第63話です。
此処まで時間がかかったのは、テンキー暗号が原因です。
書くのも翻訳するのにも非常に時間がかかったりします。
おそらく、もう二度と書くことはないと思います。
同時刻、海上都市。
軽く走りながら美羽と梓と佑斗の三人は話し合っていた。
「それで、どうやって捜すのよ」
「闇雲に捜しても見つからないよ」
そう、海上都市とは狭いように見えるが何気に広い場所だ。
そのため人一人をくまなく捜すとなると、どうしても数日の期間を要するのだ。
「いや、居場所に心当たりがある」
「え? どこなの」
佑斗の返事に、走る速度を下げて立ち止まった梓は驚きながらその場所を尋ねる。
佑斗たちもそれに続く
「人に追われているのであれば、人通りの少ない場所で、しかも隠れられるところにいるはずだ」
「人通りの少ない場所で……」
「しかも隠れることができる場所と言うと……」
佑斗の推測に美羽と梓が考え込みながらつぶやく。
「「開発地区っ!」」
「そういうこと」
二人のたどり着いた結論、佑斗は頷きながら答える。
「でも、開発地区と言っても西と東があるわよ」
「それに、距離もあるから調べるのに時間がかかっちゃう」
困ったような表情で異論を述べる二人に、佑斗は顎に手を当てて考え込み始めた。
「何かほかにも場所を絞れる手がかりがあれば……」
いくら考えても、佑斗たちに手がかりが思い浮かぶことがなかった。
「あ、もしかしたら萌香さんなら手がかりを知っているかも!」
「いくらなんでもエスパーじゃないんだから」
梓が思いついたのか、提案するが佑斗は苦笑しながら却下した。
がっくりと肩を落とす梓に、佑斗はどうフォローしようか考え始めようとしたところで、それを遮るように携帯電話から音が鳴り響いた。
それぞれが携帯電話を取り出して、着信音が鳴っていたのが誰かを確認する。
「メール? って、エリナから!?」
「私にも届いてるよ」
「俺にもだ」
どうやら届いたのはメールのようで、差出人に美羽は目を大きく開いて驚きをあらわにする。
「えっと………はい?」
「な、なにこれ」
メール画面を開いた二人は、それを見て固まった。
「どうしたんだ?」
口々に唖然としたような声を上げたため、佑斗は二人の携帯の画面を覗き込む。
「自分の携帯を見なさいよ」
「でも一緒に見たほうが早いだろ?」
顔をしかめながら促す美羽に、佑斗はそう返すと画面を覗き込んだ。
「確かに、変なメールだな。こりゃ」
「数字とか”/”とかしか書かれてないよ」
梓の言うとおり、メールの本文には数字と”/”しか書かれていなかった。
そこにはこう記されていた。
『66666*//333/222/4//00/44//11111/6/666*//44//55555/33*//3*/4444*//77777/333//2*/##/11//222/7/66666*//88//999/222//1/4//222*/44/6//555//7777/2/11//999//88/6/444//555/44//222*/222/55555//2222*/4*//555/666*/999//111/55//222/33333/111/22222//33//000/5/11/55/11//222//22222/7/333』
「いたずらかしら?」
「でも、さすがにこの状況でそんなメールは送ってこないと思うんだけど……六連君はどう思う?」
顔をしかめる美羽に、梓が反論するものの、そのメールの意味が分からなかったため佑斗に意見を求めた。
「………」
「佑斗? どうかしたの?」
眉をひそめて無言でメールの文面を見ている佑斗の様子に、美羽が不思議そうに声をかける。
「いや、この文面の形式を前にどこかで見たような気が………」
佑斗は自分の記憶に引っかかる形式の文面を必死に思い起こそうと努力した。
(そうだっ! たしかあの時に浩介が書いていた奴か)
佑斗の記憶にある光景が思い浮かぶ。
『何をやっているんだ?』
『暗号を作ってるんだ』
佑斗の問いかけに答えた浩介が佑斗に見せた暗号こそが、今メールに書かれている物と同じ形式なのだ。
「思い出した、これはテンキー暗号だ」
「何それ?」
聞きなれない暗号名に、二人は首をかしげた。
「携帯電話とかにあるテンキーを基に作っているんだ。例えば、”か”と打ちたければ2を一回書くんだ。それで”/”で一文区切っていくらしい」
「なるほど」
佑斗の説明に、感心した様子で暗号文を見る美羽に、佑斗はさらに言葉を続けた。
「美羽、携帯電話のメモ帳か何かを出してここにある数字の通りに入浴してみてくれるか?」
「分かったわ」
佑斗の指示に、美羽は携帯電話を確認しながら入力していく。
やがてできたのか、画面を二人に見えるように掲げた。
