DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第57話です。

かなり遅れてしまいすみません。
なぜかタイトルを入力すると『王と』が『おう吐』になってしまうという事態が発生しています。
さすがに誤字変換を直しましたが


第57話 王と王女

「頼むから、いちゃいちゃしないでくれるかな。見ていて悔しくなるから」

「いえ、別に見せつけているわけでは……」

 

悔しそうに言ってくる扇先生に、僕はどう答えればいいのかに戸惑ってしまった。

 

「まだ、高月君にはやってもらわないといけないことがあるんだからね」

「い、一体何をさせる気ですか?」

 

怪しげな笑みを浮かべて歩み寄ってくる扇先生に、僕は思わず後ずさりしてしまった。

 

「別にそれほど大したことではないよ。ただ、これを飲んでほしいだけだから」

「これって、覚醒用の血液パックですよね?」

 

扇先生に手渡されたのは、僕が本能(消された人格だが)を呼び起こす際に飲む血液パックだった。

 

「その通り。これを飲んで、本能となっている彼に前に出てきてもらうんだ」

「あの、Dr.オウギ。大丈夫なんでしょうか? いきなり攻撃などは」

 

扇先生の言葉に、ソフィーヤさんが申し訳なさそうな表情を浮かべながら声を上げた。

その意見は、とても正しいものだった。

僕の本能は危険すぎる存在なのだ。

なので、そのような異論が出てきてもおかしくはないのだ。

 

「ご安心を。こちらには万が一の際の対策方法がありますので」

「それでしたら、私の方に異論はありません」

 

扇先生の説明を聞いたソフィーヤさんは納得したようで、頷いていた。

 

「それじゃ、二人は少し離れてもらえるかい?」

「ワタシはここでいいよ」

「エリナ、アナタは何を――」

 

エリナの言葉に、ソフィーヤさんは驚いた様子で口を開くが、それを遮るようにしてエリナが言葉を続けた。

 

「コースケは、エリナのことを信じてくれたんだよ、だからエリナもコースケを信じたい。それに、コースケの彼女だし」

「……さりげなく惚気たわね」

 

苦笑しながら返したソフィーヤさんは、何も言わなかった。

 

(自分の存在を認められるのが、これほど嬉しいなんて)

 

そんなことを思いながら、僕は覚醒用の血液パックを口にした。

その効果はすぐに表れ、僕の意識は再び闇に落ちるのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「………」

「コースケ?」

 

血液パックを口にしたとたん項垂れる浩介に、エリナはコースケに呼びかけた。

 

「…………」

 

だが、それには反応を示すことがなかった。

 

「あの、本当にあれで本能と言うのが現れるんでしょうか?」

「ご心配には及びません。もうすでに現れているはずですから」

 

反応を示すことのない浩介の様子に、不信感をあらわにするソフィーヤに元樹はそう返すと浩介の方に歩み寄る。

 

「だよね、高月君?」

「……………ふっ」

 

元樹のその問いに、浩介は鼻で笑うことで反応を示した。

 

「よもや、説明目的で呼び出されるなんてな」

「こ、コースケ……だよね?」

 

雰囲気が変わっている浩介の様子に、エリナは思わずそう尋ねてしまった。

だが、その問いに浩介は不機嫌さを隠すこともなく声を上げた。

 

「それ以外の誰に見えるというんだ? 小娘」

「ッ!?」

 

その言葉遣いに息をのむエリナをしり目に、今までうつむかせていた顔を上げた浩介は元樹の方に視線を向ける。

 

「それで、いったい何の用だ?」

「君にひとつ聞いておきたいことがあるんだ」

 

浩介の問いかけに、即答する形で元樹は堪えると、真剣な面持ちのまま浩介に疑問を投げかける。

 

「君の血を飲んだ吸血鬼のことは、覚えているか?」

「あぁ、もちろんだ。あの雑種のことならば、この私が覚えるに値しない奴だったが……何かあったのか?」

 

元樹のその問いかけに、浩介は小ばかにするような口調で答えながら、元樹に問いかける。

それは期待に満ちたような感じでもあった。

 

「死んだよ。悪魔に追いかけられるという言葉を残してね」

「あはははは! そうか、死んだかっ!」

 

元樹の言葉に、浩介は楽しげに笑いながら返した。

 

「…………」

「なるほど……それが、世界を統べし王の姿、ということのようね」

 

浩介の変わりように、声が出ないエリナをよそにソフィーヤはポツリとつぶやいていた。

 

「おや? おやおやおや、そういうお前はミズ・ソフィーヤ。久しいな」

「―――っ! やはり、あの時の大物吸血鬼は……」

「そうだ、私だ。本来であれば、このように話をするのも大罪物だが、今回は特別だ。この場にいる者全員は私と対等であり、”彼”の時と同様の呼び方を許そう。まあ、既にそうしている者もいるようだが」

