DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第31話です。

今回も少々吹っ飛ばしています。


第31話 恐怖

「あの、今何か倉端君の悲鳴のようなものが聞こえた気がするんだけど?」

「ありゃ……やっちゃった」

 

2人分の悲鳴に疑問の声を上げると、エリナさんが若干慌てたような声を上げる。

 

「やっちゃったって、どういうこと!?」

 

そんな僕の疑問に答える可能用に、白に染まっていた視界は徐々に元に戻りつつあった。

そして、完全に元に戻った時、そこにあった光景は想像以上のものだった。

地面に倒れ伏す高野と僕のそばに立つエリナさん。

そこまでは想像できた光景だ。

なぜか地面に倒れている倉端君の姿がなければだが。

 

「あは……あはは。ごめんなさいっ。慌ててやったから、対応を間違えちゃって」

「殺ったのか」

 

最初は誤魔化すように笑っていたエリナさんだが、申し訳なさそうに謝る彼女に、僕は単刀直入に聞いた。

 

「殺してないよ! ただ気絶させただけ。ナオタってペースメーカーとかつけてたりしてないよね?」

「いや、僕に聞かれても。ちょっと確認してみる」

 

エリナさんの問いかけに、応えながら僕は倉端君のもとに歩み寄るとしゃがみこんで首筋に手を当てる。

僕が確認しているのは脈だ。

脈が安定しているかどうかを見ているのだ。

 

「大丈夫。脈は安定してるから、問題はないと思う」

「良かったぁ。それなら、すぐに目を覚ますと思う」

 

僕の返答に胸をなでおろすエリナさんだったが、すぐに気付いたような表情を浮かべる。

 

「ただ、目を覚ましても動悸や吐き気とかの後遺症が出るかもしれない」

「後遺症って、大丈夫なの?」

 

後遺症と言う単語に、僕は思わずエリナさんに疑問を投げかけてしまう。

まるで、責めているような感じになってしまっていた。

 

「それはダイジョーブ。そういうのも明日には引きずらないように調整してあるから」

「調整……か」

 

ただ一つ理解できたことは、

 

「それがエリナさんの能力ということ?」

「……うん」

 

僕の疑問に、エリナさんは浮かない顔で答える。

 

「それの発動条件は吸血鬼の血?」

「……ワタシはね、吸血鬼から血を吸わないといけない吸血鬼なの。黙っててごめんね」

 

僕の疑問に答えるエリナさんの表情は、とてもさみしげでそして悲しげな表情だった。

 

「エリナさん……」

 

そんな彼女に、僕はどのような言葉を駆ければいいのだろうか?

そう考えていたのがいけなかった。

気を失っているであろう高野が動き出しているのに気付くのが遅れたのだから。

 

「ッ! エリナさん!」

「え? きゃ?!」

 

気づいたのは銃に手を伸ばそうとしている高野の姿を見た時だった。

僕は慌ててエリナさんの腕を引く。

それからそう時間をおかずに銃声が鳴り響く。

そして後方からは銃弾が何かにあたったような音が響く。

 

「おのれ、化け物め」

「な、なんで!? 気を失うはずなのに!」

「そういうものに抵抗があったのか、それとも運か」

 

冷静に分析している場合ではないことはわかっている。

高野の手にあるのは銃だ。

 

「こうなったらお前ら皆殺しだ!!」

「ッ!!」

 

相手は錯乱状態に陥っている。

このままでは倉端君やエリナさんが危険だ。

だが、逃がすこともできる自信がない。

彼女をかばいながら、倉端君の回収ができるのだろうか?

高野の確保はできるのだろうか?

 

(何かないのか?)

 

吸血していない僕が対抗しうる手段はないのか?

エリナさんにもう一度あれをしてもらう?

 

(いや、ダメだ)

 

一瞬浮かんできた案を僕は切り捨てる。

もう一度同じことをすれば、倉端君にも被弾する可能性がある。

それでエリナさんの心に大きな傷を与えるわけにはいかない。

 

(それじゃ、どうする?)

