第33話Aです。
これほどまで時間がかかってしまうとは……もう私は駄目なのかもしれません。
ということで、明日より連日ではなく不定期投稿になりますが、必ず完結させますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。
「―――というわけで犯人達10人を無事制圧。身柄を警察の人たちに引き渡しました」
「そうか。それはご苦労」
支部に戻った僕たちの報告を聞いた主任は、そう労いの言葉をかけた。
「それにしても、コンビとして連携は良くなったようだな」
「ありがとうございます」
主任の評価に、僕は軽く頭を下げてお礼を言った。
「それにしても、中々ああいうのはなくなりませんね」
「そうだな。人間の欲望に忠実なものは良く売れるということだ。これからもこういうのは多く出てくるだろう」
僕のボヤキに、主任は深い息を漏らしながらそう漏らした。
「重要なのはそれが個別なのかそれとも組織なのかを見分けることなんだが……説法はここまでにしておこう。二人とも今日は報告書は書かないで上がってもいいぞ」
「「ありがとうございます」」
主任の言葉に、お礼を言う僕と布良さんに主任は思い出したように着替えに行こうとする僕たちを呼び止めた。
「報告書の代わりにこいつの調査を頼む」
「こ、これはっ!?」
「またですか……」
主任が僕たちの前に置いた大きめの段ボールの箱の中身が想像できたため、布良さんは項垂れていた。
「取引で押収されたい方DVDだ。この中からコピー商品を除外しろ。オリジナル撮り下ろしを謳った物だけをピックアップするんだ。それから背後関係が見えてくることもある」
「な、なんだか量が多くないですか?」
布良さんがそう聞きたくなるのも無理はない。
何せ、段ボールの箱の9割近くまで積まれているであろうDVDのヤマが見えたのだから。
「これでも全体の2割弱ってところだ。後はほかの班に割り振られる」
「でも確か寮へのこういった物は持ち込み禁止だったはずなんですけど」
前に布良さんが寮則で禁止するという旨のことを言っていたのを思い出した僕は、主任に尋ねた。
「ふにっ!? そ、そうですよ!」
「おかしいな……そんな寮則はなかったはずだが」
「え? でも、布良さんが」
主任の反応に、僕は布良さんの方を見る。
「と、とにかく寮の皆には絶対に見られないようにしないとね!」
「………」
(職権乱用してたね。絶対)
あからさまに違う話題を降り出した布良さんに、僕は思わずそう心の中でつぶやくのであった。
朝食を食べ終え、各々が眠りについている中、僕は報告書の書き方を布良さんから習っていた。
書けないわけではないが、まだまだ十分にかけるわけではないので、こういうところで練習をしておかなければいけないのだ。
何事も地道にやるのが一番だ。
とはいえ、練習用ではなく実際の業務だったりもする。
主任が言ったのは支部で書かなくていいということであり、報告書自体を提出しなくてもいいということを言っているのではないのだ。
「……そういえば」
「何かな? 高月君」
一通り終わりかけたところで、ふと思いついた疑問を布良さんにぶつけてみることにした。
「開発地区で会った、確かカリーナさんだっけ? その人の名前を書かないで”通行人”って書いてるけどいいの?」
「うん。そこは問題ないよ」
僕の疑問に、布良さんは頷きながら答えてくれたが、ここで新たな疑問が生まれた。
「でもどうしてカリーナさんの名前を書かずに”通行人”にしてるのかな?」
「それは……えっと」
僕のその問いかけに、布良さんは視線を右往左往させていた。
「実は、あの人ねIDを持っていないの」
「ということは、不法滞在者?」
布良さんの言葉の意味を理解した僕のつぶやきに、布良さんは首を縦に振ることで正しいと告げた。
「でも、どうしてそんなことになってるの?」
「それでは、布良梓の特別授業を始めます」
僕の素朴な疑問に反応した布良さんは、どこから取り出したのか二か月ほど前に、この都市について説明をするときに使った伊達(たぶん)メガネをつけると、そう宣言した。
「いきなりだね」
その急な変化に、戸惑いつつも僕は布良さんの説明に耳を傾けることにした。
「この海上都市では、吸血鬼さんが生活することができる場所であることは前にも説明しました。ですが、全ての吸血鬼を受け入れてしまうとこの島に収まりきらなくなってしまいます」
「確かに、場所は限られてるもんね」
話では、住居を増やそうとしているらしいが、何らかの事情でそれが滞っているらしい。
「ですが、ここで住みたい吸血鬼さん達がたくさんいます。ですので―――」
「不法滞在という形でここに来てしまう」
布良さんの説明を遮って、僕は布良さんに話した。
「そういうことなの」
説明を終えたのか、口調を元に戻しながら伊達メガネをはずした。
