DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第40話です。

ちょっとオーバーしましたが、せっかく完成したので、投稿いたします。


第40話 朝の混乱と拒絶

「おはよう」

 

いつものように共有スペースに向かうと、僕は朝(夕方だけど)のあいさつをする。

 

「おはようございます。浩介さん」

「…………」

 

突然のことに僕は固まってしまった。

きっと今の僕の表情はとてもだらしない顔になっていることだろう。

その自覚は自分にもあるのだから。

そして、それをさせた張本人はと言うと

 

「……? どうかなさいましたか?」

 

普通に首をかしげて丁寧な口調で聞いてきた。

 

「い、いやなんでもない……お、おはよう」

「はい、おはようございます。夕食はすぐに完成するそうですよ」

 

そういって返事を返すエリナさんに、僕はこれが夢なのかと思っていた。

 

「何かお飲みになりますか? もしよければエリナがお持ちいたします」

「い、いや大丈夫。自分で入れる、から」

 

エリナの丁寧な口調に慌てながらも、僕は断った。

 

「ご遠慮などなさらなくてもよろしいですのに」

「遠慮はしていないから、とにかくエリナはそこにおとなしく座っているんだ」

「ここに座っていればいいんですね。承りました」

 

とりあえずエリナを椅子に座らせた僕は彼女に背を向ける。

そしてためしにと頬をつねってみた。

 

「いたい」

 

鋭い痛みが走り、これが夢ではないことが証明された。

 

(とすると……)

 

「あ、おはようございます。高月先輩」

 

残る可能性が濃厚となったという結論が出るのと同時に、キッチンの方にいたのか稲叢さんが僕の方に来て挨拶をしてきた。

 

「稲叢さんちょうどよかった。すぐに救急車を呼んでもらえる?」

「え? あ、あの、高月先輩?」

 

僕のお願いに、稲叢さんは驚いた様子で聞きかえしてきた。

 

「どうやらエリナの病気は脳にまで影響を与える物らしいんだ」

「でも、別につらそうな様子には見えないんですが」

 

僕の言葉に困惑したように目を丸くしている稲叢さんに、僕はさらに続ける。

 

「僕もこんな症状の病気は初めてみた。でも、あのエリナがまじめな態度で丁寧な口調で話すんだ」

「そんなエリナちゃんも可愛いですよね」

 

僕の言葉に、稲叢さんは優しい笑顔を浮かべながら感想を漏らした。

でも、そういうことじゃない!

 

「あのエリナが下ネタを言わないなんて変だよ。そんなのはエリナじゃない! これが病気じゃないといってなんだというの!?」

「ちょっと、失敬だよコースケ!」

 

僕の叫び声が聞こえたのか、エリナが大きな声で反論してきた。

 

「ダメじゃないか! 病人は大人しくしていないと。すぐに病院に連れて行くから!」

「だから、病気じゃないの! 昨日コースケが看病してくれたおかげで、体の方はもうダイジョーブなの」

 

僕の言葉に、エリナが反論してくるが体は良くはなったかもしれないが

 

「今度は頭の調子が」

「だから失敬だよ、コースケ! そんな風に言われると傷つくよ」

 

僕の言葉に怒った様子で叫ぶエリナだったが、悲しげな表情に変わっていった。

 

「ご、ゴメン。でも、本当に大丈夫なの?」

「本当にっ!」

 

強い口調で答えたエリナに、僕は話題を変えるように問いかけることにした。

 

「でも、どうして急に?」

「エリナね、昨日はコースケにその……迷惑をいっぱいかけたからもうこういうことがないようにしようと思って、それっで体調管理をしっかりとするようにしたの」

 

”迷惑”と言うのが、あの血を吸ったことも指していることがなんとなく分かってしまった。

 

「それでまずはじめに生活態度を改めることにしたの」

「それで、言葉遣いを丁寧にしたんですか?」

 

エリナの話を聞いて稲叢さんがそう尋ねる。

 

「はい」

「下ネタも封印と言うこと?」

「ええ、慎みを持つことにしましたので」

 

稲叢さんと僕の問いかけに頷くエリナ。

それは、下ネタで若干悩んでいた僕にとっては朗報にも聞こえた。

 

「それだったら……いいのかな?」

 

思わず自分でも疑問形になってしまった。

本来は嬉しいのだが、理由が理由なだけに微妙なところだった。

 

