DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第33話です。

投稿時間は0時から1時までの間です。
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第33話 検診とパーティ

あれからどれだけの時間が経ったのかはわからない。

 

「落ち着いた?」

「うん。涙も止まった」

 

僕が声をかけると、エリナさんは頷いて答えた。

かすかに涙声ではあるものの、エリナさんは落ち着きを取り戻していた。

 

「ごめんね、泣いちゃったりして」

「別に、誰もに聞かれなかったからいいけどね」

 

エリナさんの謝罪に、僕はおどけながら返した。

実際に、誰も人が来なくてよかったと胸をなでおろしていた。

もし、誰かが見たら

 

「誰かが見たら、別れ話がもつれたようにみられちゃうよね、にしし」

「それだと、いったい僕はものすごくひどい男の部類に入りそうだね」

 

僕の予想と同じことを思っていたエリナさんに、苦笑しながら返した。

 

「コースケは本当はとても優しくていい男なのにね」

「そう言われると、何だか照れるね」

「でしょ?」

 

いつも通り……ではないが、少しずついつものエリナさんの状態に戻りつつあった。

 

(よかった。ちゃんとフォローができて)

 

少なくとも、傷つけてはいないようなので、僕はほっとしていた。

 

「あぁっ!?」

「ど、どうかしたの?!」

 

いきなり大声で叫びながら席を立つエリナさんに、僕は驚きながら訊いた。

 

「エリナ、ちょっと用事があるのを思い出したから帰るね!」

「そ、そう? あ、代金はこっちでおごるから」

 

慌てた様子でまくしたてるエリナさんに首をかしげつつ、そう口にする。

 

「しばらくは寮に戻ってきたらダメだからねっ!」

「わ、わかったよ」

 

なぜか寮に戻ることを禁じられた僕は、何かをしたかと自分の行動を思い起こしながら頷いた。

 

「今日は、本当にありがとね、コースケ。それじゃ!」

「あ、ああ」

 

まるで嵐のように去っていくエリナさん。

僕は、ただただ無言でそのドアを見ているだけだった。

 

「あそこまで慌てる急用って、いったいどんな用事なんだろう?」

 

少々興味に駆られる僕だが、エリナさんの指示に従わないわけにはいかず、時間をつぶすことにした。

 

「あ、そう言えば佑斗君に何も言わずに離れたんだったっけ」

 

僕はそこで、佑斗君の前から姿を消したことを思い出した。

あの時、倉端君の見送りに同伴していた僕は、その途中で抜け出したのだ。

心配している可能性が高い。

なぜなら

 

(佑斗君はとても優しい人だから。だから)

 

彼は、そういう人(もしくは吸血鬼)だからだ。

 

「うわ、やっぱり着信とメールが入ってる」

 

携帯電話を取り出すと、そこには着信があったこと告げるメッセージが数件と、メールの受信を告げるメッセージが表示されていた。

僕は最初に着信履歴の方を確認することにした。

 

「うげっ!?」

 

その履歴を見た瞬間、僕は思わず携帯を落としそうになってしまった。

 

「全部扇先生からだ」

 

なぜなら、その履歴の大半を占めていたのが扇先生の電話番号だったからだ。

 

(しかも、5分おきにかかってるし)

 

マナーモードにしているために、音はしなくてもバイブレーダーの振動で感知することはできるはずだが、、それでも僕は気付くことができなかった。

 

「それほど、僕もテンパっていたというわけか」

 

そうでなければ、いくら僕でも振動ぐらいは感知することができるのだから。

 

「とりあえず、折り返しの電話は後にしてメールの方を確認しよう」

 

何だか今電話をしてはいけないような気がしたため、僕は折り返し連絡するのを後にしてメールの方を確認することにした。

 

「やっぱり、佑斗君からだ」

 

そのメールは佑斗君のものであった。

僕はそのメールを開封する。

そこには倉端君が無事に帰っていったこと、そして用があるので戻るのが遅れるから先に寮に戻るようにと告げる物だった。

 

「さて、確認もできて飲み物も飲んだことだし……」

 

そうつぶやきながら、僕は席を立ちあがる。

 

「萌香さん! 話が終わったので帰ります! 代金は置いておきますから!!」

 

できる限り大きな声で、僕は萌香さんに声をかけると、代金をおいてカフェバーを後にした。

 

「うわ、もう夕方」

 

ここに入ったのはまだ昼間だったはずなので、かれこれ数時間はあそこにいたことになる。

本当に時間の流れと言うのは恐ろしい。

 

「さてと、鬼門を開けるか」

 

