DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第35話です。

なんとか今日もぎりぎりで間に合いました。
ということで、どうぞ


第35話 変化

「おはよう」

「おはようございます。高月先輩」

「おはよう浩介。今日も遅いな」

 

共有スペースにいた全員が、それぞれ声をかけてくる。

 

「ちょっと、まるで僕がいつも寝坊助みたいな言い方はやめてよ」

「でも、間違ってはいないわよね」

「ひどっ!」

 

いつもとおんなじ、和やかな雰囲気に共有スペースはつつまれていた。

 

「お、おおおおおおおはよう、高月……君」

 

そんな中、明らかに様子がおかしいのは布良さんだった。

顔を真っ赤にして僕と目を合わせようとしない。

……正確には、体を見ようとしていない。

 

「……どうかしたの? 布良さん」

「にゃ、にゃにも!」

 

そんな布良さんの様子に声をかける美羽さんに、返事を返すがそれは何かがありましたと言っているのと同じだった。

 

「……くふっ。成程ね。稲叢さん、今日はお赤飯を炊いてくれるかしら」

「は、はい。わかりましたけど、なぜですか?」

 

そんな布良さんの様子にすべてを把握した美羽さんの提案に、稲叢さんは目を丸くしながら理由を尋ねる。

 

(何だか、ものすごく誤解されているような気がする……)

 

気のせいだと思いたかったが、それは次の美羽さんの一言で、脆くも崩れることになった。

 

「二人は一足早く大人の階段を上ったのよ」

「あぁ。シンデレラですね。でも、それとお赤飯と何の関係が?」

「一夜限りの大人ってかなり残酷だよ?!」

 

いや、大人と言われるのが嫌なわけじゃないけれど、一夜限りの大人に抵抗があるだけでもある。

 

「にょわ~!? 変なことを言わないでよ! そんなんじゃないんだってば!」

「でも、確かに二人の雰囲気はまるで初めてのエイレイテュイアの契りを澄ましたような感じだけど……」

 

布良さんの悲鳴交じりの抗議に、ニコラは顎に手を当てながら考え込むポーズで口を開くが、

 

「英霊……なんとかってどういう意味だ?」

「エイレイテュイア! 意味はその……せ、せせせせせ………なんでもない!」

 

僕と同じ疑問を持っていた佑斗君の問いかけに、頬を赤く染めながらまくしたてた。

それだけでもう悟ってしまった。

 

「浩介、ヤッタのか?」

「そんなわけないでしょ!? その、寝起き姿を見られて……後は察してほしい」

 

尻込みするように声が小さくなってしまったが、それでも効果はあったようで、

 

「あー、なるほどな」

「だったら梓君の様子にも納得がいくね」

 

佑斗君に続いてニコラと言う順番で納得していったようだ。

 

「布良さんも、ごめんね。なんかいろいろな意味で」

「え? あ、ううん。生理現象だから仕方がないもんね」

 

一番の被害者である布良さんに謝罪の言葉をかけて、この一件は終わりとなった。

 

「さあ、早く夕食にしよう。何だかおなかがすいちゃった」

「あ、でもまだエリナちゃんが」

 

僕の提案に、稲叢さんが申し訳なさそうな表情で答えた。

 

(そういえば、まだ来てないな)

 

先ほどの騒ぎでかなり時間は経ったので、そろそろ来てもおかしくないと思っていたのだ。

 

「たぶん、そろそろ着替え終わってくる頃だと……」

「ん? 浩介」

 

僕の言葉を聞いていた佑斗君が声をかけてきたので、僕は佑斗君の方へと顔を向けた。

 

「おっはよー、コースケ!」

 

それとエリナさんの元気な挨拶の声が聞こえたのとは、ほぼ同時だった。

 

「ごはっ!?」

「うわ!? 大丈夫、高月君!?」

 

突然のことに対応ができなかった僕は、エリナさんのタックルに対応できずに吹き飛ばされてしまった。

 

