此処から、少しでもオリジナルの展開にできればいいなと思いつつ、無理だなとあきらめ手いる面もあったりと、複雑な心境です。
「こんばんは」
病院にたどり着いた僕たちは、病室のドアを開けた。
「高月くーん! 久しぶりだね、待っていたよ」
いつもよりテンションの高い扇先生が、僕たちを出迎えた。
電話の時よりは落ち着いているので、大丈夫だろう。
主に僕の貞操的な意味で。
「お、お邪魔します」
そんな中、続いて入ってきたエリナが、緊張した様子で声を上げた。
「お、女連れ!?」
「あの、前に連れて行くという話をしましたよね?」
「もちろんだとも。高月君の話は一言一句漏らさずに覚えているよ」
(何だろう、ものすごく寒気がするんだけど)
扇先生が普通に言っていると思われる言葉だが、なぜか僕は背筋がざわつく。
「って、その首元の傷はどうしたの?」
「あー……手元が狂って切っちゃいました」
いまだに残っている首元の傷を見つけた扇先生の追及に、僕は軽い感じで答えた。
(それにしても、布良さんたちですら見つけられなかったのに)
見つけられないように努力していたのだから当然だが。
だからこそ、それを見つけてしまう扇先生のある種の
「手元が狂ったって……どうしてけがをしたって連絡してくれなかったんだ。傷を見るから上着を脱いで!」
やはり、扇先生は医者だ。
性格があれだけど、僕の身を案じてくれている。
「後ズボンと下着も!」
「首の傷を見るのに、下半身まで脱ぐ必要はありませんよね!?」
なぜか下着まで脱ぐように要求してくる扇先生に、僕は問い詰めた。
「ちぇ。ダメ?」
「ダメに決まってます! そもそも今日は真剣な話をするために来たんです」
不満げな表情で聞いてくる扇先生に、びしっと返した。
ここまで言わないと、絶対に本題には戻れないような気がするからだ。
「まあ、いいけどね。それで、アヴェーン君の体調のことでいいのかな?」
ため息を一つついて、仕事モードに切り替わった扇先生は、僕に尋ねてきた。
「はい。その前に、彼女のことは知っているんですか?」
「アヴェーン君のことかい? 過去のこと……というより彼女の体質についてならちゃんと知っているよ。ここに住む際に彼女を診たのも僕だからね」
僕の問いに答える扇先生の言葉に、僕はエリナの方を見る。
「おー、そういえばそうだったような……忘れてたけど」
そう言って苦笑するエリナの言葉で、エリナは扇先生の担当する患者であることがわかった。
「特質な体質の吸血鬼は、事前に小夜様から知らされることが多いからね。吸血鬼の医者と言うこともあって、僕はそういうわけありの子を担当することが多いんだ。高月君のようにね」
「と言うことは、主治医もお揃いなんだね」
「微妙なお揃いだけどね」
ここまでお揃いになるというのは、ある意味複雑だった。
まあ、嬉しいことには変わりないんだが。
「…………」
「……あ」
エリナと会話をしていると、扇先生から疑いのまなざし(と言うより睨みつけているような感じだが)を向けられているのに気付いた。
「すみません。話を元に戻します。実は――」
「待って。そのことはエリナが直接言うよ」
僕が本題に入ろうとすると、エリナがそれを遮るようにして告げてきた。
「大丈夫?」
「うん。ワタシに言わせて。そうしないといけないから」
僕の問いに答えるエリナの目に迷いは見られなかった。
もしかしたら、自分自身にちゃんと向き合おうとしているのかもしれない。
それは、ある種の成長でもあった。
ならば、僕の返事はもちろん
「分かった」
エリナに任せることだった。
「ありがと、コースケ」
「………」
そんな一連の僕のやり取りを、先ほどより冷めた目で見ている扇先生に、エリナは向き直った。
「待たせちゃってごめんなさい」
「別にかまわないけどね」
そんな扇先生に謝罪をするエリナに、扇先生もため息をつきながら返した。
「それでね、実はエリナの身体が少しおかしくなったから、それを治してほしくて」
「おかしくなった? 確かアヴェーン君の体質は”吸血鬼から血を吸うこと”だったよね? もしかして吸血鬼の血でなくてもよくなったということかい?」
エリナの言葉を聞いた扇先生は、それを基に現在の状態をエリナに尋ねる。
「どっちかと言うとその逆かな。定期的にコースケの血を吸わないといけない体質になっちゃったの」
「高月君の血を? その言い方だと、まるで高月君の血でなければいけないようにも聞こえるんだけど」
エリナの症状を聞いた瞬間、扇先生は眉をひそめてエリナに尋ねた。
「うん。血を吸わないと体調がおかしくなるのは普通のことなんだけど……それがコースケの血じゃないと元に戻らなくなっちゃって、我慢し続けると自分の意識とは関係なしにコースケに襲い掛かって血を吸っちゃうようになるみたいなの」
「なっ、なんだって!?」
エリナの症状に、扇先生は今度は目を見開いて驚きをあらわにする。
(これはかなりの緊迫した状況なのかな?)