『ボスクタヲチオハブチノジザデモスギ。イクマボユルクアタグチハヌメカイルユハツヌチグクノゲダヌブルウニクソウコシンナイニイクコマス』
「どういう意味なのこれ?」
「ボスクタっていうのは何かの隠語かしら?」
(あー、やっぱりそうしちゃうよな)
文面の意味が分からずに顔をしかめている二人に、どこか既視感を覚えていた佑斗は、この暗号のややこしいところを説明するべく口を開いた。
「待ってくれ、この暗号文で文字を区切る”/”をよく見てくれ」
「”/”を?」
「特に変なところはないわよ。せいぜい二つ重なっているのくらいしか」
佑斗の言葉にもう一度文面を確認するが、何も分からないのか首をかしげながら言葉が返ってきた。
「その二つ重なった”/”はダミー文字なんだ。だから、そこを入れるとまったく違う文面に……というより、意味不明な文になるんだ」
「なるほどね。ならこれから二つ重なった”/”の文字のところを消していけばいいのね」
「でも、一体どうしてこんな暗号文を作ったんだろう」
佑斗の説明に、感心した様子で頷く美羽をしり目に漏らした梓の疑問に、佑斗は苦笑するしかなかった。
「できたわよ」
その美羽の言葉に、もう一度佑斗たちは美羽の携帯画面を覗き込んだ。
『ボクタチハブジデス。イマボクタチハカイハツチクノダブルニソウコナイニイマス』
それこそが、解読された暗号だった。
「つまり、こういうことだよね。”高月君たちはテログループから逃げることができて、開発地区のダブルに倉庫”にいるってことだね」
「ああ。でもこの”ダブルに”ってなんだろう?」
場所を絞り込むことはできたものの、浩介の掲げた”だぶるに”という単語の意味が分からずに考えをめぐらせていると、美羽が思い出したように口を開いた。
「もしかして、”だぶるに”って”W2”のことじゃないかしら?」
「開発地区のW2倉庫……あっ!」
美羽の言葉にはじかれるようにつぶやいた梓は目を見開かせた。
「どこかわかったのか?」
「ええ、浩介のいる場所は西開発地区の第2倉庫よ」
自信に満ちた目で、美羽は浩介達の居場所を告げるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「あれでダイジョーブ?」
「ああ。佑斗君ならば、あれの意味を理解することができるはずだから。ふぅ……」
エリナの疑問に応える僕は、一気に襲ってきた疲労感に思わずその場に座り込んでしまった。
「こ、コースケ!?」
「大丈夫だ。ちょっと疲れただけだから」
心配そうに声をかけてくるエリナに、僕は安心させるように応えた。
(とはいえ、ちょっとまずいかな)
先ほどの血塗れた腕でヴァンパイアウイルスが減少したのか、倦怠感が出ている状態だった。
もし、こんなところで追っ手に見つかりでもしたら、逃げられる自信はない。
「ねえ、コースケ」
「どうしたの? エリナ」
緊迫感に満ちたエリナのこうぃろに、僕はただ事ではないと悟った。
「なんか、足音が聞こえる」
「足音?」
エリナの指摘に、僕は耳を澄ましてみる。
「確かに、聞こえるね。しかもだんだん近づいてきてる」
確かに足音のようなものが聞くことができた。
音からして複数人のようだ。
(佑斗君たちか追っ手か……)
前者であれば非常にいいが、後者の場合はかなりまずい状況に追いやられることになる。
「エリナ、隠れよう」
「うんっ」
念のために、僕たちは近くの物陰に身を隠した。
だんだん近づいてきた足音はこの倉庫の前でぴたりと鳴りやんだ。
僕は息を殺して状況を確認する。
「Wの2番倉庫……ここで間違いないわね」
「うん。西側だったらここしか2番倉庫はないよ」
倉庫の外側の方から聞こえてきた知人の声に、僕とエリナは顔を見合わせると頷きあった。
「浩介? エリナ?」
「いるんでしょ? 出てきて」
佑斗君と布良さんの呼びかけに応じるように、僕とエリナは物陰から出た。
「よかったー」
「無事でよかったわ」
「心配掛けやがって」
それぞれが僕たちに安心したように声をかけてきてくれた。
「ありがとう、わざわざ来てくれて」
「いいのよ別に。友達なんだから」
「そうだよ。友達が困ってるときは助ける物でしょ」
僕が駆けつけてくれた三人にお礼を言うと、笑顔で応えてくれた。
でも、それは僕にとっては意外なものだった。
「友達………」
「何よ、浩介。私たちが友達なのはいやだって言いたいの?」
「ち、違うよ。そういうのじゃないよ」
ジト目で(というより睨みつけるような感じだが)僕を見ながら問い詰めてくる美羽さんに、僕は慌てて釈明した。
「だったら、なんだっていうのよ」
「いや………僕なんかを友達だって思ってくれていることがとてもうれしいだけだから」
「あのねぇ」