「だから、”通行人”か」
名前を書いてしまうとIDを持っていない……不法滞在者であることが知られてしまう可能性がある。
不法滞在は良くないし、しっかりと報告をするべきだとは思うがどうしてもそれだけは憚られた。
それをするのが本当の意味での”正義”に反すると思ったからなのかもしれない。
きっと布良さんも風紀班としての立場と、自分の正義との間で板挟みになっていたのかもしれない。
そう考えると、
「やっぱり布良さんはすごいよね」
「え? そ、そうかな」
思わず口に出してしまった僕の言葉に、布良さんは照れたように頬を赤く染めた。
「はい。これで報告書は完成」
「おー」
そうこうしているうちにも、報告書は出来上がったようで布良さんは手を軽くはたくようなしぐさをしながら終了を告げた。
見れば報告書の必要事項にはほとんどが記載されていた。
「それじゃ、これは私の方で提出しておくね」
「うん。お願いします」
僕が持っておくよりも確実なので、報告書の扱いは布良さんに任せることにした。
「それじゃ、ちょっと待っててね」
そういって布良さんは今出来上がったばかりの報告書を手に共有スペースを後にした。
「ふぅ~。やっぱり報告書を書くのって難しいな」
普通に書くのであれば、簡単かもしれないけれど、今日のようなことがあるとどうしても書く内容に困ってしまう。
(いや、そもそもそういうので悩んじゃいけないんだけどね)
一歩間違えれば報告義務違反とか何とかで大目玉を食らいそうなことで悩んでいる自分に、思わず苦笑がこぼれた。
「ふわぁ~」
そんな中、間の抜けたあくびが漏れてしまった。
「いけないいけない」
この後に控えている”残業”のことを考えると、気を抜いてはいられない。
(疲れてるのかな? 何だか、とても眠い……)
襲い掛かってくる眠気に必死に抗おうとするが、襲いくる眠気には勝てなかった。
僕は気が付くと意識を手放していた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「…………ふむ」
「おまたせー、高月君」
私が頷いていると布良さんが戻ってきたようだ。
(時間の計測をしようと思ったが、ちょうどいい)
今回は私が前に出ていられるのがどのくらいかの計測をするつもりった。
だが、そのついでにやっておかなければいけないこともあったため、それを実行することにした。
「布良さん」
「何かな? 高月君」
私の呼びかけに、何の疑問も抱かずに返事をする布良さんに、私は用件を告げた。
「君の持っている首飾りを見せてほしい」
「え? いきなりどうしたの?」
さすがに不審に思ったのか、私の要件に布良さんが訊いてきた。
「もしかして、盗むんじゃないかと心配しているのか? 別に盗ったりはしない」
「ううん。そういう心配はしてないよ。ちょっと待ってて」
怪訝そうな表情を浮かべたものの、首飾りを取りに去っていった。
(少々急すぎたか)
時間の測定と銘打ってはいるものの、これからやろうとすることで時間切れは許されない。
だからこそ、私は少々急いでしまった。
(あまり急ぎすぎて変に怪しまれるのも厄介だ)
「持ってきたよ」
「ありがとう、布良さん」
”彼”を演じてお礼を言った私は、彼女から受け取った首飾りを確認する。
確認とは言っても軽く指を当てるといった簡単なものだ。
「やっぱりか……」
「やっぱりって、どういうこと?」
確認を終えた私の漏らした一言に、布良さんが尋ねてきた。
「壊れてる」
「こ、壊れてるって……鏡は割れていないしヒビも入ってないよ?」
私の答えに誤解をしたのか、反論する布良さんに私は首を横に振って口を開いた。
「そういうことではない。この首飾りの能力の話だ」
「能力? 一体何を言ってるの?」
そう言って首をかしげる布良さんの姿に、私はさぞやおかしな表情を浮かべているのだろう。
「知らないのであれば、それでもいいさ」
「あ、ちょっと待ってよ高月君っ」
席を立ちあがりその場を去ろうとする私を、布良さんが呼び止める。
私はそれには応じずにそのまま歩く。
あえて説明をしなかったのは、彼女自身が知るべきことであるからだ。
そうしなければ、彼女は道を進むことができない。
真実と言う名の道を。
私は”彼”の自室に入ると棚に置かれた箱の中敷きを取り外す。
そこには私の持ち物が収められていた。
そのうちの、鏡を取り外すための道具と代わりの鏡を取り出すと中敷きを入れて元通りに戻す。
円形の小さな鏡を机の上に置くと、私は左手に小さなナイフを具現化させる。
そのナイフを右手に持ち替えた私は、左手の人差し指の指先を軽く切った。
「っつ!」
痛みが走る中、傷口からあふれてくる私の血を鏡の裏側(通常では見えない部分)に数滴ほど垂らす。
そして私は左手の人差し指を口に入れて舐める。
