お待たせしました。
ラッキースケベとは女性にも当てはまるのだと、初めて知った瞬間でもありました。
(おかしい)
僕は頭を悩ませていた。
ここ最近どうも意識が途切れることが多くなった。
理由は分かる。
その間にもう一つの人格である本能が前に出ているからだ。
でも、それがおかしいのだ。
扇先生たちの話では、専用の合成血液を飲まない限り、本能が前に出ることはありえないはず。
それがここ最近は頻発している。
(それに何だか眠い)
どれだけ寝ても、眠気が取れることがない。
(僕は一体どうなったんだろう?)
もう一度扇先生に相談でもしてみようと結論付けることにした。
「ふぁ~……」
「どうしたの? コースケ」
思わず口からあくびが漏れた僕に、エリナさんが不思議そうな顔をしながら声を掛けてきた。
「警護疲れが出てきたのかな?」
「それはないと思います。そこまで軟弱ではないと思いますので」
アンナさんの言葉に、僕はきっぱりと告げた。
疲れているわけではない。
「なるほど、前世に思いを――「それじゃ、もしかして」――言わせてくれてもいいじゃないか」
「あれな妄想でもしてたとか?」
「してないっ!!」
エリナさんの予想に、僕は強い口調で否定した。
「それ、逆に怪しいわよ」
「強い否定は肯定と同じってよくいいしね。まったくアンナ様の前で恥ずかしい」
「いや、本当に違うから!」
再び強い否定をしてしまった。
「それじゃ、もしかして好きな人ができてむんむんとして眠れなかったからとか?」
「はい!?」
エリナさんの鋭い予想に、思わず声が上ずった。
「っ!?」
誰かも強い反応を示していた。
「あはは……なるほど、そういうことかい」
「アンナ様は何か心当たりがあるんですか?」
面白げに笑いだすアンナさんに、エリナさんが尋ねた。
「さぁて、誰だろうね?」
「雰囲気を見ると、やはり恋ね」
(自分も同じくせに)
反論したいが、反論すれば墓穴を掘りそうなので、できなかった。
「コースケの好きな人か……誰だと思うアズサ?」
「し、しらにゃいよ!」
エリナさんの問いかけに、梓は上ずった声を上げながら答えた。
その様子だとものすごくバレバレのような気がする。
「アンナ様にお心当たりがあるということは、身近にいるということになるから……もしかしてっ!」
「「ッ!」」
相手が誰なのかに見当がついたのか、ニコラの言葉に僕たちは息をのんだ。
「「「扇先生!?」」」
「「え?」」
エリナさんにニコラに佑斗君の言葉に、僕たちは言葉を失った。
「それは違う! 天地神明に誓って違う!」
「だから、否定が強いわよ」
必至に否定をする僕に、美羽さんが冷静にツッコんだ。
「むぐぐ……」
もう僕はツッコまないと心の中で決めた。
「全く罪な人だよね~。こんなに美少女が周りにいるのに、男の人にしか興味がないなんて」
「そ、そうだったんですか」
「違うんだけど……」
強い否定もできずに、話がどんどんと進んでいく。
ふと気になった僕は布良さんの方に視線を向けた。
「そんな……まさか高月君が……」
何かぼそぼそと口にしていた。
(確実に信じてるしっ)
「そう言えば、浩介って枡形主任にもなついてるわよね」
「ちょっと! まるで僕を犬みたいに言わないで!!」
美羽さんの言葉に、僕は猛抗議した。
そりゃ、人から見れば確かにそんな風にも見えるかもしれないけど。
「ミューとユートはコースケがどっちだと思う?」
「私は佑斗だと思うわ」
「いや、ここは意表をついて主任だったりして」
「佑斗君まで!?」
扇先生のセクハラまがいの行動にお互いに励まし合っていた仲間だと思っていたのが、今こうして裏切られた。
「タイトルをつけるなら『風紀班、夜の情事~主任の警棒で~』かな★」
(”かな★”じゃないよ)
「つけるな!! というより、アンナさんの前でなんということを。すみません、アンナさん。エリナさんたちには――――」
「私はどちらかというと、枡形主任が受けの方がいいかな」
