DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第47話です。

いよいよ、今年最後の投稿となりました。
皆様、よいお年を。

話もある意味すごいことになっていますが。


第47話 勝負と予兆

「それじゃ、気を付けて帰るんだよ」

「ありがとうございます」

 

一通りの診察を終えた僕たちを、扇先生は病院の外まで見送ってくれた。

 

「それと、アヴェーン君」

「研究所のことなら本当に連絡してくれてもへーきだよ」

 

エリナの方に真剣な面持ちで声をかける扇先生に、何を言おうとしているかが想像できたのか、エリナは念を押すように、答えた。

 

「そういうことじゃなくて、何か変化があったらすぐに連絡すること。いいね?」

「うん。分かったよ。大事なことだもんね。ちゃんと連絡をする」

 

扇先生の指示に、エリナも頷いて答えた。

 

「それと、もう一つ。これが一番重要なことなんだけど……」

「な、なに?」

「重要なことって、いったいなんですか?」

 

真剣な表情を浮かべる扇先生の雰囲気に、エリナも不安そうな表情で尋ねる。

 

「まだ高月君のことをあきらめたわけじゃないんだからねっ。高月君の処女は僕のモノなんだからッ!」

「よりにもよって、それが大事な話ってどういうことですかっ!? さっきまでのシリアスな雰囲気を返して!!」

 

いっそのこと諦めてほしいと思う。

 

(いや、そもそも僕の処女をどうやって奪う…………な、何だか今寒気が)

 

考えただけでも背筋が凍りつきそうだったため、僕はそれ以上考えるのをやめた。

 

「そんなことさせないもん! 奪われるくらいなら、エリナが奪うもん!」

「ちょっと、何を言ってるんですか、エリナさん!? と言うか、好きな女の子でもあげませんよ!?」

 

天下の往来でするような話ではないというのは、触れないでほしい。

もはや、場所など関係ないのだ。

 

「とにかく、勝負はまだ始まったばかりだからねっ」

「ふっふ~ん。コースケはエリナにメロメロだもんね~」

「くーーーっ!」

 

エリナの言葉に、悔しそうに唸る扇先生。

 

「二人して、バカげた勝負をしないでください。と言うか、勝負自体やめてください。後、エリナも煽らないで」

「おー、今日はコースケの”つっこみ”も冴えわたってるね~」

 

”誰のせいだ!!”と言いたいのを必死にこらえた。

 

「とにかく、先生も! よろしくお願いしますっ!」

「もちろんだよ。個人的にも興味のある事象だからね。何かがわかったらしっかりと連絡する。だから約束の方をくれぐれも忘れないように」

 

僕の言葉で、ようやく雰囲気が元に戻ってくれたようだった。

 

「嘘ついたり誤魔化したりしたらダメだからね」

「もちろんだよ。でも、コースケもエリナに秘密にしていること、あるよね?」

 

エリナが若干不機嫌な表情を浮かべながら指摘してくるが、微妙に心当たりがあった。

だが、分からないふりをすることにした。

もし、僕の思っている通り、体質についてのことでなければ墓穴を掘ることになるからだ。

 

「な、何のこと?」

「さっき、エリナのことを聞いても驚いた様子はなかった」

 

エリナの口から出たのは、本当に思い当たらないことだった。

 

「それは、エリナ自身から聞いたからで――」

「エリナが研究所出身だっていうことも知ってたよね?」

 

僕の言葉を遮るように、エリナが追及してくる。

 

「えっと、それは………」

「ジーーーー」

「すみません。どうしても気になって市長に聞きました」

 

エリナからの嘘は許さないと言いたげな視線に、僕は素直に話した。

 

「まあ、そういうことを知っているのは……小夜様ぐらいだからね」

 

扇先生の話の最中、僕に向けられるエリナの視線がとても気になった。

なんとなくだが、これはかなりピンチかもしれない。

恋人になって二日目で破局の危機と言うのも、ものすごくあれだけど。

 

「ちなみに、それを知ったのっていつなの?」

「エリナと恋人関係になった日だから……昨日かな」

 

