大変お待たせしました。
第43話になります。
そろそろあの人物の登場も近くなってまいりました今回は、タイトル通りの内容となります。
(まただ……)
まるで水の中に一滴の水滴を垂らしたように、波紋が広がっていく。
それは一つの世界へと化していく。
気づけば、僕は立っていた。
そこには誰も立っていなかった。
「――――」
声がした。
その声の方に僕は振り向く。
「悪いな、わざわざ呼び出して」
この間とは違う、人が声を掛けてきた。
黒髪の男の人だが、目がつりあがっており、その眼は何かをたくらんでいるようにも思えた。
「今回呼び出した理由だけど」
男の人が、口を開く。
「お前は知っているか?」
(知らない)
男の問いかけに、僕の頭の中にその答えが浮かんだ。
僕は理由を知らない。
私は理由を知っている。
「ふぅん? やはりそう言うか」
いきなり男の人は、顔色を変える。
それはまるで僕を蔑むような視線だった。
私は、恐怖のあまり後ずさる。
でも、男の人は僕との距離を縮めてくる。
「だったら、仕方ねえな」
そう言って、男の人が取り出したのは、一本の金色の剣だった。
「浩介。お前には死んでもらうぞ」
「ッ!!」
男がそう告げると、姿が掻き消えた。
それは消えたのではなく、素早く移動しただけ。
「ぁ……」
振り向いた時には遅かった。
男は何の躊躇もなく、僕の身体を剣で貫いた。
夢のはずなのに、痛みが走った。
「なんてことを……貴様! 自分のが何をしたのかわかってんのか!」
「お前が、考えを改めないからいけないんだよ」
地面に倒れる僕の耳に、この間の夢で聞いた男の人の怒り狂った声とそれを見下すような男の会話が聞こえてきた。
「さあ、どうする? 潔く辞退しろ」
それは脅迫だった。
でも、その内容は分からない。
「――――君」
誰かが僕を呼ぶ。
でも、僕の意識はどんどんブラックアウトしていく。
「高月君!」
彼女が僕を呼ぶ。
それは一筋の光となって僕の耳に聞こえてきた。
そして、私はその光に飲み込まれていくのであった。
「しっかりして! 高月君!」
「はっ!?」
僕は慌てて起き上がる。
そこは紛れもなく僕の部屋だった。
「はぁ……はぁ……はぁ」
眠っていたはずが、まるで全速力で走ったかのように息を切らしていた。
心臓がまだバクバク言っている。
「大丈夫!? 高月君」
「め、布良さん?」
少しだけ落ち着きを取り戻した僕に、声を掛けたのは、布良さんだった。
「ど、どうして布良さんがここに?」
「え!? そ、それは……た、たまたま部屋の前を通りかかった時にうめき声のようなものが聞こえたからだよ!」
僕の疑問に、布良さんはどこか慌てた様子で理由を話してくれた。
「そ、そうだったんだ。でも鍵は?」
「掛ってなかったよ?」
きょとんとした表情で答える梓。
(鍵でもかけ忘れたのかな?)
布良さんが嘘をつくはずがないので、僕はそう思うことにした。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん。気にしないで」
僕が謝ると、布良さんは柔らかい笑みを浮かべながら、首を横に振って応えてくれた。
「でも、あんなにうなされるなんて……何か怖い夢でも見てたの?」
「うん」
布良さんの疑問に答える形で、僕はその夢のことを思い起こす。
「のどかな田園風景の中に、僕は立っていて……そこに目の端を吊り上げた男の人がやってきたんだ」
「うん……それで?」
布良さんも興味があるのか、先を促してきた。
「その男の人に金色に光る剣で体を貫かれたんだ」
「え!? それ本当なの?!」
僕が夢の内容を話すと、布良さんはひどく驚いた様子で僕に訊いてきた。
「う、うん。確かに貫かれたよ。今でもはっきりと思いだすぐらいだもん」
「………」
僕の答えを聞いた布良さんは何かを呟いていた。
「布良さん?」
「え? あ、ごめんね」
僕が声を掛けると、はっとした様子で謝ってくる布良さんの様子は明らかに不自然だった。
「襲撃とかがなくてよかったよ」
「本当だね」
布良さんの言葉に、僕も頷く。
もし寝ている間に襲撃を受けていたらと考えると、笑い事では済まなくなる。
「……っ!!?」
そんな中、布良さんが突然頬を悪化うしてうつむいてしまった。
