DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第48話です。

新年あけまして、おめでとうございます。
今年も、本作ともどもよろしくお願いします。


第48話 噂

「ちゅー……ちゅるる……んく、んく」

 

土日をまたいだある日、授業の休み時間にエリナが訪ねてきたため僕達は体育館にある倉庫に向かうとエリナに血を吸血をさせていた。

 

「ぷは……スッキリしたよ。ありがとう、コースケ」

「あれだけの量でいいの?」

 

吸われた量がいつもより少ないことを感じ取った僕はエリナに尋ねた。

 

「ダイジョーブ。ほら、元気でしょ」

 

そう言って片手を上げるエリナは確かに大丈夫そうではあった。

 

「そういえば、あれ以来大丈夫なの? その王とか名乗っているいたずら電話は?」

 

僕は気になっていることをエリナに尋ねた。

一昨日のこと、エリナに世界を統べる王を名乗る人物から、いたずら電話があったらしい。

内容は王女がなんとかかんとかというわけのわからない物だったらしいのだ。

 

「全然来ないよ。コースケの”非通知拒否”にしてもらったからダイジョーブ」

「それならいいんだけど」

 

相談に来た際に、非通知設定の電話がかかってこないように設定しておくという、初歩的な対策を施したのが功を奏したのか、それともあの一回限りだったのかは定かではない。

だが、いたずら電話がなくなったことは喜んでいいことだろう。

 

(それにしても、いったい何者なんだろう。その王って)

 

エリナに聞いてみたがのらりくらりと躱されてしまい聞けずじまいだった。

意地悪をしているというよりは、言いたくなさそうだったため、それ以上聞くようなことはしなかったが、どうしても気になる物は気になるのだ。

 

「エリナが言うことじゃないんだけど、もうすぐに授業が始まるよ」

「そうだね」

 

エリナに促されるまま、僕たちは教室へと戻っていく。

 

(とはいえ、知りたくないというのは嘘なんだよな)

 

そしてまた考えは元に戻る。

 

「はぁ………」

「浩介君、ため息なんてついてどうしたの? それになんか顔が真っ赤だよ」

 

ため息をつくと、いつの間にか前にいたのかニコラが心配そうな表情を浮かべていた。

 

「気のせいだよ」

 

ニコラにはそう答えたが、実際のところ気のせいではなかった。

エリナに血を吸われるということは、そのたびに密着するということになる。

体全体で感じるエリナの感触(なんの感触かはご想像にお任せしよう)に、僕は気にしないようにするので精神力をかなり消費することになるのだ。

 

「だといいんだけど」

「そうだ、一つだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

僕は、ふとある考えが思い浮かんだため、それを行動に移すことにした。

 

「何だい? 僕が知っていることならば答えよう」

「えっとね、”世界を統べる王”と言うやつを知ってるかな?」

 

マント(本人いわく漆黒の衣だが)をパサつかせながら聞いてくるニコラに、僕は疑問を投げかけた。

エリナが話さない理由を知るためにも、相手の存在を確かめることが必要なのだ。

 

「ッ!?」

 

そして、僕の問いかけに、ニコラは息をのんだ。

それだけではない、目はこれでもかと言うほどに開かれ、表情も固まっている。

尋常ではない状態だった。

 

「だ、大丈夫!?」

「も、もちろんだとも」

 

慌てて声をかけると、ニコラは正気に戻った様子で返事を返してくれた。

だが、手が微妙に震えているのを見逃さなかった。

 

「その人のことは、本当に言えないんだ。ごめん」

「気にしないで。こっちもおかしなことを聞いてごめんね。それじゃ」

 

説明できないことに謝ってくるニコラに、僕も謝り返すと教室に戻った。

 

(そんなに、危険な人なんだ)

 

収穫は十分にあった。

ニコラの反応から、”世界を統べる王”がどれほど恐れられているかは、想像に難くない。

 

(そんな人から、エリナを守れるのかな?)