 

威圧的な口調でそう告げた浩介は、静かに息を吐き出す。

 

「どうして、タカツキ君はここに? 噂通りなら、どこにも属さないというのが、アナタのスタンスだったはず」

「私にもいろいろあるんだよ。昔小夜と共に旅をしたことがあってな。その時からの付き合いだ。一種の同士……のようなものだと思っている。その同士が私をここに呼び寄せるということは、何かの思惑があるだろうよ」

 

ソフィーヤの鋭い追及に、浩介は目を閉じて応える。

その表情からは、何を思っているのかを悟ることは不可能であった。

 

「僕からもいいかい?」

「今更だな。いいっていう前に、すでに聞いていると言うのに」

 

元樹が確認を取ろうとするのを見て、浩介は苦笑しながら先を促す。

 

「どうして、彼が死ぬことになったのか、その理由を教えてもらってもいいかい?」

「その理由に、おおよそのめどは出ているはずだが……まあいいか」

 

浩介は元樹に考え込むようなしぐさをして相槌を打つが、そのしぐさをやめた浩介は真剣な面持ちのまま口を開いた。

 

「理由は単純。あの雑種は、私の血を吸ったことで呪いを受けたのさ」

「呪い……それは、具体的には?」

「血を吸った者に、ひと月ほどで死に至らせる呪い。私の血を体内に含んだ瞬間、その呪いは始まるのさ。悪夢もその一つ」

 

肩をすくめながら答える浩介に、疑問の声が上がった。

 

「どうして、悪夢が呪いなの?」

 

それは意外にもエリナによるものだった。

 

「これはたまげた。小娘にしては鋭い疑問だ……馬鹿にはしてないからな」

 

浩介の言葉に、二方向からとげのある視線を向けられた浩介は、フォローするように口を開いた。

王の威厳がまったくない様であるが、それをだれも口にすることはなかった。

 

「悪夢は、死に至るまで相手を精神的に苦しめるための罰。王の血を勝手に飲むなど、万死に値する故のものだ」

「………ちょっと待って」

 

そこで、声を上げたのはソフィーヤだった。

 

「エリナアナタ、タカツキ君の血を飲んだのよね?」

「う、うん………でも、コースケが吸っていいって言ってくれたからダイジョーブだよ」

 

エリナの返事を聞いた瞬間青ざめたソフィーヤの表情を見て、エリナが苦笑いしながら相槌を打った。

 

「本人が認めても、呪いは止まらないぞ。念のために言うが」

「…………」

 

浩介の言葉に、エリナは言葉を失った。

 

「でもワタシが血を最初に吸ったのってもうひと月くらい前になるはずだよ」

「そこがわからなかったんだ。理由を教えてくれないかな?」

 

困惑した状態で話すエリナに続いて、元樹が浩介に尋ねた。

 

「それは簡単さ。小娘は、呪いの効果を免れる唯一の方法をしたのだからな」

「唯一の方法? エリナ、心当たりは?」

 

エリナに問いかけるソフィーヤだったが、返ってきたのは分からないという旨の返事だった。

 

「王の刻印だよ。王がその者を王女とするにふさわしい人物にする物さ。この刻印を小娘が持っているために、呪いは無効化されたということになる。無論、女性のみにしか効果はないが、今後私の血関連での呪いは起こらないだろうよ」

「ちなみに聞きたいんだけど、その刻印って言うのは何? これは医者として聞きたいことなんだ。医者として」

「元樹、念を押すように言う所が非常に怪しいぞ」

 

何かをたくらむような笑みを浮かべている元樹に、浩介はあきれた様子で目を細めながら言うと、その方法を口にした。

 

「王の刻印は、口づけだ」

「それって、キスってことだねっ」

 

浩介の言葉を、エリナがなるほどと言った表情で相槌を打った。

 

「人がせっかくぼかして言ったことをドストレートに変換するな。まあ、その通りだが」

 

キスと言う単語が恥ずかしかったのか、浩介は顔を赤らめながらツッコみを入れていた。

 

「王の刻印を受けたエリナは、その瞬間王女の資格を手にしたことになる」

「おー、ということはワタシは女王?」

「いいなー、僕も王女みたいに高月君といちゃいちゃ―――きゃん!」

 

王女と言う単語に、喜ぶエリナを見ていた元樹がうらやましそうに身をくねらせていると、浩介から痛烈な一撃を受けた。

 

「性癖もここまで来ると恐ろしいな。だが、私はあまり冗談が聞かない。悪ふざけも大概にすることをお勧めするぞ」

「分かりました。頭を切り替えますから、蹴らないでください。痛いんですからっ」

「さて、時間がないから単刀直入に言おう」

 

元樹の抗議を無視した浩介は、真剣な面持ちでエリナに向き直る。

 

