DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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お待たせしました。
第61話です。

なんとなく前半があれな気もしますが、ようやっとここから動き出します。


第61話 動き出すもの

「はぁ、はぁ、はぁっ!」

 

病院を飛び出したエリナは何も考えずに走っていた。

人通りの多い場所から、徐々に人通りの少ない地区へ駆けていくのは、無意識だとしても何らかの思いが働いているとも取れない。

 

(私のせいで……私のせいで、コースケが)

 

エリナが病室前で聞いたのは浩介が長くないことと、その要因の一つに自分が含まれていることだった。

浩介は”一つ”と言っており、完全にエリナのせいだとは言っていないがそれでも責任を感じずにはいられなかった。

エリナは徐に走るのをやめて地面に力なく座りこんだ。

 

「ごめん……ごめんなさい」

 

涙声で謝罪の言葉を口にするその姿は、悲しげで知り合いがその姿を見たら何事かとばかりに駆け寄っていただろう。

だが、そこは人通りの少ない開発地区の境目に位置する場所。

知り合いの人の目に留まるようなことは限りなく0に近い。

 

「う……うぅ」

 

それが分かっているのか、エリナの頬を涙が伝いだす。

そんな泣き始めたエリナから少し離れた場所。

 

「…………」

 

そこに一人の男が立っており、その場で静かにエリナの方を見ていた。

 

「………いたぞ」

「………っ」

 

その男の声が合図だったのか、一気に数人の男がエリナを取り囲むように躍り出た。

 

「エリナ・オレゴヴナ・アヴェーンだな?」

「そうだけど……なに?」

 

物々しい雰囲気で名前を問いただす男たちに、エリナは涙をぬぐいながら立ち上がると、睨みつけるようにして応えた。

 

「我々と共に来てもらうぞ」

「お断りです。退いて」

 

男の言葉に断りを入れたエリナはその場を立ち去ろうとするが、男たちに取り囲まれているためそれがかなわなかった。

 

「無駄だ貴様に逃げ場はない」

「いや、来ないでっ!」

 

徐々に距離を詰める男たちに、エリナは叫ぶようにして拒絶するがそれでも男たちの足は止まることがない。

 

(お願い、助けて……コースケ!)

 

ふと、エリナは心の中でそう願った。

来れるはずがないことはエリナ自身もわかっている。

それでも、祈らずにはいられなかった。

 

「ぎゃぁ!?」

「どうした! ぎゃご?!」

「何が―――ぐはぁ!?」

 

エリナの願いに呼応するように、突風のようなものが吹いたかとエリナが感じた瞬間に、周囲にいた男たちはまるで紙のように抵抗する暇もなく吹き飛んだ。

 

「え……」

 

その現象を引き起こしたであろう人物の姿を目の当たりにしたエリナは、思わず驚きに満ちた声を漏らした。

 

「どうして……」

 

エリナには、それが信じられなかった。

なぜならば……

 

「どうして、ここにいるの? コースケ」

 

そこにいたのは、病院にいるはずの浩介だったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しばかりさかのぼる。

ある人物がほくそ笑みながら病院を見つめていた。

その人物は黒いスーツに黒いサングラスをつけている男であった。

 

「ここが、あの男のいる病院か」

 

そうつぶやく男の目にあったのは、得体のしれぬ執念だった。

そんな時、男が持っているのだろうか、携帯電話が着信を告げたため男はポケットからそれを取り出すと電話に出た。

 

「もしもし」

『予定の場所に到着しましたか?』

「ええ、今目の前です」

 

電話口の男に怪しげな笑みを浮かべながら返事をする。

 

『対象は先ほど渡した資料の部屋にいる。いいですか、生かして連れてきてください。死んでしまうと後々面倒になりますので』

「わあってますよ。こちらとしては、宿敵に手傷を負わせられればそれで十分です」

 

電話口の男の指示に、投げやりに返事を返した男はそのまま携帯の電話を切る。

 

「………行くか」

 

男はもう一度病院を仰ぎ見ると中に入り込んだ。

 

(ここか。人の気配はなし)

 

難なくある病室にたどり着いた男は、周囲を警戒して扉に手をかける。

 

「鍵はかかってないみたいだな」

 

扉が何の抵抗もなく開くことに笑みを浮かべた男は、そのまま静かに中に入り込む。

病室内は、そこにいるであろう人物が眠っているためか、明かりがついていないために薄暗かった。

 

(暗闇で隠れられるとでも思ったか? 馬鹿が)

 

