DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第43話です。
今回は、かなり長いです。

最近、平均評価が8以上になったり、推薦を頂けたりと、醜すぎる夢をよく見ます。
この夢が現実になるように頑張っていきたいと思います。


第43話 理由と告白と

少しして携帯電話が着信を告げた。

相手を確認した僕は、電話の着信ボタンを押す。

 

「はい、高月です」

『ひどいじゃないか。いきなり切るなんて』

 

電話に出ると、さっそく抗議の声を上げてくる扇先生。

 

「すみません。いきなりハイテンションでしかも早口で言われたので」

『まったく……放置プレイも素敵だと思わないかい?』

「知りません」

 

扇先生の問いかけに、僕はバッサリと斬り捨てた。

 

『つれないねぇ……で、本題は?』

「前の一件の続報みたいなものです」

 

ようやっと仕事モードに切り替えてくれたようで、真剣な声色で訪ねてきた。

 

『また、その子に何か違う症状でも現れたのか?』

「いえ。今度は僕の方に出てくるようになったんです」

 

扇先生の問いかけに、答えるとお電話口で扇先生が息を飲むのが聞こえた。

 

『詳しく聞かせてもらえるかな?』

「はい。実は――」

 

そして、僕は扇先生に促らされるまま、自分に起きた違和感について話した。

エリナに触れた瞬間、まるで静電気が起きたように手に痛みが走ったこと。

長時間触れ続けると鼓動が早まって、頭の中に物騒な言葉が浮かんでくること。

 

『なるほど………』

 

全てを聞き終えた扇先生は、考え込むようにつぶやく。

僕はただ、扇先生の結論を待つことにした。

 

『おそらくはだけど、君の推測通り、生存本能による拒絶反応とみてもいいかもしれないね』

 

そして返ってきた答えは、あまり僕が望まない答えだった。

 

『生存本能っていうのは、君が思っている以上にシビアなんだ。機械的とも言えるかな』

「機械的……ですか」

 

扇先生の言葉に、首をかしげながら聞きかえした。

若干ではあるが理解できなかったからだ。

 

『そうだね……例えば、ある二本の分かれ道があったとしよう。片方の道には顔が怖いがとても優しい人、もう片方の道には顔は怖くないがとても怖い人が立っている。そういう時君だったらどうする?』

「それはもちろん”顔が怖い人”の方に進みます」

 

扇先生のたとえ話に、僕は素直に答えた。

どうしてその人が本当は怖くないというのを知っているのかということは、ツッコんではいけないのだろう。

 

『確かに、顔が怖くてもやさしい人の方に進むというのが最善の方法だ。でもね、生存本能の場合は顔が怖くない人がいる道の方に進んでしまうんだ』

「どうしてですか?」

 

僕は、その理由がわからずに、扇先生に尋ねた。

 

『生存本能は、自分が生き延びるためのもの。つまり、”顔が怖い人=危険”と言う式が成り立っていると、たとえ本当は違ってもそこを避けようとする。本当は優しい人なのかもしれないといった可能性をすべて排除するんだ』

「つまり、僕がその子に拒絶反応をしているのは……」

 

扇先生の説明で、僕はなんとなく自分の身に起こっている一連の拒絶反応の真意が分かったような気がした。

 

『そういうこと』

 

それに、扇先生も賛同するように答えてくれた。

 

『君の生存本能が、その子のことを”生命に危険を及ぼす存在”として認識してしまったからだろうね』

 

どうして、そんなことになったのか。

それは言うまでもなかった。

エリナのあの時の吸血だ。

半ば襲われるような形で吸血されたそれは、僕自身では何とも思ってなくても本能の方では危険と認識してしまったのかもしれない。

 

『特に、高月君は吸血鬼になった時がなった時だからね。そういう行為自体そのものに危険と言う認識を持っていたとしても不思議ではないかもしれない』

「そうですか……」

 

それは、ある意味とても残酷な言葉だった。

 

