本日より、新たな人物との物語を進めていきます。
第26話は序章の話のため、一部を除いてほとんどが同じ内容です。
予めご了承のほうをお願いします。
パーティーの話が終わるまでこのような感じになると思います。
第26話A プール
あの後、大房さんから返信があり、プールで一緒に遊んでもいいとのことだったので、僕たちは湖が広がる公園のような場所で大房さんと待ち合わせをすることになった。
だが、ここで問題が二つ。
それは僕と倉端君が水着を持っていないことだった。
僕の場合は、そもそも記憶がないのに水着を持っているかいないかの記憶もない。
ちなみに、本土の方で水泳の授業があったのだが、毎回プールサイドに行っただけで体調を崩していたため僕だけはプールサイドから離れた場所で見学(レポート)をすることになっていた。
それがわかったのは最初に水泳の授業があった時なのだが、その時はたまたま水着を忘れ(もとより、水着があるのかないのかもわからず)プールサイドで見学するようにと言う教師の指示に従ったところ……と言うことだ。
(体は特に健康体そのものだって言ってたし大丈夫だよね)
プールのそばまで行って体調を崩すことはないだろうと根拠はないが自分に言い聞かしていた。
そんなこんなで、無事に水着を買った僕たちは待ち合わせ場所へと戻った。
「お待たせ」
「おはようございます。高月君」
なるべく待たせないように走って待ち合わせ場所に向かうと、そこにはすでに大房沙の姿があった。
「こんな時間から大丈夫?」
「ええ。今日はちょっと早めに寝ていたので、睡眠時間としては十分です」
寝不足で泳ぐのはかなり危険なため、心配だったのだが、どうやら大丈夫そうだ。
「それだといいんだけどね」
とりあえず、あまりしつこく聞いてもあれなので、そこで納得することにした。
「悪い、遅れた」
「これで全員そろったか」
少し遅れてやってきた倉端君(とはいえ、僕はかなり全力で走ったため当然と言えばそうなのだが)で参加メンバーは全員そろったことになる。
ちなみに、ニコラは仕事があるらしく参加はできないとのこと。
「それで、どこのプールに行くんですか?」
「そういえば決めてなかったな」
大房さんの問いかけで、僕たちはプールの場所を決めていないことに気づいた。
ここは観光地のこともあって、ホテルなどにプール施設が設けられているところが多い。
大抵はプールかカジノかのどちらかになるが、ホテルによっては両方を取り入れている場所もある。
そのため、プールと言っても選択の幅が大きいのだ。
「それだったらホテル『オーソクレース』がおススメだよ」
「確かに、あそこのプールはどちらかと言うとレジャー用で広かったようにも思えるし」
前にパンフレットに掲載されていた写真から受けた印象を口にする。
とはいっても、実際に見てはいないので、断言はできないが。
「やっぱり、コースケは一回行ったことがあるんだね」
「やっぱり?」
エリナさんの言葉に首をかしげる大房さん。
「でも、他のホテルもそんな感じでしょ?」
「他のプールですと、運動用だったりしてとても静かなんです」
「でも、あそこだったらにぎやかだし、ぶつかる心配もないよ」
何とか話をそらせることができたみたいで、僕はほっと胸をなでおろした。
「それじゃ、プールはそこで決定だね」
布良さんの言葉を合図に、僕たちは中に入るとプールがある場所に向かい更衣室前までやってきた。
「それじゃ水着に着替えて中で集合と言うことでいいかしら?」
美羽さんの確認の言葉に、全員は問題ないと頷くことで答えた。
「それじゃ、またな」
全員が女子用の更衣室に向かっていくのを僕たちは見送くることにした。
「ねえねえ、コースケ、ユート。エリナの着替え、見たい?」
「「馬鹿なこと言ってないで早く着替えに行け!」」
からかうようなまなざしで聞いてくるエリナさんに、僕と佑斗君はほとんど同時に答えていた。
「ダー」
そんな僕たちに、エリナさんは頷きながら”分かった”とロシア語で答えると女子更衣室へと消えていった。
「それじゃ、俺たちも着替えようぜ」
心なしか浮かれている倉端君に苦笑しながら、僕たちも男子更衣室へと向かうのであった。
着替え終えた僕は、プールのそばの方で女子たちが来るのを待っていた。
「いい天気だな」
「うん。清々しいほどにね」
「いいことじゃないか。温度も高くて絶好のプール日和!」
