大変お待たせしました。
今回は、聴取がメインとなります。
「んぅ……あれ?」
気が付くと、先ほどと同じところに立っていた。
どうやら立ったまま寝てしまったようだ。
「どうかしたのかね?」
「うわぁ!?」
突然横から声を掛けられたため、僕は驚いて転倒した。
「いつつ……アンナ様」
「大丈夫かい?」
受け身も取れなかったため、強く打った腰をさすっていると、アンナ様から心配そうな声を掛けられた。
「は、はい。お見苦しいところを、すみません」
立ち上がりながら、心配かけてしまったことを謝る。
そんな僕に、アンナ様は気にも留めていない様子で返事を返してきた。
「それで、どうされたんですか?」
どう考えてもこのような場所は普通は来ない。
もしかしたら洗面所を使いに来たのかもしれないし、僕の後ろ側の浴室に用があるのかもしれない。
「ああ、事情聴取をするのだろ? それで呼びに来たんだ」
「あ、そうですか。それじゃ、今すぐにしても?」
アンナ様の答えに、僕は問いかけると頷いてくれた。
「それじゃ、こちらでするのもあれですので、場所を変えませんか?」
「だったら、矢来さんの部屋方がいいかな。その方がお互い落ち着くだろ?」
アンナ様の言葉に、僕は頷いて答えた。
確かに、宛がわられた部屋ならばアンナ様も落ち着くはずだし、僕の方も警戒するのに難しくなくなる。
広い場所というのはそれだけ警戒する面積を広くしなければならない。
少しでも面積が縮まればそれだけでも警戒しやすくなるのだ。
そんなこんなで、僕たちはアンナ様に宛がわられた部屋に向かうのであった。
「お邪魔します」
「どうぞ。と言っても、私の部屋ではないのだがね」
明かりのついていない美羽さんの部屋(現在はアンナ様の部屋だが)に案内された僕に、笑いながらジョークを口にした。
「私が今ここにいるのを知っているのは枡形主任と、君たちだけなんだね?」
「それと主治医である扇先生です」
アンナ様の問いかけに、僕は付け加えるように答えた。
「本来は、私をここに匿うことを本土の方に報告しなければならないのだが、そこはどうなってる?」
「主任は、それが寝ている熊を起こすようなものと」
僕の答えにアンナ様は軽快に笑った。
「今回の事件は、陰陽局側に知られれば”吸血鬼による内紛”と拡大解釈をされかねない。私もそこを心配していてね」
「そうならなければいいんですけどね」
どうやら陰陽局には、吸血鬼の存在を快く思っていない人がいるらしい。
僕の報告書の内容が、”一斉摘発”というねじ曲がってしまった結果で帰ってきたのは布良さんから聞かされていた。
自分の働いている場所が場所なだけに複雑な心境だ。
「それにしても、暗いところでも平気なんですか?」
「私は平気だよ。そもそも吸血鬼は暗闇というのは自然なことだ。それは君にもわかるはずだ」
アンナ様の答えに、僕は頷くことで答えた。
自分でも驚くところだ。
ほんの半年前は、暗い場所にいると何も見えなくて困っていたのが、今では暗闇でさえも明かりがついているときと同じように……とはいかないが人や置いてあるものを認識することができる。
例えるのなら、テレビアニメで真っ暗な部屋にもかかわらず登場人物や物が見えていると言った感じだ。
とはいえ、明かりをつけるという選択肢はなかった。
明かりをつければ誰かがそこにいるという証拠になる。
僕の部屋だと思い込めばいいが、もし寮の配置を知られればアンナ様がここにいることが相手に知られてしまう可能性が高い。
よって明かりがついている(つけられる)のは基本的に共有スペースと僕の部屋だけだ。
「そう言えば、先ほどから私のことを様付しているようだが、なぜかね?」
「いえ、吸血鬼の代表にさん付けで呼ぶのは無礼かと思いまして」
アンナ様の問いかけに、僕は素直に答えた。
「確かに、島には昔から吸血鬼独自のルールがあるが、それにとらわれる必要はない。吸血鬼は自由でいいんだ。よって、様付けは不要だよ」
「そ、それじゃ……アンナさんで」
アンナさんからのお許しをもらった僕は、様付けではなくさん付けで呼ぶことにした。
僕は、彼女が吸血鬼から慕われる理由をなんとなくではあるが察することができた。
「さて、仕事は早く済ませよう」
「そうですね」
アンナさんの促しに頷いた僕は、メモ帳とペンをポケットから取り出す。
「アンナさんは今回の事件の黒幕と面識は?」
「彼とは24年ほど前にルーマニアで会っている」
僕の問いかけに、予想外の答えが返ってきた。
「大変失礼な質問ですけどどのようなご関係でしょうか」
「かつて共に戦った同志だった」
少しばかりに気になる単語が出てきた。
「戦った相手というのは、まさか……」
