DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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第66話です。

大変長らくお待たせしました。
交渉のシーンで思いのほか苦戦いたしまして、このようになりました。
そして次回は、いよいよ最終話となります。



第66話 交渉と終焉

同時刻、公務室。

 

「小夜様、彼からはまだ?」

「そうじゃ。ロシアの方に確認しても知らぬ存ぜぬで返ってくるし、一体どうなっておるんじゃ」

 

アンナの問いかけに、いら立ちをあらわに答える小夜。

これまで、小夜はロシアの方に連絡をして、研究所の人間をソフィーヤ以外にこちらによこしていないかを問い詰めたが、返ってきたのは”知らない”というものであった。

 

「小夜様、電話が鳴っていますが」

「この忙しいときに誰なんじゃ」

 

公務室に鳴り響く電話に、小夜は眉を顰めながら電話に出た。

 

「もしもし?」

『小夜か。私だ』

 

小夜の言葉に反応するように、電話口から声が返ってきた。

 

「その声、もしかして浩介か!?」

『私以外に誰がこのような声をしているというんだ』

 

驚いた様子の小夜に、浩介は呆れながら言葉を返した。

 

「お主、無事なのか?!」

『ああ、この通りな。哀れな下等動物どもを返り討ちにしてくれたわ』

 

電話口から返ってくる浩介の軽口に、小夜は安堵の息を漏らした。

 

「それで、どんな用で電話をしてきたのじゃ?」

『私が、なぜお前に電話をしたのか、理由は分かっているはずだろ?』

 

小夜の問いかけに返ってきた言葉を聞いた小夜は目を細めた。

 

「まさか」

『そう。そのまさかだ』

 

浩介がこれからしようとしていることを察した小夜の言葉に、浩介は小夜にそう告げた。

 

『緊急離脱プランCだ』

 

浩介は小夜に、宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ち合わせ場所に指定した倉庫の前で、イヴァンが来るのを浩介とエリナの二人は待っていた。

 

「コースケ」

「安心しろ。この私がいる限り、王女には指一本触れさせん」

 

不安げなエリナの声色に、浩介は周囲に気を配りながら安心付けるように返した。

 

「……ありがと、コースケ」

 

(やっぱり、どっちのコースケでも優しいんだね)

 

そんな浩介にお礼を言いながら、エリナは心の中でつぶやいていた。

人格と雰囲気は異なってはいるものの、根本的な何かは同じであることに、エリナは気付いていたのだ。

 

「勘違いするな。貴様はただの王女。それ以上でも以下でもない。そもそもお前のことは、最初から眼中にはない」

「ちぇー。だったら、眼中に入るようにしてやるもん」

 

(そして、照れ屋なところもそっくり)

 

浩介の言葉に不満げに頬を膨らませながら、宣言をするエリナは心の中で苦笑していた。

 

「やれるもんならやってみろ」

 

そんなエリナの反応に、面白くないのか鼻で笑うと、エリナから視線を外した。

 

(この気配………ったく、来るなと言っておいたのに)

 

周囲の気配に気を配っていた浩介は、よく知る人物の気配を自分たちの後方から感じ取っていた。

 

(まあ、いいか。証人にもなるし、計画の邪魔さえしなければ)

 

毒づきながらも、浩介は後ろにいるであろう人物たちに気づかないふりをすることにした。

浩介達の後方に位置する倉庫内では、扉の陰から外の様子を見ている佑斗と美羽に梓の姿があった。

 

「まだ来ないみたいだね」

「そうだな」

 

梓の言葉に、周囲を確認しながら相槌を打つ佑斗は妙な胸騒ぎを感じていた。

そんな中、彼らに近づく者たちの姿があった。

 

 

 

 

 

「君が、高月浩介君だね?」

「左様。しかし、いきなり呼び捨てとはな……本来であれば打ち首にしているところだが、まあよい。許そう」

 

目的の相手の到着に、浩介は威圧感を込めながら返事を返す。

 

「それで、さっそく話を始めようではないか」

「ああ」

 

