DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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続けて第3話です。


第3話 変わるとき

ホテル『オーソクレース』を後にした僕は、足早にお店の方へと向かう。

心当たりはあった。

巫女装束を着た少女と出会ったショッピングモール内を彷彿とさせる通り。

あそこならば肌着ぐらい売っている場所があるかもしれない。

 

「とにかく店が終わる前に行かないと」

 

何時に閉まるかはわからないが、早いことに越したことはないだろう。

そう思い、僕はとにかく駆けていく。

そう、今にして思えばそれが失敗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこっ!」

 

本日二度目の迷子になってしまったのだ。

道を尋ねようにも人の気配すらない。

一応道のような場所だが、人がいるのは絶望的だろう。

そしてそのような場所に、案内図などのものがあるわけもない。

しかも無我夢中で駆けていたために、来た道も覚えていないという最悪な連鎖が続いた。

 

(こういう時は……電話! でも、携帯持ってない)

 

バイトをやってようやく食費を工面できるレベルなのに、携帯電話などを買う余力はない。

今持っているお金も、残ったわずかな食費をこつこつとためた結果でもある。

 

(走る……何だか悪化しそう)

 

これ以上どう悪化するのか聞いてみたいが、むやみに走るのは危険だろう。

 

(とりあえず落ち着こう)

 

僕は一回深呼吸をして冷静になる。

そして周囲を見渡してみる。

そこは住宅地へと続く道なのか、人気の無い道路だった。

明かりは一応街頭があるが、少々薄暗いのには変わらない。

周辺にホテルへの目印になるようなものは見えない。

 

「うん。見事に詰んだ」

 

他人事のようにそんな言葉が口に出た。

 

(ん?)

 

どうしたものかと困り果てていたところに、音が聞こえた。

それは本当にかすかな音であったが、僕に希望の光を差し込ませるのには十分であった。

何せ、音がするのはその方向に人がいるということと=になるのだから。

 

(ラッキーっ。道を聞きに行こう)

 

僕はようやく運が向いてきたと思い、音のする方へと駆けていくのであった。

 

「近くなってきた……この角の先にっ!!?」

 

薄暗い道を駆け抜け、角を曲がった瞬間僕は目の前に広がる光景に言葉を失った。

なぜなら、そこにいるのは………

 

「風紀班です!」

 

あの時、僕をホテルまで案内してくれた巫女装束姿の少女だったのだから。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

それはほんの数分前に遡る。

人気のない道を走る数十人の姿があった。

 

「待ちなさい!」

「っくそ! 陰陽局の連中に嗅ぎつけられるなんてついてねえ!」

 

先頭を走る6人の人物は、後ろを追うように走る人物たちを見て舌打ちをする。

この6人の人物たちはとある事件の黒幕のために追われているのだ。

 

「おい、あそこで別れるぞ!」

「おうよ!」

 

一人の背の高い男の指示に、黒幕の数人はまるで攪乱するように二手に分かれた。

 

「っく、矢来はあいつらと一緒にあの連中を追いかけろ。あいつらの手におえるのはお前だけだ!」

「了解!」

 

矢来と呼ばれた長く伸ばした赤い髪の少女は、とさかヘアの中年男性の指示に簡単に答えると、少女の他に数人の仲間と思わしき人と共に別方向に逃げて行った数人を追っていく。

 

「布良は俺と残ったやつを叩くぞ」

「はいっ!」

 

中年男性の言葉に、布良と呼ばれた巫女装束の少女は返事を返すと、残った数人の仲間を追いかける。

そんな追いかけっこは、すぐに終わりを迎えることとなった。

 

「っち。行き止まりかよ」

 

そこは開発区域の倉庫街。

もはや逃げる場所はなく袋の鼠状態となっていた。

終わりを確信し、かつ油断をせずに、少女はハンドガンのようなものを数人の男たちに向けて突きつけながら告げるのであった。

 

「風紀班です!」

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「貴方たちはもう逃げ場がありません。無駄な抵抗はやめて素直に投降してください」

「畜生っ。こんなところで、捕まるわけにはいかねえんだよっ」

 

(おい、うそだろ)

 

僕は目の前の状況についていけなくなった。

男たちが取り出したのは、巫女装束の少女が取り出したおもちゃのようにも見えるハンドガンのような武器とはわけが違う。

黒く冷徹さを感じさせるように光るそれは”拳銃”で間違いない。

 

「仕方ねえな。布良」

「はっ!」

 

布良と呼ばれた巫女装束の少女は横にいたとさかヘアの中年男性の言葉に応じる。

その瞬間銃声が響き渡る。

 

「のわっ!?」

 

思わず僕はその場にうずくまる。

目の前で突然始まった銃撃戦に、僕は状況が呑み込めずにいた。

 

