ついに浩介の正体が明かされます。
次回のほうでは、浩介たちの行動が主な話になりそうです。
現段階ではこのエリナルートも残すところ3話ほどとなりました。
おそらく、終わり方で賛否両論になりそうな気もしますが、頑張って書き上げるようにしたいと思います。
「それは、僕が世界を統べし王だからなんだ」
「「ッ!?」」
僕の言葉に、佑斗君以外の二人の表情は驚きに満ちていた。
「な、なんだ? その”世界を統べし王”って。いや、何となくは分かるけど」
唯一何も知らない佑斗君が困惑した様子で声を上げていた。
「世界を統べし王―――その名を口にするだけでも恐ろしい存在よ」
「”吸血鬼喰い”の吸血鬼さんで一番有名な吸血鬼さんなの。吸血鬼さんや人間を見境なく襲うことで」
佑斗君に説明する二人の様子から見ても、どれほど恐れられているのかが把握できた。
「エリナちゃんは、このことを知っているの?」
「うん。ちゃんとコースケから説明してもらったよ。……たぶん」
布良さんの疑問に、苦笑しながら歯切れの悪い返事を返した。
まあ、無理もない。
僕だって、あの時に初めてそのことを知ったのだから。
「でも、ついこの間まで人間だったはずなのに、それがどうして」
「それが、僕が昔の記憶を忘れているのは知っているよね?」
前に萌香さんが僕の情報を口にしていた時にいたので、三人はそのことを知っているはずだった。
そして予想通り、三人は頷くことで答えてくれた。
「それと同時に、人格も破壊したらしいんだ」
「人格を破壊!?」
「そんなことが、できるわけがないわ」
僕の説明に、信じられないといった反応をする美羽さんたちに、僕は続けて口を開いた。
「だったら、僕が本性を隠しているように見える? 世界を統べし王としてのうわさ通りの性格に見える?」
「……………見えないわ」
しばらく無言だったが、僕の問いかけに美羽さんは目を閉じて答えた。
「その破壊された人格と記憶は何の因果かは分からないけど、刺激を与えると一気に前に出てくるんだ」
「二重人格のようなものか」
僕の説明に、佑斗君が分かりやすく例えてくれたので僕は”そんな感じ”と相槌を打った。
「なるほど……事情は分かったわ」
「ミュー、アズサ、ユート。実は私もね――」
納得したのか、美羽さんたちが頷いていたところに、エリナが突然口を開いた。
「エリナ?」
「こういうのはタイミングが大事なんだよ。それに、ミューたちは友達だから………信じたい」
”話すのか?”という意図が通じたのか、エリナは静かに頷いて強い決意の言葉を口にした。
それは、決して揺るぐことはないと思わせるものだった。
「分かった」
僕にできたのは、そう声をかけることだけだった。
でもそれでいいのだ。
さっきもエリナが僕のそばにいてくれたおかげで、僕は勇気を持てた。
ならば、今度は僕が同じことをするだけなのだ。
「どういうこと? エリナちゃん」
「実は、私……吸血鬼から血を吸う吸血鬼なんだ」
布良さんの問いかけに答えるように、エリナは自分の体質について口にした。
「それって、エリナもライカンスロープっていうこと?」
「それは違うよ。ただ、人間から血を吸うのより反応が強いだけって言われてるから」
やはり吸血鬼から血を吸う=ライカンスロープと言う公式ができてしまっているようだった。
確かに、そう簡単に人に話すのは覚悟が要る行為だった。
「……それで?」
「「え?」」
美羽さんの予想外の言葉に、僕とエリナはそろって間の抜けたような声を上げた。
「それがどうしたっていうの? 特異体質や世界を統べし王と友達になってはいけないなんていう決まりなんて存在しないのよ、だったら別に問題ないじゃない」