『生存本能は、体を動かそうとする。もしその子を傷つけたくないのであれば、決してその言葉に飲み込まれてはいけない』

「分かりました。ところで、どうすればその拒絶反応は収まりますか?」

 

僕は一番聞きたいことを尋ねることにした。

扇先生はしばらく押し黙るが、少しして答えが返ってきた。

 

『生存本能がその子を危険だと認識できなくなるようにすればいい』

「それは、つまり……」

『高月君自身が自分の気持ちを固める必要がある。生存本能というのはね、普段はそれほど出てこないはずなんだ。出てくるとしても緊急事態ぐらい。おそらく、生存本能が活発なのは、君自身がちゃんとした心構えを持っていないからじゃないのかな』

 

扇先生の言葉は、僕の胸に深く突き刺さった。

確かに、言われるとおりだった。

小夜様の問いかけに答えられなかったように、僕自身がエリナに血を吸わせてまで助けようとする理由が皆無だった。

口から出てきた言葉もただの後付けのようなものに過ぎない。

問題なのは、心の底からそう言えるかどうかなのだから。

 

「ありがとうございます。何とかなりそうです」

『そうかい。ところで、高月君の次の検診についてだけど――』

 

僕のお礼に、扇先生の方も用件があったのか、話し始めた時だった。

 

(ん?)

 

ドアの方から聞こえた物音に、僕は首をかしげる。

ドアの方から聞こえるガチャガチャと言う物音は、嫌でも僕の耳に入ってきた。

 

『ちょっと、聞いてる? 高月君』

 

電話口から聞こえる扇先生の声に反応する余裕は、この時の僕にはなかった。

 

「嘘でしょ」

 

目の前で起こった出来事に、思わず口に出てしまった。

閉めていた鍵が開いたのだ。

もちろんだが、僕ではない。

何者かが外から開けたのだ。

そして、鍵を開けた人物がドアを開けその姿を現した。

 

『ちょっと、高月君? 聞こえてるなら返事を―』

 

その人物の姿を確認した僕は、自然に電話を切っていた。

どうしてかはわからない。

ただ、無意識に僕は電話を切っていたのだ。

ただ、ひとつ言えるのは……

 

「どうかしたの? エリナ」

 

部屋を訪れてきたのがエリナだということだけだった。

 

「コースケ…………コースケ」

「その様子だと、ただ添い寝をしに来たというわけじゃないみたいだね」

 

しきりに僕の名前を呟きながら一歩、また一歩と僕の方に近づいてくるエリナの様子は普通とは程遠い状態だった。

 

(懸念していた通りか)

 

無意識的に僕の血を求めている状態なのだろう。

 

(これももしかしたら”生存本能”なのかもしれない)

 

吸血鬼にとって吸血をしなければ生きながらえることができないのだとすれば、きっと今のエリナは生存本能によって動いているということになるのだろうか?

 

(いや、そんなことはどうでもいい)

 

別のことに考えを向けていた僕は、途中で打ち切った。

重要なのは、これからどうするかだ。

もちろん最終的には僕の血を吸わせることになる。

だが

 

『で、でもワタシコースケの血を……ご、ゴメン、ゴメンね。エリナそんなつもりは全く』

 

あの時のエリナの動揺を思うと、このままでいいのだろうかと悩んでしまう。

 

「エリナ、そんなに僕の血が飲みたいの?」

「クローフィ。コースケ……クローフィ」

 

僕の呼びかけに、エリナはうわごとのようにつぶやきながら近寄ってくる。

 

「はぁ……はぁ」

 

近寄って初めて分かったのは、苦しげなエリナの息遣いだった。

 

(小夜様から血液パックは受け取っているはず。ならばどうしてこんな)

 

可能性としては飲んでいないのか、それとも飲んだが効果が出なかったのかのどちらかだろう。

僕はいろいろなことを考えながらエリナを見据える。

逃げようと思えば逃げられる。

それでも僕は逃げようとはしなかった。

そんなエリナは意思の灯らない瞳のまま僕の両肩をつかんできた。

 

「ッ!?」

 

