DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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大変お待たせしました、第62話です。

この章が完結するのは70話あたりかなと思う今日この頃です。
ちなみに、次回で何気に張っておいた伏線が明らかになります。


第62話 把握と暗号

風紀班支部。

 

「戻ったか」

 

巡回に出ていた佑斗たちが戻ってきたのを見て、兵馬は先ほどまで腰かけていた椅子から立ち上がる。

 

「それで、いったいどうしたんですか?」

「そうですよ。いきなり支部に戻るように言うなんてこと、これまでになかったじゃないですか」

 

美羽と梓の問いかけに、兵馬は景気の悪そうな表情を浮かべる。

 

「……」

 

それだけで彼女たちは何かが起こったのだと悟った。

 

「実は、高月がらみだ」

「高月君がらみ?」

「一体どういうことですか?」

 

兵馬の言葉にさらに疑問を募らせる一同は、兵馬に詳しく尋ねた。

 

「高月のやつが入院している病院から姿を消した」

「主任、それって脱走したということですか?」

 

兵馬の説明を聞いた梓が渋い顔をしながら疑問を投げかける。

 

「それだけだったら、こんなことにはならねえよ。問題なのは、その病室に暴漢の姿があったということだ」

「「「っ!?」」」

 

兵馬の”暴漢”という単語に、佑斗たちは息をのんだ。

 

「その男への事情聴取は今も続いているが、その暴漢は”雀の雫”というテログループの一人のようだ」

「テログループ!?」

 

兵馬のテログループの名前に、梓は飛び上がらん勢いで驚きをあらわにした。

 

「どうして、そんな物騒なグループが浩介の命を?」

「そいつに関しては、今もまだ事情聴取中だからわからない。だが、奴曰く他にも人員はいるようだ」

「だったら、今こうしている間もかなり危ないんのでは」

 

兵馬の説明を聞いた佑斗が、目を細めながら返した。

 

「そうだ。一刻も早く高月とアヴェーンを保護しなければいけない」

「エリナもですか?」

 

保護の対象にエリナも含まれていることに美羽は怪訝な表情で兵馬に訊く。

 

「詳しくは知らないが、アヴェーンも狙われている可能性が高いとのことだ」

「そんな……」

 

驚きと悲しみの混ざったような表情を浮かべる梓に、兵馬は言葉を続けた。

 

「ともかく、一刻も早くあの二人を保護しろ。創作の方法はお前らに任せる。俺は奴のクライアントについて調べる」

「「「了解」」」

 

兵馬の指示に、一同は返事をするとそのまま飛び出すような勢いで支部を去っていった。

 

「さて……聴取の方を再開させるぞ」

「了解」

 

兵馬の号令に前田は返事を返すのであった。

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

赤一色に包まれた視界も、少しすればどこかの倉庫のような場所へと変わっていた。

一瞬幻覚とも思ったが、何となくそうではないということがわかった。

どうしてかと聞かれるとうまく説明はできないが。

 

「はぁ~……」

「び、びっくりした」

 

深いため息をついていると、横にいたエリナもほっとした様子でつぶやいていた。

 

「それで、コースケ」

「何かな?」

 

真剣な表情で僕の名前を呼ぶエリナに、何となく要件は想像がついたが、それでも僕は分からないふりをすることにした。

 

「どうして、コースケはここにいるの? それに、どうしてエリナに本当のことを話してくれなかったの?」

「それは…………」

 

エリナの疑問に、僕は答えに詰まった。

前者のこともそうだが後者のこともそう簡単に話せるようなことではなかった。

 

「そんなにワタシのことが信じられないの?」

「それはないっ!」

 

悲しげな声で聞いてくるエリナに、僕は即答で返した。

だが、それが最後だった。

 

「ワタシ、怖かった……ワタシのせいでコースケが、遠い場所に行くんじゃないかって想像しただけで……」

「………エリナ」

 

まるでせきを切ったように、思いを打ち明けたエリナに僕は謝罪の意味をこめてもう一度抱き寄せた。

 

「ごめん。エリナに余計な心配をかけるのが嫌だったんだ。ましてや自分のせいだなんて思わせるようなことを言うのが」

「それは分かってるけど。だからこそ、悲しいの」

 

