物語も中盤に突入しました。
今回の話を読んでいただくとわかるとおりに、原作のフラグは思いっきりへし折られました。
つまり、ここから半オリジナルの展開は始まっているということでありまして……
それでは、どうぞ
「そういえばエリナ」
「なに? コースケ」
僕は、ふと隣を歩くエリナに話しかけた。
「昨日はごめんね。いきなり、その……しちゃって」
「ううん。コースケの気持ちがとてもうれしかったからいいよ。でも、もうちょっとムードを作ってほしかったな~なんて」
僕の謝罪の言葉に、エリナは首を横にしながら答えると、苦笑を浮かべながら言ってきた。
「それは、エリナにも直接当てはまりそうな気がするんだけど」
「おー、確かに」
そしてすんなりと認めてしまうエリナに、今度は僕が苦笑する番だった。
「それにしても意外だったな。異論とかが出て反対されるかと思っていたのに」
「もしかして、恋人宣言のこと? それは、ミューも言っていたけど、どうしようもないことだもんね」
僕がふと漏らした言葉に、エリナは首をかしげながら言葉を続けた。
「それに、もし反対されても、エリナはコースケから離れないよ。だって、それくらいコースケのことが大好きなんだから♪」
そういって僕の腕にしがみついてくるエリナに、僕はその頭を優しくなでることで答えた。
「でも、コースケは反対されたらどうするつもりだったの?」
「説得する……かな」
予想外のエリナの問いかけに、僕は思わず疑問形で答えてしまった。
その答えに、エリナの表情ががっかりした様子に変わっていった。
「むぅ……コースケにとってエリナへの気持ちってそんなものだったんだ。ショックだよ」
「なぜ!?」
考えていないとは言っておらず、説得すると答えているのに、なぜか相手を悲しませてしまった。
「駆け落ちするっ! くらいの答えを期待してたのになぁ。エリナだったらコースケがいればどこへだって行けるよ」
「駆け落ちって……」
エリナに上目づかいで言われた僕は、言葉を失っていた。
反対=駆け落ちと言うことはまったく考え付かなかった。
「僕だって、エリナと一緒ならどこへでも行けるし、なんだってできるよ」
だからこそ、僕はできる限り言葉を選んでエリナに話しかけた。
「でもね、駆け落ちをするというのは逃げるよなものでしょ? 僕はそういうのが嫌なんだ。だから逃げるくらいだったら賛成されるまで立ち向かっていきたい」
「コースケ……もぅ、本当にかっこいいんだから。これ以上エリナを惚れ直させてどうするの?」
にやりと笑みを浮かべながら嬉しそうに返してきたエリナの表情に、僕は間違った言い方をしていないことを知った。
「でも、たとえ反対されたとしても、僕は絶対にエリナから離れたりはしないけどね」
「お、さっそく調教プランを立てているなんて。いけないご主人様♪」
ふと漏らした言葉に笑顔を浮かべながらエリナが下ネタで切り返してきた。
「何故に調教に? まあ、間違ってはいないんだけど」
「にひひ~。エリナも、コースケから離れないよ」
僕の歯切れの悪いツッコミにエリナはいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべて、僕の言葉に返事を返してくれた。
「あ……」
僕がエリナの手の指に絡めるいわゆる”恋人つなぎ”をすると、エリナは驚いた様子で声を上げた。
(こ、これものすごく恥ずかしい)
かくいう僕も、恥ずかしいことに変わりはなかった。
だが、その恥ずかしさを包み込むようにエリナがやさしく握り返してきた。
「何だか、こうするだけで恥ずかしいね。なはは」
そういって困ったように笑うエリナの頬は若干赤かった。
「でも、こういうのもいいよね。コースケの温かいのが伝わってきて」
「そうだね」
そういって優しく微笑むエリナに、僕は顔が赤くなるのを隠すために前を向きながらそう答えて足を進める。
「それじゃ、行こうか」
「うん♪」
そして、僕たちは足を進めるのであった。
「おはようございます」
「ちゃんと来たか。何よりだ」
僕が向かったのは風紀班の支部だった。
入るなり感心した様子で頷く枡形主任が、僕を出迎えてくれた。
「そりゃ、ちゃんと来ますよ。学院側の処分なんですから」
「だが、連絡した時はごたごたしていたようだからな、聞いていないかと思ったんだが」
僕の反論に、主任は何とも言い難い表情のまま返してきた。
確かにその通りだった。
皆にキスシーンを見られて失神した僕が、学院側の処分を知ったのはつい先ほどだったのだから。
ちなみに、学院側から処分の連絡があった際に代わりに聞いてくれた佑斗君には感謝してもしきれない。
ちなみに気になる処分の内容だが『一週間ボランティア活動として朝までみっちりと働くこと』だった。
「でも、普通ボランティア活動と言えば、学院の清掃とかを思い浮かべましたけど、まさか通常の労働とは」
「よくよく考えると、高月とアヴェーンは同じ寮で暮らしている。そこで謹慎をさせるのでは意味がない。かといって仕事をさせるにも監視が必要だ」