「私も、いきなりすぎて整理ができていないけど………決めたっ! 体質のことなんて関係ないよ。私は友達として、仲間として二人の力になりたい」
「俺も同じ思いだ。体質なんて関係ない。そんなことで態度を変えるような奴にはなりたくないし」
「皆……」
「ありがとう」
三人の言葉は、とても暖かくて言葉には言い尽くせないほどの感動があった。
受け入れてもらえるというのは、本当にいいものなのかもしれない。
「それじゃ、一つだけ。お願いしてもいいかな?」
「ええ。言ってみなさい」
僕の問いかけに、美羽さんは静かに頷くと促してきた。
「僕も、吸血の体質のみだけどエリナと似ているんだ」
「ということは、高月君も吸血鬼さんから血を吸わないとダメ……あれ? でも、前は能力をつかえていたよね?」
僕の言葉に、頷いていた布良さんは、ふと浮かんだであろう疑問を僕にぶつけてきた。
「人間の血でも、能力を使うことはできるらしいんだ。パワーは落ちるらしいけど」
「なるほどね……それで、それがどうかしたの?」
できれば、これだけはあまりお願いしたくはなかった。
気が進まないが、それでもここでやらなければいけないのだ。
いや、やるしかないのだ。
「美羽さんか佑斗君のどっちでもいいから、血を吸わせてほしいんだ」
「………どうして? もしかして、能力を使うのに必要だから?」
僕のお願いに、首をかしげて尋ねてくる布良さんに、僕はその理由を説明した。
「それもあるけど、一番の理由は生きるために必要だから」
「生きるためにって……どういうことよ?!」
「僕のヴァンパイアウイルスはある理由でウイルスの量自体が、非常に減少しているんだ。このままだと活動が弱まった時と同じ状態になっちゃうだ」
驚きのあまり目を見らかせて聞いてくる美羽さんに、僕はその理由を説明した。
「それを防ぐには、吸血鬼から吸血してヴァンパイアウイルスを補給する必要がある。病院に行けば専用の血液パックがあるけど、ここから動くのはかなり危険なんだ。だから……」
「そういうことだったのね。ちなみに、それって血を吸われた吸血鬼は大丈夫なの?」
僕が何を言わんとしたかを察したのか、すべてを理解した様子で頷くと、真剣な面持ちのままそう聞いてきた。
「普通はそうなるらしいんだけど、ある条件をクリアすると吸っても相手には異常が出ないらしいんだ」
「その条件ってなんだ?」
僕の答えに、興味深げに先を聞いてくる佑斗君に促らされるように、僕はその条件を口にした。
「それは、お互いがお互いのことを信頼する気持ちに、偽りがないかどうかなんだ」
「………何故、そんな条件なんだ?」
僕の口にした条件に、唖然としている佑斗君だったが、そんな疑問を僕投げかけてきた。
「理屈は分からないけど、扇先生曰く吸血という行為が生存するのに必要な場合や、信頼関係が結ばれている際にライカンスロープの性質が弱まるから、だとしか」
佑斗君に説明している僕も、実のところよく理解できていなかったりする。
「でも、これは危険な賭けになるから、あまり気が進まないんだけどね」
「上等よ、その賭け、乗ろうじゃないの」
「ま、まあ……俺は大丈夫だって信じているけどな」
「二人とも………ありがとう」
僕の言葉に、躊躇うばかりかさらに乗り気になってくれた二人に僕はお礼を言うことしかできなくなった。
「コースケ、ワタシもいいよ」
「ありがとうエリナ。でも、それは気持ちだけ受け取らせてもらうね」
エリナならば確実に安全である(尤も条件自体が間違いでなければだけど)が、エリナの体質のことを考えると、下手なことをしない方がエリナと僕のためだ。
「分かったよ」
エリナもそれがわかってくれたのか、すんなりと引いてくれた。
「それじゃ佑斗君、いいかな?」
「ああ。いつでも」