その瞬間、あの拒絶反応が僕を襲った。

それがまずかったのだろう。

 

「いつッ!?」

 

体がこわばったところで、僕はエリナに押し倒された。

さらに肩を強い力で押される痛みと、拒絶反応の痛みで思わず顔をしかめる。

 

「クローフィ……コースケ。はぁ、はぁ」

 

馬乗りにされ、逃げることもできない体制。

しかも、吸血鬼だとしても強すぎる力。

 

――吹き飛ばせ――

 

それが意味していたのは

 

「エリナ、吸血状態なの!?」

 

吸血状態だということだ。

しかも、口元がかすかに赤い。

おそらく先ほどまで合成血液を飲んでいたのだろう。

我慢して我慢して、血液パックを飲んで誤魔化そうとして、それで自分を忘れてしまった。

 

「そうか……頑張ったんだね、エリナも」

 

――抹殺しろ――

 

頭の中に響き渡る恐ろしい声。

これが生存本能なのだろう。

自分のことのはずなのに、恐ろしく感じてしまう。

その声に導かれるように僕は、

 

「うっ、く!?」

 

エリナの両腕をつかんだ。

 

「エリナ、正気に戻れっ!」

 

僕ができるのは、ただエリナに呼びかけ続けることだった。

 

「これでいいのか! このまま血を吸って、また後悔することになってもいいのかっ!? 頑張ってたんじゃないか、それを無駄にするというのか、エリナっ!!!」

「ッ!?」

 

僕の呼びかけが功を奏したのか、それとも別の何かの要因でもあったのか、エリナの方に若干の反応があった。

 

「エリナ、血を吸いたいんなら僕は一向に構わない。でも、無意識で吸うのはダメだ」

「あ……ぁ。また、私コースケの血を」

「気が付いたんだね」

 

エリナの様子から、正気に戻ったと感じた僕は、静かに呼びかける。

 

「ご、ゴメン……ゴメンなさい。エリナ、別にそういうつもりじゃなくて。血液パックを飲んで我慢しようとしたの。なのに」

「体の渇きが止まらなかったの?」

 

エリナの言葉に先回りをする形で、僕は聞いた。

 

「ご、ゴメンね。ワタシ、こんなつもりじゃなくて……とにかく、部屋に戻るね」

「ダメだっ!!」

 

僕は逃げ出そうとするエリナの両腕をつかんだ。

今も頭の中には恐ろしい声が響き渡っている。

それでも、僕は彼女の両腕を逃げられないようにつかんだの。

 

「んっ!?」

「っ!?」

 

思いがけない僕の抵抗に、バランスを崩して机に部下りその拍子に机の上に置いていたものが床に落下した。

先ほど使っていたカッターも一緒に。

 

「ッと!」

 

ヴァンパイアウイルスを犠牲に、念動力を行使して強引に僕たちの横の安全な場所に落とした。

 

「離してよ……コースケ」

「逃げたらダメだっ!」

 

僕の腕を振りほどこうとするエリナに、僕は力強い言葉で叫ぶ。

 

「お願い、離して。このままだとワタシ……負けちゃいそうだよ」

 

エリナの言う”負ける”が血を吸いたくなることだというのは、考えなくてもわかった。

 

「またコースケの血を吸いたくなっちゃうから……だから、離して。コースケ」

 

彼女の目から温かい何かが零れ落ちる

それが涙だというのがわかるのに、時間はかからなかった。

 

「だったら、吸えばいいじゃない。言ったでしょ。僕は血を吸われても構わないって。それでエリナの体調が戻るのであれば、それだけでもうれしいって」

「それだ出来ないよ……だって、コースケに嫌われたくないもん」

 

僕の言葉に、ポツリと口にしたエリナの言葉。

僕は、それに静かに耳を傾ける。

 

「今は良くても、いつかは離れていく。どういったって、エリナは吸血鬼から血を吸う”化け物”なんだもん。コースケにだけは、そんな風にみられたくない」

 

それは、僕が初めて聞いたエリナの本心だった。

心からの叫びだった。

その叫びに、僕は自己嫌悪しそうになった。

”友達だから救うのは当然だ”

そんな甘い考えで、手を貸してた自分に対する。

一度得た温かみ。

それを失うのではないかと言う恐怖。

僕は、彼女の不安を払拭できていたのだろうか?