つい本心を告げてしまったため、美羽さんが若干いらだちながら息を吐き出した。
「ダメだよ、そんな風に自分を卑下したら」
「……ごめん」
それを遮るように、布良さんに諭された僕は謝るしかなかった。
「それじゃ、一緒に移動しましょ」
「ああ。エリナのことをよろしく頼むよ」
美羽さんの提案に、僕はエリナのことをお願いした。
「ちょっと、コースケ!?」
「浩介はどうするのよ?」
その僕の言葉に驚きのあまりに叫ぶエリナと質問を投げかけてくる美羽さん。
「僕は一人で何とかするよ。相手は僕を狙っているんだ。ならば、僕が直接何とかしなければいけない。それに、これ以上みんなに迷惑はかけられない」
「………」
僕は美羽さんに、応えると三人の横を通って倉庫の外へと移動する。
「ふざけないでくれるかしら?」
「え?」
突然背中にかけられた言葉に、僕は思わず足を止めた。
「さっき、あなた私たちに『友達だって思ってくれていることがとてもうれしい』って言ったわよね?」
「言ったよ」
鋭い視線を僕に向けた美羽さんの問いあっけに、僕は頷いて応えた。
「それなのに、浩介は自分一人で何とかすると言った………そんなに私たちのことが信頼できないの?」
「そういうわけじゃ……」
「だったら少しは頼りなさいよっ! 友達だとか言っておいてまるで信頼していないと言いたげな態度を取られるのがね、すっごく腹が立つの。少なくとも私はね」
(僕、嬉しいとは言ったけど………いや、やめておこう)
美羽さんの凄まじい怒りに、僕は余計なことを考えそうになるのをやめた。
「そ、そうだよ。私たちは友達で仲間じゃない。困っていればお互い助け合うものだよ。もちろんエリナちゃんもね」
「………」
美羽さんに賛同するように、声をかけてくれた布良さんの言葉でふと自分を見つめてみた。
確かに、自分が原因なのと守らなければいけないという思いから、すっかり頼ることが抜けてしまっていたようだ。
(友達であって仲間………か)
『友が困った時にはお互いを助けあう存在。旅は道ずれとも言うし、共に来い。友であって仲間でもあるのだ、こんなお得なお誘いはないぞ?』
ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。
それが誰に対して言ったのかは分からないが、おそらくは僕の言葉なのだろう。
「そうだよね。ごめん、僕が間違ってた」
僕は三人……四人に頭を下げて謝った。
「ま、まあ分かればいいのよ。これだから童貞坊やは」
「いや、こういうことに童貞って関係ない……というか、恥ずかし紛れに下ネタに走るのはどうかと思うぞ。しかも顔を真っ赤にして」
「う・る・さ・い」
顔を赤くして童貞とからかってくる美羽さんに、佑斗君は苦笑しながらツッコんでいた。
やはり、僕は恵まれているんだなとしみじみ思う。
こうまでして力になろうとしてくれるのだから。
「それで、何か困ってるんじゃないのかな?」
「…………」
「まさか、まだ迷惑をかけたくないなんて思ってるんじゃないでしょうね?」
「俺達では頼りないかもしれないけど、できる限り力になる」
どういえばいいかを考えていると、美羽さんに続いて佑斗君に諭されてしまった。
「そういうことじゃない……ないんだけど………」
言い渋っていた理由は、事情説明だった。
テログループと、ロシアの研究所の人間が追ってきているということを説明すると、”ではなぜそうなったのか?”ということになってしまう。
そうなれば、僕は全てを話さなければいけなくなる。
この体質のことも、そして世界を統べし王のことも。
「……………」
怖い。
自分が拒絶されるのではないかと思うと怖くてたまらなかった。
そんな感情を上塗りするように僕の手を温かいものがつつんだ。
「ダイジョーブだよ。エリナはずっとコースケから離れないから」
「エリナ……」
やわらかい笑みを浮かべて口にした、エリナの言葉はまるで暗闇に差し込む一筋の光のようにも見えた。
「ありがとう。エリナ」
それだけで、僕は言葉にはいい表せないほどの勇気と覚悟をもらったような気がした。
「えー、コホンコホン」
「アツアツのところ申し訳ないけど、いい加減はっきりしてもらえないかしら?」
そんな僕に向けられる冷たい視線なんてものも、気にならない
「ごめんなさい。はっきりします」
はずがなかった。
謝罪の言葉を口にした僕は、いったん言葉を区切る。
「今こうして、追われているのは僕の体質が原因なんだ」
「浩介の体質? …………それはいったいどんな体質?」
”体質”という単語に、一瞬美羽さんの表情が固まったが、僕に尋ねてきた。
それはいわば、確認のようなものだったのかもしれない。
「それは―――」
その美羽さんの疑問に答える形で、僕はその体質を口にするのであった。