お待たせしました、第36話になります。
タイトルがかなり物騒なものとなっておりますが、残酷な描写はないのでご安心ください。
しかし、主人公の出番が全くと言っていいほどないので本作の主人公はいったい誰なのかが、書いていてわからなくなりかけました(汗)
それは翌日のことだった。
「以上でHRを終わる。仕事のある奴は仕事場に、そうでないやつは問題を起こすなよ」
主任……枡形先生のいつもの言葉で、HRは終わった。
「さてと」
手早く荷物をまとめた僕は、席を立った。
「浩介、今日も一人で行くのか?」
「あ、佑斗君に美羽さん」
教室を後にしようとしたところで、僕を呼び止めたのは佑斗君と美羽さんだった。
「さすがに方向音痴ぐらいは治さないと、先輩に迷惑をかけてもあれだし」
「その先輩さんは、言えば喜んで改善の手伝いをするんじゃないかしら?」
佑斗君に答える僕の言葉を聞いた美羽さんは、僕から視線を逸らしながらつぶやいた。
(まあ、布良さんだったら確実に協力してくれるかもしれない)
「それでも、これは僕の問題だし自分で治したいんだ」
「そう……それならがんばりなさい」
僕の言葉を聞いた美羽さんは静かにつぶやくと、笑みを浮かべながら僕にエールを送ってくれた。
「ありがと」
「それじゃ、支部でな」
僕は佑斗君たちと別れてひとりで支部へと向かうことにした。
僕が抱えている問題。
それの一つが方向音痴だったりする。
ここに来た時も道に迷って歓楽街をさまよいかけたこともあるし、道に迷って風紀班の摘発現場に遭遇したこともある。
まあ、そのおかげで今の生活が充実しているのだから方向音痴も捨てたものではないのかもしれないが、この欠点は早めに克服しておくに越したことはない。
このままだと巡回中に迷子という醜態をさらしかねない。
(よし、ガンバロー!)
布良さんの癖をまねて自分にエールを送った僕は、学院を後にした。
「まずは、ここを右に曲がる」
最初の分岐点である十字路を右に折れた。
このまま少し歩けば大通りに出る。
そこを駅の方面に向かって歩けば、駅前にたどり着く。
さらにそこを道なりに進めば支部へと到着する。
僕でも迷わずにたどり着けるという、実に単純なルートだ。
(これは余裕で着けそうだ)
僕は心の中でそう確信していた。
そんな時だった。
「ん……」
突然意識が揺らぎ始めたのだ。
それはどこか眠気にも似ていた。
(おかしいな。そんなに寝不足じゃないはずなのに)
そう思いながら、僕の意識は再び闇へと落ちるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「よし、全員そろっているな」
「あの、主任!」
支部に到着して制服に着替えた俺たちの前に、主任が現れた。
「なんだ、布良」
「まだ高月君が来ていませんけど、会いましたか?」
手を上げて声をあげる布良さんに、若干目を細めながら用件を聞く主任に布良さんが問いかけた。
「いや、会ってないが。なんだ、お前らと一緒に来たんじゃないのか?」
「いえ、方向音痴を克服するためとかで一人で行きました」
俺の返事に主任は頭に手を当てて呆れた様子で声を上げた。
「まあいい。高月抜きでミーティングを始める」
(あれは絶対にあとで大目玉喰らうな。浩介)
前の落し物の一件の際に、関係ない事件に独断で首を突っ込んだために、始末書と反省文を書かされていたのを思い出した。
このままいけば浩介は確実に、風紀班で最も始末書を書く隊員になるかもしれない。
「報告を基に、犯人グループは開発地区に潜り込んだ可能性が高いことから、これより開発地区の不法滞在者を一斉摘発する」
「一斉摘発!?」
主任から告げられた指示に俺は驚きをあらわにした。
(確か、浩介の案が採用されたんだったよな?)
先日学院に行く途中で小さな声で浩介が教えてくれたのを思い出した。
まさか浩介がそのような内容の報告書を書いたとでもいうのか?