 

(できてない)

 

だからこそ、生存本能のレベルでこうして拒絶反応が起こっているのだ。

 

「だから、吸えないよ。だって、コースケは大切な友達だから……ずっと一緒にいたいから」

 

そのエリナの一言に、僕は胸を痛めた。

その痛みは、拒絶反応の痛みよりも数十倍も痛く感じた。

ふと、僕は小夜様との会話を思い出した、

 

『どうして、お主はエリナの力になろうとするんじゃ?』

 

僕は、その問いに答えることができなかった。

 

(どうして僕は、エリナを助けようとするんだろう)

 

自分に問いかけてみた。

エリナの友達だから?

 

―――違う

 

自分でもわかる。

僕の行動原理が”友人”という物ではないということが。

エリナの笑顔を見たいから?

 

――それもある

 

でも、それだけではない。

 

(ああ、そういうことか)

 

そして、僕はすべての理由を悟った。

どうして、こうまでしてエリナを助けたいと思うのか。

僕は……

 

(僕は、あの笑顔を……エリナと過ごせる日々を守りたかったんだ)

 

それは、とても自己中心で身勝手な理由。

でも僕の本心だった。

だって僕は……

 

(エリナのことが、”好き”になったんだから)

 

ようやく、自分が助けようとした理由を知ることができた。

すると、僕の体に変化が訪れた。

 

(あれ? さっきまでの痛みが)

 

先ほどまで感じていた拒絶反応による痛みが、まるで嘘みたいに消えたのだ。

 

『おそらく、生存本能が活発なのは、君自身がちゃんとした心構えを持っていないからじゃないのかな』

 

扇先生のあの電話での言葉が脳裏をよぎる。

きっと、僕がちゃんとした理由を見つけたからこそ、生存本能が活発に動かなくなったのだろう

 

「僕は前にも言ったかもしれないけど、困ったことがあるのなら、相談してほしい。頼りないかもしれないけど、少しでも力になれるかもしれない。今僕にできるのは、エリナに血を吸わせることだけなんだ。だから」

「コースケは優しいね。本当にやさしい。ワタシはとても嬉しいよ。でも―――」

「もし、エリナが僕のことを信じてくれているのであれば、教えてほしい。エリナの今の体調……状態を」

 

このまま直球で行ってもダメだと思った僕は、路線を変更することにした。

 

「………とても体が熱くて、ちょっと苦しいかも」

「そうか……」

 

エリナの現状を知ることができた僕は、予断を許せない状況であることを理解した。

 

「でもね、ワタシは大切な友人に怖い思いをさせたり傷つけたりしたくないの。もう遅いかもしれないけれど」

「そこまで大事に思ってくれてありがとう」

 

自虐的な笑みを浮かべるエリナに、僕はお礼を言った。

 

「僕はとてもずるくて卑怯な男なんだ。だから……」

「コースケ? いったい何を」

 

僕の言葉に怪訝な表情を浮かべるエリナをしり目に、僕は先ほど横に落ちたカッターを手にする。

僕はそのままカッターの刃を出すとそれを首にあてる。

 

「っつ!?」

「コースケ!? 何をやってるの!!」

 

一気に首の皮を切り裂くと、エリナが悲鳴にも似た叫び声を上げた。

 

「手元が狂って切っちゃった」

「狂ってって……それよりも、早く治療しないとっ!」

 

慌てたように声を荒げるエリナに、僕は頷きながら口を開く。

 

「そうだね。治療しないとね。だから、傷口を舐めてくれないかな?」

「え?」

「ほら、よく言うじゃない。傷口を舐めて消毒するって」

 

理解できていないエリナに、僕は説明するように口を開いた。

当然だが、傷口を舐めて消毒するのは間違いである。

 