イヴァンの催促の言葉に、浩介は頷くことで同意した。

そして、視線をエリナに送るとエリナはその視線の意図を悟ったのか、浩介から若干離れた。

 

「まずは今回のこのバカげたことをしでかした目的を聞かせてもらおうか」

「それは、ご想像に任せるよ。録音とかされていたら大変だからね」

 

浩介の問いかけをはぐらかすイヴァンに、浩介は目を細めた。

 

「私を貴様らの国に研究のため、連れて行くためか?」

「さあ、それはどうでしょう? ですが、君の想像に付き合いましょう」

「ほぅ? つまり、明確に否定も認めはせずに、あくまで想像の話にする気か」

 

浩介は目を細めて、睨みつけるようにイヴァンを見ながら言った。

 

「仮に、君を研究するために連れて行くことが目的だとするならば、それは君にとっても本望ではないか」

「どういう意味だ?」

 

イヴァンの言葉に、浩介は鋭い視線を放ちながら問いただす。

 

「仮に、さっきも言ったとおり、君を捕まえて研究所に連れて行くのが目的だとすれば、今後も君を捕まえに行くかもしれない」

 

浩介の反応に、興味があると判断したイヴァンは心の中でほくそ笑みながら話を続けた。

 

「そうしたら、今度は周りを巻き込む可能性もある」

「この私を脅す気か?」

 

脅迫とも取れる内容の言葉に、浩介の視線も鋭くなる。

 

「だから、これは仮の話だ。私の妄想を口にしただけに過ぎない」

 

そんな浩介の視線に怯むことなく、イヴァンは不敵な笑みを浮かべながら浩介に答える。

 

「とにかく、私としてはおとなしく投降してくれることをお勧めするよ。君もまわりを巻き込みたくはないだろ」

「…………」

 

(この下等動物め………)

 

浩介は無言を貫いたが、その心情は爆発寸前だった。

 

「君の事情は把握しているつもりだ。人格と記憶が破壊され、つい最近になってようやくそれを取り戻したらしいが、どういう気持ちだ? 恐れたんじゃないのか? 自分の正体が周囲に知られてしまうことに、人とは違うということに」

 

(下種が……人の心の中に土足で……っ!)

 

「何も、そういったことはライカンスロープだけの話ではない。吸血鬼や人間にだって十分起こりえる感情さ」

 

浩介の反応に、イヴァンは不敵の笑みを浮かべてながら話を続けた。

 

「そこで、人生の先達者として、一つアドバイスを送らせてもらいたい。私と一緒に来るんだ」

「………」

 

(先達者……ねぇ。実に滑稽だ)

 

イヴァンの言葉に、浩介は心の中で嘲笑っていた。

 

「いいかい。君は、自分が特殊な人間だということを、周囲にばれるのではないかと不安を感じているはずだ。だが、私たちの祖国に来ればそのような心配はない」

「…………」

 

浩介はただただ無言で、イヴァンの言葉を聞いていた。

エリナは浩介の背後で、浩介とイヴァンとのやり取りを不安げに見ていた。

 

「特別な存在である君は、特別待遇で受け入れられるんだ」

「ふん、特別待遇とか言っているが、それはあくまで”モルモットとして”だろ?」

 

イヴァンの言葉に、浩介は鼻で嗤いながら相槌を打つ。

 

「君は何か誤解をしている。確かに、君をつかって研究したりするが、それは細胞や血液だけの話。君の体を使って実験を行わないことを約束しよう」

「なるほど」

 

イヴァンの反論に、浩介は納得したように言葉を告げる。

 

「ちなみに、Noと言ったらどうする?」

「その場合は、こうさせてもらうだけだ」

 

浩介の疑問にイヴァンは不敵の笑みを浮かべながら告げると右手を挙げた。

 

「ほら出ろっ!」

「大人しくしろ!」

「ちょっと、離しなさいよっ!」

 

それが合図だったのか、怒鳴り声と共に美羽たちの抵抗する声が響き渡った。

 

「ミュー!? それにアズサにユートッ!」

 

