DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第32話です。
大変お待たせしました。

かなり長い話になったため、完成が遅れました。


第32話 特異体質

歩くこと数分。

目指していたカフェバー『アレキサンド』に到着した僕たちは、中に足を踏み入れる。

 

「いらっしゃい」

「こんにちは」

 

僕の想像通り……いや、それ以上に店内には営業を始めて間もないということもあるのか、お客さんの姿は見当たらなかった。

そんな中で、立っていた萌香さんに挨拶をする。

 

「あら、今日は二人だけ? それにこんな時間kらくるなんて珍しいわね。どうかしたの?」

「ちょっとエリナさんと大事な用があって。申し訳ないんですけど……」

 

昼間から来ていることに、驚いた様子の萌香さんに僕はどう頼めばいいのかがわからずに、歯切れの悪い感じになってしまった。

 

「……ああ、なるほどね」

 

そんな僕の様子に首をかしげていた萌香さんだったが、悟ったのか納得した様子の声を上げた。

 

「そういうことだったら、私は奥にいるわ。どうせ、この時間にお客はそれほど来ないだろうし」

「すみません、助かります」

 

萌香さんに無理を言ったことにたいして、謝りながらも無理を聞いてくれたお礼を言う。

 

「何かあったら呼んで。それと、何かいっぱいぐらいは飲むでしょ。何がいい?」

「えっと、僕は緑茶で」

「ワタシは紅茶」

 

萌香さんに尋ねられた僕たちは、それぞれの見たいものを注文する。

さすがに、ここでカクテルを頼むほど僕は馬鹿ではない。

 

「あら、紅茶でいいの?」

「え? ダメなの?」

 

エリナさんの注文した飲み物に心配そうに確認する萌香さんに、エリナさんは首をかしげる。

 

「別にダメではないけど、妊娠初期にカフェインはよくないわよ」

「ぶっ!」

 

萌香さんの口から出た単語に、僕は思わずむせてしまった。

 

「妊娠させたわけじゃないです!」

「大丈夫よ隠さなくても。寮の子たちなら、優しく面倒を見てくれるはずだから」

 

僕の反論も、萌香さんには通じないらしく温かい目で見られてしまった。

 

「確かに、ものすごく優しく手伝ってくれそうな気がしますが、そういうのじゃないまじめな話です!」

「……」

 

僕の言葉に、エリナさんが言葉を失う。

 

「アヴェーンさんが乗ってこないなんて……もしかして、マジな話?」

「どういう話になるのかはわからないんですが、落ち着いて話をするために、ここを利用させてもらおうと思って」

 

判断基準は、やはりエリナさんだったらしくいつもとは違う雰囲気に、僕の言葉を聞いてくれるようになったので、僕は誤解され内容に萌香さんに説明していく。

 

「そういうことね。分かったわ、茶化してごめんなさいね」

「ううん。エリナの方こそごめんね」

「気にしないで。すぐに用意するわね」

 

エリナさんの謝罪に、萌香さんはそう答えると深く追求することもなく、注文された飲み物を用意していく。

 

「それじゃ、ごゆっくり」

 

そういって萌香さんは奥の方に戻っていった。

そして、店内は静けさに包まれる。

 

「それで、話というのは?」

「……エリナの、能力のこと」

 

予想していた話の内容と同じだったことに、僕はやっぱりと心の中でつぶやいた。

それ以外に見当がつかなかったのもあるが。

 

「コースケも気になるでしょ? エリナの能力のことが」

「……気にならないと言ったらうそになる」

 

そう答えるしかなかった。

どう取り繕っても、嘘になってしまうから。

 

「……うん。だから、ちゃんと説明しようと思って」

「分かった」

 

エリナさんの表情にいつも浮かべている笑みがなかった。

その表情に飲み込まれた僕が言えたのは、それだけだった。

確かに、面白おかしくするような類の話ではない。

 

(でも)

 