扇先生の驚きようから、僕はかなりまずい状態にエリナが陥っているのではないかと考えた。
「そうか……そういうことか。わかってしまったよ」
「一体何がわかったんですか?」
僕ははやる気持ちを抑えて、扇先生に尋ねた。
「高月君を押し倒して、色仕掛けで誘惑したと言うことなんだねっ!」
「真剣な話だって言ってるのにっ! どうして貴方はそんなことしかとらえられないんですか!!」
予想を大幅に裏切る扇先生の言葉に、僕はこれまでで一番かもしれないほどの大声で反論していた。
「おー。でも、確かにその通りだよね。コースケのことを押し倒していなかったら、今みたいな関係にはなっていなかったもんね。にひひ」
「ほら―っ!」
扇先生の言葉に、考え込むような表情を浮かべていたエリナだが、最後は笑顔で言い切った。
「この二人が絡むと、どうしようもなくなる」
頭を抱えたい気分だったが、このままでは話が進まないので、僕はくじけそうになる心を奮い立たせる。
「お願いですから、本題に戻ってください」
「だって、明らかに二人の雰囲気が変なんだもん。このままじゃ気になって診療ができないよ」
「それはただの職権乱用です! というより、どんな言い訳ですかっ」
扇先生の言葉に、僕はさらにツッコミを入れる。
(こういうのって、勢いで言えばいいか)
「とにかく、僕とエリナは恋人同士になったので、貴方の
僕は勢いで扇先生に恋人同士になったことを告げた。
「そうだよ。エリナはモトキのモノじゃなくて、エリナのモノだもん」
「お願いだから、エリナも煽らないで」
僕の言葉に真剣な表情で続くエリナに、僕は必死に懇願した。
これ以上行くと話がややこしくなりそうだったからだ。
「だって、こういう縄張りは最初にしっかりとしないといけないんだよ」
「縄張りって……まあいいけど」
微妙に違うと思いながらも、僕は頷くことにした。
「と言うことは、つまり―――」
「そう。コースケはエリナ・オレゴヴナ・アヴェーンの恋人になったので、手を出しちゃだめだよモトキ」
状況を理解し始めた扇先生に、エリナはまじめな表情を浮かべながら恋人宣言をした。
「ッ!!!?」
「そこまで驚くことですか?」
予想以上の驚きように、僕は扇先生に尋ねた。
「だ、だって、高月君が女の子と付き合うなんて」
「なぜそこに驚くんですか! 逆に同性相手の方が驚きですよっ!」
やはり、扇先生の思考は少しばかりおかしいようだ。
(一体、あの人の中で僕はどんな性格として理解されているんだろう)
知りたいような気もするが、あまり知っていいことはないような気がするため、僕は一瞬思い浮かんだ疑問を頭の片隅へと追いやった
「しかも、既に一緒のベッドで寝た中なんだから!」
「ぶぅっ!?」
エリナのとんでもない宣告に、僕は思わず吹き出してしまった。
「な、なんだって!? ほ、ほほほ、本当なのかい、高月君!?」
とはいえ、扇先生の方が驚きでは勝っていたようで、慌てた(と言うよりは、取り乱した)様子で問いかけてくる。
「ええ。まあ、そういうことになりますね」
正確に言えば、ただ寝ただけであってそれ以上の好意はしていないのだが、言わなくてもいいだろう。
「そういうことだから、これからはコースケに変なことをしないでね。モトキ」
そして、畳み掛けるようにエリナは有無を言わせない表情で扇先生に告げた。
「まさかこんなことになるなんて……いや待てよ。処女ならば、処女ならまだ可能性が」
「………」
(な、なんだろう、今ものすごく不吉な単語が聞こえたような気が……)
これ以上話を続けるのは危険のようだ。
「話を本題に戻してください」
「それじゃ、アヴェーン君の症状を確認させてもらおうか」
不承不承と言った感じではあるが、僕のお願いに扇先生は話を元に戻した。
「高月君の血を飲まないと体が安定せずに、意識を失ってしまう……これで間違いはないね?」
「うん。そうだよ」
エリナの現在の症状について要約した扇先生に、エリナも間違いがないと頷いた。
「高月君の血じゃないとダメ……か」
「何か、思い当たることでもあるんですか?」
扇先生の様子に、僕はそう尋ねた。
「現段階で仮説を離すのは控えさせてもらおう。根拠のない話を聞いて変に不安になりたくはないだろ」
「うん。エリナもこのままじゃだめだと思ってる」
「とはいえ、調査が終わるまで、しばらくはそうせざるを得ないね」
それはある意味覚悟していたことだった。
「でも、コースケの血をこのまま吸い続けてコースケに変なことが起こらない?」