「まさか、そのために……」

「こうでもしないと、吸ってくれないでしょ。僕は卑怯な男なんだ。エリナに血を吸ってほしい、何もできずに苦しむ姿を見るくらいなら、このくらいはする。例え……」

 

そこから先は、僕には口にできなかった。

”例え、君に嫌われることになったとしても”と言う簡単な言葉を。

 

「馬鹿……コースケのばかぁぁ~」

「ちょっと、いきなりバカ呼ばわりはひどくない!?」

 

涙ながらに馬鹿と言われたことに、僕は思わず抗議の声を上げた。

 

「どうしてコースケはそうやって、エリナのことを泣かせようとするの」

「そのことについては悪いと思ってる。でも、一つ言わせてもらうと、エリナの方が泣き虫すぎると思うんだけど」

 

とはいえ、泣かせる僕の方に問題があるんだけど。

 

「だって……だってぇ~~~」

「自分でやっておいてあれだけど、そろそろ舐めてもらえるとありがたいなって。このままだとものすごい惨状になるから」

 

まるで殺人現場のような光景に成り果てている周囲の床に、僕はエリナに促した。

 

「………」

「もしかして、まだできないなんて言わないよね?」

 

一向に動こうとしないエリナに、僕は恐る恐る尋ねた。

 

「そうじゃないよ。でも、ダメだよ。治療とかを言い訳にして逃げるのは。だから、ワタシはこれから、自分の意志で……自分の為にコースケの血を吸わせてもらうね」

「そうか……うん、分かった。それでいいよ」

 

エリナの言葉に、僕は頷きながら相槌を打つ。

そして、僕はつかんでいた両手を離した。

だが、エリナさんが逃げることはなかった。

 

「それじゃ、吸わせてもらうね。ありがとう、コースケ。そして、ゴメンね」

 

エリナはそう言うと、首筋の方に顔を近づける。

 

「ペロペロ……じゅるる……ずず……ぐすっ、ぐすっ」

 

血を啜る音に混ざって、鼻を啜る音まで聞こえてきた。

 

「エリナ、もしかして泣いてるのか?」

「だって……だってぇ~~」

 

どうやら、まだ泣き止んでいなかったようで、泣きながら血を飲んでいたようだった。

 

「頼むから傷口に鼻水とかがかからないようにしてね。しみて痛いから」

「ぐす……努力する……すんっ」

 

僕はそんなエリナの背中を軽くたたいて(と言うよりはさすって)いた。

 

(やれやれ)

 

思わずそんな感想が出てきた。

思えば簡単なはずだったことが、ずいぶんと遠回りになってしまった。

でも、これからはそのようなことをする必要はないはず。

確証はないが、僕はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「体の方は落ち着いた?」

「うん……体も熱くないし、涙も止まった」

「それは何より」

 

少しして血を吸い終えたエリナは、若干涙声ではあるものの、見た感じでは体調の方は良くなっているようだった。

 

「ところで……その、怪我の方は?」

「あー、あれだったら大丈夫。血は止まってるから」

 

いくら吸血鬼で再生能力が早いとはいっても、あの怪我が短時間で治るはずもなく、まだ傷はふさがってはいないが、血は止まったようだ。

 

「それなら、よかった。でも、やりすぎだよ! 自分の体を傷つけるなんて! ……とは、ワタシが言えないんだけどね」

「いや、それでもいくらなんでも槍偽たと思ってる。いやな思いをさせて悪かった」

 

あの時は、僕も冷静ではなかったが、冷静になって考えてみると自殺行為そのものだった。

普通であれば、”自殺”行為ではあるのだが。

 

「どうして、コースケが謝るの? コースケの思いがとても暖かくてうれしかったんだから」

「そ、そうなの?」

 

よくわからない間隔に、僕は首をかしげながら声を上げることくらいしかできなかった。

 

「それにしても、床がすごいことになっちゃったね」

「確かに」

 