僕には何か、言うべきことがあるはずだ。

そう思った僕は、自然と口を開いていた。

 

「でもその前にひとつだけ、話してもいいかな?」

「それは、先じゃないとだめなの?」

 

僕の言葉に、エリナさんは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「うん。話を聞いた後だと、意味がなくなると思うから」

 

”後の祭り”、”後悔先に立たず”。

そのような言葉があるように、今頭の中に思い浮かんだ言葉はこの時点で言わなければ意味が全くなくなる。

それは、実際に物事が起こった後で、それが起こると言う占い師のようなものだ。

 

「うん、わかった。何でも言っていいよ。エリナも覚悟は……出来てるから」

「それじゃ……」

 

何だか、ものすごい勘違いをされているような気がするけれど、僕はそれを考えないようにした。

変に考えれば話自体がおかしくなるからだ。

よほどのことがない限り、自分が言おうとしていたことを口にする。

変に着飾ったりしない方が伝わるという、僕の考えによるものだった。

 

「僕は別に、エリナさんに無理やり話を聞くつもりはない」

 

そして、僕は静かに言葉を紡いでいく。

この言葉は、今でなければ意味がない。

 

「確かに、エリナさんの能力について気になることはある。つらくても真実を話さないといけないこともある。でもね、人を傷つけてまで聞きだすっていうのが僕はいやなんだ」

 

それが、一番の理由だった。

確かに、気にはなる。

だが、それを無理やり聞いて人を……エリナさんを傷つけてまで聞く気は僕にはなかった。

 

「だから、もし本当は話したくないのであれば、話さなくてもいい。エリナさんが忘れてほしいっていうのなら僕は今日のことをすべて忘れる」

「……コースケ」

 

僕の話を聞いて漏れた声。

その声には、若干ではあるが悲しみや不安と言ったものとは、まったく正反対のものが含まれているような気がした。

 

「嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、僕はエリナさんの意思を尊重する。だから、教えてほしい。エリナさんが本当に願うことを」

「………にひひ。コースケって、あれだねよ……とてもいい男だよね」

 

先ほどまでかたくなっていた表情が、多少ではあるが柔らかくなっていた。

 

「そうかな? 自分としては不器用な方だと思うんだけど」

「確かにそうだよね。こうやって本人に確認を取らなくても、ほかにもいい方法があるかもしれないのにね」

 

僕の言葉に、エリナさんは肯定するように頷きながら話す。

今回のことを言うのであれば、それしか方法(言葉)が思い浮かばなかったからと言うのもある。

でも、それは不器用であるということと=なのかもしれない。

 

「そういう不器用なところも、コースケのいいところだと思うよ。あ、もちろん褒めてるよ」

「うん。わかってる」

 

ちょっとだけ、傷つきながらもエリナさんのフォローに答える。

 

「でも、大丈夫だよ。コースケは”忘れる”って言ったけど、あんなことを忘れるなんてできないでしょ?」

「確かにできない。でも、忘れる努力はできる」

 

どうすればいいかはわからない。

でも、もしかしたらそういうものがあるのかもしれない。

 

「ううん。気持ちだけでいいよ。聞いてくれた方が、エリナも楽になるし」

「……分かった。それじゃ、ちゃんと聞くよ」

 

エリナさんの選択に、僕は静かに頷くと聞く体制に入る。

 

「でもね、あくまでエリナさんの意思を優先して。虚誕な話だけど、生い立ちから今までのことを話さなくてもいい。言いたいことだけを話してもいいんだから」

「ありがと、コースケ。そう言ってもらえるだけでも気持ちが楽になるよ」

 

そう言ってお礼を口にしたエリナさんは表情を引き締めた。

 

「それじゃ………長い話でもないし、単刀直入に本題から話すね」

 

そして、エリナさんの説明は始まった。

 

「コースケもわかると思うけど、エリナは吸血鬼の血を吸う吸血鬼なの」

 