 

考えてもきりがなかった。

 

「コースケ」

「大丈夫。動かないで」

 

不安そうにしているエリナさんを何とか落ち着かせる。

 

(あれ? 何だか胸元に違和感が)

 

そんな時、僕はふと胸元に違和感を感じた。

それは内ポケットの方だった。

僕はブレザーの内ポケットに手を入れる。

 

「これは……」

「何それ……合成血液? どうしてそんなものを持ってるの?」

 

僕が取り出したものを見て、エリナさんが首をかしげる。

 

「分からない。何でこんなものが」

 

僕にもわからない。

だが、もしかしたらこれこそが

 

「突破口なのか?」

「コースケ?」

 

僕のつぶやきにエリナさんが不思議そうな表情を浮かべる。

 

「エリナさん、ちょっと離れてて。僕が声をかけるまで、何があっても近寄ったらだめだからね」

「わ、わかったよ」

 

そんなエリナさんに指示を出した僕は、血液パックの飲み口を開ける。

そしてそれに口をつけると一気に中に入っていた血液を飲み干す。

 

「ッ!?」

 

感じたのは早く刻む鼓動の音。

 

「コースケ!?」

 

次に感じたのは、こだまするように聞こえてくるエリナさんの声。

そして、意識が遠のくようなあの感覚。

それで悟った。

 

――これで、正解だったんだ――と。

 

「しねぇぇぇえええっ!!!」

 

高野の絶叫を聞きながら、僕はその意識を手放した。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

地面にうずくまる浩介。

そして、その場を動くに動けないエリナ。

そんな彼らに向けて銃を構え、今にも発砲しそうな高野。

どちらに優勢があるのかは一目瞭然であった。

 

「きゃあ!?」

 

そして響き渡るのは、3発の銃声。

それは、浩介達を無慈悲に貫く―――――はずだった。

 

「なっ!?」

「え?」

 

両者があげたのは驚愕の声だった。

その理由は、今までうずくまっていた浩介が立ち上がっていたからだ。

 

――否、それだけではない。

 

その手には先ほどまでなかった一本の変哲もない剣が握られていたからだ。

 

――否、それだけでもない

 

その剣で、放たれた銃弾すべてを斬り落とした(・・・・・・)からだ。

 

「前から言おうと思っていたのだが、お前の銃弾は遅いんだよ。まったくもって話になんないな」

「だまれぇ!!」

 

浩介の挑発にも近い言葉に、高野はさらに発砲を続ける。

だが、

 

「ふんっ!」

 

浩介は目にもとまらぬ速度で剣を振りぬく。

そして地面にカラカラと乾いた音が響く。

それが銃弾が地面に落ちる音だというのはその場にいるエリナ達にも理解できた。

 

「な、なぜ……なぜ落ちるんだ!」

 

高野が声を荒げるのも無理はない。

通常、いくら銃弾を斬ったからと言ってもそのまま真下に落下するのはありえない。

斜め後方なり、散開して着弾するのが普通だ。

だが、浩介はそれを真下に落としている。

 

「不思議なことはない。剣の腹で受け止め、そのまま斬り捨てているだけなのだからな」

「そんなめちゃくちゃなことができるわけないだろ!」

 

浩介の返答に、高野が声を荒げる。

 

「ところで、だ」

 

そこで、浩介が纏う雰囲気は一変する。

 

(な、なにこれ……)

 

エリナが感じたのは恐怖だった。

今、目の前にいるのは”高月浩介”と言う名の化け物ではないのかと言う錯覚を与えるほどに、その雰囲気にのまれていた。

 

「人の友人に手を出しておいて、タダで済むと思ってはおるまいな?」

「ッひぃぃぃぃ!!!」

 

その浩介の威圧感に耐えきれなくなった高野は、後ろを見向きもせずに駆け出す。

それは正しい判断だ。

真正面から威圧感を放つ者から逃げるのは生物の防衛本能としては正解だ。

ただし、その相手が浩介でなければ……だが

 