僕が見ていたのは、あの着信履歴だ。

扇先生からのしつこいという部類を超えそうな数の着信に、嫌な予感を感じながらも僕はリダイヤルをする。

 

「僕との約束をすっぽかすだなんてひどいじゃないか!」

「あ……」

 

ほんの数コールで電話に出た扇先生は大きな声で叫んできた。

その声に、若干涙声が混ざっていたような気もする。

それで、僕は今日が扇先生の定期検診の日であることを思い出した。

 

「すみません、少々込み入った事情がありまして」

「事情? その事情は僕との約束をすっぽかすほど、重要なものなのかい?」

 

僕の釈明に、扇先生は興味深そうに追求する。

ちなみに、約束とは言ってもただの定期検診のことであるので、誤解をしないように。

 

「はい。今後の生活に支障をきたすほどの重要なものです」

「まあ、いいけど。それで、高月君はどうするんだい?」

 

僕の答えに、しぶしぶと言った声色でつぶやいた扇先生は、僕にそう尋ねてきた。

ちなみに、嘘はついていない。

エリナさんとの問題を解決しなければ、非常に大変なことになっていたのだから。

どういう意味なのかは、すぐに分かった。

 

「扇先生が大丈夫なら、これからにでも検診をお願いしたいんですけど」

「ふむ……うん、今ならスケジュールにも余裕があるよ。それじゃ、すぐに病院に来てくれるかい?」

「分かりました」

 

しばらく考えた扇先生の返答に、返すと僕は電話を切った。

 

(今、最後にシャワーがなんとかかんとか聞こえた気がしたけど、気のせいだよね?)

 

ふと聞こえてしまった不穏な言葉に、僕は危機間違いであることを祈りながら、病院に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。怪我とかはもう大丈夫のようだね」

「そうですか」

 

一通りの検診を終え、結果を聞いた僕は一安心する。

今日はいろいろと無茶をしたので、何らかの異常が出ているのではないかと思ったが、それも考えすぎだったようだ。

とはいえ、何度もする気はないのだけれど。

 

「でも、ちょっと薬を打たせてもらっていいかな? いや、心配性な医者の配慮というものでね」

「はぁ……別にかまいませんけど」

 

扇先生の問いかけに、僕は首をかしげつつ応じると扇先生は何かの薬が入った注射器を使い投与した

 

「これで、大丈夫」

「一体何が大丈夫……っ!?」

 

扇先生に尋ねようとした瞬間、今までとは違う異変が体を襲う。

一瞬ではあるが意識が遠くなるような錯覚と、いつも以上に力強く脈打っているであろう鼓動の音が聞こえてきた。

 

「なに、を……」

「大丈夫だから。その感覚に身を委ねるんだ」

 

意識が遠のいていく感覚に必死に抵抗する僕に、扇先生は静かに囁く。

 

(冗談じゃない)

 

このわけのわからない間隔に身を委ねたら何が起こるかが分からない。

それは恐怖でもあった。

 

(ダメ……意識が持た――――)

 

だが、僕の抵抗もむなしく、意識はそこで途切れた。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「どうだい? 気分は」

「答えなど決まっている。最悪だよ、元樹」

 

項垂れるようにして気を失う浩介に問いかけた元樹に、そう返すとゆっくりと立ち上がる。

 

「さっき投与したあの薬、私を覚醒させるものだな? 確か名称は”スパイラル”と言ったか」

「ああ、そうだよ。ヴァンパイアウイルスを取り込まなくても覚醒させる方法を考えていたら、この薬を見つけたということだ」

 

思い起こすようにつぶやく浩介に、元樹は眼鏡を持ち上げる仕草をしながら答えた。

 

「しかし、無謀なことをする。一歩間違えればとんでもないことになっていたぞ」

 

呆れたようにつぶやく浩介は、窓側に向かってゆっくりと歩きだしながら言葉を続ける。

 

「”スパイラル”は便利だが、間違った服用で簡単に副作用を生じる危険な薬」

「それは分かっているとも。人体に耐性が生まれやすく、服用すればするほど、効能時間は減っていく。だろ」

 

浩介の言葉に続くようにして声を上げる元樹に、浩介は頷くことで答えた。

 

”スパイラル”