それは、あの時のことを思い出せば容易に想像ができた。

 

「ワタシの体は子供の時から普通の吸血鬼と違うみたいでね、人間の血を飲んでも反応が薄いの」

「むしろ、吸血鬼の方が反応が強い……ということ?」

 

その僕の言葉に、エリナさんは頷くことで答えた。

 

(成程、彼女もまた特異体質者と言うことか)

 

本題を聞いた僕は、そう心の中で感想を口にした。

 

「なはは。変な体でしょ? まぁ……今回はその変な体が役に立ったんだけどね」

「………そのことに関しては、本当に感謝しているよ。ありがと」

 

エリナさんの自虐的な笑みに、僕は何を言っていいのかがわからず、まったく見当違いのことを口にしていた。

でも、それでよかったのかもしれない。

どうしてかは、わからないけど。

 

「こちらこそありがと、コースケ。ッと……話がそれちゃったね」

 

若干驚いたように言うと、エリナさんは再び話を元に戻した。

 

「そんなわけでね、ワタシは昔から吸血鬼の血を吸う必要があったの」

「そうだったのか」

 

僕はエリナさんに、そう相槌を打つ。

 

「でも、変だよねこんなの。まるで、”吸血鬼喰い”」

「ッ!?」

 

不安に満ちたような表情のエリナさんの口から出た単語に、僕は思わず息をのんでしまった。

自分のことを言われたわけでもないのに、なぜか僕は反応してしまった。

 

「ライカンスロープ……みたいだよね」

「エリナさんは、その……ライカンスロープなの?」

 

僕は気になることを彼女に尋ねてみることにした。

 

「ううん。違うと思う。能力は一つしか使えないから」

「あの、電気を操る能力のこと?」

 

僕の言葉に、エリナさんは頷くことで答えた。

 

「それに、昔体を調べた時にもエリナはライカンスロープじゃないって、はっきりと言われたよ」

「そうなのか」

 

なぜか、僕はほっとしていた。

それは、もしかすると僕と同じような存在ではないことに対する、安堵感なのかもしれない。

”ライカンスロープだとばれてはいけない”

その言葉が、体中を縛り付ける楔となってしまうようなことを味わってほしくないからこそ、僕はそう感じていたのかもしれない。

 

「でも、ほかの吸血鬼からすると同じことだよね。同じ吸血鬼の吸う吸血鬼だなんて。怖いに決まってるよね」

「そういえば、寮の皆にはこのことは?」

 

ふと、気になったことを尋ねてみた。

とはいえ、答えはわかっているけれど、もしかしたらと言うこともある。

 

「ううん。誰にも打ち明けてないよ。いえるはずがないよ、こんな変な体のこと」

「”とっとと打ち明けろ、馬鹿者”。なんて、ことを強制するつもりはないけれど、きっと、寮の皆は受け入れてくれると思うよ」

 

自分のことを棚に上げて強制させるほど、僕は偉くもすごくもない。

だからこそ言葉尻が弱くなって行ってしまう。

 

「そっか……にひひ。ありがとうね、気を使ってくれて」

 

そう言って笑うエリナさんの表情はとても無理をしていることが僕にでもわかるほど顕著だった。

 

「でもね、コースケがエリナのお願いを聞いてくれただけでも満足だよ」

「お願い?」

 

そういえば、何かを言っていたような気もするが度忘れしているのか出てこなかった。

 

「ほら、エリナがコースケの血を飲むときに”怖がらないでほしい”ってお願いしたでしょ。そのこと」

「あぁ、あれか」

 

そういえば、そのようなことを言っていたような気がする。

 

「だからね、エリナはコースケがこうして話をしてくれているだけで十分嬉しいんだよ」

「……」

 

これで僕は納得がいった。

間違いなく、エリナさんは誤解している。

僕の本心は別にあり、自分を傷つけないために隠しているだけだと思い込んでしまっている。

 

(どうすればいい?)