「だ、大丈夫」

 

心配そうに声をかけてきた布良さんにそう返しつつ、僕は痛む鼻を軽く押さえながら立ち上がった。

 

「ご、ゴメン、コースケ。まさか、あそこまで飛ぶだなんて」

「いや、僕も気を抜いていた。でも、いきなりタックルだけはやめて。危ないから」

 

驚かせるつもりでやっていたのか、申し訳なさそうな表情で謝るエリナさんに、僕は追及することはせずに特攻じみたタックルをやめるようにお願いすることにした。

 

「分かったよ。それと、おはよーコースケ」

「うん。おはよう、エリナさん」

 

深く頷いて満面の笑みであいさつをするエリナさんに、僕も挨拶を返した。

 

『………』

 

そんな僕たちに、向けられる何とも言い難い視線に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浩介」

「何?」

 

学院に向かう途中、声をかけてきた佑斗君に用件を尋ねた。

 

「聞こうと思ってたことがあるんだけど、いいか?」

「うん。良いよ」

 

佑斗君の問いかけに、僕は頷くことで答えた。

 

「寮で聞こう聞こうと思ってたんだけど、なかなか切り出せなくてな……」

 

佑斗君はそう前置きを置くと、本題に入った。

 

「浩介、まさかとは思うが朝エリナと一緒だったか?」

「ど、どうしてそれが!? ……あ」

 

佑斗君の問いかけに、思わず慌てる僕に向けられた”やっぱり”と言いたげな佑斗君の視線に、僕は嵌められたことに気づいた。

 

「悪い、嵌めるつもりはなかったんだがちょっと気になってな」

「どうして、わかったの?」

 

僕は佑斗君に、わかった理由を尋ねた。

 

「稲叢さんがエリナが共有スペースに来ていないことを口にした時に、浩介言ってたじゃないか”たぶん、そろそろ着替え終わってくる頃だ”とな」

「あ………」

 

よくよく思えば、そのようなことを口にしていたような気がした。

 

「あの言葉を聞けば朝に一緒にいたとしか考えられないからな」

「ち、ちなみにこのことを他の皆は?」

 

僕は一番聞かなければいけないことを佑斗君に尋ねた。

もしみんなが知っているのであれば、かなり大変なことになるのは間違いがなかった。

 

「どうかはわからないが、少なくとも布良さんが何もアクションを起こしてない限りだと、大丈夫だと思うけど」

「そ、そう」

 

安心のあまりにほっと息をつきそうになるのを、僕は何とかこらえた。

確かに布良さんはあの後におかしいところは見当たらなく、まったくもって普通の状態だった。

だとすれば、ばれているとは考えにくいということになる。

 

「あの、できればこのことは内密に」

「もちろんだよ。だけどよ、鍵はかけたのか?」

 

呆れた様子で聞いてくる佑斗君に、僕はため息交じりに答える。

 

「掛けたよ。でもKなんとかっていう人に、ピッキングとかを教えてもらったらしくて……」

「それは、何ともまあ……ご愁傷様」

 

途中まで言った僕の言葉で、どうやって部屋に入ったのかがわかったのか、同情の視線を向けてくる佑斗君の言葉に僕は、何とも言えない感情を抱くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、キリがいいのでここで終わります」

 

先生のその言葉から少しの間が空いて、クラスメイト達は楽しげに話をし始めた。

 

(もう深夜休みか)

 

早いもので、もう深夜休みとなった。

昼食ならぬ、夜食を食べたりする時間なのだ。

 

「佑斗君は……もういない」

 

佑斗君と一緒に食堂に向かおうと、姿を探すが佑斗君の姿は見えなかった。

 

(もしかして席を取るために早く行ったのかな?)