黒服に黒のサングラスをかけている男たちに拘束されている美羽たちに、エリナは驚愕のあまりに目を見開かせて三人の名前を叫んだ。

 

「大事な周り方をこの場で消させてもらうだけです。ちなみに、ここはすでに包囲されています。抵抗しても無駄だ」

 

イヴァンの言葉を証明するように、浩介とイヴァンたちがいるところを起点に、数十人の黒服の男たちが躍り出た。

それぞれが銃や海水入りのボールを手にしていた。

 

「なるほど、お前は端から交渉などをする気はなかったということか」

「それはお互いの解釈の仕方で異なる。それに、私はちゃんと交渉の場に出向いている」

「っち」

 

イヴァンの正論に、浩介は舌打ちをする。

 

「コースケ」

「……」

 

エリナの声に、浩介は静かに首を横に振ることで答えた。

 

「さあ、もう一度言おう。一緒にくるんだ。ここで恐怖と隣り合わせで過ごすよりも特別待遇で受け入れられる方が幸せだと思わんかね」

「………ふ」

 

自分が有利だと確信したイヴァンは浩介に畳み掛けるように告げた。

だが、それに返ってきたのは笑い声だった。

 

「ふははははっ!」

「何がおかしいのだ?」

 

笑い出す浩介に、イヴァンは顔をしかめて問いただす。

 

「何もかもさっ! 先達者? 抵抗しても無駄ぁ!? もう、何もかもが滑稽すぎて笑えてくる」

「どういう意味だ?」

「下等動物如きが、この私の先に立つ? 笑わせるな。貴様はロシアくんだりの猿か犬だ。それで私の先に立つとは不敬の極みだと思え」

 

目を細めるイヴァンに、浩介は笑いながら罵る。

 

「もういい。交渉は決裂だ。お前も、その友人諸共ハチの巣にしてやろう」

 

イヴァンの言葉に反応して、男たちが一斉に手にしている

 

「私はね、身分を弁えない態度をとる奴がどうしても許せないんだが、それ以上に許せないことがあるんだ」

「なっ!?」

 

浩介の言葉に呼応するように、浩介の身体を淡い赤色の光が包み込み始めたのだ。

 

「それは、仲間を人質にすることだ……っ」

 

浩介が両手を開いた瞬間だった。

 

「ぎゃご!?」

「あが!?」

「ぐぼっ!?」

 

まるで見えない手で弾き飛ばされるように、佑斗たちを拘束していた男たちが吹き飛ばされたのだ。

 

「う、うそ!?」

「完全に死角だったはずなのに」

 

驚いていたのは、イヴァンだけではなく、佑斗たちもだった。

浩介が行ったのは、実に単純なことだ。

気配を頼りに三人と男との位置関係を把握した浩介は、以前吸血鬼を喰った際に得た『空気を自由に操る能力』を使い、空気の壁を形成して正確に男に向けて放ったのだ。

 

「うわ!?」

 

さらに浩介はエリナの手をつかむと軽くジャンプし、空中で一回転しながら佑斗たちのそばに降り立った。

 

「助かった」

「ありがとう、浩介」

「ったく、だから来るなと言っていたものを」

 

口々に浩介にお礼を言う佑斗たちに、毒づきながら若干ではあるが微笑んでいた浩介は、表情を引き締めてイヴァンをにらみつける。

 

「お前たち、せっかく来たんだ。少しは手伝え」

「言われなくても、そのつもりよ」

「帰れって言われても帰らないんだからッ!」

 

浩介の言葉に、美羽と梓はやる気に満ちた表情で返事を返した。

梓の手には一見すると玩具のようにも見えるハンドガンが握られていた。

 

「上等だ」

「どう行く?」

 

そんな彼女たちの様子に満足げに浩介は頷いていると、佑斗が浩介に作戦を聞く。

 

「お前たちは人間の方を頼む。吸血鬼とあの下等動物はこっちで何とかしよう」

「大丈夫か?」

 

佑斗から見てもこの場にいる者の6割が吸血鬼なのだ。

それを相手に戦うことができるのかが佑斗は不安であった。

 