上空からさんさんと照りつける太陽に、すこしばかり恨めしく感じていると、少し離れたほうから女子たちがぞろぞろとやってきた。
「ノリで、決めたけど、やっぱり少ししんどいわね」
「そう? 私はちっとも平気だよ! もう楽しみでしょうがないくらいだよ」
ピンク色のビキニタイプの水着を着た、少しばかり覇気がない様子の美羽さんとは対照的に緑と白色の線が入った水着を着ている布良さんは、テンションが上がっていた。
「寝不足の状態で、こうも晴天だとね」
「でも、ここは吸血鬼さんも配慮されているって聞いたけど?」
「あれ、そうなんだ?」
あまりそういった感覚がなかったので、布良さんの説明に僕は思わず聞き返していた。
「確かに、普通に太陽を浴びるよりはマシだけど、それはあくまでも”マシ”なだけよ」
寝不足状態でしかも吸血鬼が苦手な日光。
二つの最悪な組み合わせが、美羽さんが元気がない状態の理由だったらしい。
とはいえ、こればかりはどうにもならないわけだが。
「あぁぁ~、素晴らしい素晴らしいよ」
「何だか、変態に見えるのは気のせいなのかな?」
佑斗君が二人の水着姿をほめ始める中、僕はうっとりとした表情を浮かべながらつぶやいている倉端君に、そんなことを思ってしまった。
「お待たせー」
「遅れてしまってすみません」
「着替えるのに手間取ってしまいました」
エリナさんたちも遅れて水着姿で僕たちの方に向かってきた。
「急に水着を着たので……少し恥ずかしいですね。あはは」
「でも、とても似合ってると思うけど」
照れた様子で苦笑する大房さんの水着はピンク色のワンピースタイプのものだった。
お世辞ではなくとてもかわいらしい感じでいいと僕は思う。
(あ、今語彙が増えた)
そう思ったが、それを言えなければ意味がないのは言わずもがなだ。
「あの……男の人に水着姿をほめられるのは初めてで……こんな時、どう反応すればいいのでしょうか?」
「いや、僕に聞かれても。思ったことをそのままいえばいいと思うよ」
若干頬を赤らめた大房さんの問いかけに、僕は疑問形にならないように気を付けながら答えた。
「それでしたら、あの……ありがとうございます」
そういって恥ずかしげに眼を伏せる大房さんの姿に、僕は顔が熱くなるのを感じた。
(きっと太陽が照りつけているせいだ)
僕はそう理由づけることにした。
「むー。コースケ、ヒヨリにばかりずるい」
「いや、別にそんなつもりじゃないんだけど」
頬を膨らませるエリナさんに、そう言い返した時には平静を装うくらいはできるようになっていた。
「だったら、エリナのはどう? 去年買った水着だけど、結構お気に入りなんだ。セクシーでしょ?」
「セク……シー?」
黒にピンク色のリボンのビキニタイプの水着。
確かに、そうも見えなくはないが……なんとなく違うようなきがする。
「あー! 何その反応。失礼しちゃうよ」
「悪い。似合ってないわけじゃないんだ。とてもよく似合ってるよ」
僕の微妙な反応に、エリナさんは不機嫌な表情で抗議してきた。
まあ、あの反応だと当然だけど。
「でも、今微妙な反応をしなかった?」
「セクシーと言うよりは、どちらかと言えば可愛いと言う言葉が似合ったからつい」
そもそもセクシーと言う定義すらはっきりと知らなかったりするのだが、感じたままに言っていた方がいいのだろう。
……たぶん
(年齢=彼女いない歴ってこういうところで損をするんだね)
思わずそんな悲しいことを考えてしまう。
「よかったー。常日頃から、体の手入れは怠ってないからね」
「……何だろう。すごいと思えるはずなのに、妙に感じる悲しさは?」
「ごめんごめん。にひひ~。でも、褒めてくれたのは嬉しかったよ」
エリナさんは笑いながらでそう言うと、僕から離れていった。
「しかし、お前はよくそう次から次に褒め言葉が出てくるよな」
「そうか? 見たまま感じたままを口にしてるだけだが。それに語彙も少ないし」
そんな中、倉端君の言葉に、佑斗君は首をかしげながら不思議そうに答えていた。
(やっぱり、ポイントはそこなんだね)
先ほどのでなんとなく感覚はつかめてきただけに、佑斗君の答えはとても納得させる物があった。
「ねえ、ユート。エリナにオイルを塗ってくれないかな?」
「………これはまた定番のネタで攻めてきたな」
オイル用のローションが入ったボトルを片手に佑斗君に頼むエリナさんに、佑斗君は戸惑ったような表情を浮かべていた。
(でも、どちらかと言うとそれは海に行った時のような気もするんだけど)