若干涙声になるエリナの背中をやさしくさする。

今の僕には、それしかできなかった。

 

「それよりも、今問題なのはあの男の人たちだ。エリナはあの人たちについて心当たりとかはある?」

「うん………もしかしたら、ロシアの研究所の関係者かもしれない」

 

若干不服そうに(と言うよりは、名残惜しそうにだが)頷くと、予想を話してくれた。

 

「なるほど……」

 

エリナの返事に、僕は驚くことはなかった、

来るべくして来たのだから。

 

「きっと、ワタシをロシアの方に連れて行こうとしているのかもしれない」

「いや……違う」

 

エリナの推測に、僕は首を横に振って異論を唱える。

 

(それとは、何かが違う)

 

そう、何かが違うのだ。

 

「どういうこと?」

「僕にもよくわからない。でも、なんとなくただ連れて行こうとしているだけには見えないんだ」

 

僕の言葉に、首を傾げるエリナをしり目に、僕は違うと感じた理由を考えてみる。

 

(疑問はいろいろあるんだ)

 

そう、例えば病室と思われる場所に倒れていた男の人。

そしてエリナを連れ去ろうとした男たちの増援が発した『死ねぇっ!!』という言葉。

それらの疑問を解決することができれば、僕が感じた違和感も説明がつくはずなのだ。

 

「あれ、電話だ」

 

そんな僕の考えを妨げるようにして鳴り響いたのは着信を告げるアラームだった。

 

「僕は持ってないよ」

「それじゃ、ワタシのかな」

 

病院で入院していたのであれば、携帯電話のようなものは持ってくるはずがないし持ってきたとしても電源は切られているはずだ。

”彼”が携帯電話を持ってきて、電源をつけている状態であれば話は別だが。

エリナが携帯電話を取り出すと、音は一層大きくなった。

 

「誰から?」

「えっと……モトキからだ」

 

僕の疑問に答えるようにディスプレイを確認したエリナが発信者を教えてくれた。

 

「扇先生が? とりあえず出てみてくれる?」

「分かったよ」

 

今は隠れている身で、気を抜けない状況ではあるがもしかしたら何か重要な話があるかもしれないので、エリナに電話に出るように指示を出した僕は周囲の警戒をすることにした。

とは言っても、気配を悟るような力はないのだが。

 

「コースケ」

「扇先生はなんだって?」

 

そんな時、電話に出ていたエリナから話しかけられたため、僕は話が終わったと思い扇先生からの用件を聞いた。

 

「ううん。そうじゃなくて、コースケと話がしたいって」

「僕と? ちょっと借りるね」

 

どういうことかはわからなかったが、僕はエリナに快く貸してくれたことのお礼を言いながら携帯電話を耳に当てる。

 

「もしもし」

『高月君、大丈夫かい!?』

 

電話先の扇先生に声をかけるや否や、大きな声でマシンガンのごとく早口で質問が飛んできた。

 

「は、ハイ! 大丈夫です」

『その口調だと、王じゃない方であってるよね?』

「あってます。というより、わかってくださいよ」

 

僕の口調で扇先生は悟ったのか確認するように訊いてくる扇先生に、僕はそうお願いした。

 

『申し訳ないね、彼は演技をすることがあるから』

「そ、そうですか」

 

いったい何のためにとも思うが、まったくわかるはずがないので、考えるのをやめた。

我ながら、いったいどういう性格をしているのだろうか?

 

『だとすると、状況を理解できていないだろうから簡単に説明するね』

「はい、お願いします」

 

僕の言葉を聞いた扇先生は、事の次第を説明してくれた。

 

『まず、アヴェーン君と高月君が検診をしたあの病室から、盗聴器が見つかったんだ』

「盗聴器が!? ということは……」

 

扇先生の衝撃の宣告に、僕は思わず大きな声で叫んだが、すぐに声のボリュームを下げて言葉を続けた。

 

『うん。高月君の考えている通り、ロシア本部の仕業とみて間違いないだろうね』

 

どうやら、エリナの推測は嫌な方向で当たってしまったようだ。

ならば、やはりあの男の人たちはロシア本部の追っ手なのだろうか?