だが、それは男にとっては何も問題にはならなかった。

なぜなら、男の正体は人間ではなく”吸血鬼”だったからだ。

 

「はっ、間抜け面で寝やがって」

 

ベッドに横たわる人物……浩介を見て蔑むように嗤った。

 

「貴様のおかげで、わが組織は壊滅にまで追い込まれた。だが我が組織、ヴァラビエーイカーピュリャ(雀の雫)は不滅。貴様はその生贄となるのだよ」

 

眠っている浩介に、男は狂ったような表情で笑みを浮かべていた。

男の名乗った”雀の雫”とは、数十年ほど前に活発に活動していたロシアのテログループである。

このテログループは当時はその名を轟かせており、ロシア政府も非常に恐れていたのだ。

だが、その組織は数十年ほど前にある人物によって壊滅させられた。

それは一躍全国に知れ渡ることとなったが、その人物の正体は不明であるというのが公式の発表である。

しかし、都市伝説のようなものでこのように語り継がれている。

 

『あのテログループ”雀の雫”を壊滅させたのは、世界を統べし王である』と。

 

そして、それは紛れもなく真実であった。

テログループの残党は、失った力を取り戻すためにおとなしく身を隠していた。

全ては組織を壊滅へと追いやった世界を統べし王、浩介への報復の為に。

そして、ある程度の力を取り戻しかけた時に、その話はやってきた。

 

『世界を統べし王を手に入れたい。お前たちも協力しろ』

 

報酬は破格の価格の金と、権力の確約と言う好待遇、何より浩介に報復ができるのであれば、それはいいということでテログループは協力関係を結んだのだ。

そして今、彼らの報復が成し遂げられようとしていた。

 

「……………」

「死ねぇっ!!」

 

いまだにすやすやと寝息を立てる浩介に向けて、男は隠し持っていたサバイバルナイフを取り出すとそれを浩介の胸の部分にめがけて振り下ろした。

それは、吸い込まれるように浩介の胸に突き刺さる――――はずだった。

 

「ッ!」

「何ぃ!?」

 

男の振り下ろしたサバイバルナイフは、浩介が振り払うような右腕の動きで弾き飛ばしたのだ。

サバイバルナイフは浩介が横たわっているベッドの奥の床という、男より離れた場所に落下したため取りに行くことは不可能に近かった。

 

「何だ、王たるこの私に奇襲するとはなんという雑種かと思ったら……なるほど、なるほど」

「くそッ! 寝てたのは演技かっ!」

 

左腕に付けられていた点滴の針を抜きながら立ち上がる浩介に、男は毒づいた。

 

「演技ではない。だが、雑種とは違って私は王なのでな。寝ていても周囲の状況など手に取るようにわかるわ」

 

不敵の笑みを浮かべながら浩介は答えるが、もちろん嘘である。

実は、懸念材料があったためにその結果を聞こうと寝てはいなかったのだ。

そんな中、部屋に入ってくる不審者の姿が見えたため、浩介は狸寝入りをしていたのだ。

 

「だが、まだ俺には勝機がある!」

「あるわけがなかろう。世界最強にして最凶の世界を統べる王に勝機などない」

 

自分が勝てると信じている男の様子に、浩介は憐れむようなまなざしで返す。

だが、男は不敵の笑みを浮かべて、浩介に指摘した。

 

「あるさっ! 貴様、ふらついているではないかぁ!」

「…………」

 

その指摘に、浩介は無言を貫く。

確かに浩介の身体はふらついていた。

今にも倒れそうなほどバランスが取れていないのだ。

理由はもちろん、浩介の体内にあるヴァンパイアウイルスの絶対量が不足しているため、活動が弱まっている状態だからだ。

今こうして動けるのは生存本能が刺激されているためである。

 

「どうやら、よほど物覚えが悪いようだな、雑種よ」

 

だが、浩介はほくそ笑みながら男にそう言い放った。

 

「ま、まさかッ!」

「では見せてやろう。これが私の力だ」

 

男から初めて余裕そうな表情が消え、代わりに恐怖に満ちた表情へと変わっていく。

そんな男をしり目に、浩介は右腕を掲げる。

 

「ッ!?」

 

次の瞬間、右腕はまるで分解されたように消滅し、代わりに赤い煙のようなものが現れた。

 

「行くぞッ!」

「ま、待てっ!?!?」

 

浩介の掛け声に、待ったをかけるがそれよりも早く、浩介は男の背後に移動すると両腕で男の動きを封じた。

 