 

僕は必死に考えるが、どう言えばいいのかが思いつかなかった。

たった一つ、出てきた言葉はあるけど、これを言ってしまっては本人が傷ついてしまうかもしれない。

でも、僕にはそれしかなかった。

 

「困ったな……」

「何が?」

 

思わず口に出た言葉に、エリナさんが不思議そうな表情で聞いてくる。

 

「なんて言えばいいのかがわからないんだ」

 

そう答えながら、僕は考えていく。

 

(ここは率直に言ったほうがいいのかもしれない)

 

そう思えてくるが、果たして、それでいいのだろうか?

彼女を傷つけることにはならないのだろうか?

そう思って、僕は別の方法を考えてみる。

だが、どのいい方でも傷つけてしまう可能性はある。

例えば、”僕もエリナさんと同じ吸血鬼から血を吸わなければいけない体質なんだ”と言ったものが例だ。

これは、完全に憐れみか同情だ。

それならば何も言わない方がいい。

いつの日にか、言わなければいけない日が来るのかもしれないが、それは少なくともいまではないはずだ。

ならば、僕の本心をぶつけるべきだ。

それが、本当のことを話して呉れたエリナさんに対する、僕なりの誠意なのだから。

 

「エリナさん」

「何?」

「ここからは、嘘偽りなく、僕の本心だ。だから別に気を使っているわけでもない。エリナさんの体質について、僕の率直な感想を言うのであれば」

 

僕のその言葉に、エリナさんの表情に不安の色が混じるのが見えた。

僕はそれを見なかったことにしてさらに言葉を続けた。

 

「まったくもって興味がない。と言うことになるかな」

「え? それってどういう……」

 

僕の口にした言葉に、エリナさんが混乱した様子で声を上げた。

 

「どういうって、言葉のままだよ。吸血鬼だろうが人間だろうとただ血を吸う種族が違うだけで何もおかしくないじゃない」

「で、でもっ、そんなことはないじゃない。だって吸血鬼の血を吸うなんておかしいよ! 同族の血を吸うんだよ!?」

「ちょっと落ち着いて。ちゃんと理由を話すから」

 

僕の言葉に、半ば叫ぶような形で反論してくるエリナさんを、何とか落ち着かせる。

 

「う、うん」

 

エリナさんが落ち着いたころを見計らって、僕は再び口を開く。

 

「それで、理由なんだけど。吸血鬼の血を吸おうが、人間の血を吸おうが元々人間だった僕からすればどっちも同じように感じるんだから。だから何もおかしくはないと思ったからなんだ」

「………………シュト?」

 

僕の説明に、エリナさんが呆然としている中、最初からこういえばよかったと、自己反省をしていると聞きなれない言葉を口にした。

 

「え、何?」

「あ、ううん。そうじゃなくてね、今のどういうこと? その、”元々人間”って?」

「あ……」

 

エリナさんに聞かれて、僕はようやく自分の犯したミスに気が付いた。

 

(まずい言ってしまった。あれほど布良さんや扇先生に”むやみに口にするな”と、言われていたことを)

 

「あぁ、ごめんね。ネタにマジレスしちゃった。せっかくコースケが場を和ませようとしてくれたのに。ごめんね、なはは」

「いや、冗談ではないよ」

 

言ってしまったのだから、もう押し通せと半ばやけにながら、僕はエリナさんの言葉を否定した。

 

「え? でも……」

「僕は、ひと月ほど前に吸血鬼に感染した」

「……」

 

エリナさんの言葉を遮るようにして、僕はもう一度エリナさんに告げた。

 

「えぇぇぇっ!? それ、エリナに話を合わせようとかしているんじゃなくて本当なの!?」

「本当だよ。風紀班での事件に巻き込まれて吸血鬼の血を飲んだんだ」

 