まあ、僕たちは海に行くことは早々ありえないので、ここではそれが正しいのかもしれない。
「つか、ここは屋内だぞ。オイルを塗る必要はあるのか?」
「女子にもいろいろあるんだろ」
倉端君の鋭い指摘に佑斗君は冷静に返していた。
それに倉端君も納得した様子だった。
「エリナ、お肌が弱いからムラができると困るし……だから、お願いユート」
「……」
エリナさんの頼みに、佑斗君は考え込むように顎に手を当てていると、不意に僕と目があった。
(何だろう。ものすごく嫌な予感)
嫌な予感を覚えた僕は逃げるようにそこから逃げ出した。
背中に、佑斗君の哀愁にも似た声を受けながら。
「戻ったら怒られるよね」
数分が経ち、そろそろ戻った方がいいのではと思ったが、半ば逃げるような形で去ってしまったために、戻りづらかった。
「あれ、高月君?」
「布良さん?」
そんな時、ふと僕に声をかけてくれたのは、布良さんだった。
「こんなところで何をしてるの?」
「ちょっとね……あはは」
布良さんの問いかけに、誤魔化すように笑いながら答えると、首をかしげたもののそれ以上追及することはなかった。
「ねえ、良かったら一緒に泳がない?」
「そうだね。せっかくのプールだもんね」
布良さんの誘いに、僕は頷くと布良さんと一緒にプールの中に入った。
まだ夏というには程遠い時期だが、冷たさはそれほど感じなかった。
「ねえ、高月君」
「何? 布良さん」
水温がちょうどよかったので、気持ちよく泳いで(というよりは軽く浮いているようなものだけど)いると、横にいた布良さんがふと声をかけてきた。
「高月君って腕にやけどとか、したことがあるの?」
「いや、覚えている限りは……どうして?」
布良さんの問いかけに答えつつ、僕は布良さんが聞いてきた理由を尋ねた。
「だって、高月君の両腕にあざのようなものがあるから」
そう言って、あざのようなものがあると思わしき場所に、手を当てて指し示す布良さんに倣うように、僕はその箇所を確認してみた。
だが、あざのようなものは特に見えなかった。
もちろん日焼けしている個所と、していない個所の境目だということもない。
「特にあざなんてないけど?」
「え? でも、確かに見えるよここに」
そういって布良さんは直接の僕の腕をとると、その箇所と思わしき場所に指を置いた。
「ね? あるでしょ」
「いや、だから僕には見えないよ」
布良さんは必死な様子で聞いてくる布良さんだったが、それでも見えない物は見えない。
「えぇ~~……私がおかしいのかな?」
「いや、きっと何かの傷とかがそう見えているだけだと思う」
首をかしげてつぶやく布良さんに、僕はできる限り最善のフォローを入れた。
「そうかな……」
「そうだよ、きっと。ところで、そのあざってどんな形なのかな?」
納得がいかないといった様子の布良さんに頷きつつ、僕は形状を聞いてみた。
もしかしたら、前にそう言った形のものがそういった傷跡を残している可能性もある。
しかもそれを僕が忘れているだけで。
「えっとね……丸いかな」
「丸い……か。やっぱり記憶にないかな」
思い出そうとしてみたものの、やはり心当たりは思い当たらなかった。
「もしかしたら、記憶をなくす前に怪我をしたのかもしれないね」
「そうかもしれない」
布良さんの言葉に、僕は頷くことで答えた。
記憶喪失になる前にそういったけがをしたという可能性も捨てきれないのだ。
「所で布良さん」
「何? 高月君」
屈託のない表情で、用件を聞いてくる布良さんに僕はあることお願いすることにした。
「その……そろそろ腕を話していただけるとありがたいな……って」
「へ?」
僕のお願いに、布良さんは目を丸くすると視線を自分の手元に向けた。
そこにはいまだに僕の腕をつかんでいる布良さんの手があった。
「あにょわ~~~!!? ごめんなさいぃぃぃ!!」
「うわっぷ!? ちょっと待ってってばっ」
僕の言葉を聞くことなく、布良さんは凄まじい速度で泳いで行ってしまった。
「……なぜ?」
そんな彼女に、僕は首をかしげることしかできなかった。
「そろそろ上がろうかな」
プールで泳ぐこと数分、一休みをするべく僕はプールから上がることにした。
別に、一人で泳ぎ続けるのがむなしく感じてきたからではない。
………たぶん。
ちょうど近くに上がるための梯子があったためそこから上がることにした。
「ふぃ~、つかれた」
(あれ、この声は布良さん?)