「そうか。貴様も雑種と言うことか」

 

逃げていく高野の姿に、浩介は期待を裏切られた感じの声を上げると両手に二丁の銃を具現化させる。

片方は白色、もう片方は黒色と言う対の色をした銃だった。

浩介はその銃を構えると、照準を高野の足元に合わせる。

そして浩介は躊躇なく引き金を引いた。

鳴り響くのは二発の銃声。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

そして両足に被弾した時の痛みで悲鳴を上げる高野の声だった。

血が飛び散らないのは浩介が使用した弾丸が鎮圧用の模擬弾だったため。

尤も銃は具現化したもののために、銃弾も具現化したと言ったほうが最適だろうが。

浩介はそれを確認せずに一気に距離を詰める。

距離にして5~600mほどの距離を、浩介は1秒もかからずに駆けたのだ。

 

「チェックメイトだ。雑種っ」

「ひっ。何なんだよ! あんたは!」

 

胸ぐらをつかまれて強引に持ち上げられた高野は浩介に喚き散らす。

 

「うるさい」

「な、何をする気だ?!」

 

浩介の纏う雰囲気に、高野は本能が警鐘を鳴らす。

 

――この男は危険だ――と。

 

「何、ちょっとした腹ごしらえだ。少し腹が減ったのでな」

 

そう言って浩介は唇を舌でなめる。

その光景は高野に恐怖を与えるので十分だった。

 

「な、何者だっ!?」

「分かってるくせに」

 

声が震える高野の問いかけに、浩介はそう言って一蹴する。

それによって、高野の中で答えが出た。

 

「まさか、ライカンスロープとでもいうのか!?」

「正解。あの時に素直に捕まってたら、こんな恐ろしく怖い思いもしなくてすんだのにね」

 

高野の言葉を肯定した浩介は、そう続けた。

 

「た、頼む。なんでも言うこと聞くから。それだけは」

「勘違いしないで。別に殺すわけじゃないから」

 

高野の命乞いに、浩介はそう答えると顔を近づけていく。

――高野の首筋に。

 

そして、それはエリナからは死角となって見えない絶妙の位置だった。

 

「それじゃ、最後に名乗ってあげよう。私は高月浩介、ライカンスロープにして―――――――――――だ」

「っ!?」

 

その名乗りを聞いた高野は声にならない悲鳴を上げる。

そんな彼の様子を気にすることもなく、浩介は高野の首筋に牙を立てた。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!!!」

 

そして、けたたましい悲鳴が響き渡る。

 

「ふぅ……ごちそう様」

 

数秒程で満足したのか、血を吸うのをやめた浩介は胸ぐらをつかんでいた手を放しながら口を開く。

それは、浩介にとっては一種の礼儀でもあった。

一方、胸ぐらをつかまれていた高野は離した途端崩れ落ちるように地面に倒れた。

 

(いつもより多めに吸うことになったが、死ぬことはないだろう)

 

浩介はそれだけを心の中で思うと興味を失ったのか、高野から視線を外す。

そして見たのは、呆然として浩介を見ているエリナの姿だった。

 

(あの小娘。……大丈夫なのか?)

 

その疑念の声がいったい何なのか。

それは彼自身しか知らない物であった。

 

(さて、面倒なことになる前に、奴に変わるか。記憶がないというのは不便ではあるが便利でもあるのだしな)

 

そう心の中でつぶやいた浩介は、目を閉じて体に現れていた意識が落ちる感覚に身を委ねた。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「……ん」

 

意識が一気に覚醒する。

僕はその感覚に目を開ける。

見えたのは、なぜか驚いた様子で僕を見るエリナさん。

そして足元には意識がないのか昏倒している高野の姿があった。

 

(とりあえず、これで一件落着かな?)