 

そんな不安にも似た感情が僕を襲う。

だが、守るしかないのだ。

たとえこの身に変えてでも。

 

(他人任せみたいで嫌だけど、万が一の時は本能の方を解放させてでも)

 

ライカンスロープの本能であれば、エリナを守るための力や手段があるかもしれない。

 

(まずは、周辺に警戒……しばらく様子を見て何もないようだったら、その時に対策を考えよう)

 

そんなことを頭の中で考えながら、僕は授業の準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日ほど経ったある日のこと。

 

「高月君、アヴェーンさんがいらっしゃってますよ」

「エリナが?」

 

次の授業の準備をしていると、大房さんからエリナが訪れたことの知らせを受けた。

 

「ごめん、お願い……出来るかな?」

「大丈夫?」

 

そして現れたのは、見るからに苦しげな表情を浮かべるエリナだった。

それは思わずエリナに聞いてしまうほどに。

 

「へーき。ちょっと体がだるいだけだから。でも、ちょっと我慢できなくて………コースケのがほしくて」

「――――――」

 

エリナの言葉に、声にならない悲鳴を上げる。

そして一瞬心臓の鼓動が早まったような感じがした。

 

(な、何を考えてるんだ僕は!)

 

一瞬でも自分の中に芽生えてしまった不埒な考えをすぐに消しさる。

これはあくまでも医療行為。

それ以外でもそれ以上でもないのだ。

 

「それじゃ、いつもの場所に」

「うん。ありがと、コースケ」

 

僕は苦しげなエリナの体を支えながら、教室を後にする。

エリナからとてもいい香りが漂ってくるが、それをあえて気にしないようにした。

それに集中していたからこそ、僕は気付けなかった。

僕たちに向けられる視線がいつもとは違っているということに。

いつものように吸血された僕は、緊張で身長をバクバク言わせながら教室に戻る。

 

(はぁ……今日はいつも以上に意識したからまだ心臓がバクバク言ってる)

 

一度意識しだしたがために、動揺は収まらず終始鼓動が速い状態であった。

 

(あれ?)

 

一瞬物がぶれたようにも見えたが、ほんの一瞬だったため、僕はさして気にすることはなかった。

と言うよりも、吸血のたびに精神力を削られるという問題にどう対処していけばいいのかを考えるので精いっぱいだった。

これが、のちに僕たちにとんでもない事件を持ち込んでくることになるのだが、それを知るのはそう遠くない未来のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、その日はいつも通りだった。

いつものように稲叢さんが作ってくれた夕食を食べ、いつものように通学路を通って学院に向かった。

 

「な、なに?」

 

教室に入った瞬間に、僕たち……いや、僕に集められる視線に思わず震えてしまった。

その視線が好奇なものであったのが主な理由だけど。

 

「浩介、あなた何かしたの?」

「そんなことはないよ。断じて………たぶん」

 

ないと断言できないのがつらいが、自分でも意識していないだけで何かをしていることもあるのだ。

 

「でも皆、高月君の方を見てるね」

「えっと……髪形もいいし顔に落書きもない。服もちゃんと来ているし、特におかしなところはないね」

「まあ、服を着ていないのに気付かないでここまで来るのは相当のあれくらいだけどな」

 

佑斗君の言葉がとても痛い。

確かに、服を着ていないことに気づかないのはおかしすぎるけど。

 

「ということは、やっぱり浩介が変な事でもしたんでしょう」

「………ちょっと聞いてくる」

 

このままではらちが明かない。

自分が悪いことをしたのなら、それに対する処置も考えなければいけない。

そのための原因探しで手っ取り早いのは、実際に聞くことなのだ。

そして僕は、ひそひそとこちらの方を見ながら話しているクラスメイトに声をかけることにしたのだ。

 

「ちょっと、いいかな」

「え? 高月君!?」

 