「これより、各ユニットの配置を指示する」
主任から告げられる配置を、俺は漏らすことがないように聞く。
そして、開発地区に移動する途中で、俺は同じユニットになった布良さんに訊いてみることにした。
「これが浩介の提案なのか?」
「ううん。違うはずだよ。だって、前に見たけどそんなことは書いてなかったし」
即答に近い形で返ってきた答えに、俺は嫌な予感を感じずにはいられなかった。
「言っておくが、これは俺の一存でもないぞ。上の連中の指示だ。治安が比較的悪い開発地区の浄化と謳っているが、実際のところはどういう腹積もりかはわからん」
主任のその言葉もさらに不安を増させる。
「いいか六連、布良。こういう状況では”自分の目で見たものしか信じるな”という気持ちが重要だ」
「「はい」」
主任のありがたいアドバイスに、俺たちは即座に返した。
突然の一斉摘発と、いつまでも来ない浩介。
関係ないような気もするが、何となく気になる。
そんな俺の心境と関係なく、俺たちは開発地区の方へと向かっていくのであった。
そこはとある開発地区の倉庫。
そこには数十人の人の姿があった。
彼らは全員食事をしながら談笑などをして楽しげな様子だった。
それは端から見ればちょっと変わった会食をしている人達に見えるだろう。
「お前ら! 静まれっ!」
短めの黒髪の青年の一喝でざわめいていた彼らは一斉に沈黙した。
「これより、主のありがたいお言葉を贈る。心して聴け!」
『おーっ!』
青年の言葉に、一同は大きな声で返事を返した。
すると青年は背後にいる人物に前に来るように促す。
そして姿を現したのはマントを身に纏う、長身の威圧感を漂わせる男だった。
頭にはシルクハットを深めにかぶり、マントの襟で顔が見えないようにしていた。
「よく聞け! 革命の時は訪れた!」
男の言葉に、雄叫びが上がる。
「革命を起こそうとする勇者には、約束通り食料を毎日供給しよう。報酬は我々が永遠に住める楽園だ!」
男は歓声が静まるのを待ってさらに言葉を続ける。
「さあ、革命を始めよう! この俺、ジダーノと共に!」
男……ジダーノは最後にそう告げるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
(あれ? ここはどこ?)
気が付くと僕はどこかで横になっていた。
(開発地区だよね? なんでこんなところに)
さっきまで僕は支部に向かって歩いていたはずだ。
(確か、眠気が襲ってきて、そのまま寝ちゃったんだっけ)
だとすればどこかに倒れているのだろうか?
「ん? んー! んー!?」
何かを話そうとしたところで、僕はようやく異変に気が付いた。
口が動かないのだ。
それだけでない。
起きているのに視界が真っ暗なのもおかしい。
僕は吸血鬼なのだ。
暗闇でもあたりの風景くらいを見ることはできるはず。
(しかも両手両足縛られてる)
そんな自分の置かれた状況で僕の身に何が起こっているのかを察した。
(これって、監禁!?)
どうやら僕は何者かに監禁されているようだ。
誰が何の目的なのかは分からない。
(こういう時は動かずにチャンスをうかがったほうがいい)
下手に行動を起こせば監禁した人物に見つかってしまう可能性が高い。
そうなれば状況が悪化しかねない。
それに、もしかしたら今日支部に来ないことを不審に思った布良さんたちによって、助けが来るかもしれない。
(足音! きっと犯人のだ)
僕は寝たふりをすることにした。
「おい、ジダーノはどこへ行った?」
「ジダーノだったらこいつを使って脅迫状を出しに向かってる」
(……ジダーノか)
どうやら、そのジダーノという人物が、僕の監禁を計画した黒幕のようだ。
脅迫状と言っていたが、誰に出す気なのだろうか?
「しかし、大丈夫なのか?」
「あん?」
「アンナを処刑するだなんて、俺たちにできるのか?」
(処刑!?)
男たちの会話から聞こえてきた物騒な単語に、僕は驚きのあまりに声をあげそうになるが必死にそれをこらえた。
「安心しろ。20人以上もいるんだ、数ではこっちが勝っている」
(20人!?)