「誰に口をきいていると思っている? 世界を統べし王だぞ、これほどの雑魚共を倒すことなぞ、容易いわ。逆にお前らの方が心配なほどさ」

「そうか。それじゃ、お互い頑張ろう」

 

浩介の見下したような物言いに、佑斗は何食わぬ表情で返事を返した。

それに浩介は無言で頷くだけだった。

 

「王女の護衛も、しっかりな」

「分かってる」

 

言い忘れていたと言わんばかりの浩介の注意に、佑斗が答えると両手に剣を具現化した。

 

「かかれぇっ!!」

 

浩介の言葉がきっかけとなり、ついに戦いは幕を開けた。

だが、それはワンサイドゲームだった。

 

「ふっ!」

「ぎゃご!?」

 

懐に素早く潜り込んだ佑斗の放った一撃が、男の鳩尾を正確にとらえると勢いのあまり吹き飛ばされた。

そしてそのまま昏倒する。

 

「野郎!」

「っち」

 

そんな佑斗に向けて数人の男が海水の入ったボールを投げつける。

だが……

 

「助かったっ!」

「手を煩わせるなっ!」

 

浩介の放った攻撃によって、佑斗より離れた場所で破裂した海水は佑斗にかかることはなかった。

 

「そこっ!」

「げはっ!?」

「ぐぼぉっ!?」

 

さらに、梓の精密射撃が、男たちを沈めていく。

 

「大丈夫!? 六連君」

「ああ、大丈夫だ」

 

倒す対象がいなくなったのか、ハンドガンを片手に佑斗のもとに駆け寄る。

 

「こっちもあらかた終わったわ」

「それじゃ、あとは………」

 

三人の視線が、少し離れた堤防寄りの方向に向けられる。

 

「おらぁ!」

「死ねぇ!!」

「潰れろぉっ!」

 

そこでは浩介に向かって能力をつかっているのか、凄まじい勢いで肉厚する吸血鬼たちの姿があった。

 

「ゴミか、貴様?」

「なっ!?」

「消えたっ?!」

 

突然攻撃対象を見失う男たちの真後ろに高速で移動した浩介は両腕を横に広げた姿勢で立ち止まっていた。

 

「雑種が」

「「「がぁぁぁ!!?」」」

 

浩介のつぶやきと共に、腕を抑えてうずくまる男たち。

剣に血はついていないが、浩介は彼らを斬ったのだ。

 

「こんなもので、死にはしないさ。というか、死ねないように制限がかかってるんだけどな」

「な、なにをする気だっ!?」

 

軽口をたたきながら、浩介は片腕で男の一人を持ち上げた。

 

「お食事の時間だ」

「や、やめろ……」

 

浩介の告げた言葉に、男はいやいやと首を横に振りだす。

 

「いただきます」

「やめろぉぉぉぉっ!!!」

 

浩介は男の絶叫などどこ吹く風とばかりに、男の首筋に牙を立てると一気に血を啜った。

 

「ぁ……ぁ」

「ぎゃああああ!!?」

 

血を啜るのをやめたかと思った次の瞬間には、別の吸血鬼の首筋にも牙を立て、一気に血を啜っていた。

 

「は、早い……」

「というより、えげつないな。背筋が凍りつきそうだ」

 

その光景を目の当たりにしていた佑斗たちは、開いた口がふさがらない様子だった。

そうこうしているうちにも、浩介は残った一人の吸血鬼から血を啜り終えていた。

 

「ふぅ。ごちそうさま」

 

そういって手を合わせる浩介の周辺には、同様にして血を吸われた吸血鬼が地面に倒れ伏していた。

 

「ば、化け物め……」

「そういう化け物を調べようとしたのは貴様だ。下等動物が」

 

青ざめた顔でつぶやくイヴァンに、浩介は冷酷に言い放つとそのままイヴァンに歩み寄る。

 

「な、何をする気だ!?」

「何を? おかしなことを聞くな。この私に無礼を働いたのだ。貴様には特別な裁きを与えてやる」

 

浩介の迫力に後ずさりをし始めるイヴァンに、歩み寄るのを止めずに浩介は狂ったような笑みを浮かべながら言い放った。

 