(一体なんなんだ? 突然声がしたら、ホテルに案内してくれた人がいて、それから――)

 

いくらまとめようとしても理解が追い付かなかった。

だから、だろう。

背後に迫る人物の存在に気付けなかったのは。

 

「ッ!?」

「こんないいところに餌がいるとはな」

 

気づいたころには僕は首を締め上げられる形でとらえられていた。

そして、半ば無理やり引っ張り出される。

 

「てめえら! 武器を捨てろ! さもなくば、こいつの命がねえぜ!」

「ッ!?」

「貴方はっ!」

 

男が僕のこめかみに銃のようなものを突き付けながら武器を捨てるように要求する。

とはいえ、すでに銃撃さんは少女の方に軍配が上がっていたようでどこかに連れて行かれるところだった。。

 

「くそっ! 一人取り逃がしてたか」

 

中年男性が悔しげに口を開く。

 

「だが、お前はもう包囲されてるし、時期に仲間がここに駆けつけお前は捕まる。だったら―――」

「それはどうかな?」

 

中年男性の説得を遮るように男は不敵な声をあげる。

 

「こうすれば、俺は無敵だ」

「ッ?!!」

 

男が言い切った瞬間、首に痛みが走る。

それはまるで注射でも打たれたかのような鋭い痛みだ。

 

「ン……ングッ……ジュルル」

 

耳元で液体のようなものを吸い出すような音が聞こえる。

 

(何を吸い出して………ッ)

 

考えるよりも体が動いていた。

なぜかは知らないが、このままでは危険だと何かが警鐘を鳴らす。

 

「はな、せっ」

 

僕は今の姿勢で一番の急所である足の甲にめがけて足を振り下ろした。

 

「おや、何かしたのかね?」

「嘘だろ」

 

これで少しは痛みを与えられて逃げられる。

そう確信した僕は、驚きを隠せなかった。

痛みを感じるどころか、まるで何事もなかったかのように声をかけてくる。

 

「まさか吸血鬼がこっちに交ざっているとは。くそっ」

「一瞬向こうに逃げようとしたがね、危険を感じてこっちに逃げて着て正解だったようだね。ククク」

 

中年男性が苛立った声色を上げる中、男は笑いながら口を開いた。

 

(吸血鬼?)

 

僕は一瞬、中年の男性の言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

今確かに吸血鬼と言う単語が聞こえた。

だとすれば、吸い出していたのは僕の”血”なのだろう。

 

(力が入らない)

 

「それでどうするつもりだ? このまま逃げられるはずがないぞ」

「確かにそうだねぇ。だが、こうすればどうだ?」

 

中年男性の呼びかけに男が答えると、ふと頭に突き付けられていたものが離れる。

 

「ッつ!?」

「うわあ!?」

 

その次の瞬間、銃声が聞こえた。

それは背後からと言うよりも、前方の方……そう、今ハンドガンのようなものを構えている巫女装束の少女が立っている場所からだった。

 

「おのれ、この小娘がっ!!」

 

頭に突き付けられていた何かが突きつけられなくなった。

とはいえ、まだ男の手元にあるようだ。

何せ銃声の後に何かが落ちるような物音は聞こえなかったのだから。

 

(でも、これはまずい)

 

少女の狙いは、おそらく男が手にしているものを吹き飛ばして無力化させること。

だがそれはかなわなかった。

いや、僕に当てずに男の手だけを正確に狙う射撃術は、状況が状況でなければ拍手を送っていただろう。

男は激昂し、手にしている武器を振り回している。

いや、少女の方に向けている。

このままでは、いつそれを少女に向けて発砲するかがわからない。

 

(僕が人質にならなければ……っ)

 

おそらくは、この男はすでにつかまっていたはずだ。

今、僕は自分の不甲斐なさを実感していた。

とはいえ、何もしないわけにはいかない。

 

(でも、急所を狙ってもビクともしないんだったら意味がない)

 

そんな時、僕の首元に軽く怪我をしている掌が見えた。

僕の頭に突き付けられた位置から察するに、先ほどまで男が武器を持っていた方の手なのは間違いない。

ということは、先ほどの少女の攻撃によって軽くすりむいたのだろう。

詳しいことなど全く分からない。

ただ、これはチャンスなのではないだろうか?