「って、アンナさんもですか!?」
何だか今日は裏切られてばっかりだ。
いや、そんな関係じゃないんだけど。
「新人隊員に夜ごと追い詰められていくベテラン隊員」
「うわ。何だか面白くなってきました」
(もう、どうにでもなれ)
僕はすべてをあきらめた。
「うにゃあああああああ!!!」
そんな時、布良さんの本日一番大きな叫び声が聞こえた
「高月君がそんな人だったなんて~!!!!」
「あー、ちょっとやりすぎちゃったかな」
逃げていく梓を見て、エリナさんが一言つぶやいた。
(やっぱりからかわれていただけか)
分かってはいたが、からかわれるのは微妙に嫌だった。
とはいえ、僕に残された問題は
「僕はまだ弱く否定しないといけないの?」
「……どうやらもう強さは関係ないみたい」
布良さんへの誤解をどう解消させるかだった。
今日はとても波乱に満ちた日になりそうな気がした。
「それで、話って何?」
「その、布良さんのことなんだけど」
日が暮れ始めている中、僕は玄関先の方に美羽さんを呼び出していた。
理由はもちろん、布良さんのことを聞くためだった。
「やっぱりね」
「分かってたんだ」
「女の勘を甘く見てはだめよ」
不敵な笑みを浮かべる美羽さんの言葉に、僕は肝に銘じることにした。
「布良さんって、僕のことが……その……」
なんと言おうか表現に悩んだ。
ストレートに言えば、ナルシストに見られそうな気がしたからだ。
だが、僕が聞こうとしていることで別の言い方が見つからなかった。
「なるほど、そういうことね」
だが、美羽さんにはそれだけで僕の言わんとすることが伝わったようだ。
「単刀直入に言うと答えられないわ」
「へ?」
一瞬考え込んだ美羽さんの口から出た答えに、僕は思わず唖然としてしまった。
「当然でしょ。そう言うのは本人の口から聞くべきだし、それに、浩介自身布良さんのことをどう思っているのかが重要になるんだから」
「…………」
呆れたような表情を浮かべながら言ってくる美羽さんの言葉はとても的を得ていた。
「………ごめん、ちょっと甘えてたみたい」
「まあ、分かればいいのよ」
美羽さんの言葉で、僕の目はしっかりと目覚めた。
「でも、さすが美羽さん。すごくいい回答だったよ」
「な、何よいきなり」
僕は先ほどのリビングの一件の仕返しをすることにした。
「いや。さすが人の往来の激しい繁華街の一角で佑斗君とディープキスをした人の回答はすごいなって思っただけだから」
「ッ!?」
僕の予想通り、美羽さんは顔を赤くさせた。
「相談に乗ってくれてありがとね。それじゃ」
「ちょっと待ちなさい! こうす―――――」
僕は勝利の余韻を味わいながらそこを去るのであった。
(何だか今までの悩みがすっきりした)
そう言う意味では、美羽さんに感謝するべきなのだろう。
そして僕は心機一転させて警護任務を全うしようと改めて誓うのであった。
「あの、ひとついいですか?」
寮の皆が学院に向かい、残された僕はアンナさんの護衛の任を全うしていた。
「何かね?」
部屋の明かりを消された部屋にいる僕は、アンナさんに尋ねた。
「一体何をやってるんですか?」
「これか?」
先ほどからずっと携帯ゲーム機を操作しているアンナさんのことが気になっていた。
「”ろくろメモリアル”という恋愛ゲームだよ」
「あ、聞いたことがあります。たしか貴族とかになりきって会話を楽しむ奴ですよね」
前に雑誌で読んだことがあった。
なんでも、数十万人のプレーヤーがいるほどの人気のあるゲームらしい。
僕はやったことがないが。
「最近の私の楽しみの一環でね、よくやっているんだよ」
まあ、アンナ様にもそれくらいの時間は必要なのはわかっているので、特に驚きもしなければ幻滅の類もしなかった。
逆に親近感すら湧いてくる。
「さて、そろそろ――――――――――――」
アンナさんが何かを僕に言っている。
だが、僕にはそれを理解することができなかった。
(またあの眠気?!)