そんな時、ふと頭上から布良さんの声が聞こえてきたため、僕は頭を上げた。
「ッ!?」
僕の視界に決して見てはならぬものが入ってしまった。
本来は逆行などで見えないものだが、吸血鬼になった副産物なのか、視力が上がって暗いところでも見えるようになっているために、それが見えてしまったのだ。
何が見えたのかは色々な意味でまずいので、言えないが上りかけている状態と言えば分るだろうか?
それはともかく、この場を離れたほうがいいのではと思った僕は、布良さんが気づかないうちに、その場を離れようとした時だった。
「え?」
「あ……」
偶々そばを泳いで行った人の立てた音に反応した布良さんが僕の方を見てしまった。
「た、高月君? ……もしかして、みみみ見た?」
「………ごめんなさい」
布良さんの言葉に、僕は謝ることで答えた。
それだけで、布良さんには十分すぎるほど伝わってしまったようだ。
「み、みみみ見られた………私の……~~~~ッ!!」
この次に来るであろう罵倒をに備えるべく僕は目を閉じた。
「き、きき汚いものを見せてごめんなさい~~!」
「えぇっ!?」
予想外の反応に、僕は閉じていた目を開けたが、走っていったのかその姿はなかった。
「怒られると思ったのに、どうして謝られないといけないの!?」
本当に不思議な人だった。
「って、急いで謝らないと」
僕も慌てて布良さんの後を追うべく、梯子を上って布良さんが走り去ったであろう方向に向かう。
「浩介?」
「美羽さん?」
そんな僕に声をかけてきたのは、手持無沙汰にしている美羽さんだった。
「今まで、どこに行ってたのよ」
「ちょっとプールで泳いでただけだよ」
「いいわよね、あなたはお気楽そうで」
美羽さんの疑問に答えると、美羽さんは深いため息を漏らしながら言ってきた。
何だか馬鹿にされているような気もしたが、寝起きでしかも太陽に照らされた状況下できついのだと思ったので、流すことにした。
「ところで、さっき布良さんが顔を真っ赤にしては知っていったけど、あなた変なことをしてないでしょうね?」
「し、してないよ……たぶん」
美羽さんの鋭い視線に押されながらも、応える僕に美羽さんは何があったのかを悟ってくれたのか深いため息をついた。
「布良さんはあっちよ。なるべく早めに謝りなさい」
「ありがとう」
美羽さんの心遣い(たぶん)に感謝しつつ、僕は布良さんに謝るために布良さんの下へと向かうのであった。
顔を赤くして視線を合わせようとしてくれない布良さんに謝るのは、とても精神的にきつかったが、最終的には許してもらえたのが、唯一の救いだったのかもしれない。
プールで遊ぶこと数時間。
時刻は夕方となり、僕たちがいつも起きる時間となっていた。
「いやぁ、楽しかったぁー」
「うぅ。さすがに眠い」
さっぱりとした表情で満足している倉端君とは対照的に、エリナさんや僕を含めた吸血鬼組はぐったりとしていた。
(眠い。そこはかとなく眠い)
その後、倉端君の提案によって、夕食を食べて寮へと戻ることとなった。