今男の視線は巫女装束の少女に向けられている。

いくら吸血鬼といえど、痛みを与えれば拘束が弱まるはず。

その隙に僕はこの男から逃げられれば、向こう側は一気に有利になる。

 

(くそっ。腕に力が入らない)

 

血を抜かれたためかうまく力が入らない。

これでは相手に痛みを与えることはできない。

 

(こうなったら体裁なんて気にしてはいられない)

 

僕は、覚悟を決めて大きく口を開く。

男の傷口にかみついて、強烈な痛みを与える作戦だ。

 

「ッ?! その血に口をつけたらダメっ!」

 

少女の警告の声が聞こえる。

だが、それを理解するよりも早く、僕は男の手のひらにかみついていた。

 

「お?」

 

平気なそぶりを見せる男にさらにかみつく力を強めようとした時だった。

 

「ッ!?」

 

それは爆発だった。

男の血なのか、口の中に鉄のような味が広がった瞬間、体中を衝撃が襲う。

 

「カハッ!?」

 

衝撃の次に訪れた痛みに、僕は耐え切れずに地面に倒れた。

体が熱い。

それはまるでサウナにでもいるかのように。

自分の物ではないように、体が小刻みに震える。

鼓動も早まるのがわかった。

世界がぐにゃりと歪んでいく。

 

(これはやばい)

 

僕はようやく、自分の状況がとても危険なことに気が付いた。

 

「あはははっ。こいつ自分から血を飲みやがった。おかげで手間が省けたぜ」

 

男の笑い声がする。

どうやら、男は僕に血を飲ませようとしていたようだ。

 

(でも、なぜだろう?)

 

考える余裕など、僕にはなかった。

 

主任(チーフ)早く助けないと!」

「それはわかってる! だが――」

「助けるんなら、俺が逃げた後にするんだな」

 

地面に倒れ僕を見て好機と思ったのか男は、中年男性たちにそう言いながら、離れていく。

このまま逃げるつもりのようだ。

中年男性も、おそらくは僕の安全を一番に考えているためか下手に動くことはできないようだ。

 

(だったら今がチャンスだ)

 

あの吸血鬼は僕から血を吸ったために、力は使えない。

身体能力の強化のみのはずだ。

だったら、奇襲で攻撃を仕掛けて昏倒させればいい。

 

(って、僕は何を?!)

 

自分にも分らないことが頭の中に流れ込んでくる。

力とは何だ?

ふと浮かんだ疑問のことを考えようとした時だった。

 

(な、なに!?)

 

突然目線の位置が高くなる。

理由なんて単純だ。

僕が立ち上がったからだ。

だが、これは僕の意思ではない。

そもそも立ち上がる力なんて残っていなかったはずだ。

 

「え?」

 

誰かが驚愕に満ちた声を上げる。

僕の体は意思とは関係なく銃のようなものを手にする。

どうやら、あの男の仲間が落としたもののようだ。

僕はその銃口を僕に背を向けている吸血鬼の男へと向ける。

僕はこの後に、どうすればいいかを知っている(・・・・・)

僕は男の足に照準を合わせて引き金を引いた。

 

「ッつ!? なんだ?!」

 

反動は全くなかった。

見事銃弾が男に命中し、慌てた様子で振り返る。

 

「小僧! なぜ立っている!!」

 

男が血走った目で問いただす。

 

「貴様、まさか吸血――――」

 

男が言葉を言い切るよりも早く、僕の体は男へと肉厚する。

 

「うるさい」

 

そして勝手に口が動き、自分でも出したことがない冷酷な感じで男にそう告げると僕は男の顎にアッパーを繰り出した。

 

「げふっ!?」

 

さっきまでの自分の力が嘘のように、男は宙高く舞いながら吹き飛ばされた。

地面に落下した男は体を震わせた後に昏倒する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

僕は地面に膝をつき、肩で息をする。

 

(な、なんだ? これを僕がやったのか?)

 

僕は、目の前の光景が信じられなかった。

僕は銃を撃ったこともなければ、武道を嗜んでもいない。

それなのに、男は見事に僕の手で昏倒した。

 

(それに、変なことが頭の中に流れ込んできたあれはいったい………)

 

疑問は尽きることがない。

僕はいったいどうしてしまったんだ?

あの男に血を吸われ、そして血に口をつけておかしくなってしまったのだろうか?

考えがまとまらない。

それどころか、今度は体中から力が抜けていく。

そして僕はそのまま地面に倒れこむ。

倒れこんだ瞬間、視界が白に染まり始めた。

 

「布良、すぐに人質の確保をしろ」

「あ、はい!」

 

倒れた僕を見た誰かが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

「ッ! 主任(チーフ)、意識がっ!」

「まずいな……とにかく呼びかけ続けろ、ワクチンの手配と車を回せ!」

「了解」

 

徐々に白く染まる視界の中で、少し騒がしい声が聞こえた。

 

「ちょっと、しっかりして! 死んじゃだめだよっ」

 

そんな中で、少女と思わしき声がする。

 

(僕は、守れたんだよね?)

 

意識が遠のく中、僕は心の中で問いかける。

直接守ったわけでもないけど、結果としてもし守れたことになるのなら、それは男として誇るべきことだろう。

 

「――――、はまだか!」

 

その男の人と思われる声を最後に、視界は黒に包まれた。

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