 

『それと、君の病室にいた男のことなんだけど』

「あ、はい」

 

どうやら話にはまだ続きがあったようで、僕は扇先生の説明を待つ。

 

『風紀班の人たちが事情聴取をしたところ、正体がわかったよ。彼はロシアの本部の人間ではなく、君に恨みを持って命を奪おうとしたテログループの構成員だ』

「は、はい?!」

 

予想外の正体に、僕はそれ以外しか口にできなくなってしまった。

それほど衝撃的だったのだ。

 

(本部の人とかならまだ話は分かるけど、どうしてテログループが僕の命を狙うわけ?!)

 

『驚くのは無理もないよ。恨みを持つ要因を作ったのは王としての人格の方だからね。でも向こう側にはそのような事情を知らない。知ってもこれ幸いと思うだろうね』

 

僕の疑問を悟った扇先生は、僕の疑問に答えるように声をかけた。

 

(一体、彼は何をやったんだろう?)

 

知りたいような知りたくないような、複雑な思いが心の中で渦巻き続けていた。

 

『まだ、本部とのつながりは判明していないが、本部とテログループの狙いは高月君であるのは確かだ』

「と言うことは、エリナは」

 

もしエリナが関係ないのだとすれば、最悪の場合にはここで別れるつもりだった。

 

『安全とは言えない。君が王でアヴェーン君が王女である限り、狙われる可能性は高い』

「ですよね」

 

それは答えを聞くよりも早くにわかっていたことだった。

そうでなければ、追っ手がエリナを取り囲むことなどありえないのだから。

別々に行動した瞬間に、人質にされる危険性が高い。

 

「あの、ひとつ聞いていいですか?」

 

とりあえず、エリナとは行動を共にすることで結論を出した僕は、もう一つの切実な問題を解決させることにした。

 

『なんでもいいよ。あ、もしかして僕のスリーサイズを―――』

「あの、僕の右腕がまるで煙のような状態になっているんですけど、これってどうしたら元に戻せますか?」

 

扇先生の言葉をスルーした僕は、疑問を投げかけた。

そう、今僕の右腕は赤い煙状のようなものと化していた。

自分の身体ではあるが、少し不気味だ。

 

『煙のような状態………心の中で”戻れ”と念じれば戻るはず。きっと何らかの要因でヴァンパイアウイルスの活性化が起こって、バランスが不安定になった影響だと思うから、簡単に戻せると思うよ』

「分かりました。すぐにやってみます」

 

(戻れ……戻れ)

 

僕は扇先生に返すとすぐに心の中で念じた。

すると赤い煙のようなものは徐々にその姿を変えていき、やがて元の右腕と化した。

 

「一体、あれはなんだったんですか?」

『僕にもよくわからないが、おそらくは血塗れた腕(ブラッディー・アーム)と呼ばれているものだと思うよ』

 

僕の疑問に、困ったような声で答える扇先生が口にした名前に、僕はニコラが好みそうだなと感じてしまった。

 

『それを出している状態だけでヴァンパイアウイルスは滅って行くから、大事になる前にしまってよかったよ』

 

何となく、僕は命拾いをしたような気がしてきた。

まさにもろ刃の剣のようなもののようだ。

 

(恐ろしい)

 

その一言に尽きた。

 

『とにかく、すぐに風紀班の人をそっちに向かわせるから高月君の居場所を教えてもらえるかい?』

「はい。居場所は――――ッ!」

 

扇先生に居場所を告げようとした僕は、息をのんだ。

第六感が告げているのだ。

”居場所を話すな”と。

理由は分からない。

だが、このまま居場所を扇先生に話した瞬間、何か悪いことが起こるような気がしていた。

 

『高月君? どうしたんだい? 高月く――――』

 

僕は電話を切った。

 

「モトキはなんだって」

「どうやらこれの原因は、ロシア本部らしい」

 

電話を切ったところで、今まで静かにしていたエリナが電話の内容を聞いてきたため、僕は扇先生の話を要約して答えた。

 

