ついに浩介たちが動き出します。
おそらく……というより、確実に2,3話で終わりそうな感じになっています。
あっという間に完結したような感じがとても強いです。
海上都市にある高級ホテル。
そのホテル内で一番の豪華さを醸し出す一室に、ロシア風の男の姿があった。
『ターゲットを発見しました。場所は―――』
無線機と思われるものから男の声が発せられる。
「気づかれないように尾行をしてください。人気のない場所に移動したら即確保してください」
『ダー』
その報告を聞いたロシア風の男は、無線で指示を出した。
「各員、今の言葉が聞こえたな?」
『えー。もちろんです。すぐに合流できます』
確認するように問いかけるロシア風の男に、無線機からは先ほどとは違う男性の声で応答があった。
「よろしく頼む」
そう告げたロシア風の男は、無線機をテーブルに置くと腰を上げて窓の方へと歩み寄る。
そして窓から外の景色を眺めるロシア風の男の口元には怪しげな笑みが浮かべられていた。
そんな彼に水を差すように携帯電話の着信音が鳴り響く。
「私です」
『首尾はどうだ?』
男の電話の相手の男性は、男が電話に出るや否や問いかけた。
「ターゲットを補足。確保するのも時間の問題でしょう」
『そうか。確保したら速やかに本国へ戻れ』
男の報告に、若干声に喜びを混じらしながら、指示を出すと一方的に電話を切った。
彼らこそが、事の元凶でもあり、首謀者達なのだ。
そして今、”それ”が起ころうとしていた。
「…………」
「……」
同時刻、ショッピングモールを自然な形で歩く浩介とエリナの姿があった。
手をつなぎ、警戒した様子もないその姿は、どこからどう見てもただのデートをしているだけにしか見えなかった。
「初デートが、このような形になるとはな」
「ちょっとあれだよね」
浩介のボヤキに、エリナも苦笑しながら返した。
「まあ、ちゃんとしたデートはあいつにやらせるとしよう」
「ということは、セカンドデートだね♪」
エリナのその言葉に、首をかしげている浩介は複雑な表情を浮かべるのであった。
そこから少し離れた後方で、いつもの巡回を(装う)している佑斗たちの姿もあった。
「それにしても、本当にやる気なのか?」
「確かに、手っ取り早くはあるんだけど」
不安げな表情でつぶやく佑斗に相槌を打つ梓達は、少し前に浩介から告げられた作戦の内容を思い出していた。
『街中をデートをしているふりをして歩き、追っ手に見つかるようにする』
『それって、危なくないか?』
真っ先に、異論を唱えたのは佑斗だった。
相手はテログループ。
何をしでかすかわからないのが、特徴の団体だ。
万が一にも、周囲を巻き込めば混乱は回避できなくなってしまう。
『安心しろ。あの下等軍団……雀の雫の特徴は”犠牲者の少ないテロ”だ。ターゲット以外には決して危害は加えない。とはいえ、ターゲットに対しては徹底的に痛めつけるがな』
『そもそも、どうしてそんなテログループが浩介を狙うのよ』
雀の雫のことを非常に理解している浩介に、美羽が不思議そうな表情を浮かべて尋ねた。
『昔、某国の大統領を暗殺しようとしていてだな、その時たまたまそばにいた私は、その襲撃者を撃退したことがあったんだ。その時の襲撃を行ったのが』
『そのテログループだったというわけね』
浩介の言葉を補足するように、相槌を打つ美羽に浩介は頷いた。
『それで、止められたことを逆恨みして、高月君を狙ってるんだね』
『違う』
梓の推測を浩介は一蹴した。
『え?!』
『あまりにも頭にきたし、退屈だったから組織の連中をボコボコに……捕まえて壊滅させたんだよ。それを恨んでるんだろうさ』
『よ、容赦ねえな。おい』
浩介の言葉に、佑斗はひきつった笑みを浮かべていた。
『だから、私が人影の少ない場所に行くまでは後をつけるだろうよ。そこで人影の少ない場所に移動したら』
『私たちが捕まえるんだね』
『違う』
またもや梓の推測を一蹴した浩介は、首を横に振りながら、言葉を続ける。
『こっちの方でノックダウンさせるから、その後始末を頼みたい。主に、拘束云々だ』
『そんなのでいいのか?』
浩介が伝えた佑斗たちの役割に、佑斗は不安げに声をかけた。
『それでいい。こっちで手を下し、お前達はその後始末。私はどちらかと言えば殲滅することに関しては、非常に自信があるからな。だから、この采配でいいはずだ』
そんな佑斗に答えた浩介は、息を静かに吐き出す。
『それでは、始めようか』
その浩介の一言によって、作戦は幕を開けたのだ。