「王女になった者には過酷な運命が待ち受ける。王と共に冥府魔道の道を歩むという運命がな。それでも、お前は王女として……彼の婚約者として歩み続けるつもりか?」

「…………さっきコースケに言ったよ。何度聞かれても、エリナはコースケのことが大好きだから、どんな苦難でも乗り越えられるの。それに、コースケが守ってくれるって言ってくれたから、エリナは怖くないよ」

 

浩介の嘘は許さないと言いたげな視線に負けることなく、真剣な表情でエリナは浩介の問いかけに答えた。

 

「………なんだ? この妙にむず痒い感覚はっ」

「くそぅ………いちゃいちゃして、いちゃいちゃしてっ」

「まあまあ、幸せそうなんですからいいじゃないですか」

 

得体のしれない感覚に浩介が悶えているのを見た元樹は、怨みごとをつぶやきながら浩介達に冷たい視線を送っていた。

そんな元樹を諭すソフィーヤの表情も、苦笑だった。

 

「だぁっ。もう寝るっ!」

 

とうとう感覚に耐えられなくなった浩介は、そう宣言すると力いっぱい目を閉じのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「ん……あれ?」

 

再び意識が戻った僕は、周囲を見渡す。

冷ややかな視線を扇先生たちから受けているのだが、いったい何があったのだろうか?

 

「えっと……何事?」

「お、本当に戻った」

 

事態を把握できない僕に、エリナは驚いた様子で声を上げた。

 

「僕、なんか失礼なこと言ってなかった?」

「んー、小娘以外は言ってないよ。たぶん」

 

僕の問いかけに、あごに手を当てて考え込むエリナは、そう答えた。

 

「何だか、本当にごめんなさい」

「いいって、とても面白かったから」

 

確実に失礼なことを言っていたため、彼に変わって謝ると、エリナは気にしないでとばかりに笑って許してくれた。

 

(それにしても、面白いと言われるなんて王として形無しだよね)

 

自分自身だとしてもなんだか滑稽に思えてきた。

 

「とにかく、アヴェーン君のことについては僕とミズ・ソフィーヤの方で調べてみるから、安心して」

 

咳払いをして話題を変えた扇先生はそう告げると、ソフィーヤさんの方に顔を向けた。

 

「それとミズ・ソフィーヤ。くれぐれもこのことは」

「分かっております」

 

扇先生の言わんとすることがわかったのか、ソフィーヤさんは静かに頷いて答えた。

結局、詳しいことがわかったらまた連絡するということで話はまとまり僕たちは寮に戻ることになった。

 

 

 

 

 

「それにしても、今日はものすごく驚きの一日だったよー」

「その驚きの一つに、僕も入ってるよね?」

 

帰り道、病院でのことを振り返るようにつぶやいたエリナに、僕はそう訊くとエリナは”もちろん”と頷き返した。

 

「でも、こうやって見るとそういう風には全く見えないよね」

「まあ、体質については行動しなければわからないし、彼については人格すら違うから」

 

エリナの感想に、僕は苦笑するしかなかった。

実際、僕ですらあまり状況を把握できていないのだ。

 

「でも、コースケの王女様か……」

「何? その王女って」

 

エリナがつぶやいた”王女”と言う単語に、僕は疑問を投げかける。

 

「詳しくは分からないけど、お嫁さんみたいなものだと思う」

「お嫁さんって、まだ結婚もしてないのに」

 

一瞬、エリナと結婚した後のことを想像しかけてしまった。

しかも想像の中で僕たちは、背筋が痒くなるほどの恥ずかしいやり取りをしていた。

 

「……何だかお嫁さんになった自分を想像するのって恥ずかしいね」

 

それはエリナも同じだったようで頬を赤く染めながら照れたように笑っていた。

 

「コースケ、ふと思うんだけどね」

「何?」

 

しばしの沈黙ののちに、口を開いたエリナに、僕は用件を尋ねる。

 

「本能としてのコースケは、どうして人格と記憶を消されたんだろう?」

「さあ。そればかりは本人に聞かないと分からないと思うよ」

 

エリナの素朴な疑問に、僕はそう答えるしかなかった。

だが、実のところ自分でも疑問に感じていた。

確かに”世界を統べる王”というのは恐ろしい存在だ。

でも、それならばいっそのこと二度と動けないようにするのが手っ取り早い。

人格はともかく記憶は取り戻す可能性があるのだから。

もしその記憶に、思い出してはいけない物があるのだとすれば、それは……

 

「早く帰ろうか」

「うん♪」

 

僕は、考えていたことを頭の片隅へと追いやった。

僕が動かずとも、時がたてば真実は分かるときがやってくるのだ。

ならば、慌てずにいつものようにすごしている方が、精神面ではいいのかもしれない。

そして僕たちは、寮へと帰るのであった。

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