僕の顔を見たクラスメイトの女子たちは驚いた様子だった。

 

「さっきから、僕の方を見て何かを話しているようだけど、何か悪い事でもしたかな?」

「そういうことじゃなくて、ちょっとした噂があって……」

悪いことをしたのなら、まずは謝ろうと考えていた僕に、クラスメイトの女子たちは視線を右往左往させながらその理由を教えてくれた。

 

「噂? それはどんな悪い噂なの?」

「悪い噂じゃないよ。ただ……ちょっとここじゃ言いにくいというか……」

 

噂の内容を聞こうとするが、女子たちは言いにくそうにもごもごと何かを口にしていた。

 

(一体どんな噂なんだろう?)

 

とうとうわからなくなった僕は、首をかしげるしかなかった。

 

「高月君っ」

「大房さん?」

 

突然声をかけてきたのはいつにもまして鬼気迫っているような表情を浮かべる大房さんだった。

 

「大房さん、ちょうどよかった~。私たちの代わりに、噂の説明お願いね」

「えっ? ちょっと待ってください! 私だって説明できませんよ!」

 

大房さんの登場に、これ幸いとばかりに説明役を押し付けるようにして女子たちは逃げるように去っていった。

 

「私だって恥ずかしいですよ」

 

頬を若干赤らめている大房さんの様子に、僕はその噂がどのようなものかがさらに気になってしまった。

 

「大房さんは知っているのかな? その噂を」

「えっと……高月君、ちょっとこちらに」

 

そして僕は大房さんに腕を引っ張られるようにして教室の隅の方に連れて行かれた。

 

「最近高月君は、アヴェーンさんと一緒ですよね?」

「そうだけど」

 

連れて行かれた僕に、大房さんは唐突に尋ねてきた。

 

「ッ! もしかして、エリナのことがばれたの!?」

「アヴェーンさんとのことがばれたということは、やはりお二人はその、せせせせせせ――――!!」

 

最悪の事態が脳裏をよぎった僕は慌てながら声を上げた。

だが、それに返ってきたのは僕が危惧していたものとは全く違うようなニュアンスの反応だった。

 

「……はい?」

「だからですね、お二人はそのエ……不純異性交遊をしているんじゃないですか?」

 

聞きかえした僕に、大房さんは目を回しながらも僕に問いかけてきた。

 

「不純異性交遊って、その……エッチのこと?」

「だから、言い直さないでくださいよっ!」

 

確認するために言い直して尋ねると、頬を赤くした大房さんに怒られてしまった。

 

「ご、ごめん。動転してつい。にしても、どうしてそんな噂が」

「知らぬは本人ばかり、か」

 

僕の疑問に答えてくれたのは、意外にも佑斗君だった。

 

「学園中で噂になってるんですよ。お二人がその……毎日、そういう行為をしていると」

「成程ね……」

「まさかここまで大きくなっちゃうなんて」

 

全く身もふたもない噂に、なぜか美羽さんや布良さんたちは納得している様子だった。

 

「あの、どうして納得してるんですか?」

「だって……ねぇ?」

 

僕の疑問に、美羽さんは何とも言い難い表情を浮かべながら佑斗君に向けて答えていた。

 

「結局俺が言うのかよ。まあ、いいが」

 

ため息交じりにではあるが、美羽さんの視線に佑斗君は僕の方をいつにもなく真剣な面持ちで見てきた。

 

「これから俺が言うのはシチュエーションを、客観的に聞いてくれ」

「分かった」

 

一体それと納得している理由にどのような関係があるのかがわからなかったが、僕は素直に頷いた。

そして、佑斗君は口を開いた。

 

「毎日毎日、休み時間のたびに女子と一緒に姿を消す男子。そして、戻ってくると女子は元気になっていて、男子はいつにも増して疲れたような様子になる……これを客観的に見るとどう思う?」

「………………………はっ!?」

 