「あ、人通りの少ない場所に移動し始めた」
「いよいよね」
「拘束する準備はできてる」
人通りの少ない場所に移動を開始した浩介達の姿に、緊張の色を隠せない美羽たちだが、佑斗は素早く浩介から手渡された拘束用のロープを取り出した。
「追うわよっ!」
そして、美羽たちは浩介の後を追うようにその場を後にした。
一方その頃、浩介達の方では……
「距離を詰めてるな……数は10……15と言ったところか」
「な、なんだか多いね」
人通りの少なくなった通り歩いてしばらくすると、自分を追いかけているであろう人物たちの気配を感じ取って浩介は、その人数を口にした。
その多さに、エリナの表情も引き攣る。
「内、吸血鬼は10名か。最高だな、本当に」
浩介にとって吸血鬼は格好のエサであるため、10人という数に頬が緩んでいた。
「コースケ顔が怖いよ」
「失敬」
エリナの指摘に、浩介は表情を元に戻して謝罪の言葉を口にした。
「距離をさらに詰めたな……もうすぐそばまで包囲網を狭めてるな。王女、お前はどうだ?」
「何となく、そんな気配がする」
エリナに確認するように声をかけた浩介は、帰ってきた言葉に頷くと、心を切り替えるように一度目を閉じた。
「合図を出したら高速で移動する。人間は王女が、雑種どもは私が相手をする。吸血は?」
「……うん、ダイジョーブ」
浩介の問いに、エリナは体調を確認するように目を閉じると目を開いた応えた。
「よし、では始めるか。1・2の3で行くぞ。しっかりつかまれよ。でないと引き飛ばされるから」
「ダー」
エリナが頷いたのを確認して、浩介は合図を出し始める。
「1」
「2の」
「「3」」
その瞬間、二人の姿は文字通り
「き、消えた!?」
そのことに一番驚いていたのは、後をつけていた追っ手たちであった。
「探せっ! 早くさ―――――がぁっ!?」
「ど、どうし―――へヴァ!?」
慌てふためく追っ手の男たちは、悲鳴をあげると崩れ落ちるように地面に倒れていく。
そしてそれは次々と周辺にまで広がっていく。
「何なんだ、一体何が起こっているというんだっ」
「何がだなんて、見ればわかるだろ?」
男の独り言に答えるようにして、背後から声がかけられる。
「お、お前はっ!?」
「やあやあ、哀れで愚かな雑種よ。わざわざご苦労。サヨウナラ」
浩介のその声に、追っ手の男が反応するよりも早く、浩介は距離を詰める。
そしてそのまま首筋に顔を近づけて、牙を立てた。
「ング……ング」
「ぎゃあああ!?」
血を啜る浩介に、男は悲鳴を上げることしかできなかった。
やがて、糸の切れた人形のようにぐったりと項垂れた男を浩介は投げ捨てるように蹴とばした。
「ふぅ……ごちそう様」
「吸血鬼全員の血を吸ったの?」
満足げに声を上げていた浩介にエリナが問いかけると浩介は”まあ、そんなところだ”と返した。
「おかげで、ヴァンパイアウイルスはほぼ満タンだ。雑種どもを退治でき、さらには腹ごなしができるとはまさに一石二鳥だ。王女も、なかなかの素晴らしい動きだ。さすが我が王女だ」
「ロシアにいたころ、元KGBのおじさんに教えてもらってたから」
上機嫌でエリナの手腕に称賛の言葉を贈る浩介に、エリナは嬉しそうに微笑んでいた。
「さあ、倒したバカどもの身体を調べろ。無線機か携帯電話の類が出てくるはずだ」
「分かった」
そして、エリナと手分けして連絡用の道具を探し始めた浩介だったが、それはすぐに見つかった。
「これがあったよ」
エリナの手にあったのは複数の無線機だった。
「こっちもだ。なるほど、この無線機が黒幕とつながっているということか」
「高月君!」
「エリナ!」
自分の手にある複数の無線機を見ながらつぶやく浩介に、梓達が駆け寄る。
「二人とも無事か!?」
「ご覧の通りだ」
佑斗の問いかけに、両手を広げるようなしぐさをして答える浩介達の姿に、三人は安心したのか息を吐き出した。
「その手にしているのは何……無線機?」
「黒幕との連絡用にでも使っているんだろうよ」
首を傾げる美羽の問いかけに、浩介は手にしていた無線機を掲げながら答えた。
「さて、ここから次のステップだな」
そうつぶやいた浩介は、手にしていた複数の無線機を地面に落とすと、それを踏み潰すことで破壊した。
そして、黒幕と思わしき男の声が鳴り響いている、あえて破壊しないでおいた無線機を手にするのであった。
「各員、応答しなさい」
同時刻、海上都市にあるホテルの一室でロシア風の男は無線機を使い、追っ手の男たちに応答を呼びかけていた。
だが、いつまで経っても応答が返ってくることはなかった。