それだけで私の左手は元通りになっていた。
(あの程度の傷であれば、舐めていればすぐに治る)
自分の体質に少しばかり誇らしく思いながら、私は下準備を終わらせた鏡と道具を手に自室を後にする。
「ね、ねえ。何をする気なの?」
共有スペースに戻った私は布良さんの問いかけに答えず、テーブルの上に置かれた首飾りを手にする。
そこで、私は鏡を取り外す道具を首飾りの鏡の部分に使う。
「た、高月君! 何をしているの!!」
「うるさい」
私が鏡を取り外そうとしていることに気づいた布良さんは、私に怒鳴ってきたがそれを一言で止めた。
無事に古い鏡を取り外した私は、先ほど用意しておいた鏡を首飾りにはめ込んでいく。
はめ込んだら最後に軽く押さえて固定させる。
後は鏡の部分を下にして強めに叩いたり揺らしたりしたが、鏡が外れることはなかった。
(鏡の固定も完了)
これで、全工程が終わったことになる。
「これで終わりだ」
「一体、何をしたの」
「だから言ったはずだ。治しただけだと。分からないのであれば調べることだ」
有無も言わせぬ口調で問い詰めてくる布良さんに、私はため息を漏らしながら布良さんに答える。
「あなたは、いったい誰?」
「誰とな? それは君が一番知っているのでは?」
鋭い目で私に問いかけてくる布良さんに、私は目を丸くする。
「ちがう。あなたは高月君じゃない」
「なるほどな……」
私が”高月浩介”ではないのを見破った彼女の観察眼に、私は舌を巻いていた。
まあ、だますつもりも毛頭ないが。
「私は、”彼”の裏の人格……一種の二重人格と言うやつさ」
「に、二重人格!?」
私の答えに、布良さんは驚きに満ちた表情を浮かべる。
「私が出ている間、”彼”には記憶がない。だから、私のことを”彼”に聞いたところで無駄だ。これで満足か?」
「そんな…………」
呆然としている布良さん(いや、正体がばれているのだからさん付けはいいだろう)布良梓をしり目に、私は眠気を感じていた。
(時間にして10分前後か。飛躍的に上昇したな)
やはり、前に元樹に処方された薬が効いたようだ。
これで私の行動時間も向上するだろう。
そんなことを思いながら、私は眠気に身を委ねることにした。
★ ★ ★ ★ ★ ★
(あれ?)
ふと、意識が戻った僕は、疑問を感じずにはいられなかった。
(どうして僕は立っているの?)
疑問はそれに尽きるだろう。
先ほどまで、僕は座っていたはず。
ならば、今立っているのはおかしい。
(なるほど、彼の仕業か)
僕の記憶の途切れるところと再び意識が戻ったところで状況が違うのは、”彼”が前に出ているあかしだ。
だとすると、残す疑問は一つ。
(どうして、”彼”が前に出てきたんだろう?)
”彼”が前に出るためには、覚醒用の血液パックを飲む必要がある。
でも、僕はそのようなものを口にした記憶はない。
ならば、”彼”はいったいどうやって前に出てきたのだろうか?
「まさか、高月君は本当にロリコンじゃなかったの!?」
「いきなり、何っ!?」
僕の考えを遮るようにして放たれた布良さんの言葉に、僕は驚きながら声を上げた。
「ふに!? 高月君……だよね?」
「そうだけど……いったい僕が誰に見えるの?」
僕の返事に驚いたのか、肩をびくっとふるわせた布良さんは上目づかいで確認するように聞いてきたので、僕は首をかしげながらも応えた。
「ご、ごめんね。さっきまで、もう一人の高月君と話をしていて」
「もう一人………あぁ、”彼”のことだね」
申し訳なさそうに謝る布良さんに、僕も頷きながら返した。
「でも、何とも思わないの?」
「何が?」
そこでふとわいた疑問を口にする僕に、布良さんが続きを聞いてきた。
「僕がそういうのだって知っても」
「当然だよ。だって、私たちはコンビだし、もう一人の高月君もそんなに悪そうな人じゃないから……たぶん」
「ありがとう、布良さん」
即答で頷いてくれた布良さんに、僕はお礼を言いつつも最後の方で布良さんが苦笑しながら言った言葉に引っ掻かていたが、深く気にしないことにした。
「それで、一体どんな話を?」
「それがね、首飾りが壊れているとか言って治されたんだよ……」
「首飾りって、いつもつけている?」
僕の疑問に、布良さんは頷くことで答えた。
「風紀班の仕事の時は壊れている様子はなかったけど………そういえば、どうしていつもその首飾りをしているの?」
僕は、ふと思い浮かんだ疑問を布良さんにぶつけてみることにした。
風紀班での仕事で巫女服に着替える際に、いつも首にかけている丸い首飾りは、何となく疑問にも思っていたのだ。
「それは………それよりも、早く始めようよっ」
「そ、そうだね」
応えずらいのか、僕の疑問に誤魔化すような感じで話題を変える布良さんに、僕も頷いた。
(無理やりはダメだよね)
だからこそ、僕は待つことにした。
いつか首飾りの意味を話してくれるその時まで。