アンナさんの前ではしたないという思いで抗うが、一瞬で僕の意識は闇に落ちるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「……何のつもりだ?」
いきなり、しかも強引に引きずりだされた私は、目の前の女性を問いただす。
「君に訊きたいことがあってね」
「それは、彼に対してか? それとも……」
「それは君が一番よく知っているはずだと思うが」
目の前の女性は不敵な笑みを浮かべて切り返す。
彼女は、私の正体を知っている。
そして彼女が私をあえて引きずり出したということは、”世界を統べし王”としてだろう。
「で、内容は?」
「いま、この都市で発生している事案については知っているかな?」
用件を促すと、アンナ・レティクルは本題を切り出す。
「ああ。概要程度であれば耳に入っている。お前がテログループに狙われていてそれを阻止すべくここで匿っていることもな」
「それは良かった」
何がどうよかったのかは知らない。
だが、彼女は話を先に進めた。
「単刀直入に聞くが、君は今回の事案をどう見る?」
「下等動物どもの弾圧の前触れ。時限爆弾の起動。内乱の始まり。闘争開始のゴング。どれをとるかは知らない」
私が次々に挙げたのは、抽象的な言葉だった。
「どれも良くないことへの前触れのようだな」
「実際によくないことだろう。私には吸血鬼の連中が逃走を始める姿が見えるぞ」
それは願わくば実現してほしくない未来だ。
「君は、どのような結末を望む?」
「雑種の自滅。それだけさ。それ以外に何がある?」
アンナ・レティクルの問いかけに、私は逆に聞きかえした。
「だが、できればもう一つだけやりたいこともある」
「ほう? それはなにかね」
私は彼女から視線を外す。
「雑種と下等動物どもを一斉に排除すること……かな。非常に有意義だと思わないか?」
「さあね。それが有意義かどうかは私にはわかりかねるが」
とぼけた様子で応えるが、否定はしなかった。
「さすがは、世界を統べし王だね。君の言葉は僕をうずうずさせてしまうよ」
「……………貴方は医者か? それとも潜入捜査官か?」
気配もなく現れた元樹に、私はため息をつきながら問いかける。
「あはは、褒め言葉として受け取っておこう」
「用件は?」
都合のいい解釈をする元樹に、私は本題を切り出す。
「診察だよ。今回は高月君からだね」
「分かった」
どうやら診察の時間のようだ。
だが、どうしても気になることがあった。
「その手に持っているのはなんだ?」
「これか? これはローションと言ってね、僕の愛がこもったサービスだよ」
ろーしょんというものを手にする元樹に、私は怒りを通り越してあきれてしまった。
「では、私が愛のサービスであの世をプレゼントしてやろうか?」
「ははは。照れなくてもいいのに」
私の言葉に、元樹は軽快に笑い飛ばして答えた。
「やれやれ、これではまた彼女が心配しそうだ」
「期待しているところ悪いけど、これはただの心エコーだよ」
アンナ・レティクルの言葉をしり目に、答える元樹。
ただ問題と言えば。
「この私の顔に、期待感があるか?」
「うーん。期待と不安が入り混じったような顔だね」
自分の表情は分から名が、期待感は決してない。
「そこから”期待感”の部分を抜けば正解だがね」
「アンナ様の前だからって、照れなくてもいいのに。さあ、行こう。僕たちの愛の巣へ」
「いっそのことここで調べろ」
元樹とのやり取りだけで、とても疲れたような感じになる。
そんなこんなで、私はアンナ・レティクルのいる部屋を後にしてリビングへと向かう。
そこには心エコー用の器材と簡易ベッドが配置されていた。
「さあ、そこで横になって」
僕は言われるがままベッドに横になる。
「ちょっと失礼するよ」
そう言って私の上着を持ち上げて肌をあらわにさせる。
「あ、そうだ。例の薬、今日も打っておくからね」
「それはそうと、元樹先生?」
「何かな? 高月君」
診察をしているさなか、私は元樹に問いかける。
「その治療は、誰のための物だ?」
「……それはもちろん、高月浩介君のために決まってるではないか」
「なるほど、高月浩介のためか」
元樹の答えは、それですべてを物語っていた。
「で、次はどういった治療をする気だ?」
「そうだね……様子見と言ったところかな?」
目を細めながら不敵の笑みを浮かべて答える元樹。
「一つだけ言っておくが、あまりふざけた真似はするなよ?」
「それは忠告かな?」