「もう失礼なことは言わないでくださいね」

「ごめん。確かに、失礼だったよね。ちょっといきなりのことに気が動転していたんだ」

 

エリナのお願いに、僕は素直に謝る。

 

「ふぁ……おはよう」

「おはよう」

「ふっ、今宵もいい月だな」

 

話が終わるのとほぼ同時に、布良さんに美羽さん、ニコラや佑斗君が挨拶をしながら共有スペースに入ってきた。

 

「おはようございます。佑斗さん、布良先輩、矢来先輩、ケフェウス先輩」

「……………」

 

先ほどと同じように丁寧な口調であいさつをするエリナに、布良さんたちは固まっていた。

 

(もうこの先の展開が読めたんだけど)

 

その様子に、彼女たちの反応がなんとなくだが予測ができてしまった。

 

「た、大変! まだ熱が下がってないよっ」

「……いえ、むしろひどくなっているわ」

「早く病院に連れて行かないと!」

「浩介、早く救急車を!」

 

やはり、予想通りの反応であった。

布良さんたちは目を丸くして慌てていた。

 

「だから、失敬だよ! そんなにエリナが丁寧な口調で話すのがそんなに変なの!?」

「うん」

 

エリナのも問いかけに、佑斗君たちは即座に頷いて答えた。

 

(皆、ひどいよね)

 

それは同じようなことをした自分でもそう思うほどの反応だった。

 

「みんな揃って即答!? 人種差別だよ! ロシア人差別だよ!」

「個人の問題を国際問題にしない。差別されてるのはエリナだから」

「差別してることを認めるのはまずくないか? 倫理的に」

 

エリナの抗議に反論すると佑斗君から鋭い指摘が入った。

 

「まあ、健康管理と言うのはいいけど、突然口調を変えたから驚いてるんだと思うよ」

「コースケはどっちの方がいい?」

 

とりあえずとばかりにフォローを入れると、エリナが上目づかいで僕に疑問を投げかけてきた。

 

「えっと……僕はいつもの感じがいいかな」

 

きっと、どんなに時間をかけてもこの結論に至るはずだ。

 

「別に下ネタがいいというわけじゃないけど、いつも通りの方が、僕は好みかな」

「そっか……コースケはいつもどおりがいいんだ」

 

フムフムと頷いたエリナさんは妖美な笑みを浮かべた。

 

「つまり、下ネタが好きなんだね!」

「そこを強調した覚えはないよ!?」

 

なぜか下ネタが好きと言うことにされていたことに、僕は全力でツッコんだ。

 

「とはいえ、その方がしっくりくるから、やっぱりいつも通りでいいんだよ」

「そう? コースケが言うんならそうしようかな」

「そうそう。そっちの方が魅力的だしね」

 

やはり、いつものエリナの方が自然な感じで魅力的に感じられるのだ。

もちろん、下ネタが好きだというわけではないが。

 

「に、にひ、にひひ……面と向かって言われると何だか照れちゃうね。なはは――――――っ!?」

 

照れたように笑っていたエリナだったが、突然息をのみながらそれを止めた。

 

「どうかした?」

「な、なんでもないよっ。ちょっとトイレ!」

 

そういって、僕が声をかける間もなくエリナは共有スペースを去っていった。

 

(一体なんだったんだろう)

 

「じーーー」

「っ!?」

 

エリナの様子に疑問を感じた僕に、生暖かい視線が向けられていた。

 

「な、なに? そんな不気味な笑みを浮かべて」

「不気味って、ひどいな」

 

僕の”不気味な笑み”という言葉に、佑斗君は苦笑を浮かべていた。

ちょっと、ひどいことを言ってしまったかもしれない。

 

「別に―。なんでもないよー」

「ただ、いい加減はっきりしてほしいのよね」

「何のこと?」

 

布良さんたちの言葉の意味が分からずに僕は首をかしげるしかできなかった。

 

「まあまあ、下手にハチの巣を突かない方がいいって」

「腫れ物扱い!? それ色々と傷つくんだけどっ!」

 

こうして、僕の一日は幕を開けることとなった。

――ほんの些細な不安を抱いたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニコラ、いる―?」

「ん?」

 

授業を終えて少ししたところで、教室を訪れたのはエリナだった。

 

「どうしたんだ?」

「ちょっとニコラに用があって」

 

突然訪れたエリナに聞く僕に、エリナはそう答えた。

 