もはや軍隊と呼んだ方がふさわしいほどの数だった。
「さて、そ―――ジダーノが戻って――――う。迎えの準―――をす―――――」
「そ――――な」
だんだんと声が聞き取りづらくなってきた。
(声が小さくなっている? いや、これは―――)
”意識がなくなることの前兆だ”と結論付けるよりも先に、僕の意識は再び闇に沈むのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「やれやれ、ピンチのようだな」
あることを済ませた私は、倉庫の前から聞こえる銃声と仲間の悲鳴にため息を漏らす。
(やはり、付け焼刃の戦法ではだめか)
私はそう心の中でつぶやくと、次の手を考える。
(助けるべきか助けぬべきか)
その選択で私がとる物は決まっていた。
「ふっ!」
私は仲間を助けるべく、地面を蹴った。
次の瞬間、私は空高くまで飛び上がる。
そして右手に剣を取り出すとそれを下の方……倉庫の天井の方に向けて構える。
私は落下速度を利用して倉庫の天井に向かって落下する。
天井に着地できたが、剣は天井にひびを入れるのみで突き破ることはできなかった。
「はぁぁっ!」
もう一度剣を力いっぱい天井に叩きつけると一気に天井に穴が開いた。
私はその穴から中に着地する。
土煙が立ち込める中、私はゆっくりと立ち上がった。
「新手!?」
「ジダーノ!」
「六連君!」
私の登場に、三人が声を上げる。
うち一人は私の仲間だ。
「俺は無事だ!」
六連と呼ばれた青年が、無事を告げる。
「大丈夫か?」
「すまない。こいつら、自警団だ」
仲間に容体を確認するが、どうやら怪我をしてはいるものの無事のようだ。
「ここを離れるぞ。こっちだ」
私は仲間の男を裏口へと誘導する。
「伏せて!!」
「おい、伏せろと言ってるぞ」
自警団の一人だろうか、少女の言葉に私は仲間にそう告げると手にしていた剣をしまい、一丁の銃を取り出す。
そして振り返るざまに私たちに撃たれた銃弾を撃ち落とした。
「なっ!?」
「弾を撃ち落としただと!?」
青年と男の驚愕の声が聞こえた。
「息、止めて!」
どうやら銃弾は対吸血鬼用に何らかの効果を持つ物だったらしい。
少女は仲間に指示を飛ばす。
私はその少女に銃口を向ける。
「布良さんも伏せろ!」
そんな私の思惑に気が付いたのか、青年が少女に指示を飛ばすと一気に私の下に迫ってきた。
私はそんな青年の足にめがけて三発の銃弾を撃ち込む。
「ぐっ!?」
致命傷ではない者の痛みで動けなくなるだろうと踏んでいたが、ダメージはそれほど入っていないようだ。
「肉体強化か」
青年の能力の正体を見極めた私は、手に逃走用の煙幕弾を用意する。
「ック!?」
「きゃ!?」
「煙幕だと?!」
それを地面にたたきつけて煙幕を張ると私は彼らに背を向けるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「大丈夫?!」
「ああ。平気だ」
立ち上がった俺は、ジダーノと呼ばれた男が去っていた方を見る。
(全く歯が立たない)
恐ろしいのはジダーノという男だ。
あいつは能力を使わずに布良さんの銃弾を撃ち落とし、さらには不意を突いた俺の奇襲に反応して足を狙撃するという芸当まで見せた。
硬化の能力を使ったため、ダメージは抑えられたがもし急所を狙われていたかと思うと、背筋が凍りつく。
そんな俺は、この場にもう一人の気配を感じていた。
「六連君?」
「誰かいる」
俺の様子に首をかしげて聞いてきた布良さんに、俺は気配を感じたことを告げた。
「え!?」
俺の言葉に慌ててかばうように立つ布良さんに、俺は心の中で、逆じゃないのかと思いながら言った。
「大丈夫だ、殺気の類は感じない」
俺の目では周囲の様子は分かるが、其れでも布良さんからしてみればただの暗闇のため、目を閉じて気配を探ったのかそうつぶやいた。
「おそらく、あいつらにさらわれたやつだろう」
「かもしれない」
警戒しながらその人物の下に向かう。
そこは倉庫の隅の方だった。
倉庫に置かれたものが壁となっているが、その端側から二本の脚のようなものが見えた。
「生きてる?」
「ああ。そうみたいだ」
布良さんの問いかけに答えながら、俺はさらわれた人物に声を掛ける。
「おい、大丈………なっ!?」
「どうしたの六連く……え?」
さらわれた人物の顔を見て驚きのあまりに大きな声を上げた俺の様子に、布良さんもそいつの顔を見て言葉を失っていた。
それもそのはずだ。
なぜなら、さらわれていたのは
「ん……んん」
「高月君!?」
支部に来ていなかった浩介だったのだから。
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