そう名付けられた薬は、いわゆる二重人格などでもう一人の人格(ここでは人格Bとしよう)を意図的に目覚めさせ、固定化させる効果がある。

もちろんだが、非正規の薬で、違法薬物の一歩手前に位置することと、割が合わないためあまり使いたがらない薬だ。

それが、副作用だ。

投与する量が少なければ、当然効果はないが多すぎると副作用を起こして大騒動に発展する。

そしてもう一つある問題が、効果時間。

人間の場合は、投与後12時間は効果が出続ける。

しかし、これは何度も投与をすればするほど減少していく傾向にある。

”スパイラル”は体に耐性が付きやすいのが主な理由だ。

浩介の場合は吸血鬼で元々薬が効きにくい性質であることが災いして、効果時間は30分持てばいい方と言う状態だった。

 

「二重人格と言うのも一種の情報の塊。ならば、情報の断片化でもある私を覚醒化させれば、同じ効果が出るのではないか……そう考えての投与だろうけど、今回で最後にしてもらいたいね」

「悪いね。少々シビアな問題が見つかって彼にそれを言うのははばかられたもんでね」

 

浩介の責める口調に申し訳なさそうに元樹は答えると、浩介のもとに歩み寄って資料を手渡す。

 

「それが、君の体の診断結果。どう思う?」

「私は医者ではないんだが……ウイルス量が急減してるな」

 

手渡された診断書に目を通す浩介は、ウイルス量の項目で目を細める。

 

「そうだ。君の体に保有するウイルス量が急激に減少しているんだ。もちろん、問題がない範囲内だから薬を投与する必要はないんだが」

「確かにね、減少しているとはいえ、従来の95%までなんだからな」

 

険しい表情を浮かべる元樹につられるようにして、浩介も同じ表情を浮かべる。

 

「それで、心当たりを君に聞きたい。原因に対してできる限り早めに手を打っておかないといけないからね」

「……………」

 

(心当たりはあるが、それをこの場で口にしていいものかどうか?)

 

浩介はすでに、原因を特定できていた。

だが、それを口にするのが憚られたのだ。

 

(自分が助かるために、他者を犠牲にする。合理的ではあるが私にはいけ好かない)

 

それが主な理由だった。

 

「心当たりを私が言う権限はない。すべては合意の素なのだから、知りたくば彼に聞いてくれ。まあ、彼が素直に話すとは限らないけれど」

「………分かった」

 

浩介の表情から、何を言っても無駄だということを悟った元樹はため息をつきながら諦めることにしたのであった。

 

「老婆心ながら言わせてもらうが、できれば早めに緊急用の血液パックの生成を始めたほうがいいと思うぞ」

「それは、何故だ? まさか、今後も頻発するとでも」

 

浩介の忠告に、元樹は目を細めて浩介を見る。

その鋭い視線に、動じることもなく、浩介は答える。

 

「その通り。もうすでに始まってしまったんだ。一度動き出した歯車は、止まることなく動き出す。もう、止めることはできない」

「相変わらず、君は複雑な言葉を使う。僕は医者で、言葉遊びは苦手なんだよね」

 

浩介の難しい言い回しに、文句を言うが浩介はそんなことは関係ないとばかりに聞き流していた。

 

「まあ、別にいいけど。やった方がいいと思うぞ。だって、そうしないと彼は近い将来に―――」

 

浩介はそこで言葉を区切ると、元樹を震え上がらせるような笑顔を浮かべる。

それは確かにただの笑顔だが、その内に秘めたる未知なるものが牙をむいているような錯覚を与える物だったのだから。

そして、浩介はその言葉を口にした。

 

「――――死ぬよ」

 

それは、ある種の余命宣告であった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「はぁ、またか」

 

帰り道、思わず僕はため息を漏らしていた。

意識が途絶え、またすぐに目が覚めたとき扇先生はどこか思いつめた表情を浮かべていた。

しかもどうしたのかを聞こうとすると帰ってもいいと言われたたため、僕としてはいったい何があったのかが全く分からずじまいだった。

 

「まあ、いいか」

「何がいいんだ?」

 

ため息交じりにつぶやく僕の背後から、突然声をかけられた。

 

「うわ!? 佑斗君」

「よっ。そっちは今終わったのか?」

 

慌てて後ろを振り向くと、そこには片手をあげている佑斗君の姿があった。

 

「うん」

「お前も大変だよな、扇先生にはいろいろと」

 

佑斗君の問いに答えるとなぜか同情のまなざしで言われてしまった。

 

(そういえば、佑斗君も餌食になってたりするんだっけ)

 

同じ境遇で親近感がわいているのかもしれない。

 

「ところで、佑斗君は何をやってたの? 何か仕事でもあったとか?」

「いいや、そんなものはない」

 

佑斗君がこのような時間まで外にいることに疑問を持った僕の問いかけに、佑斗君は首を横に振ってこたえた。

 

