DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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お待たせしました、第59話です。

此処まで長く書いたのは久しぶりかもしれません。


第59話 喪失

「……………眠れなかった」

 

起きて早々に僕が口にしたのはそんな言葉だった。

厳密にはちゃんと寝たのだが、しっかりと眠ることはできなかったのだ。

 

(初デートがこんなに緊張するなんて)

 

キスまでしているのに、何故にデートで緊張するのかがまったくわからなかったが、それほど楽しみなのかもしれないと自分に納得させる。

 

(とにかく、早く着替えよう)

 

早く着替えないと心配かける可能性もあったため、僕は着替えるべくベッドから出ることにした。

 

「何でだろう……体が重い」

 

立ち上がった瞬間、体に軽い重みを感じた。

 

「まあ、いいか」

 

寝不足だろうと考えた僕は、私服に着替えると共有スペースに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

「おはよー、コースケ」

 

共有スペースに入ると、そこにはすでに起きていたエリナが席に腰掛けていた。

その様子はかなり元気がない様子だった。

 

「大丈夫? 何だか元気がないみたいだけど」

「ダイジョーブ。眠れなかっただけだから」

 

そう言って力なく笑うエリナの様子に、どことなく既視感を覚えてしまった。

 

「やっぱり、触れ合えるのにふれあえないのって、苦しいんだね」

「でも、我慢すればそれは悦びに変わるんだよ」

 

目先の利益を取るか少し後のおいしい果実をとるかの差になってきているような気がするが、それほどこの衝動のようなものは凄まじいのだ。

 

「何をやってるんだ? お前たち」

 

そんな会話をしていると、佑斗君が呆れた様子で話しかけてきた。

 

「あ、おはようユート」

「おはよう佑斗君」

 

そんな佑斗君に僕とエリナは挨拶をする。

 

「おはよう」

「そんなに抱き着きたいんならとっとと抱き着けばいいじゃない」

「美羽ちゃん、公共の場で抱きついたりするのはダメだよ」

 

ジト目を向けながら、促してくる美羽さんに布良さんが困ったような表情を浮かべて注意する。

 

「とは言ってもね。あんな風にいちゃいちゃされるとものすごく腹が立つんだけど」

 

何だか美羽さんの鋭さが増したような気がした。

 

「それで、二人は何をしているの?」

「えっとね……一種の焦らしプレイだよ」

「にょわ!? 二人はいったい夕方から何をやってるのっ!」

 

エリナの返答に、全員が目を丸くして布良さんは大声で叫び声をあげていた。

 

「ま、まさかワンステップ乗り越えて、そういうことまでするようにッ!?」

 

(な、なんだかあっという間に誤解されていく)

 

顔を赤らめているニコラの声を聴きながら、僕は恐ろしさを感じていた。

 

「違うから。ただ、今日は初めてのデートだしそれっぽくするためだよ」

「なんだ、そうなんだ………え?」

 

僕の説明に、誤解は晴れたのかほっと胸をなでおろした布良さんたちだったが、突然固まった。

かと思えば僕の方にまじまじと視線を向けてきた。

 

「高月君、今なんて?」

「だから、初めてのデートだからそれっぽくするためにこういう不運していたんだって」

「えぇっ!?」

 

布良さんに促らされるまま答えると、全員で一斉に驚きの声を上げた。

 

「どうしたんですか? なんだか賑やかですけど」

 

そんな中、大声に反応した稲叢さんがキッチンから現れた。

 

「浩介、あなたまだデートしてなかったの!?」

「は、はい」

「二人が付き合いだしてから、もうひと月ほどは経ってるよね」

 

やはり、驚きの原因は”初”デートと言うことだった。

美羽さんとニコラの冷たい視線にさらされながら、僕は聞かれたことに答えていく。

 

「高月先輩、それはさすがにエリナちゃんがかわいそうですよ」

「面目ないです」

 