先ほどまでとは一変し、今度は不安そうな表情で尋ねてくるエリナに、僕は正直に答えた。

さすがに知った日を嘘ついても、どうにもならないのは自分でもよくわかっていることだ。

 

「そうなんだ。ならいいかな」

「え、いいの?」

 

エリナの意外な言葉に、思わず僕はそう尋ねてしまった。

 

「だって、そのことを知ってて好きだって言ってくれたんだからね。それにあの時のことをエリナは本当に何も思っていないんだよ」

 

市長が言ったように、研究施設にいた時に何かをされたことは確実にないようだ。

それは、エリナの目を見ていればなんとなくわかった。

 

「まあ、厳しい人とちょっと変わった人はいたけど、中には優しいお姉ちゃんがいたりとか……それくらいかな」

 

”ちょっと変わった人”で、ある人物の姿を思い浮かべてしまった。

僕は心の中で謝った。

いくら何でも、かわいそうすぎる。

 

「言い訳に聞こえるかもしれないんだけど、エリナが隠していることが気になって調べたんじゃないんだ。ただ純粋に力になりたくて……悪かった」

 

最初からこうやって素直に謝っていればよかったのだ。

やましいことはそれほどないんだから。

 

「何、喧嘩? さっそく痴話げんか? もしかしてそのまま別れちゃったりして」

「そんなことするわけないよ。エリナのことを思ってしてくれたんだから、怒れないよ」

 

そんな僕たちに嬉しそうにしている扇先生に、エリナは首を横に振りながら反論した。

 

(でも扇先生。人の不幸を喜ぶのはどうかと思う)

 

「と言うことは、許してくれるの?」

「許すも何も、エリナはね前よりもコースケのことがねもっと、もっと、もーっと好きになっちゃたんだよ」

「そんなにはっきり言われると、何だか照れるね」

 

エリナの”好き”と言う発言に、僕は頬を掻きながら返した。

好きな人に”好き”と言われるのは、とても幸せなことだった。

と、今思い知った。

 

「僕もね、男らしい高月君にもっと、もっと、もっと、もーっと、好きになっちゃったよ」

「そんな風にはっきり言われると気持ち悪いですね。無性に殴り飛ばしたいぐらいに」

 

先ほどの不幸を喜ぶような言葉が相まって、何だか過激な返事になってしまった。

だが、気持ち悪いというのは本当だ。

背筋に走った寒気が、いまだにひかないほどなのだから。

 

「何、それ! アヴェーン君と態度が違いすぎる! 差別だよ」

「当たり前でしょうっ!」

 

いつの日にかエリナが口にしていた言葉とほとんど同じ発言に、僕はツッコミ口調で返した。

 

「エリナと僕は恋人同士ですし、大好きな人から”好き”と言われれば、扇先生の時と態度に差が出るのは当然です。しかも、差別ではなく区別ですし」

「そんなにはっきり言われるとエリナの方が照れちゃうよ~もう。にしし」

 

僕のきっぱりとした言葉に、今度はエリナが頬を赤らめながら笑っていた。

 

「くそぅ~。いちゃいちゃして……いちゃいちゃして」

 

そんな僕たちに向けられるさらに冷たい視線。

その視線にはさっきまで混じり始めていた。

 

「でも、そういう男らしいところ、僕はさらに惚れ直しちゃう」

「だから、そうやってアピールするのやめてくれませんか? かなり気持ち悪いですから」

 

頬を赤くする扇先生から若干距離を取りながら、僕はお願いした。

 

「高月君って、妙にはっきりした性格なんだね。その言葉が痛い」

「だって、このくらい言わないと、先生には通じないですから」

 

それはもう約二か月の経験から実証されている。

 

「とにかく、エリナのことを”くれぐれも”よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 

僕の”くれぐれも”を強調したお願いに続いて、エリナも軽く頭を下げた。

 

「何だか、恋のライバルの為に骨を折るようで嫌なんだけど……そこは任せて。医者としてやるべきことはちゃんとやるつもりだよ」

 

微妙に不安ではあるが、医者としてはかなり優秀だというのは確かなので、信じるしかなかった。

 

「それじゃ、行こっか」

「あ、ちょっと扇先生に話があるから、向こうの方で待ってもらってもいいかな?」

 