驚きの声を上げながら聞いてくるエリナさんに、僕は頷いて答える。

どうして、あの時あの行動をしたのか、自分でもあまりよくはわからなかった。

だが、後悔しているかと言われれば、それは”No”だ。

僕が後悔をするときは”吸血鬼”となったことに対して後悔をする時と同意義なのだから。

 

「それに話を合わせるんだったら『僕も実はあなたと同じ体質なんだ』とかが妥当でしょ?」

「た、確かに。でも、ワクチンは? 海上都市ならワクチンぐらいはあるはずでしょ?」

 

先ほど自分で考えてしまった言葉を例にして言うと、頷きながらもエリナさんが尋ねてきた。

 

「色々あってワクチンが聞かなかったんだ。もし信用できないのであれば、布良さんあたりに聞いてみるといいよ。僕が聞くように言ったとかいえば、布良さんも全部話してくれるはずだから」

「コースケが……元々、人間」

 

唖然とした面持ちでつぶやくエリナさんに、僕は静かに尋ねる。

 

「それで質問だけど、寮で僕はみんなに差別的な態度をとっていたりした?」

「ううん。そんなことはなかったよ。逆に自然なくらいにだったと思う。だって、コースケがもともと人間だなんて思いもしなかったもん」

 

(それって、なんだか悲しいような嬉しいような)

 

堂々と”お前は人間ではない”と言われているような気がしてがっかりする気持ちと、吸血鬼としてみんなと自然に溶け込んでいることに対する喜びの感情がいびつに混ざり合っていた。

こればっかしは、僕の気持ちの問題だろう。

 

「だからこそ、僕にとってはどっちでも大差はないんだ。もっと言えば、吸血鬼と言う存在自体が驚きなんだし」

「コースケ」

 

人間だった僕には吸血鬼と言う種族がいること自体が驚きなのだ。

ならば、僕にとって同族の血を吸うも吸わぬも、それほど大差のない問題なのだ。

 

「誤解してるかもしれないけど、僕は別に気を使っているわけではない。だから、言葉通りに受け取ってほしいんだ」

「……うん」

 

はっきり言えば、この会話の流れがいいのかはわからない。

だけど、僕が気を使っていないことは事実でもあり、本心なのだ。

 

「あ、それと僕がもともと人間だったということは、できれば内密にしてほしい。担当の医者曰く、特異例の為に、知られるとまずいらしいから。今回は流れみたいに話しちゃったけど、一応風紀班関係もあるし」

「うん、わかったよ」

 

我ながら、あとが恐ろしく思ってしまう。

また始末書だけは勘弁願いたい。

……本当に。

 

「それに、なんだかんだでお互いに秘密を打ち明けた者同士なんだし、今後もいつも通り……いや、これまで以上に仲良くしていきたい。もちろん、変な意味はないよ」

「え? エリナも、今まで通りに一緒にいてもいいの?」

 

僕の言葉に、応えるエリナさんのフレーズが引っ掛かった僕は、まさかと思いながらも彼女に問いかけてみた。

 

「まさかとは思うけど、寮を出ていくなんて考えてなかったよね?」

「……コースケが、一緒に暮らしていくのがいやだっていうんなら」

 

僕が感じた予想通りの答えに、思わず頭を抱えたくなるが、必死にこらえた。

そんなそぶりをしたら、確実に無意味になる。

 

「そんなわけないでしょ。あそこの寮は、エリナさんがいるからこそ明るい雰囲気なんだよ。もちろん、そこに誰かが欠けてもいけない。エリナさんはもちろん、布良さんも美羽さんもニコラもね」

「……コースケ」

「だから、エリナさんが出ていくことはないし、僕もそれを望まない」

 

僕は最後にそう締めくくった。

 

(もし、それを望んだ時は、それは僕が僕でなくなった時だよ)

 

本能が出てきて、もしエリナさんを傷つけるようなことを口にしたら……それが、とても恐ろしい。

そうならないことを願いたい。

 

「新米吸血鬼だけど、これからもよろしく頼むよ。エリナさん」

 