「ま、まさか」

「そのまさかだ。いただきます」

 

男が顔から血の気をなくしながら声を上げるのに対して、浩介は笑みを浮かべながら答えると、顔を首筋に近づけた。

 

「や、やめろぉぉぉぉっ!!!」

 

男の断末魔と共に、浩介は男の首筋に喰らいついた。

 

「ング……ヂュルル……ジュルルル……ンク、ンク」

「あ……あぁ……あぁぁ」

 

情け容赦なく血を啜る浩介は、まるで何かに弾かれる様に吸血をやめ男から離れた。

 

「あ……ぁ」

 

男はまるで紐の切れた人形のように床に崩れ落ちる。

それを浩介は見下ろすとゆっくりと口を開いた。

 

「これで、急場は凌げたな」

 

浩介の一番の問題は、ヴァンパイアウイルスの絶対量が少ないこと。

ヴァンパイアウイルスを最も効率的に摂取する方法が吸血鬼からの”吸血”なのだ。

それが頻繁に、しかも簡単にできないためこの方法は不可能に近かったのだ。

尤も、そのできない理由の一つに、浩介がライカンスロープであることも関係していたりするのだが。

それはともかくとして、浩介の命を狙う強襲のはずが、逆に命を救う結果となったのは浩介にとってはまさに棚からぼた餅だった。

 

「私の命を永らえさせるために、自らその身を犠牲にするその哀れな心、実に卑しい雑種だ」

 

浩介は口元に笑みを浮かばせながら、床に倒れ動くそぶりを見せない男に言い放つと静かに目を閉じるのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

「あれ……ここは」

 

気が付くと、そこは全く知らない場所だった。

周囲は薄暗く、そこがどこなのかを判断する材料が皆無だった為橋がわからない。

 

(まさか、誘拐!?)

 

一瞬そんな単語が浮かび上がったが、いやいやと首を横に振りその考えを吹き飛ばす。

 

「落ち着いて考えよう」

 

とりあえず僕は深呼吸をして落ち着くことにした。

 

(確か、僕はめまいや倦怠感が血液パックを飲んでも収まらなくなって、それで扇先生に連絡を取ろうとして倒れたんだっけ……)

 

実に簡単ではあるが、自分の今おかれた状況が少しではあるが見えてきた。

 

(つまり、ここは病院と言うことか)

 

あの後、扇先生が不審に思ったかあるいは、駆けつけてくれた寮のメンバーが僕をここまで連れてきてくれたのだろう。

 

「お礼、言わないと」

 

僕はしっかりとお礼を言うことを、心に決めるのであった。

 

「体調もいい感じだし」

 

倒れる前までは不調だった体調も、まるで嘘みたいになくなっていた。

まさに絶好調だった。

 

「とはいえ、ちょっと薄暗いから明かりをつけないと」

 

薄暗くても吸血鬼である僕にはちゃんと見えていたりするが、元人間の性とでも言うのか明るい部屋でないと何となく落ち着かないのだ。

 

「明かり明かり………うわっ!?」

 

明かりをつけるスイッチを探しながら足を踏み出すと、何かに躓いて転びそうになる。

僕は両腕を前に掲げて受け身を取ろうとする。

 

「ふぅ、助かった」

 

中途半端な位置で何かに突っかかるように倒れるのが止まった僕は、思わず胸をなでおろした。

とりあえず僕は、両腕に力を込めて反動を使うことで立ち上がることにした。

 

「それにしても、いったい何が転がってるんだろう?」

 

僕は、ふと何に躓いたのかが気になり視線を下に向けた。

 

「なッ!?」

 

その正体を目の当たりにした僕は、思わず息をのんだ。

そこにあったのは、地面に横たわる男の人の姿だったのだ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

慌てて倒れている男の人に声をかけるが、動く気配がない。

 

「えっと、こういう時は………そうだ、脈の確認だっ!」

 

前にテレビで見たのを思い出して僕は脈の確認をする。

 

「大丈夫、まだ息はある」

 

僕は男の人が死んでいないことに、ほっと胸をなでおろした。

 

「でも、ナースコールをしてこの人を診てもらわないと」

 

僕はベッドの方に向かって、枕元に置かれたナースコールに手をかけた。

その時だった。

 

「―――――――――――――」

「ッ!?」

 

突如、声のようなものが頭の中に響いてきた。

それは一瞬のことではあったが、どうしても気になるのだ。

 

「――――――――――ッ!!」

 