病院を後にしようとするエリナを呼び止めた僕は、エリナにお願いした。

 

「これはもしかして、僕にも一縷の望みが残っているのかな?」

「違います。まじめな話です」

 

妙な期待をしている扇先生に、僕ははっきりと告げた。

 

「……? よくわからないけど、コースケがそういうなら、向こうの方で待ってるね」

 

そんな僕の様子に首をかしげながらも、エリナは少し離れたほうへと向かっていった。

 

(ごめんねエリナ)

 

そんな彼女に、僕は心の中で、謝りながら背中を見送る。

 

「それで、話って何かな?」

「エリナの今回の症状、もしかして僕の体質によるものなんでしょうか?」

 

用件を尋ねてくる扇先生に、僕は単刀直入に尋ねた。

ライカンスロープの血を吸血するとどうなるかは、僕には分からない。

だからこそ、扇先生に尋ねることにしたのだ。

 

「そうだよね。どうしてもそう考えてしまうよね」

 

対する扇先生は、僕の質問にある程度予想がついていたのか、特に驚いた様子も考えるそぶりも見せなかった。

 

「はっきりと断言はできないというのが答えになるかな」

「でも、もし原因だとすれば、僕は……」

 

僕の血を吸わなければ、エリナはこのようなことには……

 

「それを含めて調べるんだ。昨日には戻れない……だったら、明日に向かっていくのが君もいいんじゃないかな?」

「確かに、そうなんですけど……」

 

扇先生の言うことも尤もだ。

でも、妙に納得しきれない。

 

「それに、もし高月君が原因だとしても、結果が出てから考えても遅くはない。そっちの方は僕の方でちゃんとやっておくから、今高月君にできるのはアヴェーン君を不安にさせないようにすること。いいね?」

「……分かりました。ありがとうございます」

 

僕は納得することにした。

まだ、自分が原因であるとは決まったわけではない。

もし決まっても、責任はその時に考えればいい。

僕なりの責任の取り方を。

 

「何かわかったら、連絡するからね」

 

そんな扇先生の言葉を背に受けて、僕はエリナの方に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかした? 浩介」

「いや、なんでもない」

 

寮へ戻っている途中で、心配そうな顔で聞いてくるエリナに、僕はそう答えた。

 

(まだ、踏ん切りがついてないな)

 

納得はしたはずだが、妙に罪悪感のようなものを感じていた。

 

(やっぱり言うべきか? 言わざるべきか)

 

それは、あの時……エリナが特異な体質であることを告げた際に、却下した言葉。

”僕自身もエリナと同じ体質であること”であった。

あの時は、同情と言うことになってしまうのを防ぐために言わなかったが、今ならば同情と言う結論にはならないのではないだろうか?

 

(よし、言おう)

 

僕は、エリナに体質のことを告げることにした。

これで、少しでも僕の罪悪感が和らぐことを信じて。

 

「ねえ、エリナ」

「なーに? コースケ」

 

できるだけいつもの感じで、エリナに声をかける。

 

「実はエリナが、体質のことを話してくれた時に、言えなかったとても重大なことがあるんだ」

「重大なこと? それって何」

 

僕の切り出した話に興味を持ったのか、エリナは先を促してくる。

 

「僕も実は、エリナと同じ体質なんだ」

「エリナとって………もしかして!?」

 

それだけで理解できたエリナは、目を見開かせて僕を見る。

それに僕は頷いた。

 

「そう。僕も、”吸血鬼から血を吸う吸血鬼”なんだ」

「………」

「あの時は、受け入れた理由が道場だと思われるのがいやだったから、言わないようにしていたんだ。でも、隠していたのは事実。だから、ゴメン」

 

言葉を失っているエリナに、僕は言い訳をしながら謝った。

 

「どうしてコースケが謝るの?」

「え?」

「だって、コースケはエリナに嘘をついたわけじゃないでしょ? 言わなかったのはエリナを傷つけないためだし」

 

”それに、もしあの時に聞いていたら、もしかしたらそう受け取っていたかもしれないし”とエリナは言葉を続けた。

 