「ど、どうかした? 布良さん」
「にゃ、にゃんでもにゃいよ!」
(明らかに何かある)
布良さんの動揺した様子に、僕は心の中でつぶやいた。
「あ、私外に出るね!」
「あ、ちょっと………って、行っちゃった」
僕が引き留める間もなく、布良さんは部屋を去って行ってしまった。
「一体何が? 別におかしなところもないし」
自分の身体や周りを見渡してみるが、特におかしなところは見当たらなかった。
「……まあいいか」
しばらく考えていた僕は、結論が出そうになかったのでいったんそれをやめることにした。
「着替えるか」
僕はとりあえず服を着替えるべく、ベッドから出た。
私服に着替えた僕は、先ほどまで来ていた寝着をハンガーにかけてクローゼットに入れる。
「それじゃ、共有スペースにでも――――――――」
”行くか”と口にしようとしたところで、それは起こった。
それは、動悸だった。
体中が力強く脈づくような感じが襲ってきたのだ。
「う……ぐ」
到底立っていられなくなった僕は、地面にうずくまる。
無限にも続くと思われたそれは、少ししてすぐに収まった。
「………一体どうしたんだろう?」
すぐに息を整えた僕は、自分の身体に起こった異変に戸惑いの色を隠せなかった。
「はぁ……一体全体どうなってるんだ?」
何となく今日一日は波乱に満ちたものになるかもしれないという予感を感じながら、僕は共有スペースへと向かうのであった。
「ねえ、皆」
朝食時、全員で朝食を食べていると、突然布良さんが口を開いた。
「何、アズサ」
「あのね、新しいルールとかを作ってみない?」
布良さんが突然そんなことを切り出した。
「ルールって、食後には手を洗わないといけないとかそういうのですか?」
「そう言うのでもいいし、もっと違うのでもいいよ」
布良さんの突然の提案に、みんなの反応は困惑だった。
「でも、どうして急に?」
「今ある両側って学院の方で決めたやつだよね? 他にも私の方で寮則を増やしているけど、それって吸血鬼さんの立場に立っていないような気がしたから」
訝しむように問いかけたエリナさんに、布良さんは突然の問いかけの理由を口にした。
「それなら、寮内ではマントを着用するのと、寝具は棺桶にするってのはどう?」
「「「それは絶対にいや!」」」
「マントはちょっと……」
ニコラの提案に、僕とエリナさんと佑斗君は即答で却下にして稲叢さんも控えめに反対した。
「う……ちょっといい案だと自信があったんだけど」
「あったのかよ」
ニコラのボヤキに、佑斗君が小さな声でツッコんだ。
「……何か問題がおきたの?」
「え? ううん、そういうことじゃないの」
心配そうな表情を浮かべながら尋ねるエリナさんに、布良さんは手を横に振りながら答えた。
「ただ、みんなで決めたほうがいいのかなって思っただけだから」
「でも、それって必要なのかな?」
布良さんにそう告げたのは、今まで黙っていた佑斗君だった。
「俺は別に今のままでも窮屈には感じないぞ。それは浩介もエリナ達も同じはずだ。だよな?」
「うん。ワタシは今のままでもいいと思うよ」
佑斗君の言葉に、エリナさんも頷いた。
「そ、そうだよね。良く考えればルールが増えたら逆に窮屈だよね」
「浩介、一体布良さんはどうしたんだ?」
佑斗君は、布良さんにではなく僕の方に聞いてきた。
何となく、他意を感じるような気もするが、僕はその問いかけに答えることにした。
「それは―――」
「あ、言わなくて大丈夫だよ。大したことじゃないから、この話は忘れて。ごめんね」
答えようとした僕の言葉を遮るように、布良さんは口を開くとみんなに謝った。
「ただいま……って、どうしたの?」
そんな中、風紀班の仕事で留守にしていた美羽さんが寮に戻ってきた。
「う、ううん。なんでもないよ!」
「………ふぅん、そういうことね」
布良さんが首を横に振るものの何があったのかを悟ったのか、僕と布良さんを含みのある笑みで見ながらつぶやいた。
「それはともかく、浩介と布良さんに枡形主任から伝言よ『二人とも警護は私に変わって少し外に出ろ』らしいわ」
「え? でも大丈夫なのか?」
僕の疑問を佑斗君が代弁してくれた。
「ええ。さすがにずっとこもりっきりというのもあれだし、たまには気分転換も必要よ」
それに答えるように美羽さんは説明してくれた。