「わ、私を殺しても無駄だ。本国の連中は君のことを知っているんだ。私がいなくなったところで、また別のやつがお前を捕えに来るぞ」

「だったら、そいつも消せばいいだけの話だ」

 

命乞いかそれとも脅しかは定かではないが、震えた声で言い放つイヴァンに対して浩介はそっけなく切り返した。

 

「なっ!?」

 

その言葉には、イヴァンも言葉が浮かばないほど驚きをあらわにした。

 

「は、犯罪者にでもなる気か!」

「安心しろ。お前は一生行方不明者として扱われる。物証などがなければ、私は罪には問えない」

 

浩介はそう告げると、右腕を一振りする。

その瞬間、右腕には一丁の拳銃が握られていた。

 

「それじゃ、サヨウナラだ」

「やめろぉぉぉぉ!!!」

 

イヴァンの絶叫を切り裂くように、一発の銃声が鳴り響く。

 

「な……」

 

浩介の顔に、初めて驚きの色が浮かぶ。

浩介が手にしていた銃は、何らかの衝撃によって吹き飛ばされていたのだ。

 

「何をしておるのだ小童! すぐにその男の身柄を確保せぬか!」

「は、はいッ!」

 

突然のことに唖然とする佑斗たちに、一喝が入る。

佑斗はその声に動かされるようにして、イヴァンの身柄を取り押さえた。

 

「何故だ」

 

その光景を、呆然と見ていた浩介は奥歯をかみしめながら声を上げる。

 

「何故邪魔をするッ!」

「邪魔をしたわけじゃない。ワシはただお主がここで安心して暮らせるようにしただけじゃ」

 

浩介の怒号に、小夜は何食わぬ様子で返した。

 

「それが邪魔だというのだっ! この男を喰らい、我が糧とする。それがあの下等動物の生きる意味だ!」

「そんなことはワシの前ではさせぬ。ここが潮時じゃ、お主も考えを改めてはどうじゃ?」

 

浩介の怒号に、小夜は静かに語りかけるように返した。

その様子を佑斗やエリナ達は静かにみることしかできなかった。

 

「………分かった。あの男のことはあきらめよう」

 

しばらくの無言の応酬ののちに、折れたのは浩介の方だった。

小夜から視線を外した浩介はそう告げるとゆっくりと足を進めた。

………海の方に。

 

「こ、コースケ! そっちは海だよ!!」

「ちょっと、浩介。何をする気よ!?」

 

海の方に向かって歩き出す浩介に、慌てて声をかけるエリナ達に反応するように浩介は足を止めた。

あと一歩前に足を踏み出せば海に落ちる位置で。

 

「自分の尻は自分で拭く。これが私のけじめだ」

「何言ってるのコースケ! 約束してくれたじゃない! ワタシのことを守ってくれるって。だから、行っちゃダメ!」

 

エリナの悲痛な叫びに、浩介は視線を外して海面の方へと向けた。

 

「あいにく、”私”の記憶に、そんなものはないのでね」

「そ、そんな……」

 

浩介の言葉に、つぶやくエリナの表情には絶望の色が広がっていた。

 

(これって……まさか)

 

そんな中、佑斗だけは首をかしげていたが、浩介の真意を瞬時に読み解くことができた。

 

「それじゃ、お別れだ」

「待ちなさ―――」

 

美羽が駆け寄るよりも早く、浩介は海へと飛び込んだ。

その光景に、海面を慌てて覗き込む美羽たちをよそに、小夜は茫然とするイヴァンに声をかける。

 

「あ奴は死んだ。海の中に飛び込めばどうなるか、お主は知っておるはずじゃ」

「ええ。かぶったのであればまだしも、常時海水にさらされ続けていれば全身がやけどのようになるでしょうね」

「そんな……」

 

小夜とイヴァンのやり取りを聞いていたエリナは地面に力なく座りこんだ。

 

「イヤぁぁぁーー!!!」

 

人気のない開発地区に、エリナの悲痛な叫び声だけが、響き渡った。

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