「用って、もしかしてまた暗黒面の力が吹き出しそうなのかい?」

「暗黒面の力?」

 

ニコラのあれな言い方に意味が分からなかったのか、エリナは首をかしげていた。

 

「たぶん、体調のことを心配してるんじゃないのかな?」

「おー。さすがコースケだね」

「ひと月も同じ寮にいれば慣れてくるって」

 

すごいといわんばかりに褒めてくるエリナに、僕は照れているのがばれないように顔をそむけながら答えた。

 

「そんなに難しい言葉を使っているわけじゃないんだけどな……まあ、いいや。それで、我に望みとは?」

 

十分に使っていると思うという僕の心の中の声はそのままとどめておくことにした。

さすがに、傷つくと思うから。

 

「今日仕事休みだったよね? 悪いんだけど、少しの間変わってもらえないかな?」

「それって、まだ体調がよくないということじゃ」

「ううん。そうじゃないの。ちょっと急用が出来ちゃって、それで。あ、変わってほしいとは言ってもほんの1,2時間だけでいいから」

 

心配そうな声を上げるニコラに、エリナは否定しつつ補足するように話していた。

 

「急用?」

「ちょっとサヨに会わないといけなくなったから、それで……」

「サヨって、小夜様のこと? エリナ君、もしかして小夜様に呼び出されたんじゃ」

 

小夜様の名前に、ニコラは驚いた様子で問いかける。

だが、それにエリナは首を横に振る。

 

「違うよ、呼び出されたんじゃなくて、用事があるから会いに行くだけだよ」

「そ、そう? それにしてもそんな風に軽く会えるなんてすごいね」

「ちょっとしたコネがあってね。そういうわけで、ニコラ、お願いしていいかな?」

 

その”コネ”が何なのかはわからなかったが、この場で聞くのは野暮と言うことになるだろう。

 

「もちろんだよ。小夜様相手と言うことは重要な用事だろうし、それに約束の日を変えてもらうわけにもいかないからね。何だったら、シフトごと変わるけど」

「それは悪いよ。なるべく早く戻るようにするからお願い、ニコラ」

 

そう言ってエリナは小走りで教室を去ろうとする。

 

「あ、ちょっと待って」

 

僕はそんなエリナの腕を掴―――

 

「ッ!?」

 

んだ瞬間、エリナは手を振り払った。

いや、正確には僕が振り払ったのだ。

 

「ご、ごめん。いきなり掴まれたからびっくりしちゃって……なは、なはは」

「いや、こっちも配慮が足りなかったよ」

 

本当に申し訳なさそうに謝ってくるエリナに、僕も謝り返す。

 

「それで、何?」

「あ、いや……僕も一緒に小夜様のところに行ってもいいかなと聞こうといたんだけど、さすがに失礼だと思ったから気にしないで」

「そ、そうなんだ。それじゃあね」

 

そういって走り去っていくエリナの後姿を、僕はただただ見送るだけだった。

 

「それにしても、浩介君も小夜様とお知り合いだったんだね」

「色々あってね」

 

ニコラの問いかけに、僕は少しぼかして答えた。

さすがに、『ライカンスロープの件で』などと言えるはずがなかったからだ。

 

(それにしても、今のって一体……)

 

エリナに腕を振り払われたことに、僕は驚きを隠せなかった。

いつものエリナなら

 

『やん、もうコースケったら強引なんだから。女の子は優しくだよ♪』

 

などと言ってくるはず。

それがなかったのだ。

尤も、そういってほしいというわけではないが。

それ以上に驚いたのは、僕がエリナの腕を振り払ったことだろう。

彼女は自分が振り払ったと思っているかもしれないが、一瞬の差で僕の方が早く振り払っていたのだ。

 

(おかしすぎる)

 

エリナの腕をつかんだ瞬間、掴んだ手に静電気のような痛みが走ったのだ。

その痛みに、僕は思わず振り払うようにして話したのだ。

 

(これって、まるで……)

 

僕は心の中でその単語を口にできなかった。

”拒絶反応”という言葉を。

 

(いったい僕に何が起こってるの?)

 

僕は自分に起こった異変に、戸惑いを隠せなかった。

ショックだったのは、僕がエリナを拒絶してしまったこと。

力になるといっておきながら、そのような反応をする自分がとても惨めだった。

 

(後で、扇先生に話を聞くようにしよう)

 

僕は心の中でそう決めるのであった

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