「だから、コースケが謝る必要はないの。でも、話してくれてありがとう、コースケ」

 

そう言ってほほ笑むエリナの表情に、うそをついている様子は見えなかった。

 

「それにしても、体質もお揃いだなんて……もーやだぁ。どんどんコースケに惚れちゃうよ~」

「あはは……」

 

頬を赤くするエリナに、僕もつられて照れてしまう。

それをごまかすように、笑うのであった。

そして、僕たちは寮へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 何か届いてる」

「また差出人がないね。あ、もしかして―――」

「裏モノの道具じゃないからね」

 

エリナが言いそうなことを予想して、僕は答えた。

 

「ちぇー、残念」

「にしても立派な箱だな……」

 

何故残念がるのかがわからなかったが、聞くと地雷になりそうなので、箱の方を確認した。

やや大きめの箱は、やや大きめのものであった。

 

「中は何かな?」

「たぶん、血液パックでしょ。僕用の」

 

中に興味を持つエリナに応えながら、僕は箱を開ける。

するとやはり、僕の予想通り血液パックが入っていた。

数は赤ラベルと青ラベルそれぞれ5パックずつだった。

 

「本当だ。エリナのとは違うんだね」

「でも、これを用意する人は同じだけどね」

「と言うことは、小夜が用意したんだ」

 

血液パックをまじまじと観察しながら感想を漏らすエリナに、僕はそう答えるとそれほど驚いた様子はなかった。

 

「まあ、そんなところ。それじゃ、ちょっとこれを冷蔵庫にでも入れてくるよ」

「おー、了解だよ」

 

そして僕は血液パックの入った箱を手に、自室に戻るのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「………………」

 

浩介達が立ち去った後、元樹は浩介の背中を見送っていた。

その表情は、どこか考え込んでいるような様子であった。

 

「高月君の血か………」

 

(まさか、”魅了”か?)

 

「いや、決めつけるのはやめておこう」

 

一瞬浮かんだ可能性を、元樹は頭の片隅に追いやるように頭を振ると病院の方へと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月長学院第二寮、エリナの部屋にて。

 

「はぁ~~~幸せぇ~」

 

そこではベッドの上で枕を握りしめて寝転がるエリナの姿があった。

その表情は幸せに満ちていた。

 

「あり? 電話だ」

 

そんな彼女の幸せな時間を妨げるように鳴り響く着信を告げる音に、エリナは首をかしげながら携帯電話を手にする。

 

「しかも、非通知だ」

 

電話の相手は非通知であったことに、首をかしげるがエリナはすぐに電話に出た。

 

「はい、もしもし」

『お前が、王女の座に就こうとする哀れな小娘か』

 

電話に出たエリナの耳に聞こえてきたのは、人を小ばかにしたような声だった。

その声も、変声期のようなもので声を変えているため、性別までは分からなかった。

 

「掛け間違えていませんか?」

『この私が間違えていると申すか? 本来であれば、貴様の首を切り落としているところだが、まあ良い。今日は気分がいい、許してやろう』

 

エリナの言葉に、電話口の人物は不機嫌な声色を上げるが、すぐに元に戻した。

 

『貴様の名は、エリナ・アブレル・アヴェーンで間違いはなかろう?』

「失敬な! ワタシの名前は”アブレル”じゃなくて、”オレゴヴナ”だよ!」

『そんなことはどうでもよい』

 

エリナの抗議を、電話口の人物は一蹴する。

 

『今回の電話は、小娘に王女の座の候補であることを告げるためのモノだ』

「だから、私は王女じゃない! と言うより、アナタは誰なの!」

 

エリナは直感で、この相手の人は危険だと感じ始めていた。

電話を切りたくなるのを必死にこらえてエリナは相手に名前を尋ねた。

 

『なんだ? 我が名が聞きたいのか? 本来であれば、斬首に値する愚行だが、良い。一度しか言わぬゆえ、頭に刻み込め。我が名は――――』

「ッ!!!?」

 

電話口の人物が告げた名前に、エリナは驚きに目を見開かせる。

 

『我が名は”世界を統べし王”だ』

 

それが、電話口の人物が名乗った名であった。

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