佑斗君に聞かれてようやく理由がはっきりとした。

 

「あと、他にも噂があってですね。アヴェーンさんは………その、妊娠、してるんじゃないかと」

「にっ!?」

「妊娠!?」

 

大房さんから告げられた衝撃のうわさに、僕以上に布良さんが驚いていた。

叫ばないあたり、まだましなのかもしれない。

 

「それは、尾ひれがついただけじゃないのか?」

「でもですね、お二人で病院から出ていく姿を見たという人もいますし、処女がどうとかの話声も聞こえたと……」

 

佑斗君の見解に反論するように告げられた内容には、非常に思い当たるものがあった。

 

「あれか……」

 

思わず頭を抱えたくなった。

 

「”あれ”ということは、心当たりがあるようね」

「いや、あれは扇先生が悪乗りしていっただけなんだ。佑斗君ならわかるでしょ? あの人あんな性格だから」

 

妊娠の疑惑がさらに増しそうになったため、僕は慌てて釈明した。

別の疑惑が浮かびあげられそうな気もするが、背に腹は代えられない。

 

「まあ、確かに」

 

佑斗君も頷いてくるあたり、ある種の被害者なのかもしれない。

 

(それにしても、僕の処女って一体どうする気だったんだろう)

 

再び再浮上した疑問はどうでもいいことなので、再び頭の片隅に追いやった。

 

「ちなみに、寮長として、寮長として! 聞くんだけど、二人はしたの? その………セ○○ス」

「してないっ!」

 

顔を赤くしながら聞いてくる布良さんに、僕は力強く否定した。

 

「そ、そうだよね。しているわけがないよね」

 

だが、僕の返答に安心したのか、布良さんは笑顔で安心していた。

 

「そうだよ。それに恥ずかしながら、僕はまだ童貞だし」

「そんなことまで聞いてないよっ!!」

「ご、ゴメンなさいっ!」

 

ふと余計なことまで言ってしまった僕に、布良さんの喝が入る。

 

(いつも思うんだけど、どうしてこういう時にだけ布良さんの頭にねこ耳があるような幻覚を見るんだろう?)

 

そんなどうでもいい疑問についての答えは、考えないようにした。

考えても、答えが出る気がしない。

 

「そういうことをしていないんならいいんだけど、このまま噂が広まって呼び出されるようなことになったらまずいよね」

「え? どうして」

 

ニコラがつぶやいた言葉に、首をかしげる布良さん。

 

「ちゃんと噂話が嘘であることを言えばいいだけじゃない」

「でも、そのためには”それでは二人で何をしていたのか”を説明しなければいけないことになるんだ」

 

布良さんの指摘に、ニコラが説明した。

 

「ちなみに、できるの?」

「たぶん無理。人を選べばできるかもしれないけど、ここまで広まっていると難しいと思う」

 

どんなに説明の方法を努力をしてもエリナの体質のことが知られてしまう可能性はかなり高かった。

だとすれば、説明をするわけにはいかなかった。

 

「とりあえず、これからはおとなしくして変に噂話が静まるのを待つようにするよ」

「あ―――」

 

今後の対策を口にして、話を終わらせようとしたが、大房さんが突然僕を唖然とした表情で見て声を上げた。

正確には、僕の後方だが。

 

「どうやら、手遅れみたいだ」

「え? ………あ」

 

顔を伏せる佑斗君の言葉に、後ろを見るとそこにはいつにもまして景気が悪そうな表情を浮かべる枡形先生だった。

 

「高月、呼び出しだ。内容は分かってるな?」

「はい。たった今理解しました」

 

なんとなくだが、こういうのを絶望的な状況と言うのだろう。

そんな一番体感したくない状況を、僕は今実際に体感しているわけだが。

 

「ったく、面倒な問題を起こしやがって」

「すみません」

 

愚痴を漏らす枡形先生に、僕はそう言うしかなかった。




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