(一体何があったというんだ)
いつまでも応答がないことにいら立ちをあらわにする男だったが、ふと無線機から音がした。
それは応答をしたことを意味するものであった。
『よう、哀れなる者よ。聞こえているか?』
「……………誰だ?」
無線機から聞こえた威圧するような口調の浩介の声に、男は目を細めて問いただす。
『誰だ? おい下等動物。貴様、誰に口をきいている。名を聞きたく場、まずは己から名乗れ』
(この感じは、もしや)
「……これは失礼した。私の名前はイヴァン・ニコラエヴィチ・アドロフだ」
浩介の口調から、イヴァンと名乗った男は相手がわかったのか、謝罪の言葉を口にすると名前を名乗った。
『イヴァンか。我が名は世界を統べし王。お前がバカどもを使って追いかけさせた男だ』
イヴァンの名を知った浩介は、自分の名前(呼び名だが)を名乗った。
「追っ手はどうしたのかね?」
『あのバカどもか。潰した。実に軟弱すぎて、退屈だったぞ』
イヴァンの問いかけに、呆れた口調で返事を返した。
「それで、私に何の用かね?」
『このままお互いに鬼ごっこをするのもつらかろうと思ってな、話し合いの機会を設けることにした』
「ほぅ?」
浩介の提案に、イヴァンは口元をゆるめた。
『そっちも仲間を無駄に失いたくはないだろう? こちらも、雑種どもを相手にするのは退屈でな。この世の中は、ほとんどが交渉がモノを言う。仕事でもスポーツでもみんなそうさ』
「確かに。ということは、君は我々と交渉をする意思があると受け止めてもいいのかね?」
浩介の言葉に頷いたイヴァンは確認するように、浩介に聞きかえした。
『左様。いっそのこと話し合いの場を設け、そこで決着をつけようじゃないか』
「ふむ……」
浩介の提案に、男は唸りながら考え込む。
(現状、武力は削られている状態。ならば、相手の提案を呑むのもいいだろう)
「分かった。では、話し合いをするとしよう。場所は?」
現状を考えたイヴァンはこれ以上損失を大きくしないために、話し合いをすることにした。
『こちらで指定するが、構わぬな?』
「もちろんだ」
イヴァンは浩介の返答に、頷く。
『ならば、西開発地区の2番倉庫前だ。そこに1時間後だ。遅れぬようにな』
「心得た」
そのイヴァンの応答を最後に、無線機からは応答がなくなった。
「これは、ちょうどいいかもしれないな」
圧倒的不利な状況にもかかわらず、イヴァンは不敵の笑みを浮かべながらつぶやくと、携帯電話を手にするのであった。
「交渉の席に着くようだ」
「でも、大丈夫なのかな?」
「きっと罠とかしかけていたりするんじゃないのか?」
やり取りを終えた浩介に、梓と佑斗が心配そうに声をかける。
「だろうな。それぐらいは十分に予測している。だが、どのような罠を仕掛けていようと問題はない。その罠ごとぶっ潰すだけだ」
「暴論ね」
浩介の言葉に、呆れた表情で声を漏らす美羽に、浩介は肩を竦めて反応した。
「さて、お前たちの役割はここまで。後はこのバカどもを連れて行け」
「え? 私たちも交渉の方に行くよ」
浩介の指示に、驚いた梓は浩介に提案した。
「ダメだ。ここから先は罠とかがある可能性が高い。そうなったらお前たちには危険だ」
「あのね……少なくとも私たちは風紀班に所属しているのよ。危険なことは日常茶飯事よ」
浩介の口にした理由に、美羽は目を細めながら反論する。
「その罠がお前たちを人質にすることだったらどうだ? 言っておくが、人質にするのは吸血鬼だろうと簡単なことだ。そして、そうなったら逆にその方が迷惑だ」
「………」
「お前たちの友情には非常に感動しているし、感謝もしている。だが、これ以上は譲れない」
正論とも取れなくもない浩介の言葉に、反論することができなくなった美羽に、さらに浩介は言葉を続けた。
「これが最後だ。馬鹿どもを連れて風紀班支部に戻れ。さもなくば無理やりにでも戻す」
「………分かったわ」
「聞き分けが良くて助かる。この詫びは全てが解決してからじっくりとさせてもらう」
観念したように、浩介の言葉に頷いた美羽に浩介はそう声をかける。
そして、そのまま美羽たちは先ほど縛った男たちを連れてその場を去っていくのであった。
「本当に、これで良かったの?」
「ああ。ここから先は、何が起こるかわからないからな。これ以上危険な目に合わせるわけにはいかない」
不安そうに尋ねるエリナに、浩介は目を閉じて返すとそのまま歩き出した。
それに、エリナも無言で続く。
かくして、事件はゆっくりと解決に向かいだしていくのであった。