「布良さんから寮への立ち入り禁止命令をされちまってな。時間をつぶしてたんだ」

「佑斗君も!?」

 

どうやら、佑斗君も寮に立ち入りることが禁止されていたようだ。

佑斗君も目を見開かせて驚きをあらわにしていた。

 

「一体、なんなんだろうな?」

「分からないけれど、禁止令が出された理由ぐらいを聞くだけなら、大丈夫だよね?」

「そうだな。理由をちゃんと聞こう」

 

僕の言葉に頷くように答えた佑斗君は躊躇なく、ドアノブに手をかけるとドアを開けた。

 

「「ただいま」」

 

まるで空き巣のような感じで若干声のボリュームを落としながら、中に入る。

落としたとは言え、普通に聞き取れるほどの音量になってしまったが。

 

『おかえりなさい』

 

そしてリビングに足を踏み入れると、出迎えたのは寮の皆と大房さんだった。

 

「ど、どうしたんだ?皆、勢揃いで。しかも豪勢な料理まで作って」

「ふっ、何を言ってるんだか」

 

目の前に広がる光景に、目を丸くする佑斗君にニコラがそうつぶやくと、布良さんが呼びかけをする。

それはまるで、何らかのタイミングを合わせるように。

 

「ユート、コースケ。入寮して一か月」

『おめでとう』

 

エリナさんが口火を切るようにして一斉にお祝いの言葉を駆けられた。

 

「一か月? 僕たちが入寮して……」

「そのために、こんな催しをしてくれたのか?」

 

気づけばもうそんなに月日が経っていたんだなと思っている僕をよそに、佑斗君たちは話を進めていく。

 

(でも、僕の場合は二週間ぐらい経ってるんだけど……)

 

細かいことは言わない方がいいのだろうか?

 

「なるほど、これが”急用”の正体だったというわけか」

「にひひ~。そうだよ。後、お礼もね」

 

確かに、これだけの準備をするのに時間はかなりかかるだろう。

だとすれば、しばらく戻らないように言ってくるのも頷ける。

 

「お礼?」

「なんでもなーい。こっちの話」

 

エリナさんの口にした単語に首をかしげる布良さんに、エリナさんは笑顔でごまかした。

 

「本当は倉橋さんもご一緒にと思ったのですが、吸血鬼のことを知らないでしょうから」

「確かに」

 

いつひょんなことで吸血鬼のことがばれるかがわからない。

また、一度工作班によって催眠術をかけられている手前、もう一度それをされる可能性のあることは控えたほうがいのかもしれない。

 

「でも、寮に住んでいない私まで参加してよかったんでしょうか?」

「ひより先輩も私たちのクラスメイトじゃないですか」

「そうそう。枯れ木も山の賑わいっていうしね」

 

大房さんの不安そうな言葉に、稲叢さんとエリナさんが反論するが、

 

「それ、何にもフォローになってないよ」

「それに、使いどころも間違っているから」

 

エリナさんの用いたことわざが間違っていることを僕と布良さんが指摘した。

なんだか、重箱の隅をつつくようであれだけど。

 

「あり? ま、まあ、大事なのは二人を祝う心だよ」

「そうだね」

 

その指摘に首をかしげながらも、口にした言葉に、ニコラも頷きながら賛同した。

 

「それじゃ、佑斗。せっかくだから、音頭でもとりなさい」

「え? 俺が?!」

 

美羽さんの促す言葉に、佑斗君が目を丸くして声を上げた。

 

「そうだよ、なんたって六連君が主役だもん」

「だったら、もう一人の主役である浩介はどうなんだ?」

「ッ!?」

 

佑斗君が僕の名前を出した瞬間に、僕は佑斗君の背後に回った。

 

「絶対に言いそうにないから、佑斗がやりなさい」

「……分かった」

 

背後に回った僕を見て、悟ったのか美羽さんが再度促すと佑斗君は観念した様子で頷いた。

 

(ダメだよね。いつまでもこれじゃ)

 

「いや、やっぱり僕がやるよ」

「浩介?」

 

自分を変えていかなければ。

そういう思いが僕を動かした。

唖然とする佑斗君をしり目に、僕は一歩前に出た。

 

「皆、今日は僕たちの為にこのような催しを開いてくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」

 

震える声の中、僕は言い切ると、少し間をおいて定番の単語を口にする。

 

「それじゃ、乾杯!」

『乾杯!』

 

こうして、僕たちの入寮歓迎パーティーは幕を開けるのであった。

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