうかしたか?」

「いや、ルートの開拓をどうやって進めていこうかを確認していたところだ。それより、そろそろ具体的な話に移らないか?」

 

私のアドバイスに、佑斗君は高野に声をかけられたため、うまく誤魔化し次のステップに移行する。

 

「そうだったな。おい」

 

佑斗君の促す言葉に、高野は後ろに控えていた男に声をかけると、男は後ろの方に消えていく。

やがて何かを手にして戻ってくるとそれを高野に手渡した。

 

「こいつが、そのブツだ」

「……」

 

高野が私たちに手渡して見せたのは、袋に入った赤色の粉末状のものと赤い色の注射器だった。

 

「俺たちは、こいつを”L”と呼んでいる」

「L……」

 

どうやら、このブツは”L”と言うらしい。

 

「これさえあれば、不感症の吸血鬼も一発昇天だ。どうだ、試しに打ってみるか?」

「俺がか?」

「当たり前だろ。新作だぜ? 試薬をぶっかけたって効果がわかるわけはない。だったら、体で試すのが手っ取り早い。そうだろ? 吸血鬼のムトウ・ユウト君?」

 

佑斗君の返事に、軽く笑いながら返す高野。

 

(ここは、フォローを入れないとな)

 

「悪いが、私たちは商品に手を出さないのをモットーにしているのでね」

「それじゃ、どうやって効果を試す?」

「それは簡単さ。実際に客に流して効果が出るかを確認させるだけだ。そっちだって物を大量に用意するのに時間もかかるだろ?」

 

高野の問いに、佑斗君は冷静に説得力のある返答をする。

 

「それじゃ、困るんだよ。だって、次来るときは仲間を呼ばれるんだからな」

 

(ッ!? まさか、ばれている? もしくはハッタリか?)

 

「私の仲間はリーダー以外にはいないぞ。まあ、二名ほどペットはいるがな」

 

正体が分からずに、私はとりあえず冷静に対応していく。

 

「いいって、隠さなくて。だってお前ら……風紀班、なんだろ?」

「なっ!?」

 

その高野の言葉に反応したのは佑斗君だった。

 

「てめぇっ!」

「おっと、動くな。動くとこいつが突き刺さるぜ」

 

後ろに控えていた男が佑斗君に反応して前方に出る。

それに合わせて立ち上がろうとした佑斗君に、高野はLが入っているであろう注射器を首筋に突き立てていた。

あと数センチ押し出すだけで針が刺さるだろう。

 

「やれやれ、ついてねえぜ。ようやくまともに卸せるかと思ったら、風紀班なんだってな」

「………」

 

「最近会うやつ全員に、名前を上げて風紀班かどうかを確認しているんだが、こうもあたりが引っ掛かるとはな」

 

(やはり、ハッタリか)

 

なんとなくそんな気はしていただけに、頭を抱えたくなった。

 

「経験不足だな。そこのガキのようにしてたらよかったんだがな」

「密売の取引で、警察やそれに準ずる組織の名を上げて相手の動向を確認する……反応があれば黒と言ったところだろ?」

「よく知ってるな。さすがは風紀班と言ったところか」

 

ゆっくりと立ち上がりながら、先ほどのからくりを話すと、高野は口元に笑みを浮かべる。

 

「古典的な手法だ。引っかかるときは引っかかるし、見る目がなければ微妙な変化は見過ごすから有用ではないがな」

「さて、洗いざらい話してもらおうか? だんまりを決め込めば中毒死かドタマに鉛玉をぶち込む」

 

私の答えに反応を示さず、高野は佑斗君に問いただす。

 

「お前たちはどこまで知っている? どうやって俺たちまでたどり着いた」

「………」

 

佑斗君はその問いかけに黙秘を貫く。

それが正解だ。

おそらくはバックアップ班がこちらに向かっているはずだ。

時間稼ぎさえすれば、いいだけだ。

 

「だんまりか……いや、時間稼ぎか。だと擦れるといつ突撃されてもおかしくないな」

 

それは向こうもお見通しのようで、高野のつぶやきに、仲間が逃走しようとする。

そんな彼らに、私たちの抹殺を指示する。

 

「それじゃ、お別れだ。ムトウ・ユウト君。お前のこと、嫌いではなかったぜ」

 

高野は佑斗君にそう言いながら、注射器を押し出した。

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