タイトルが物騒ですが、内容はそれほど血なまぐさいものではないので、ご安心ください。
でも、エリナファンの人には石が投げられそうな予感が(汗)
それはともかく、本日より、ヒロインアンケートを実施いたします。
詳しい内容は活動報告のほうにて記載いたしますので、そちらのほうをご確認のうえ、アンケートにご協力をお願いします。
なお、アンケートの回答はコメントやメッセージのみとし、”感想から回答する”行為は規約違反ですので、ご遠慮ください。
「………」
共有スペースに戻ってきた僕は、何も言えなかった。
「僕のばか」
ただ言えたのは、それだけだった。
よく考えればわかったはずなのに。
「あんな言い方はないだろう」
『問題ないよ。それよりも、血を吸って体調は落ち着いた?』
思い返すのは僕がエリナに聞いたあの言葉だった。
(いくらなんでも、”血を吸って”なんて嫌味にしか聞こえない)
特にエリナの当時の心理状態を考えればなおさら。
もっといい言い方があったはず。
「本当に、ダメだな」
僕は自分の無力さにため息を漏らした。
「それにしても………」
続いて脳裏によぎるのは、エリナの身体の異変のこと。
体が渇くというのはいったいどういうことなのだろうか?
「……考えても無駄か」
医者でもない僕にエリナの症状の原因がわかるはずもなかった。
「とにかく、おかゆを作ろう」
僕はエリナに出すためのおかゆを作ることにするのであった。
「よし、これで完成!」
目の前で土鍋の中でぐつぐつと煮えているおかゆを前に、僕は汗を拭う仕草をしながら声を上げた。
今回は、オーソドックスに卵入りおかゆにしてみた。
これならば、味があっていいだろうと思ったのだ。
「後は、トレイにこの土鍋とスプーンをおいて運ぶだけ」
僕は両手にタオルをつかむと、土鍋の取っ手を持って素早くトレイに移す。
そしてその横にスプーンを置いた。
「飲み物とかは……スポーツドリンクでいいかな」
冷蔵庫に入っていた未開封のスポーツドリンクをトレイに乗せる。
(これって、絶対に佑斗君のだよね)
銘柄が佑斗君がいつも愛飲しているものだったので、間違いはないだろう。
「後で謝っておこう」
僕はそう決意をするとトレイの取っ手をつかんで持ち上げようとした。
「あれ?」
だが、その時に異変が僕を襲った。
(な、なにこれ?!)
突然、強いめまいに襲われたのだ。
視界が渦巻き状にゆがみ、平衡感覚すらもなくなってしまう。
耳には”キーン”と言う甲高い音が響き渡っている。
だがその異変もほんの数秒で収まった。
数秒とはいっても、その数秒が僕にとっては数十倍の時間にも感じられた。
「一体……何?」
いまだにぐにゃりと歪んでいる視界の中、何とか動けるようになった僕はゆっくりと立ち上がる。
「これって、ヴァンパイアウイルスの活動が弱まった時のと同じ……」
あの時以上にひどい症状であったが、おそらくは同じものだろう。
「でも、どうして突然……」
原因を考えてみるが、思い当たるのは一つしかなかった。
「エリナに血を吸われたから?」
(いや、何を言ってるんだ僕はっ! そんなわけがないッ!)