「それでこうなったということですね」
確かにそれならば、このような内容の処分にも納得がいく。
「それで、アヴェーンはちゃんと仕事に向かっているのだろうな」
「はい。本人は気にしている様子でしたが、サボるようなことをするやつではありませんから大丈夫です」
主任の問いかけに答える僕に、主任は目を伏せて”そうか”と相槌を打った。
「念のために言うが、謝礼の方にも反映はされる。ただし、処分と言うことで減額はされるがな」
「いえ、もらえるだけでありがたいです」
処分を受けた身なので、タダ働きを覚悟していたため、とても意外だった。
「そういえば、捕り物とかってないんですか?」
「急を要するものはないな。この間の”L”の一件を覚えているか?」
「ええ、潜入調査中のことでなければ」
主任の問いかけに、僕は頷きながら答える。
潜入調査中のことはやはりと言うべきか、全く記憶にない。
どうやってあの男をとらえたのかが全くもって疑問だったぐらいだ。
「あの時に噂が出た個所を叩いて回ったからそのダメージでおとなしくなっているようだからな」
「ということは巡回くらいですね」
捕り物が特にないということは、巡回くらいしかやることはないだろう
尤も、正確には巡回と報告書の事務仕事の二つになるけど。
「あ、それと仕事中にもしかしたらエリナと会わなければいけなくなると思うんです」
「………その理由は答えられないことか?」
目を細めて真偽を見定めようとする主任の問いに、僕は視線をそらさずに頷いて答えた。
「ならば、良いぞ」
「え? いいんですか?」
あっさりと認められたため、僕は思わず主任に尋ねてしまった。
「必要なことなんだろう? お前の目を見ていれば嘘をついていないことくらいは分かる。それに毎日顔を合わせてもいるからな」
「ありがとうございます」
主任の返事に、僕はお辞儀をしてお礼を言った。
こうして、信頼されているのはとても嬉しいことだ。
信頼はお金では買えない。
確かにその通りだ。
「だが、悪用はするな。このことは相棒にも臨機応変に対応させるようにする」
「相棒……フルで働くから、今まで通り佑斗君や布良さんたちと組むわけにはいかないんですね」
途中交代は可能だろうけど、主任がそのようなことをするとは到底思えない。
おそらくは付きっきりでいられるような相手を選ぶはずだ。
「そういうことだ。お前の事情を考慮すると、事情を知っている奴がいいだろうからな」
「それじゃ、僕の相棒は誰ですか?」
その僕の問いかけを待っていたとばかりに、一人の女性隊員が立ち上がった。
黒髪のスレンダーな体系の女性だった。
年齢はおよそ………やめておこう。
何だか、数字を思い浮かべたら何かが終わるような気がする。
「私が今日から一週間、高月君の相棒を務める前田よ。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
女性隊員……前田さんの自己紹介に、僕は一礼して答えた。
「分かっているとは思うが、監視役を兼ねているから無断で行動をした時も処罰の対象になるぞ」
「了解です」
一度やっているだけに、主任から釘を刺されるように中止されてしまった。
「ならいい」
そう告げて、主任は僕の方から離れていった。
どうやら、話はこれで終わりのようだった。
「それじゃ、さっそく業務を始めましょう」
「業務というのは、巡回ですか?」
さっそく仕事を始めることを告げた前田さんに、僕はそう尋ねた。
「ええ。でも、回るのはホテルやカジノ方面だから数回くらい行っているのよ」
「なるほど。そういえば、自分は飲み屋街とかばかりでしたね」
とすると、今日回るのは初めてのコースと言うことになるのだろう。
「あそこは時間にもよるけど、カジノとかは毎日にぎわっているからね」
それで数回行っているのかと、僕は納得していた。
「気を付けることと言えば……実務訓練は受けているわよね? 確認試験とかも」
「はい。ちゃんと合格してます」
頬に手を当てながら聞いてくる前田さんの問いかけに、僕は頷きながら答える。
「なら大丈夫よ。いつもの巡回とさほど変わらないから」
そう言って、頷く前田さんの言葉に僕はすっと肩の力が抜けたような気がした。
そして、僕たちは巡回を始めるのであった。
「それにしても、酔っぱらいとかもいないですし、もめ事も少ないですね」
「そうね。この辺りはホテルの方とかで警備員がすでにいたりして、犯罪は少ないのよね」
少し広い通りに出たところでつぶやいた僕の言葉に応じるように前田さんが口を開いた。
「だから、大抵は道案内とかくらいね」
「ということは、観光客の対応ですよね」
道案内と言うくらいなのだから、きっとそうなのだろう。
自分もそうだったのだから。
「まあ、ほとんどはそうなるわね。まあ、たまにお酒に酔っぱらった人が道を聞いてきたり、方向音痴の人が道を尋ねてくることもしばしばあるけど」
「そ、それは大変ですね」