余裕がある表情を崩さずに、元樹は口を開く。
「それは、お前自身が一番よくわかっているはず」
「………肝に銘じておくよ」
しばらく無言だったが、元樹はそう頷くことで答えた。
「さあ。検査は終了だよ」
「結果は?」
診察を終えた私は、起き上がりながら結果を聞くことにした。
「至って正常だ。惚れ惚れするほどにね」
「そうですか。それは何より」
元樹の後半の言葉を聞かなかったことにして相槌を打った。
「上半身のローションを洗い流したらどうだい?」
「では、そうさせてもらおうか。元樹」
「何かな?」
ろーしょんを洗い流すべくお風呂場へと向かうなか、私は元樹に声を掛ける。
「覗いたら殺す」
「あっはは、実に刺激的な言葉だ」
私の脅しに、元樹は笑い飛ばしながら声を上げた。
私は、そんな元樹を睨みつけながら替えの服やタオルなどを取りに、自室へと戻るのであった。
「さて、タオルはこれでいいか」
私は取ってきたタオルを腰のあたりにまきつける。
それはもちろん、マナーだ。
女性陣もいるので、素っ裸はまずいだろう。
いざ浴室に足を踏み入れようとしたところで、脱衣場のドアが開いた。
「ただいま、高月く――――――」
「ん?」
聞こえてきたのは布良の姫の声だったが、言い切る前に固まってしまった。
「ぎにゃああああああああ!!!!?」
「ッ!!?」
耳をつんざくような悲鳴に、私は思わず飛び上がりそうになる。
「ど、どどどどうして高月君がここに!? しかも裸ぁ! 上半身裸でタオルが一枚!!」
「………」
マシンガンのごとく浴びせられる叫び声に、私はどう反応すればいいのかがわからず、その場に立ち尽くすことしかできない。
「これって、夢!? 蜃気楼!? イリュージョン!?」
何故だか、私を架空の存在にしようとしているようだ。
彼女の行動原理がわからない
「って、見つかる前にどこかに行かないといけないのに、足が動かない!! どうして! どうなっちゃったの私の身体!」
混乱してるのか、錯乱状態にある布良の姫。
「タオル一枚で上半身は裸!! ばれたら大変なのにぃぃ」
「…………………………おい」
いい加減黙っているのもつらくなってきたので、私は声を掛ける。
「ぎゃあああああ!!!? みつかってたあああ!!」
(あれだけ大きな声で叫び続ければ見つかるだろう)
逆に見つからないと思った理由を私は聞きたい。
「おい、布良の姫」
「ほ、本日はお日柄もよろしくっ!」
「ど、どうも」
何故挨拶から?
確かに日付は跨ぎ、そろそろ日が昇る時間帯だから正しいかもしれないが。
「あの、その、えっと……」
視線をあちらこちらに巡らせ、落ち着かない様子の布良の姫。
「ご、ごめんねーーーーーっ!!」
「……………」
凄まじい速さで脱衣所を後にする布良の姫に、私は何も言えず立ち尽くすしかなかった。
「入るか」
ただ、言えたのはそれだけだった。
そして私は浴室に足を踏み入れる。
(そういえば、前にもこんなことがあったな)
私は記憶を呼び起こす。
そう、それはかなり前。
浴室が五右衛門だったころのことだ。
「高月様、お着替えをお持ちし――――――」
当時、とある理由で居候をしていた私が、お風呂に入るため服を脱いでいた時のことだ。
着替えを持った一人の女性が入ってきたかと思うと、私を見て固まった。
「きゃああああああ!!!?」
「な、何事?!」
突然悲鳴を上げた女性に、私は驚いた。
「は、裸ぁ! なぜに裸! これは夢、それとも幻想! もしくは幻覚!!!?」
「…………」
言葉を次々に放つ女性に、私は唖然とする。
「って、早く出て行かなければならないのに、どうして動かないの私の身体は!!! このままでは高月様に見つかって―――」
「もう見つかっている」
私は頭を抱えながら女性に声を掛けた。
「きゃああああ?! 見つかっていたああ!! 本当に申し訳ありませんでしたぁ!!!」
「あ、おい!」
私の制止を振り切るように、女性は逃げて行った。
その一連の出来事に、さすがの私も唖然としていた。
「まさか、かようなことが起こるとはな」
本当に不思議なものだと私は心の中でつぶやく。
(全く、あんな昔のことを思い出すとはな)
私も年を取ったものだと苦笑する。
だが、そればかりが理由ではない。
それはきっと……
「さて、あがるか」
私は考えを中断するとそう呟いてお風呂から上がった。
この日、私はとてもいいお風呂に入ることができた。
感想やアドバイス等お待ちしております。