「申し訳ないけど、それに対して明確に大丈夫だとは言えない。高月君も特質な体質だ。だから、高月君に問題が起こらないという保証はできない」
扇先生の返答に、エリナがかすかに息をのむ。
「だが、それとは別に正気を失うのもよろしくない。だから、アヴェーン君は極力吸血の回数を必要最低限にしてもらえるかな?」
「うん。分かったよ」
扇先生の指示に、エリナは素直に従った。
「高月君は、吸血した際には後でもいいからパックを飲むことと体調に異変が出たらすぐに電話すること」
「分かりました」
扇先生の指示に、僕も頷く。
「ちなみに、聞くけど現時点で体調の方はどう?」
「特にこれと言った変化はないです。まったくもって健康です」
その返答を聞いて扇先生はほっと胸をなでおろしていた。
「ちなみに、調査ってどのくらいかかるの?」
「はっきり言ってまったくわからないとしか言いようがない」
エリナの疑問に返ってきたのは、ある意味絶望的な答えだった。
「まず、データが足りない。アヴェーン君は吸血鬼の中で特異な存在。それゆえに、基礎から調べていくしかないだろうね。時間はかなりかかるけど、これしか方法はない」
「データがあれば、ダイジョーブなんだよね?」
そんな扇先生に、エリナは疑問を投げかける。
「確約はできないけど、かなり短縮できるだろうね」
「データならあるよ。たぶんロシアの方に」
(ロシアと言うことは……研究施設)
エリナがもともといた場所ならば、データは十分すぎるほどそろっているはずだ。
「だけど、アヴェーン君、それは」
扇先生はエリナの提案に言葉を濁してはいるが、躊躇っていた。
それもそのはずだ。
ロシアの方にデータを渡してもらうように頼むということは、向こう側にエリナのことについて興味を持たせてしまう可能性が高い。
「エリナに気を使ってるんなら気にしないで。今は解決する方が優先だから」
それに、とエリナは言葉を続ける。
「もし、コースケに何かがあったらきっとエリナは自分が許せなくなるから」
「……エリナ」
その言葉には、僕でも覆せない強い意志がこもっているように感じた。
「データが手に入るんなら、こちらとしてはありがたい。でも、それで本当にいいのかい?」
「ダイジョーブ。だって、ワタシのそばにはコースケがいてくれるから。コースケがいてくれるだけで、エリナは頑張れる。それに……エリナのことを守ってくれるんだよね?」
「もちろんだよ。頼りないかもしれないけど、ちゃんと守る」
僕はエリナに誓うように、自分に言い聞かせるように答えた。
(この身に変えても、必ず)
それは、口には出さなかった言葉。
一体どうやって守るかは僕にもわからない。
そもそも、僕はいったい何者なのだろうか?
ライカンスロープであるのは間違いないが、それだけではないような気がするのだ。
根拠はない。
ただの、感覚だけだ。
「そう。それならよかったね」
そして、扇先生もまるで父親のようなまなざしで、祝福の言葉を贈ってくれた。
「本当に。……本当に幸せそうで……うらやましい限りだよぉぉぉ~~!」
「ダメだからね。コースケはエリナだけのモノなんだからねっ!」
さっきまでの雰囲気とは一変、またおかしな雰囲気になってしまった。
「あ、もちろんエリナはコースケだけのものだから、好きにしてもいいんだよ♪」
「……考えておくよ」
ここで何を答えても藪蛇になりかねないため、僕は言葉を濁すことにした。
「にひひ。コースケってば、照れてる~♪」
でも結局はからかわれてしまうことになるのだが。
「お願いだから、いちゃつくのはやめてくれないかな? 見ていて悔しくなるから」
「すみません。そんなつもりはなかったんですけど」
目から微妙に怒気のようなものを放っている扇先生に僕は謝った。
「とりあえず、調査はしておく。それと、ついでと言ってはあれだけど、高月君の方も検診をしておくから血ももらえる?」
「分かりました」
ついでという形ではあるが、僕は扇先生の検診を受けることになった。
「それと、首の傷も一緒に診ておこう。素人判断は危険だからね」
「ごめんね、コースケ。エリナのせいで怪我をさせて」
そんな中、首の傷と言う言葉を聞いたエリナが顔を歪めて謝ってきた。
「だから言ったでしょ、謝るのは無しだって。それに、エリナを助けることができて、恋人にもなれたんだから、首の怪我なんて痛くもかゆくもないよ」
「……コースケ」
僕とエリナは、お互い顔を見て笑いあった。
「だから、いちゃいちゃしないでもらえないかなぁ~!」
血の涙を流しながら懇願する扇先生をしり目に。