先ほど自分で考えた可能性を、僕は強く否定した。
「最近血液パックを飲んでいなかったんだ。そのせいだよ」
僕はそう結論を付ける。
エリナのせいにするのはどうしても避けたかった。
エリナに血を吸われた後にこの症状が出たのは、ただの偶然なのだ。
そうに違いない。
「とりあえず、血液パックを飲んでおこう」
僕は歪んでいる視界のまま血液パックを飲むためにそれがある自室へと、向かうのであった。
途中よろけたりしながら、壁を這うように歩くことで、何とかたどりつくことができた。
今、この寮にエリナ以外の人がいなくて助かった。
もしいれば、確実に心配をかけることになる。
タイミングがタイミングなだけに、あまり大事になると”自分のせいで”とさらにエリナを苦しめることにもなりかねないからだ。
自室のドアのかぎを開け、僕は中に入る。
「パック、パック」
中に入った僕は、ドアを閉めず一目散に血液パックを保管している冷蔵庫のもとに向かった。
「いつっ!」
途中足がもつれて床に倒れたために、痛みが走るがそんなものを気にせずに僕は冷蔵庫の前にたどり着くと、それを開けて手にした血液パックを一気に啜る。
「ぷはぁ……これで、少しは落ち着くはず」
一気に飲み干した僕は、症状が治まるのをじっと待つことにした。
「……あれ?」
だが、症状が収まる気配がない。
それどころか
「だんだん、眠……く」
寝不足ではないはずなのに、僕は強烈な眠気に襲われていた。
僕は、それにあらがうこともできずに、眠りにつくのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「おかゆを作ったんだが、調子はどうだ?」
「うん、少し落ち着いたよ」
おかゆを乗せたトレイを手に部屋に入る浩介に、エリナは体調を口にする。
「そうか。ここに置いておくから残さずに食べるように」
「うん。ちゃんと一人で食べられるから、ダイジョーブだよ」
エリナの言葉に、浩介は反応せずにトレイを置くと、そのまま立ち上がる。
「器はあとで取りに行く」
「う、うん。ゴメンね」
エリナの謝罪に、浩介は何も言わずに部屋を後にした。
(うん、コースケが近づいても変な反応はしない)
そんな中、エリナは自分の様子に異変がないことに胸をなでおろしていた。
(意識を失ってコースケを襲うことがなさそうだからよかった)
だが、エリナの心の中に占めるのは不安と恐怖だった。
自分のことを恐れて離れていくのではないか?
また浩介を襲うのではないか?
そのような不安と恐怖がエリナの心の中を駆け廻っていた。
(それにさっきのコースケ、まるで別人みたいに怒ってるみたいだった)
浩介の態度がそれを助長させていた。
(襲うのも絶対にいや、コースケが離れていくのもいや!)
「でも、まずは体調管理だよね」
エリナの恐怖と不安の押し問答は目の前に置かれた出来立てのおかゆを前にして一旦、保留となるのであった。
一方、共有スペースでは……
「よし、おかゆは届けた」
おかゆをエリナの部屋に運び終えた浩介の姿があった。
だが、つぶやいた瞬間浩介は唐突にうつむく。
そして、まるで何かをこらえるかのように肩が震える
それは、自分の無力さにこみ上げる悔しさによる嗚咽を漏らさないようにするための抵抗
「……ククク」
―――ではなかった。
それは、今にも笑いそうになるのをこらえるための抵抗だったのだ。
「これは傑作だ。まさかこのようなことになるとは」
笑いながら口にする言葉は、容赦と言うものがなかった。
もはや、外道の極みと言ってもいいだろう。
「いやはや、意識が入れ替わったときはどうしようかと思ったが、代わりに運んで正解だったな」
めまいに苦しんだ浩介が手にした血液パックは、『覚醒用の青ラベル』のものだったのだ。
それによって浩介の”本能”が呼びさまされることとなったのだ。
呼びさまされた浩介は、エリナに持っていくおかゆを手に、エリナの部屋を訪れおかゆを届けたのだ。
「まさか、こうして出会うとは……運命とは恐ろしいものだ」
そういった浩介はキッチンの方へと移動する。
「エリナ・オブ……アブ?……まあいいか」
エリナの名前を口にしようとするが、途中で何度もつっかえ(と言うより間違えているのだが)た浩介はフルネームを口にするのをあきらめた。
「さて、自らで開いた扉は終わりなき地獄に続くものだ。それは、一度でも入ってしまえば二度と引き返せない呪縛と言う名の道」
それは誰に語りかけるでもなく呟かれた言葉だった。
浩介はそこで言葉を区切る。
「どのような道をお前は取る? このまま全てに身を任せ、血を吸い続ける化け物になるのか、それとも衝動にあらがうか……」
それはこの場にいないエリナにかけられた言葉。
「前者であれば、それは”死”を……後者であれば”生”を意味することになる」
キッチンにたどり着いた浩介は、調理器の前で足を止めた。
「どちらにせよ、迷える子羊を”彼”がどの道に誘うか……じっくりとお手並み拝見とさせてもらおうか」
そう告げた浩介は、ゆっくりと目を閉じる。
それは、終わりの合図。
再び元に戻ることを表すシグナルであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ん……あれ?」
気づくと僕は自室ではなく、キッチンに立っていた。
(確か……)
自分の記憶を呼び起こすが、どうしてか血液パックを一気に飲み干したところから記憶がなくなっている。
まるで、テレビの電源を消したかのような感覚だった。
(一体何が……って、これは僕が飲んだ血液パック?)