稲叢さんも加わって、僕は責められることになった。

忘れていたわけではないが、これまでの騒動やら何やらで行く機会が中々でなかったのだ。

とはいえ、さすがに男として問題ありだと言わざるを得ない状況なのは間違いないのだけれど

 

「幸せの上に胡坐をかいてると見捨てられるよ?」

「おっしゃる通りです」

 

もう頷くしかなかった。

 

「二人は今すぐにデートをしてくることっ! これは寮長命令です!」

「いや、でも―――」

 

突然寮長命令で今すぐ外に行けと言われた僕は、夕食だけでも食べさせてと言おうとするが、それを遮るように布良さんが口を開いた。

 

「つべこべ言わないでさっさと行くの!!」

「わ、わかったから。―――っ!?」

 

布良さんの迫力に押されるようにして立ち上がった僕は、一瞬ではあるが視界がぶれるような感覚を覚えた。

その感覚には心当たりがあった。

 

「ごめん、ちょっと財布と携帯を取り忘れたから取ってくる!」

 

僕はそう言って足早に共有スペースを後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、大丈夫」

 

自室に戻った僕は、ほっと胸をなでおろすと急いで冷蔵庫から血液パックを取り出すと、それを飲み干していく。

 

「ふぅ……これで大丈夫」

 

飲み干した僕は空の血液パックを片づける。

 

「さて、早く財布と携帯電話を取って戻らないと」

 

財布と携帯電話を取りに行くというのは、半分が建前でもう半分が本当のことだったりする。

とはいえ、あまり長い時間席を外していると、いらぬ心配をかけてしまうのは想像しなくてもわかること。

そのため僕は素早く財布と携帯電話をズボンのポケットに入れると、ドアの方に向かって足を進めようとした。

いつものようにドアノブに手をかけてドアを開けた瞬間のことだった。

 

「ッ!?」

 

突如、激しいめまいと脱力感に襲われた。

 

(なに、これっ!)

 

今自分がどうなっているかが全く分からないほどに、平衡感覚がなくなっていた。

しかも視界事態が歪んでおり、物の判別がつかないほどにまで悪化していた。

 

(血液、パックを)

 

歪んでいる視界の中、僕は勘のようなもので冷蔵庫と思われる扉を開けると、手探りで赤ラベルの血液パックを手にした。

いつも赤ラベルの血液パックを上から二番目に入れておいたことが幸いした。

視界がはっきりしない中でも、血液パックを手にすることができたのだから。

僕はパックの口を開けて中身を飲み干していく。

 

(これで少しは)

 

落ち着くはずだと思ったが、時間が経っても症状は治まることがなかった。

それどころか、さらに悪化しているようにも感じた。

 

「おかしい、これはおかしい」

 

ようやくいつもとは違うことに気づいた僕は、揺らぐ視線の中、僕は扇先生に連絡を入れるためポケットに入れておいた携帯電話を取り出す。

 

(くそ、文字がかすんで見えない)

 

携帯の文字が全く見えない状態に、苛立つが早く電話をかけなければいけない。

 

(こうなったら、手探りで)

 

発信履歴の方に扇先生の番号があったはずなので、その記憶を頼りにボタンを押していく。

 

(よし、これで大丈夫のはず)

 

そして僕は発信ボタンと思われるボタンを押して扇先生と思われる番号に電話をかけると携帯の受話口部分を耳に押し当てる。

そこでさらに追い打ちをかけるように、視界が明暗し始めた。

 

(ダメだ……意識が――――)

 

そこで僕の視界は黒に染まった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「まったくもう……」

「今回は浩介君の方に問題があるよね」

 

浩介が立ち去って、呆れた表情で言葉を漏らす梓に、ニコラが続く。

 

「まあ、いろいろ大変ですっぽりと頭から抜けているというのも、わからなくはないんだけどな」

 

佑斗もフォローしようとするが、完全にしきれずに複雑な表情を浮かべるにとどまっていた。

 

「ありがとね、みんな。背中を押してくれて」

 

そんな中、エリナは笑みを浮かべながら梓達にお礼を告げる。

 