 

本土の方でも昼休みの食堂はかなり混雑していたので、僕はそうなのかなと考えていた。

 

「それじゃ、早く行かないと」

 

佑斗君たちが待ってくれているのだとすれば、あまり待たせてしまうのも申し訳ないので、僕は急いで食堂へ向かうことにした。

尤も、待ってくれているという確証はないのだが。

 

「コースケ」

「あれ、エリナさん」

 

教室を出てすぐに、僕はエリナさんに呼び止められた。

 

「エリナさんも食堂に?」

「最終的には食堂に行くんだけど、コースケの教室に向かってたんだよ」

「僕の? 何か用でもあるの?」

 

僕の疑問に答えるエリナさんに、僕は首をかしげながら用件を尋ねた。

もし佑斗君とか違う人だったらどうしようかと言う不安を抱きながら。

 

「用っていうのはね、お昼を一緒に食べるっていうことなんだけどね」

「それって、みんなと?」

 

順当に考えればそういうことになるため、僕はエリナさんに尋ねた。

 

「何を言ってるの? コースケとに決まってるじゃない」

「え?! 僕と?」

 

笑顔でそう断言したエリナさんに、僕は信じられない気持ちでいっぱいだった。

これまで、友人と昼食を食べることはおろか、異性の人と一緒に食事をするなんてことは、まったく経験がない僕としては、致し方がないのかもしれない。

 

(何だか、自分で言っていて情けなくなってきた)

 

勝手に墓穴を掘りながらも僕は、何とか心を落ち着かせる。

 

「ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど」

 

不安そうに見上げてくるエリナさんに、そう答えつつ僕は彼女のこの行動の理由に考えをめぐらせる。

 

(何でいきなり……もしかして、何か問題が?)

 

「エリナさん」

「何? コースケ」

 

僕は一番確実な理由を思いついたため、エリナさんに尋ねることにしたが、さすがに大きな声でする話ではない。

 

「ちょっと耳を貸してもらえる?」

「何々、エリナに人前ではできないような話をするの? にっひっひ~」

 

そのための処置としてエリナさんに頼むと、含みのある笑みを浮かべられてしまった。

それを無視しつつ、僕はエリナさんの耳元で口を開いた。

 

「ひょっとして」

「ひゃぁん!?」

「いぃッ!?」

 

突然奇声を上げたエリナさんに、僕は上半身をのけぞらせた。

そして慌てて周囲を見渡すが、特にこれと言った視線は感じられなかった。

 

(よ、よかった。誤解はされてないみたい)

 

ほっと胸をなでおろした僕は、エリナさんの方を見る。

 

「いきなり変な声を出さないで」

「だって、耳に息を吹きかけたら誰だってああなるでしょ?」

「いや、僕に聞かれても」

 

エリナさんの反論に、僕は首を傾げて答えるしかなかった。

 

「それに、コースケの声を聴いてると体がうずいて、子○に響くの」

「……今更だと思うんだけど、さりげなく下ネタを混ぜるのはやめない?」

 

よく会話の節々に下ネタを入れられるなと、ある意味感心するほどだけど、言われた方は反応に困るのもまた事実なのだ。

とはいえ、また耳元で話しかけて気勢を上げられるのもあれなので、耳元から離れて声のボリュームを落としてエリナさんに尋ねる。

 

「何か困ったことでもあったの?」

「ううん。ダイジョーブだよ」

 

僕の想像していたことはバッサリと否定されてしまった。

 

「迎えに来たのは、ただコースケと一緒にご飯を食べるためだったんだけど、迷惑だった?」

「いや、迷惑じゃないけど……」

 

どうして突然そんなことになったのか、まったく思いつかなかった。

 

(とはいえ、時間も限られているため最悪の場合は夜食が食べられない可能性だってある)

 

それに、いちいち疑問を持ってたら精神的に疲れるもんね。

最終的にはそういう結論に達した僕は、深く考えるのをやめることにした。

 

「にひひ、心配してくれてありがとね」

「いや、お礼を言われるまでのことじゃないって」

 

何より、エリナさんの様子を見る限り何か困ったようなことが起きているとは思えなかったのも理由の一つであるのだが。

 