最初は佑斗君からにすることにした。
佑斗君は元人間。
言い方は悪いけど、人間としての生活をしていた分万が一の際にも十分対応することは可能だと判断したのだ。
「ちょっと、後ろを向いてもらっていい?」
「は? 別にいいけど……どうしてだ?」
僕のお願いに、頷いたものの理由がわからないために不審そうに聞いてきた。
「だって、いやでしょ。男に真正面から吸血するっていうのは……」
「あー、納得した」
それだけで、佑斗君は事情を察してくれたようだった。
真正面から吸血をする場合は、体を密着させる必要がある。
男女でそれはいいとして、男同士でそれをやるというのは、誤解を招く危険性があった。
『やっぱり、二人はそういう関係なのね』
『やっぱり、ユートが受けでコースケが攻めだよね』
想像したくないのに、美羽さんとエリナの言葉が想像できてしまった。
「何だか、実験台みたいなことをしてごめんね」
「気にするな」
まるで実験台と言わんばかりの僕の選択に、佑斗君は気を悪くしたりはしていない様子だった。
(もうこういうのはごめんだよ)
願わくば、親友の吸血鬼から吸血をしなければいけない事態が、二度とないことを願いたかった。
「何か要望とかある? 少なめにしてほしいとかそういう感じの」
「特にはないから、浩介の気が済むまで吸っても構わない。もちろん、死ぬまで吸うのは無しでな」
僕の問いかけに茶目っ気を利かせたのか、それともわりと本気なのかはわからないが、佑斗君からのその言葉に、僕は”吸わないよ”と相槌を打った。
「それじゃ、行くよ」
「ああ」
僕の言葉に、佑斗君が頷いたのを確認して、僕は佑斗君の首筋に牙を立てた。
「んぐ……んぐ……じゅるる……」
一気に血を啜ると、僕の身体がそれに呼応するように体中に力がみなぎってくる。
そして、それに比例するように僕の意識は遠ざかっていくのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「もういいのか?」
「………」
佑斗から離れた浩介に、声をかけると、浩介は頷いて答えた。
「六連君、どう?」
「何か違和感とかはない?」
「えっと………まったくない。たぶん大丈夫だ」
佑斗に心配そうに声を掛ける二人に、佑斗は軽く足を動かしたり手を動かしたりしてから大丈夫だと答えた。
「それで、これからどうするつもり? 浩介」
「………」
「高月……君?」
美羽の問いかけを無視するように無言で立ち尽くす浩介の姿に、梓は不安げな表情を浮かべて浩介の名前を口にした。
だが、それを見ていたエリナはゆっくりと浩介の方に歩み寄る。
「あのね、コースケは今王としての人格になっているんだよ」
「それって……まさかッ」
エリナのその言葉に目を瞬かせて驚きをあらわにする美羽の声を聴いた浩介は、その場で半回転すると美羽たちの方に向き直った。
「そうさ。この私が最強にして最凶の吸血……またの名を、世界を統べし王さ」
「あ、あれが王だったのか……」
一度その性格を狭間見ていた佑斗は、理解した様子で声を漏らしていた。
「あれって、演技じゃなかったの!?」
「残念ながら。私は演技が苦手なんでね」
梓の驚きが混じった疑問に、肩をすくめて答える浩介は、美羽たちから視線を外した。
「素晴らしい合図だった。さすがは王女だ」
「いや、説明しなかったら永遠に話が進まなそうな気がしたから、つい」
浩介の称賛の声に、エリナは苦笑を浮かべながら言葉を返す。
「ちょ、ちょっと待って。今何か聞き捨てならない単語が聞こえたような気がしたんだけど?」
「王女って、どういう意味?!」
そんな自然な感じで始まった二人の会話で”王女”という単語に反応した美羽たちが浩介を問いただす。