「お礼なんていいわよ。いちゃいちゃされるよりはましだし」

「エリナちゃんには楽しそうな笑顔が一番似合うしね」

 

そのお礼に、全員は笑顔で答えた。

それにつられてエリナも笑顔になる。

そんな中、ふと梓は共有スペースのドアの方に視線を向けた。

 

「それにしても、高月君遅いよね」

「言われてみれば」

「財布が見つからないのかもしれないな」

 

梓の言葉に、ニコラと佑斗が続く。

時間にして優に2,3分は経過していた。

彼らが首をかしげているとき、離れた場所から何かが倒れたような物音が鳴り響いた。

 

「何、今の音?」

「浩介君だよね、音の発信源は」

「一体、何をしてるんだ?」

 

突然の物音に不審に感じている様子で口にする梓達だったが、全員口を閉じた。

 

「ちょっと、様子を見たほうがいいわね」

「そうだね。もしかしたら、手間取っているだけかもしれないしね」

「同じ魔界の住人として、困っている闇の住人に手を貸すのも、当然だからね」

 

美羽の提案に、待ってましたと言わんばかりに反応した彼女たちは一様に席を立つと、共有スペースを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、向こうに何か落ちてるよ?」

「あそこってちょうど浩介の部屋の前じゃなかったか?」

 

少し先の方で落ちているものを見つけた梓に、佑斗が続く。

 

「……コースケ!」

「あ、エリナちゃん!」

 

嫌な予感を感じたエリナは、梓の呼びかけに応えることなく駆け出していく。

部屋の前まで駆けつけたエリナが見たのは、うつ伏せに倒れている浩介の姿だった。

 

「コースケっ! しっかりして!」

「高月君!?」

「おい、浩介! どうしたんだっ」

 

後に続いて梓達も部屋の前までたどり着くと、佑斗は慌てて体を起こした。

 

「エリナちゃん、落ち着いて。大丈夫だから」

「う、うん。ゴメン、アズサ」

 

それをしり目に、梓は取り乱していたエリナを落ち着かせた。

 

「……ぅ」

 

佑斗の呼びかけに若干ではあるが反応を示すが、その顔色は非常に悪い状態だった。

 

『もしもし……もしもしっ』

「ねえ、ユート。何だか声が聞こえるよ」

 

どこからともなく聞こえるその伊庭にいないはずの人物の声に、佑斗は音の発信源を探すべく周囲を見渡す。

そして、佑斗はそれを見つけた。

 

「これは誰の携帯?」

「高月君のだよ」

 

近くにあったため手に取り、周りに見えるように掲げながら問いかけると、前に見てたことがあった梓が答えた。

 

「しかも通話中のようね。相手は……扇先生?」

「ということは……もしもし」

 

浩介は携帯を耳に当てると、今も電話先にいるであろう人物に声をかけた。

 

『その声は、六連君かい!? 高月君はどうしたんだ?』

 

佑斗の声に最初は驚いた様子だったが、すぐに冷静になった元樹は電話口から佑斗に問いかけた。

 

「浩介は、倒れました」

『何だって!? 様子とかはわかるかい?』

 

佑斗の返事に驚気をあらわにする元樹は、続けて佑斗に浩介の容態について尋ねた。

 

「えっと……体中が熱くなっていて、何だか息遣いも苦しそうです」

『体中が熱い……まさか……いや、だが』

「えっと、扇先生。浩介はどうして倒れたんですか?」

 

佑斗の告げた浩介の症状に、元樹は考え込むようにつぶやくがそれを聞いていた佑斗は眉を顰めながら元樹に訊く。

 

『おっと、すまないね。とりあえず電話だけで理由を決めるのは難しいから、高月君を病院まで連れてきてもらってもいいかな?』

「分かりました。すぐに連れて行きます」

 

元樹の提案に頷いた佑斗は、そう告げると電話を切った。

 

「ねえ、扇先生はなんだって?」

「分からない。とにかく病院に連れて行こう」

 

そう告げると、佑斗は浩介の身体を背中に乗せると立ち上がった。

 

(軽っ!?)