自分に起こったことに混乱する中、ふと前の調理器具に置かれていた空の血液パックに、僕は目を止めた。
「青のラベル……と言うことは、本能を呼び覚ますためのもの!?」
それで、僕はすべてのことに納得がいった。
どうして、自室ではなくキッチンに立っているのか。
どうしてキッチンにあるはずのおかゆなどを載せたトレイがなくなっているのか、そのすべてを。
(だ、大丈夫かな?)
いきなり不安になってきた。
本能が前に出ているときは、僕の意識は完全にない状態なのだ。
前にも記憶がない間のことを思い出そうとしたが、やはり記憶が残らないようで、どんなに時間をかけてもぽっかりと開いた記憶の穴が埋まることはなかった。
ここまで不安になる理由はたった一つ。
(本能が出ている時僕がどんな状態何かがわからないんだよね)
それに尽きた。
どのような性格なのか。
それさえ分かればそれほど不安にはならない。
とはいっても、あれな性格だった場合は非常に不安になってしまうことには変わりがないのだが。
布良さんに話を聞くという手も考えたが、墓穴を掘りそうなので断念する形になった。
僕のことを知っていると思われる市長に疑問を投げかけるという案も考えてみた。
しかし、
(それができないんだよね)
と言う結論に至った。
相手はあのような姿ではあるが、この海上都市の市長。
おいそれと会えるような存在でもなければ疑問を投げかけて問いただすという行為も失礼だ。
つまりは、完全に迷宮入りと言うことになっていた。
「まあ、今はエリナのことを優先した方がいいよね」
僕自身のことはいつでも考えることができるため、自分についてのことを頭の片隅へと追いやった。
(変な雰囲気を引きずらなければいいんだけど)
僕の二つのミスのせいで、今後の関係が悪化するというのだけは防ぎたい。
寮という小さい空間では、ほんの些細な雰囲気の変化でも大きく影響を与えてしまうのだから。
「全ては運任せ、か」
僕は自分の無力さに、深いため息をつくのであった。
この後、寮に戻ってきた佑斗君たちに、エリナの様子を話したり、夕食をとったりとした後、僕は眠りにつくのであった。
「ん……んぅ」
目が覚めた僕は、すぐに隣を確認する。
(やっぱり来ていないか)
僕の隣には誰の姿もなかった。
いや、そもそもそれが普通のことだ。
誰かと一緒に寝ること自体が異常なことなのだから。
(慣れというのは恐ろしい)
二回くらい一緒に寝ていたからと言って慣れたというのもあれだが、要するに気分の問題なのだ。
「着替える前に、確認でもしておこう」
僕はそう思い立つと、自室を後にしてエリナの部屋の前に向かった。
「エリナ、起きてるか?」
ドアをノックしながら声をかけたが、一向に返事がなかった。
「ちょっとごめんね」
僕はためしにとばかりにドアノブを回してみるが、しっかりと施錠されているようだった。
(もしかしたらまだ寝ているのかもしれない)
そう考えた僕はいったん自室に戻ることにした。
「とりあえず、着替えよう。あと、念のために血液パックも飲んでおこう」
先日、強いめまいに襲われたので、僕は念には念をと言うことで血液パックを飲むことにした。
制服に着替え終えた僕は、冷蔵庫のドアを開けて血液パックを確認する。
「あれ? なくなってる」
中を確認した僕は、予想外の光景に瞬きを数回する。
中に入っていた血液パックは、覚醒用の青ラベルが1つ、市販されている合成血液パックと同じ意味を持つ赤ラベルが0と言う悲惨なものだった。
(昨日飲んだので最後だったんだ)
自分の不運さに頭を抱えたくなった。
「とりあえず、小夜様のところに行ってもらってこないと」
今日は風紀班の仕事が入っているため、それが終わってから理由をつけて市長のもとに向かうことにした。
巡回中に行くことも考えたが、それをやると確実に始末書になるのでやめた。
「はぁ……ついてないなぁ」
僕はポツリとつぶやくと、気分を切り替えていつもの表情に戻してから、自室を後にするのであった。