今度は真っ白な光に包まれるようにして、何かが響いてきた。

しかも今度は前より鮮明になって聞こえた。

だが、何と言っているのかは全く判別ができなかった。

しかし、声の主だけは分かった。

 

「エリ……ナ?」

 

そう、聞き間違えるはずがない。

あの声はエリナのものだ。

 

「……………」

 

その声の主がはっきりした瞬間、鼓動が強くなったような気がした。

そして、僕の身体は僕の意思とは関係なく動き始めた。

 

(な、なに!? なんで勝手に)

 

「助けないと」

 

僕は自分の意思とは関係なく声を出しながら窓側に歩み寄ると、左腕を前方に掲げる。

次の瞬間、甲高い音と共に窓ガラスが粉々に割れた。

飛び散るはずの破片は、僕をきれいによけていた。

だが、窓が割れた衝撃からだろうか、けたたましいアラームが鳴り響きだした。

 

「助けないと」

 

それにも気を留めない僕は横に置かれた靴を履くと、そのまま窓枠に飛び乗る。

 

「助けないと」

 

そして僕は地面を蹴るように飛び降りた。

 

(お、落ちる!? ―――――あれ?)

 

そのまま落下するかと思った僕だったが、僕は予想に反して空中を飛んでいた。

 

(な、なにこれ? これも世界を統べし王としての力とでもいうの?)

 

本当に自分が何者かがわからなくなってきた。

だが、わかったことはある。

僕の身体能力は、非常に高いこと。

それは、今の自分の状況が証明している。

空を飛んでいるのではなく、所々の屋根に降りては再び飛び上がりを繰り返しているだけなのだから。

そんなこんなで進んでいると、人気のない方へと差し掛かっていた。

まるで誘い込まれるように僕は開発地区との境目の位置に来ていたのだ。

その時、ふと前方ばかりを見ていた視界は、下の方へと向けられた。

 

(あれは、人だかり?)

 

道の真ん中で、黒い服を着た人たちが誰かを取り囲んでいた。

 

「助けないと」

 

(うわっ!?)

 

それを確認した僕の身体は、ものすごい勢いで急降下を始めた。

だが、その途中で囲まれている人の正体がわかった。

 

(エリナ!?)

 

そう、僕の最愛の恋人であるエリナだったのだ。

今まさに連れていかれようとしているところだったのだ。

 

「無駄だ貴様に逃げ場はない」

「いや、来ないでっ!」

 

徐々に距離を詰める人たちに、エリナは叫ぶようにして拒絶する。

 

(まずい、助けないとっ!)

 

そう理解した瞬間、自分の身体を操っていた何かは消え去った。

代わりに僕の頭の中に様々な情報が入り込み始めた。

どうすれば、この場をしのげるか。

自分にできること、できないことのすべてが。

僕は右腕を前方にいた人たちに向けて振りかぶる。

 

「ぎゃぁ!?」

 

それだけで、エリナを取り囲んでいた数人は吹き飛ばされた。

 

「どうした! ぎゃご?!」

 

数人の男の人と思われる悲鳴に気を取られているすきに、さらにすばやく移動して別の数人を同じ要領で吹き飛ばした。

 

「何が―――ぐはぁ!?」

 

そして残っていた数人を、僕は吹き飛ばすことで一掃したのだ。

 

「え……」

 

僕の姿を見たエリナが、驚きに満ちた声を上げた。

 

「どうして……」

 

その声は、まるで信じられないと言いたげだった。

 

「どうして、ここにいるの? コースケ」

「それは――――」

 

事情を説明しようと口を開きかけた僕だったが、それは周囲の人の気配で遮られた。

吹き飛ばした男の人たちはその衝撃からか昏倒している。

だとすれば、考えられるのはただ一つ。

 

(増援かっ!)

 

「死ねぇっ!!」

 

それを理解した瞬間、物騒なことを叫びながら数十人の男たちが躍り出てきた。

 

(くそッ! どうすればいい……どうすれば)

 

焦る僕の心情に呼応して、鼓動が早まっていく。

 

(ッ!?)

 

その時、僕の中でヴィジョンが見えた。

そこは、人気のない倉庫街のような場所だった。

 

――移動しろ

 

その場所の持つ意味は理解できなかったが、体の動きだけは素早かった。

 

「きゃ!?」

 

僕はよくわからぬままにエリナを抱き寄せると右腕を振り上げて一気に振り下ろした。

 

(な、なんだっ!?)

 

次の瞬間、僕の視界は赤一色に包みこまれるのであった。

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