 

立ち上がった瞬間に感じた浩介の重さに、思わず佑斗はそんな感想を抱いた。

 

「私たちも一緒に行くわ」

「それじゃ、行こう!」

 

佑斗の言葉に頷く一同は、そのまま寮を飛び出すと元樹の末病院へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「扇先生、まだ出てきませんね」

「そうだね」

 

莉音が漏らした言葉に、ニコラが相槌を打つ。

病院まで訪れた一行は、佑斗たちが来るのを待っていた元樹によって病室に運ばれると、処置を行うとのことで入出禁止と告げられていた。

現在も、病室内では処置が行われている。

 

「あ」

「扇先生」

 

開かれた病室の扉から、元樹が姿を現すと彼に向かって一行が駆け寄った。

 

「浩介君は?」

「高月君が倒れたのは、ヴァンパイアウイルスの活動が弱まっていたからだったよ」

「それって……」

 

元樹が口にした浩介が倒れた原因を聞いたエリナが言葉を漏らす。

エリナの脳裏によぎったのは一つの可能性。

”自分が何か悪い影響を与えたのではないか”というものであった。

 

「心配はいらないよ。おそらくは過労によるものが原因のはずだから」

 

そんなエリナの考えを否定するように、元樹は説明をした。

 

「過労……ですか?」

「ここ最近色々あったらしくてね、ゆっくり休めなかったらしいんだ。命には別条はないから安心して」

「それならよかったー」

 

命に別条がないことを知った梓はほっと胸をなでおろす。

それはほかのものも同じだった。

 

「ねえ、モトキ」

「何かな? アヴェーン君」

 

そんな中、元樹に真剣な面持ちで声をかけたのはエリナだった。

そのエリナに、元樹は用件を尋ねる。

 

「コースケに会うことはできる?」

「………すまないけど、今日は無理だ。まだ話せる状態ではないんだ」

 

エリナの問いかけに、元樹は申し訳なさそうな表情を浮かべながら首を横に振った。

 

「おそらく様子を見るために、しばらくの間は入院と言うことにはなるけど、話せる状態になったら必ず連絡するよ。それは約束する」

「……わかった」

 

渋々と言った様子で頷くエリナに、元樹はもう一度”申し訳ないね”と声をかけた。

 

「とりあえず、いったん寮に戻ろう。着替えとか持っていく必要があるし」

「それじゃ、入院中のノートは私たちで手分けして取りましょう」

「私は主任に連絡をしておくよ」

 

各々がそれぞれの役割を決めながら、元樹の前から去っていく。

 

「……………」

 

それを見届けた元樹は、深いため息をつく。

 

「嘘をつくというのは、医者としては失格なのだろうか……」

 

ぽつりと言葉をつぶやくと、元樹は病室のドアを開けて中に入る。

病室内は個室であった。

そして点滴なのだろうか管が浩介の腕に取り付けられていた。

そして浩介はそんな中で静かに寝息を立てていた。

 

「本当に、ますます惚れてしまいそうだ。君には」

 

今も眠り続ける浩介に、元樹は微笑みながらつぶやいた。

それを聞いていたのなら、浩介は確実に拒絶反応をするであろう言葉を。

 

「まさか、アヴェーン君を心配させないためだけに、僕にあんなことを要求するとはね」

 

元樹はそう口にすると、その時のことを思い起こした。

 

 

 

 

 

それは、病院に運ばれて処置を始めて少ししてからのことだった。

 

「ん……」

 

身をよじりろうとしながら目をうっすらと開いた浩介は、周囲を見渡す。

 

「目が覚めたようだね、高月君」

「元樹……ということは、病院か」

 

元樹の呼びかけに答えた浩介の口調は、いつものものではなく”王”としての人格が出ている時の口調であった。

 

「いろいろ聞きたいことがあるんだけど、話せるかい?」

「話せなくても聞く癖に」

 