「王女とはそのままの意味だ。王と共に冥府魔道を行く定めを背負った者のことだ」
「め、冥府魔道って……」
浩介の説明に、佑斗は身近な厨二病にかかってしまった寮の人物を思い浮かべていた。
「一体どうして王女に?」
「簡単なことさ。彼女が私の血を飲んだからだ。しかも大量に」
「ぅ……」
梓の疑問に答えるように口を開いた浩介の言葉に、罪悪感に駆られた(というよりは思い出した)エリナが悲しげな表情を浮かべた。
「ちょっと、エリナちゃんを悲しませるのはメッ! だよ」
「王とかの前に男としてどうかと思うわ」
「だ~っ! 別に攻めてないから! ただの皮肉とジョークだから!」
梓と美羽の責め立てるような視線にさらされた浩介は、半ば叫ぶようにして、エリナに声をかけた。
「浩介、口調が変わってないか?」
「あ………」
佑斗の指摘で、浩介は慌てて自分の口を手で押さえるが、時すでに遅し。
浩介に、説明してと言わんばかりの視線が注がれていた。
「降参だ降参。さっきまでの威圧的な口調は、私の演技だよ」
「その口調が、浩介の本性か……どっちもそんなに変わらないな」
「変わらないに決まってるでしょ。基が一緒でただ記憶と人格が消去と言う形で、何も書かれていない白紙に戻されただけなんだから」
佑斗の冷静な分析に、疲れたような表情を浮かべた浩介はため息をつきながら相槌を打つ。
(世界を統べし王って言われている存在を、ここまで疲れさせて降参させることができる二人って、一体)
自分が一番恐れなければいけなのは、浩介ではなく美羽と梓のコンビなのではないかという考えが頭をよぎった。
「言っておくけど、威圧する口調はとても疲れるんだ。だが、この威圧感で有象無象のバカどもは逃げていくわけだから、下手に止めることができない」
「自衛手段だったんだ」
「それで、話を戻してもいいかしら?」
改めて知った浩介の秘密に頷いているエリナ達をよそに、美羽は浩介に話の続きを話すように促した。
そんな彼女に浩介は”別に、外れたくて外したわけじゃないんだけど”と文句を言っていたが、ため息一つつくことでそれを追い払ったようだった。
「これから私が行うのは、単純なようで少々危険な賭けだ。だが、これをしなければ前には進めないだろう。これから、私の作戦を聞いたものは強制的に手を貸させる。ここで倉庫を離れるもよし、この場に残って手伝うもよし、全ては君たちの自由だ」
浩介のその言葉に彼女たちの間で沈黙が走る。
「俺は……」
その沈黙を破ったのは佑斗だった。
「俺はここに残る。友達でもあり仲間でもある存在が困っているときに、手を貸すのは当然のことだからな」
「私も」
「私もよ」
佑斗の言葉を皮切りに、次々に浩介に手を貸すことを告げる美羽と梓に、エリナはおろか浩介も目を瞬かせていた。
「コースケ、どうしよう?」
「何がだ?」
若干涙声になっていたエリナの言葉に、浩介は言葉を促す。
「エリナ、なんだか泣きそうだよ」
「気持ちは分かるが、対処に困る。どうしても泣きたいんなら余所で泣け」
エリナの言葉に返ってきた言葉は、突き放すようなものであったが、その顔は少しばかり赤くなっていた。
(コースケも同じなんだ)
それだけで、浩介が自分と同じであることがわかったエリナは、浩介を柔らかい表情で見つめるのであった。
「本当に、お前たちは尊敬するほどいいやつだな………これなら、将来は安泰かな」
「最後の方なんて言ったの?」
小さな声でつぶやかれた言葉を聞き返そうとする梓に、浩介は”なんでもない”と答えると浩介の顔から表情が消えた。
「では、話そう。今考えられる中で一番手っ取り早い解決法を」
そして、浩介の口からその解決法が告げられるのであった。
それは、とても危険で、なおかつ危険な賭けになるような方法であった。