その時の前田さんの苦労が何度なくわかったような気がした僕は、心の中でそういうのに遭遇しないように祈っていた。
時より、僕は方向音痴なのではないかと思うことがあるが、きっと勘違いなのだ。
そうであると思いたい。
「でも、犯罪が起こるときは起こる物なのよね。昔はカジノの方に強盗が入りそうになったことがあったらしくてね、その時は大変だったと主任がぼやいていたわ」
「それはなんだか大変そう――――」
苦笑しながら話す前田さんに相槌を打っていた僕は、ふと大通りの一番向こう側の方に目をやった。
「どうかしたの? 高月君」
突然言葉を止めた僕に、怪訝な表情を向けて聞いてくる前田さんに、僕は先ほど見つけた違和感を口にする。
「あそこにいる黒っぽいハイヤーなんですけど」
「あのハイヤーがどうかしたの?」
「あそこのそばに立っている外国人風の男の人、銃を所持しています。懐の方が微妙に膨らんでいるので間違いがないかと」
かなり距離はあるが、黒っぽいハイヤーのそばにいる男性の懐のふくらみを見て、僕は銃を所持しているのではないかと思ったのだ。
「えぇ!? 私からは良く見えないけど、それは間違いないの?」
「ええ。資料で呼んだとおりです」
前に資料で銃を所持している際の見分け方の項目があり、そこに膨らみを見るとの記載があったのを思い出していた。
「だったら間違いはないんだろうけど……明らかに外国人風よね。こんなところに銃を持ち込めるはずはないんだけど」
「一応声掛けしてきます」
考え込むようにつぶやいている前田さんに、僕はそう告げるとなるべくゆっくりと外国人風の男たちがいる方へと向かっていく。
「あ、ちょっと待って! 高月君」
そんな僕に、前田さんが呼び止めるように声をかけてきた。
僕はそれを背に受けながら、男の人に近づく。
(後ろの方から近づいた方がいいかな?)
もし銃を携行しているのであれば、真正面から行けば攻撃を受ける可能性がある。
なら、背後から言ったほうが最善だろう。
(でも……)
もし相手が悪い人ではなかったとしたら、それをした瞬間に変な争いになりかねない。
(よし、前から行こう)
僕は男性の正面から近づくことにした。
あらかじめ、僕が特区管理事務局の風紀班に所属する身分証を出しておく。
下手をすると間違って撃たれる可能性があるためだ。
(これで攻撃してきたら、その時はその時)
そんな感じで、僕は男の方に近づいていった。
「あの、すみません」
「なんだね、君は?」
声をかけると、男性はあからさまに鬱陶しそうな表情を浮かべ不快感を示してきた。
それと同時に、手を懐の方に持っていく。
「特区管理事務局、風紀班の者です」
「………その風紀班とやらが何のようだ?」
僕の提示した身分証を確認した男が、僕に用件を尋ねてくる。
「お宅、拳銃を所持されていますよね?」
「だからなんだ? 逮捕でもする気か」
僕の問いかけに、男は隠すどころか逆に開き直ってきた。
「ちょっと待って、それはまずいから!」
「え?」
どうしようかと考えていたところに、割り込んできた前田さんに僕は思わず固まった。
「その車、青地に白抜きの外ナンバーだから駄目なのっ!
「外ナンバーと言うことはまさか……」
前田さんの悲鳴にも近い言葉で、僕は相手の正体がわかったような気がした。
「外交官車両……外交特権を有しているということですか?」
「その通りだ」
苛立った様子で頷く護衛と思わしき屈強な男の人は、僕をにらみつけるように鋭い視線を向ける。
「す、すみません。早合点いたしました」
「銃を携行されているのに気付いて、ナンバーを確認する前にお声を駆けさせていただいたんです。本当に失礼しました」
僕に続いて前田さんも男の人に謝罪の言葉をかける。
「………まあ、いい。特に実害もないようだし、今回は不問とする」
そんな僕たちに、男の人は”気をつけろ”と言葉を吐き捨てると、車に乗り込んでそのまま走り去っていった。
「これって、かなりまずいですかね?」
「どうかな……乱闘にはなってないし声掛け程度だから……でも、主任になんて言われるか」
背筋に寒気が走る中、問いかけた僕の言葉に前田さんは表情をこわばらせながら答えた。
(前から行ってよかった)
もし背後から行っていたら確実に乱闘騒ぎになっていただろう。
まさに、不幸中の幸いだった。
(それにしても、外交官車両なんて初めて見た)
本土にいたころはテレビがなかったため、初めて目の当たりにしたのだ。
ちなみに、いつもニュースはラジオで聞いていたが、それは関係ないだろう。
そんなこんなで、再び巡回を再開させた僕たちは支部に戻った。
ちなみに、主任からは軽く注意をされたぐらいで済んだ。
大目玉をくらうことを覚悟していただけに、かなり意外だったが、主任曰く
『馬鹿者。乱闘騒ぎでも起こしていたら、こんなではすまん』
とのことだった。
やはり、自分の選択はある意味正しかったのだろう。
ちなみに、この日僕は主任から始末書を書かされる羽目になったのは、言うまでもない。