元樹の問いかけに、浩介は鼻を鳴らしながら答える。

それは、大丈夫と言う表れでもあった。

それがわかった元樹は、浩介に疑問を投げかけるべく口を開いた。

 

「どうしてそうなったのか、高月君は見当がついているかな」

「それを突き止めるのがお前の仕事だと言ったはずだが……まあいいか」

 

ため息交じりに返事を返した浩介はそうつぶやくと”確証はないが”と前置きをしたうえで答え始めた。

 

「ヴァンパイアウイルスの絶対量が不足しているのが、原因だろう」

「やはりそうか」

 

浩介の説明と同じことを考えていたのか、元樹は浮かない表情で口にしていた。

 

「どんなエネルギー源も、発生させる物質の絶対値が不足すれば、十分なエネルギーを発生させることは不可能になる」

「普通はそのようなことは起こらない。そもそも吸血鬼が血を吸われることはめったにありえないし、吸われたとしても1,2日経てば元の量に戻るはずだからね」

 

浩介の説明に頷く形で元樹は補足するように説明した。

 

「でも、君の場合はヴァンパイアウイルスの増殖速度が異様に遅い。だからこそ、倒れることになった」

「うまいではないか。これであとは彼が起きた時に同じ説明をしてやればいい。そうすれば、十分に理解することができるだろうよ」

 

元樹の説明に称賛の言葉を贈った浩介は、さらに続けた。

 

「彼は?」

「さあ……」

 

目を細めながら元樹が尋ねると、浩介は元樹から視線を逸らした。

 

「今もまだ眠っている。生存本能が活発に働いているせいか、私が前面に出てはいるが、この腕についている液体が効けば時期に目覚めるだろうよ」

 

浩介の腕につながられている点滴は、不足したヴァンパイアウイルスを増殖させる効果のある物であった。

 

「今、高濃度のヴァンパイアウイルスを含んだ血液を用意しているんだが、生成材料が不足していてね。来週には届くはずだから、少しの間ここにいてもらうよ」

「分かってるさ。それよりも元樹。お前に一つだけ言っておくことがある」

 

申し訳なさそうな表情で説明する元樹に、浩介はそう返すと真剣な面持ちで元樹の方に視線を向けた。

 

「何だい? あ、もしかして僕の裸が見たいのかな? だったら、好きなだけ見せて―――」

「黙れ。少しは空気を読め。読めぬのであれば、読めるようにしてあげるが……骨の一本や二本ぐらいでいいか」

 

顔を赤くして妖しげな表情を浮かべた元樹の言葉を遮った浩介は、鋭いさっきを飛ばしながら警告を発した。

最後の方で物騒な言葉を呟きながら。

 

「はい、わかりました。で、頼みって?」

「王女には、私の不調の原因を伏せろ」

 

元樹の促しに間髪入れずに答えた浩介に、元樹は一瞬驚いた表情を浮かべるものの、いつもの医者としての表情に戻っていた。

 

「伏せろと言ってもね、訊かれたら何と答えればいいんだい? それに伏せる理由は?」

「知るか。理由なんぞ、過労でも何でもしておけ。理由に関してはノーコメントだ」

 

元樹から浴びせられる疑問に、浩介はそっけなく答えると再び視線を逸らした。

 

「そろそろ辛くなってきた。話はここまでだ」

「分かった。とにかく説明の方は任せてもらえるかい? 悪いようにはしないことを約束するよ」

 

目を閉じている浩介に元樹はそう告げると、浩介は手を上げることで答えた。

そして元樹はそのまま病室を後にして、今に至る。

 

 

 

 

 

「とはいえ……果たして、このままで大丈夫なのか……」

 

すやすやと寝息を立てて眠っている浩介を見ながら、元樹は不安に駆られるが首を振ってそれを吹き飛ばした。

 

「まずは、材料が早く届くことを祈ろうか」

 

そう言った元樹は、神妙な表情を浮かべたまま病室を後にするのであった。

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