大きくはないものの、小さな血だまりができてしまっていた。

確実に誰かに見られれば大パニックになるだろう。

 

「まるで初体○が終わったような感じだね」

「はい!?」

 

突然エリナの口から出た言葉に、僕は思わず大きな声を上げてしまった。

 

「あり? 違った? おー、”生理中の○ック○みたい”がよかった?」

「どっちでもいいわい!!」

 

久々すぎて懐かしさを感じるやり取りだが。、実際にやられると強烈過ぎた。

だがそれはいつもの調子に戻ったということでもあり、それはそれで嬉しくなくもない。

……まあ、頻繁にやられるのはあれだけど。

 

「とりあえず、床のことは心配しなくてもいいからそれとエリナ」

「なーに?」

 

僕の呼びかけに、エリナは返事を返す。

 

「もし今後、血が飲みたくなったら、遠慮せず僕に言ってほしい。さすがに毎回首を斬るわけにはいかないから。痛いし」

「でも……」

 

僕の提案に、エリナは難色を示した。

 

「それと、病院にも行くこと」

 

そんなエリナをしり目に、僕はさらに畳み掛けるようにつづけた。

 

「今までなかったということは、そうなってしまった原因があるはず。それさえはっきりすれば、苦しまずに済むかもしれない。もし一人が不安なら僕も一緒に行く」

「コースケ……ぐすっ」

「って、泣くのは無し! 女性の涙は地味に弱いんだ」

 

再び涙ぐむエリナに、僕は必死に呼びかけた。

ここに来なければ知ることもなかった自分の弱点。

分かっただけでも功ととるべきなのだろうか?

 

「うん、ダイジョーブ。ありがとう、コースケ」

「とにかく、今後は一人で苦しまないこと。約束だよ」

 

とりあえず、涙を抑えることができたエリナに、僕はそう告げた。

 

「………」

「あの、そこで沈黙されると不安になるんですけど」

 

沈黙するエリナさんに、僕は若干弱腰になりながらも声をかけた。

 

「コースケ………ッ!」

「な、何?」

 

何かを決意したように表情を引き締めるエリナに、僕は思わず一歩後ずさってしまった。

だが、その眼にあるのは不安と疑問だった。

 

「どうして、コースケはワタシなんかにここまでしてくれるの?」

「だから、そういう自分を卑下する言い方は良くないよ」

 

僕はエリナの問いかけの内容よりも、言い方が気になってエリナを諭した。

 

「だから、どうしてそんな風に思うの?」

「……ムム」

 

再び投げかけられたエリナの問いかけに、僕は言葉が詰まった。

僕の気持ちはすでに固まっている。

まだ若干覚悟は決まっていないが、その思いを今この場で口にすることもやぶさかではない。

だが、

 

(もし、それでエリナを傷つけたら)

 

それが不安となって僕にのしかかってくる。

 

「僕が優しいのって、そんなに変かな?」

「変じゃないよ! とてもうれしい………でもね、どういう風に甘えたらいいのかわからなくて」

 

僕の問いかけに、エリナは力強く否定するが、その表情は悲しげなものへと変わっていった。

 

「エリナ、今まで体質のことを人に話したことがないから、不安になっちゃって」

「………エリナっ!」

「な、何!?」

 

エリナの悲しげな表情と、声を聴いていた僕は気が付くと叫ぶようにエリナの名前を呼んでいた。

 

(男は度胸。ここは言うしかない)

 

突然の大声に驚いている様子のエリナに、僕は覚悟を決めた。

 

「僕が、どうしてエリナの力になりたいのか。それは……」

「それは?」

 

そして、僕は決定的な言葉を口にする。

それは、今までの関係をすべて破壊させる一言。

自分の感情を相手に告げて、そして新たな関係を築く。

一歩間違えれば、もう二度友との関係には戻れない、そんなもろ刃の剣のような言葉。

 

「エリナのことが、好きだからだっ。だから、エリナには明るく笑っていてほしかったんだと思う」

「…………」

 

僕は、エリナに告白をしたのだ。

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