「君の想像通り、人間だ」
僕の予想は悪い形で的中してしまった。
とはいえ、ふと疑問がよぎる。
「アンナさんに関する資料を拝見したんですが、そのような記述はありませんでした」
僕はあらかじめアンナさんに関するプロフィールなどの資料を確認している。
それは、アンナさんを護衛するうえ(というよりは事件解決の方に近いけど)で、何らかの手がかりがあるかもしれないからだ。
「なるほど……おそらくは消されているのだろう。吸血鬼の長のプロフィールとしては問題があるからな」
こともなげに言うアンナさんだが、確かにそうかもしれない。
吸血鬼の長は人間と対峙していた過去というのは、かなり危険なネタだ。
知る人が知れば新たな火種になりかねない。
「そのようなことを、自分に話してしまっていいのですか?」
「古くからいる吸血鬼は知っていることだ。尤も、君が上に報告をしたいのであれば構わないがね」
「そんな、とんでもない」
僕は慌てて首を横に振る。
「でも、なぜ人間と戦ったりなんか?」
「それが一族を守ることに必要だったんだ」
僕の問いかけに帰っていた言葉は、とても重みのあるものだった。
「人間の中には我々を根絶やしにしたい者もいる。それは、君が一番よく知っているはずだよ。浩介君」
「ふぅ……」
事情聴取を一通り終わらせた僕は、共有スペースで息を吐き出した。
事情聴取というのも大変だ。
特にそれが吸血鬼の代表と言われている人が相手となるとなおさら。
緊張の糸が切れたのか、テーブルに突っ伏した状態で動ける感じはしなかった。
「これでやっていけるのかな? 護衛」
思わず口をついで出てきた弱音。
これを布良さんの前で口に出さなかっただけ、良かったのかもしれない。
「大丈夫さ。君ならば十分に護衛の人を務められると僕は思うよ」
「うわ!? お、扇先生」
僕の独り言に返ってきた扇先生の声に、驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
いつの間にか僕の真横にまでいたのだから、当然だ。
「やあ」
「い、いつの間に」
満面の笑みを浮かべる扇先生に、僕は問いかけた。
「ついさっきね。いや~、高月君のぼーっとした姿もまたいいね。僕のメモリアルに保存させてもらうよ」
「すぐに削除してください!」
扇先生に僕は即座にお願いした。
「そんなツンデレも素敵なところだよね」
「………扇先生は、何故アンナさんがジダーノ達に狙われていると思いますか?」
これ以上ツッコむとさらに怖い思いをしそうだったので、僕は話題を変えてアンナさんが狙われる理由を尋ねてみた。
アンナさんは、”自分がなせるべきことをなしていないから”と語っていた。
だが、それが何を差しているのかがはっきりとわからなかった。
「僕には、はっきりとしたことは分からないけれど、おそらくは人間の監視下で生きていくことを受け入れていることを許せないのではないかな?」
「……」
扇先生の予想に、僕は何も言えなかった。
心の中を満たすのは悲しさ。
人と吸血鬼の闘争……それはあまり聞きたくないことでもあった。
僕が人間だったからというのもあるが。
でも、それ以上に心の中にあるのは全く別の何かのような気がした。
それはまるで……
「高月君、どうかしたのかい? もしかして具合が悪いとか!」
「悪くないです。というより、なんで具合が悪いのを嬉しそうに聞いてくるんですか!!」
最初は心配している感じの顔だったが、後半の方に関しては嬉しそうな表情だった。
「心外だなぁ。僕は医者として患者を不安にさせないように明るい表情を浮かべているんだよ。決して、具合が悪ければ診察に託けて、あんなことやこんなことができると思ったわけではないから」
「………ここに出禁にしてもらうように主任に連絡して頼んでみます」
僕は身の危険を感じたため、扇先生にそう告げると携帯電話を取り出した。
そして主任の番号を呼び出したところで、
「冗談です! 冗談ですから、それだけは!」
「………」
扇先生の渾身のお願いに、僕はおずおずと電話を閉じた。
「ふっ、この僕をここまでさせるとは、さすがは高月君。侮れないね」
「勝手に言っててください」
もはや諦めの境地に達した僕は、ため息交じりにそう相槌を打つのであった。
「それじゃ、診察をするから。まずは血液を抜かせてね」
「…………」
扇先生の言い方が妙に卑猥にも思えるのは、きっと僕が扇先生の思考に毒されてしまったからに違いない。
「はぁ、診察だけで疲れた」
少しして定期的な診察を終えた僕は、ため息交じりに椅子に腰かけると背もたれにもたれかかった。
もう動ける自信がない。
(これも薬の効き目かな?)