 

どうなのかはわからないが、僕はとりあえず一区切りを付けることにした。

 

「エリナさん。怪我とかは?」

「だ、ダイジョーブ。エリナにけがはないよ」

 

昏倒している高野を運び(とはいっても引きずっているだけだが)ながらエリナさんに尋ねると、エリナさんは首を横に振りながら答えてくれた。

 

「そう。よかった」

「それにしても、コースケって、とても強いね」

 

怪我がないことにほっとしていると、エリナさんが感心した様子で声を上げた。

 

「ま、まあね」

 

僕自身の強さでないため、何とも言えなかった。

果たして、意識を手放し本能が出ている間の状態でも、僕の手柄としていいものだろうか?

 

(それは、今考えることじゃないよね)

 

僕はそう思い、主任に連絡を入れ、やがて駆けつけた隊員たちに高野の身柄を引き渡すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、駅では佑斗君が倉端君の見送りをしていた。

 

(何だか申し訳ないよね)

 

その光景を見ながら、僕はある種の罪悪感に駆られていた。

それは、倉端君を巻き込んでしまったこともあるけど、何より

 

「工作班、ですか?」

「ああそうだ。心配するな。変なことはしやしない。ただ、催眠術や暗示をかけて夢か幻だと思ってもらうだけだ」

 

それが少し前に主任と交わした会話の内容であった。

倉端君は吸血鬼のことを不慮の事故とはいえ知ってしまった。

そうなれば、工作班が動くのも当然のことであった。

だが、その事実だけでも、僕に罪悪感を感じさせるものとしては十分であった。

佑斗君は気にするなと言ってくれたが、だからと言って”はい、そうですか”と言えるほど、僕はタフな心は持っていない。

 

(次がないようにしないと)

 

それが、僕にできる唯一の償いであった。

そう思っていると、ふと見知った人物の姿を見かけた。

 

「……あ」

「ッ!」

 

僕がエリナさんの姿を見つけると、彼女は息をのんだ様子で僕を見ていた。

その表情にあるのは恐怖と言うよりは怯えと言ったものだった。

それが何に対してかはわからないが。

 

「こ、こんなところで会うなんて奇遇だね。に、にひひ」

「エリナさん」

 

無理して笑おうとする彼女の姿に胸が締め付けられる。

何かを言わなければいけない。

でも、何を言えばいいのかが出てこない。

 

「そ、それじゃ!」

「逃げたらダメだっ!」

 

逃げようとする彼女の腕を、僕は慌ててつかむことで足止めする。

 

「別に逃げてるわけじゃ……ごめん」

「………」

 

なぜ、ここまで彼女がよそよそしいというか、怯えた様子なのか。

その答えは予測はできるが、それは想像の産物に過ぎない。

本人に直接尋ねることが一番。

そうすれば、僕自身も何かいい言葉がかけられるかもしれない。

 

(優しい人が傷つくなんてことは、断じてあってはいけない!)

 

「もしよかったら、どこか喫茶店に行かない? お礼と言うほどではないけど、僕の奢りで」

「……え?」

 

僕の言葉が予想外だったのか、驚いた様子で声を上げるエリナさんに、僕は言葉を続ける。

 

「何か話があるんだよね? だったら、立ち話ではなく落ち着いて話をしようと思ったんだけど」

「コースケ………ありがと。でも、喫茶店はやめておくよ。もうちょっと安心できる場所がいい」

 

お礼を言ったエリナさんは不安げな表情のまま、そう提案してきた。

 

(確かに、喫茶店はまずいか)

 

エリナさんの表情からも、どれほどの重要な話なのかは想像がつく。

 

(だとすると、寮とかか? いや、それはないか)

 

考えてすぐに、否定した。

寮ほど危険な場所はないだろう。

まだ寝ている人もいるし、いつ佑斗君たちが戻ってくるかもわからない。

そんなところで、エリナさんも安心して話ができるはずがない。

 

「だったら、アレキサンドはどう? あそこだったらちょうど開いたばっかりでお客さんもそれほどいないはずだから」

「……うん」

 

僕の提案に、力なくエリナさんは頷くことで答えた。

 

「それじゃ、行こうか」

 

そして僕は、エリナさんと共にカフェバー『アレキサンド』へと向かうのであった。

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