確かに、たまに外をに出れば気分転換になるのかもしれない。
とはいえ、苦痛というわけでもないけど。
「それに、これ以上外出しないのは逆に不自然よ」
「そう言うことか」
どうやら後者の方が強いような気がした。
「それじゃ、散歩に行ってくる」
「あ、私も一緒に行く」
こうして、僕たちは少しの間外へと出ることになった。
「はぁ……久しぶりの外出だな」
「そうだね。許可が出て良かったね~」
なんだかんだ言って与えられた自由時間は、3時間程度だった。
程度とは言え、僕には十分すぎる時間だった。
外を歩く中、僕たちは若干わざとらしく会話をした。
それはもちろん演技だ。
表向き、僕は療養中ということになっている。
念には念を。
枡形主任らしい指示だった。
時間帯からして、そろそろ吸血鬼が活発に動き始めるころだろう。
噴水の出る公園を歩きながら、僕は久しぶりの外の空気を堪能していた。
「そう言えば布良さん」
「何? 高月君」
そんな中、僕はあることが気になり布良さんに疑問をぶつけてみることにした。
「さっきのあれは、やっぱりこの間の話を気にしてるの?」
「え? 何のこと?」
とぼけているのか、それとも本当にわからないのか。
僕は具体的に言うことにした。
「いきなり寮則のアイデアを聞こうとしたことだよ。やっぱりこの間のアンナさんの話を気にしてるの?」
「…………うん」
僕の言葉に一瞬肩を震わせた布良さんだったが、静かに頷いて答えてくれた。
それは数日前のことだ。
僕とアンナさんが話をしているさなか、突然布良さんがある疑問をアンナさんにぶつけたのだ。
『どうすれば人間と吸血鬼さんが仲良く暮らせるようになりますか?』
それが、布良さんの疑問だった。
それに対して、アンナさんは自分で考えろと答えた。
だからこそ、いきなり寮則の話になったのだろう。
(やっぱり焦ってるよね)
何となくではあるが布良さんからはそんな感じがした。
「え……?」
気が付けば僕は布良さんの頭に手を置いていた。
「大丈夫」
そして自分の意思とは関係なしに勝手に口から言葉が出ていた。
「布良さんがやっていることはいつか必ず実を結ぶ日が来る。だから、大丈夫」
根拠はない。
それでも、なぜかそう口にしていた。
「ありがとう、高月君」
でも、布良さんが明るい表情を浮かべてくれるのであれば根拠などは些末な問題なのかもしれない。
「……っ!」
その時、鼓動が一瞬速くなったような気がした。
「どうしたの?」
「え、あ、いや……ちょっと布良さんにお願いしたいことがあるんだ」
僕の様子に不思議そうな表情を浮かべた布良さんの問いかけに、僕はとっさに誤魔化そうとそう口にしていた。
それが逆に墓穴を掘ることになるとも知らずに。
「何?」
「血を……っ」
布良さんに対して自然に”血が飲みたい”と口にしそうになる自分を何とか押しとどめることができた。
「実は一度でもいいから銃の練習をしてみたいと思ってたんだよ」
「そ、そうなの?」
「そうそうっ」
何とか誤魔化すことができたようだ。
かなり無理はあるけど。
「私はいいけど、大丈夫?」
「もちろん大丈夫だよ。布良さんがよければ」
「それじゃ、ちょっと移動しようか」
布良さんに先導される形で、僕たちは場所を移動することになった。
銃の練習をしてみたいというのは本当のことだ。
僕は格闘技が得意でもないし、かといって相手を吹き飛ばすというのだけでは物足りないような気がする。
銃ならば相手にあてることができれば、絶大なダメージを確実に与えることができる。
しかもそこに自分の能力で相手の攻撃を封じてしまえば、僕はかなり強くなる可能性もある。
そんな狙いからだった。
「それじゃ、ちょっとだけ手続きをしてくるから待っててね」
「あ、うん」
僕が連れてこられたのは、意外にも月長学院だった。
そこの人目につかないところで待つように言われた僕は、布良さんが戻ってくるまで待つことにした。
「本当に、ここ最近どうも予想外のことが多すぎる」
変な夢にしろ、少しして感じた動悸にしろ、先ほどの変な感じにしろ。
もしかしたら僕の身体は、本格的におかしくなってしまったのかもしれない。
(今度、扇先生が往診に来た時に訊いてみるか)
また色々と弄繰り回されそうな気がしそうだけど。