「それじゃ、食堂に行こうか」

「うん」

 

エリナさんが頷いたのを確認して、僕たちは食堂へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、コースケ。あーん」

「…………」

 

僕は目の前の光景に、ただただ呆然としていた。

 

「ダメだよ、コースケ。大きく口を開けないと」

「いや、自分で食べられるから。大丈夫だから」

 

唐揚げを箸でつかみ僕の方に差し出しながら、口を大きく開けるように促してくるエリナさんに、僕はそう告げる。

 

「別にいいじゃん」

「いや、よくないって」

 

”はい、あーん”という行為をなぜかやろうとしてくるエリナさんに、僕は必死に食い下がる。

 

「あ、もしかして”あーん”じゃなくて、口移しがいいの? もうコースケってエッチなんだから」

「いきなりハードルを上げないで!?」

 

あーん、以上にあれな口移しをしてほしいと誤解しているエリナさんに、僕は慌ててツッコんだ。

 

「そうなの? それじゃはい、あーん」

「”はい”の意味が分からないよ!?」

「もしかして、エリナが”あーん”したものは食べたくないの?」

 

本日何度目かわからないツッコミをすると、悲しげな表情でエリナさんが聞いてきた。

 

「へ?」

 

その表情に、僕は言葉を失った。

 

「そうだよね。エリナは、化け物だもんね。こんな化け物が食べさせようとしたものなんて、食べたくないよね。ゴメンね、コースケ」

 

おまけに、そんな僕を知ってか知らずか、悲しげな表情で自分を卑下した言い方をするエリナさんに、僕の選べる道は一つしかなかった。

 

「分かった。分かりました。食べます、食べますよっ」

「はい、”あーん”」

 

(絶対に演技だっ)

 

いつの日にか口にしていた布良さんの言葉と同じ感じで頷いた僕に、悲しげな表情を一変させて唐揚げを差し出してくるエリナさんに、僕はそう心の中で叫んだ。

 

「これで最後だからね。」

「分かったよ」

 

エリナさんが頷いたのを見て、僕は差し出された唐揚げを食べた。

 

「あむ……おいしい」

「でしょ♪」

 

感想を漏らすと、エリナさんは嬉しそうに相槌を打った。

実際には味なんて全くしなかったのだが、それは言わないお約束だろう。

 

「それじゃ、これで終わりっ」

「うん。これ以上食べさせようとはしないから、はいい」

 

そう言って手渡されたのは、エリナさんが先ほどまで手にしていたお箸だった。

 

「何?」

「今度はコースケの番だよ」

 

そう笑顔で口にするエリナさんに、僕はとても情けない顔をしているだろう。

 

「エリナは確かに、これ以上食べさせようとしないって言ったけど、”食べさせてもらうのをしない”っていうのは一言も言ってないよ」

「~~~~~~~っ!!」

 

うまい具合に論破された僕は、声にならない悲鳴を上げるしかできなかった。

 

「……やっぱりエリナみたいな化け物に”あーん”なんてしたくないよね」

「絶対わざとだ。わざとやってるでしょ、その態度!」

「ダメ?」

 

僕の抗議に、エリナさんはいたずらっ子のように片目を閉じて聞いてきた。

 

「お願いだから、やめてね。出ないと、僕が何も言えなくなるから」

「うん。わかったよ。と言うことで、”あーん”」

 

そういって、大きく口を開けるエリナさんに、僕は覚悟を決めた。

 

「口を大きく開けているからって『まるでフ○ア顔みたいだ』なんて思ったらダメだよ」

「思わないから。はい、あーん」

「あーーー」

 

もうエリナさんにツッコむ気力もなく、僕は小さめの卵焼きを箸でつかむとエリナさんに食べさせた。

 

(何だか、周囲の視線が痛い)

 

周囲の鋭い槍のような視線にさらされながら、僕はエリナさんに食べさせるのであった。

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