診察のたびに、扇先生から投与され続けている薬。
扇先生は、”副作用で疲労感が出るけどバンパイアウイルスが少なくなりすぎないようにするための物だから”と説明してくれた。
奥は吸血状態でなくても、吸血をした時のように能力を使用することができるらしい。
でも、それにはバンパイアウイルスを大量消費してしまう。
僕が感じる眠気は、おそらくそれによるものなのかもしれない。
ならば、きっとこのまま薬の投与を続けていれば、眠気は取れるだろう。
「う……また眠気が」
再び襲ってくる眠気に、僕は抗うこともできずに再び意識を手放すのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ただいま」
「待っていたぞ、六連佑斗」
佑斗の帰宅に、浩介はティーカップをテーブルに起きながら反応を示す。
「待っていたって、大勢の人といないと寂しいとか言う年齢ではないだろ」
「年齢、ね。君は実に愉快なことを言う」
「何がだ?」
浩介の微笑に顔をしかめながらも佑斗は先を促す。
「年齢がいくら立とうが、集団で群れを成したがるのが、生物の性だ。今回のテログループもどきもその例に漏れない。違うか?」
「まあ、そう言われてみれば、そうだけど」
「私もまた、孤独を恐れる哀れなウサギというわけさ」
佑斗の反応に満足が行ったのか、視線をそらして再びティーカップに口をつける。
「それはどうでもいい。お前に警告をしようと思ってな」
「な、何のだ?」
佑斗の返事に浩介は席を立つと佑斗と向き合う。
「ッ!?」
その時、佑斗は浩介から何かを感じ、息をのんだ。
(な、なんだ? この感じ……いつもの浩介じゃない)
佑斗の中に、疑問が渦巻いていく。
(これは、まるで……)
そこから先に考えをめぐらそうとした時、浩介の口端が釣り上がった。
「その様子では、自分が何者かにも気づいていないみたいだな」
「ど、どういう意味だよ!」
浩介の言葉に、佑斗が問いただす。
「気をつけろ」
「は?」
突然浩介から告げられた言葉に、佑斗は言葉を失った。
「お前を利用しようと目論むものがいる」
「お、俺を?」
自分を指差す佑斗に浩介は頷くことで肯定した。
「そいつはお前の身近にいる」
「…………」
「気をつけろ、お前自身が新たな事件の目になりたくなければ」
浩介はそれだけ告げると、目を閉じた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「ん……」
「それって、どういう意味だよ?」
目を覚ますと、僕はなぜか立ち上がっており、目の前にはとても怖い顔で僕をにらみつけている佑斗君の姿があった。
「な、何? 何のこと」
「は? お前、自分で言ったじゃないか。”俺の近くにいる奴が、俺を利用しようとしている”って」
面食らったような表情で僕に言ってくる佑斗君だが、僕はそのようなことを口にした覚えはない。
「し、知らないよ。僕、そんなことを言ってないよ」
「…………………そうか。悪かった」
しばらく僕を見ていた佑斗君だったが、本当のことだと分かったのかそう口にすると佑斗君は共有スペースを後にした。
「まただ……」
本当に自分の身体はどうなってしまったのだろうか?
それに何より、
(この調子でアンナさんの護衛が務まるのかな?)
肝心な時に居眠りでもしていたら、本末転倒だ。
(もっとしっかりしなければ)
僕は自分にそう気合を入れるのであった。