「そうなんだ。………ゴメンね、エリナのせいで」

「謝らなくてもいいよ。エリナのことは何があっても僕が守る。それに、苦難を共に乗り越えることがその……恋人と言うものじゃないのかな」

 

申し訳なさそうに謝るエリナに、僕は若干照れながらもエリナに返した。

恥ずかしくなるのなら言わなければいいのにということは、言わない約束だ。

 

「コースケ……そうだよね、恋人だもんね」

 

それでも、エリナの表情に少しではあるが笑顔を戻すことができたのだから、これは無駄ではなかった。

 

「さて、これからどうするか……」

 

次いで僕が直面した問題は今後のことだ。

 

「ここを離れたほうがいいのかな?」

「いや、下手に動けば見つかる可能性がある。ここなら隠れる場所もあるし、そう簡単に見つかるような場所ではない。それに、風紀班が僕たちを保護するために動いてくれているらしい」

 

エリナの提案を僕は却下した。

希望的観測でしかないが、風紀班の人の到着が早いことを願うしかない。

 

(でも、そう簡単に見つけることなんてできるのか?)

 

今いる場所が自分でもわからないのだ

風紀班の人が、そう都合よく僕たちを見つけ出せるのであろうか?

 

(希望的観測はやめよう)

 

常に最悪に備えることこそが危機管理のモットーなのだ。

自分から風紀班の方に情報を告げるしかない。

そのためにまずしなければならないのは……

 

(今いる場所の把握か)

 

まるで魔法のようにこの場所に移動したために、ここがどこなのかが全く分からない状態だった。

 

(あ、でも倉庫地帯であれば……)

 

ふと、巡回の際に知ったことが頭によぎる。

 

「エリナ、ちょっとここで待っててくれる?」

「だー。分かったけど、何をするの?」

「ちょっとね」

 

エリナの疑問にぼかして答えながら、僕は倉庫の出口の方に足を向ける。

 

「コースケ、危ないよ!」

「大丈夫」

 

慌てて止めようと声をかけるエリナに、僕は安心させるように告げると再び外の方に向かう。

 

「えっと、番号は……W8」

 

番号を確認した僕は、素早く倉庫の中へと戻る。

 

「コースケ、一体何をしていたの?」

「居場所を風紀班の人に教えるための方法を考えているんだ」

 

戻る僕に、怪訝そうな表情で訊いてきたエリナに僕はそう答えた。

 

「どういうこと?」

「後は、どうすればこれを伝えられるか………」

 

エリナの疑問には答えず、僕はこの位置情報を伝える方法を考える。

 

(GPSで捕捉されている可能性もあるから、早めに伝えないといけないけど、電話とかを傍受されていたりしたら言えないし、メールも中身を不正に読み取られたら書けない)

 

そのような技術があるのかどうかは分からないが、あると考えておいた方が無難なのは言うまでもない。

 

(メールで伝えるんなら、暗号のようなものでも使わないと……)

 

「暗号?」

 

ふと自分の心の中で浮かび上がった単語に反応した。

 

「そっか、その手があったかっ!」

「ど、どうしたのコースケ?」

「エリナ、悪いけどメールを一斉送信ができるようにしてもらえる?」

 

突然声を上げた僕に、目を丸くして驚くエリナに、そうお願いした。

 

「わ、わかったけど、どうするの?」

「暗号を使って、この場所を伝える」

 

不思議そうに疑問を投げかけてくるエリナに、僕はそう答えた。

 

「暗号って、相手の人がわからないと意味がないんじゃ」

「普通はね。でも、この暗号の法則を知っている人がいるから、その人に伝われば、この場所が伝えられる」

 

しかも、まだ世界ではあまり見ない暗号でなければならない。

その条件を、見事にクリアする暗号が一つだけあったのだ。

ただ、これで関係のない人たちを巻き込んでしまうことに、少々抵抗があったがそのようなことを言っている暇はない。

迷惑を掛けたお詫びはあとで考えればいいだけだ。

 

「誰に送るの?」

「それはもちろん。美羽さんと布良さん、あと佑斗君の三人」

 

エリナのその疑問に、僕は最も信頼のできる人の名前を口にするのであった。

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