それは、僕にとっての一種の決意表明でもあった。

 

「うぅ……コースケ」

「な、何?」

 

若干震える声の呼びかけに、僕は思わず居住まいを正す。

 

「こーすけぇ~~!」

「だから、何?」

 

何だか様子がおかしい。

そう思いながら僕はエリナさんの言葉を待つ。

 

「ありがとう……ぐすっ、ありがとう……コースケぇ~~」

「こっちこそありがとう。助けてくれて」

 

涙声になりながらもお礼を言ってくれるエリナさんに、僕もお礼を返した。

 

「エリナも、エリナも………うえぇぇぇん!」

「うおわ!?」

 

まるで堰を切ったように泣き出すエリナさんに、僕はのけぞる勢いで驚いた。

 

「ち、ちょっと、いきなり泣かなくても。と言うより萌香さんに聞かれたら、僕が若気の至りでなかせるようなことをしたって思われちゃうよ!」

「だって……ぐすっ。だってぇ、コースケが……うぅ……コースケが、エリナを泣かせたんだもん! ぐすっ、コースケがとても優しいことを言うから、涙が出ちゃうんだよぉ~」

 

慌てた僕の言葉に、エリナさんはぐずりながら反論してきた。

 

「だったら、突っぱねたほうがよかった?」

「ぐすっ。それもやだぁ~~。えっぐ」

 

(これじゃ、まるで駄々っ子だよね)

 

「なるべく早めに泣き止んでね」

 

泣きながら否定するエリナさんに思わずそう思ってしまう僕は、エリナさんにそう頼むしかなかった。

 

「ひっぐ……うん、努力する……うぐぅ」

「”うぐぅ”言わない」

 

努力するといったそばからまた泣き出していエリナさんに苦笑しながらツッコんだ。

 

「………よしよし」

 

僕は気づけば彼女の頭を撫でていた。

どうしてなのかはわからない。

だが、無性にそうしたくなったのだ。

 

(僕って、実はものすごい変態なのかな?)

 

何だか自分の性癖がとてつもなく恐ろしくなった。

 

「うぅぅ……そんなに優しくされたら、涙止まらないよぉぉぉ~!」

「ご、ごめん」

 

エリナさんの涙ながらの抗議に、僕は彼女の頭から手を離した。

 

「でも、なで続けてくれなきゃいやぁ~」

「いったい僕にどうしろと!?」

 

矛盾する抗議に、僕は叫び声をあげてしまった。

結局、もう一度エリナさんの頭を撫でることにした。

 

「まあ、あれだよ。矛盾するかもしれないけれど、泣きたいときには好きなだけ泣けばいいんだよ。喜怒哀楽は僕たちに与えられた感情なんだから」

 

そうだ。

無表情無感情よりはその方がいい。

現に僕は昔の彼女(・・・・)より、今の彼女の方がいいと思う。

 

(って、何を言ってるんだ?)

 

”昔の彼女”と言う単語は出るはずがない。

少なくとも、記憶の限りではエリナさんと面識はないはず。

 

(それに、もし一度会ったことがあるのなら、エリナさん側からアクションがあってもおかしくはない)

 

一瞬ではあるが、僕の意思とは関係なしに思考が進んでいくような気がした。

 

(こっちも、相談した方がいいのかもしれない)

 

そうでないと、自分が自分でなくなるような気がして恐ろしいのだ。

 

「それに、もし何か困ったことがあったら僕を頼ってよ。頼りないかもしれないけれど、それでもエリナさんが望むのであれば僕は力を貸すから。だって、それが”友達”ってものなんだからさ」

「う、うわぁぁぁぁん。コースケぇぇ~~」

 

(これは、藪蛇になっちゃったかな?)

 

そう思いながら、僕はエリナさんが泣き止むのを静かに待つのであった。

でも、心の中ではある種の達成感のようなものを僕は感じていた。

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