大変お待たせしました。
再び夢シリーズです。
この夢と浩介の言葉が何を意味するのかは、かなり先のほうで明らかになります。
しばらくして案内された場所で、僕は実際に布良さんに銃を借りると的に向かって撃っていく。
数発分の銃声が響き渡る。
「どう? 実際に銃を撃ってみて」
「思ったよりも難しいんだね」
ドラマなどで銃を撃っているシーンがあった。
布良さんもそうだが簡単そうに撃ってはいるものの、かなり難しいことであることを僕は初めて知ることになった。
「そんなことはないと思うよ? お祭りの射的と一緒だし」
「それにしても、まさかこんな場所にこんな設備があったなんて思いもしなかったよ」
一番の驚きは、学院の体育館に設置された射撃用の的だった。
しかも、後ろまで行かないように間仕切りまで用意されている。
それはどこからどう見ても完全に射撃場だった。
これまで使用したのはほんの数回程度ではあるものの、このような設備があることに驚きを隠せなかった。
「もう一度撃ち方のコツを教えてもらってもいいかな?」
「いいよ。えっとね、銃を的の方に構えて―――」
「あの、もう少しわかりやすく」
布良さんなりにわかりやすく説明しているのかもしれないが、僕にはさっぱりだった。
「あぅ……こういうのってなんとなくだから……」
「それだったら、実際に撃つところを見せてもらえるとありがたいんだけど」
難しそうな表情を浮かべて考え込む布良さんに、僕は思いついたアイデアを口にした。
「そ、そうだね。それじゃ……」
布良さんは言葉を区切ると、数十メートル先にある的に向けて銃を構えた。
(本当に構え方が違う)
何となくだが、僕にも理解できた。
構え方、力の入れ具合その他諸々が僕とは異なっていた。
きっと、それが僕が射撃を難しいと感じさせた要因だろう。
そして、布良さんの手に持つ銃から、弾が発射された。
その弾はまるで吸引でもされているかのように、まっすぐ的のの中心部を捉えた。
「と、こんな風だけど」
「なるほど。よくわかった」
こちらの方に振り向く布良さんに、僕は理解ができたと答えた。
「それじゃ、やってみよー!」
どこかテンションが高い布良さんに圧されつつ、僕は銃を受け取ると再び的の方に向けて構えた。
(力を抜いてリラックス……)
自然と銃を持つ手に力が入っているのに気付いた僕は、力を弱めると目を閉じてから一度深呼吸をして、気分を落ち着かせる。
(よし)
リラックスできたと思った僕は、ゆっくりと目を開ける。
(あれ?)
すると、先ほどまではそれほど見えなかったものが、より鮮明に見えるようになった。
気が付けば周りから音が無くなっていた。
まるで自分が銃を向けている方向で撃つとどこに着弾するかが、一筋の線のように見えるような気がした。
(この感覚、まるで……)
まるで、前にもこういうことを何度もしてきたような感じだ。
(ありえないか)
僕の記憶が正しければ、そのようなことをしたことはないはずだ。
だが、そんな僕の気持ちを否定するように体は勝手に引き金を引いていく。
弾いたと理解した時には、既に横にある的に狙いをつけていた。
そしてまた引き金を再度引く。
それを何度も繰り返す。
(一体何? 今の)
ふと、再び音が戻っていた。
「す、すごい! 高月君すごいよ!」
僕の疑問を遮るようにして聞こえてきたのは、布良さんの驚きの混じった声だった。
「初めてなのに、百発百中だよ」
「そ、そうなのか?」
言われて的の方を見てみると、確かに的の中心部分を打ち抜いていた。
「もう一度構えてみる」
だが、先ほどのような状態にはなることがなかった。
「問題なのは、動いている的がどこに移動するかを予測することなの」
「止まっている的なんてないもんね」
布良さんの説明に相槌を打ちながら、僕は銃を撃っていく。
「うん。それ弾は早く届くけど指でトリガーを弾くのはどうしても遅れちゃうから」
銃というのは反動が大きいことも難しさの一つだと聞いたことがある。
銃の光景が大きくなればなるほど、それに比例して反動も大きくなっていく。
腕の細い人が、口径の大きい銃を撃った際の反動で、腕の骨を折ったという話を聞いたことがある。
「だから、高月君……吸血鬼さんならすぐに上達すると思うよ」
「そうかな?」
布良さんの言葉に、僕は思わず首をかしげてしまった。
確かに、銃の反動などならば吸血鬼にはないに等しいだろう。
尤も、それは今僕が持っている銃ならばの話だが。
先ほど撃った弾は中心からそれた場所に着弾している。
やはり、先ほどのあれはまぐれだったようだ。
「それじゃ、とりあえず500発撃って終わりにしよう」
「5、500!?」
余りにも大きい弾数に、僕は聞き間違いだと思い聞き返した。
「本当は1000発がいいんだけど、集中して撃った方がいいからね」
僕の淡い期待は、布良さんの言葉によって脆くも崩れ落ちた。
「5点のラインより内側に3割以上命中させたら、今日の特訓はおしまいね」
(つまり、最低でも150発は命中させないといけないんだ)
「朝までかかってもいい?」
「ダメだよ。美羽ちゃんとの交替時間もあるから」
僕の弱気な問いかけも布良さんに一刀両断されてしまった。
残り時間はあと1時間ちょっと。
(何としてでも終わらせなくてはっ!)
「それじゃ、はじめっ」
そして僕は地獄(?)の特訓の総仕上げをするのであった。
「な、何とか間に合った」
自室に戻った僕は、ベッドに横になりながら息を吐き出した。
結局あの総仕上げでは、300発ほど撃ったところでようやく3割のラインを超えることができた。
布良さんいわく初めてにしてはすごいとのことだが、自分がまだまだであるという現実を目の当たりにした瞬間だった。
(それにしても布良さんにあんな一面があったなんて………知らなかった)
見かけによらず(かなり失礼だけど)スパルタな一面があったところには驚きだった。
まあ、それが嫌だというわけではないのだが、意外な一面だったことには変わりなかった。
「ふぁ~。何だか今日はものすごく眠い」
銃という使い慣れない物を利用したからなのかもしれないが、とても眠かった。
(あと2時間ほどは仮眠が取れるはずだから、眠っておくか)
僕はそう思い立つと、いったん仮眠をとることにするのであった。
僕は夢を見ていた。
そこはかなり前に見た場所と同じ、田園風景。
だが、何となくそれとは違うような気がした。
僕が立っているのは川岸だった。
その川岸に立っている人物がいた。
おそらくは男性だろう。
川をじっと見つめていた。
顔の方はよく確認ができなかったが背丈は僕同じくらいだろうか。
「――――さん」
そんな時、声が聞こえた。
その声の方を見ると、一人の女性が男性の方に向かって走ってくるのが見えた。
黒い長髪を風になびかせたその女性は笑みを浮かべていた。
それに、男性も振り向くことで応じた。
運悪く、こちらからは顔の方が確認はできなかったが。
それはまるで恋人同士のように。
男性の元まで駆け寄った女性は、満面の笑みで男性に何かを話していた。
その女性の表情は、まるで誰かを彷彿とさせるようなものだった。
やがて、二人は手をつないでどこかへ去っていく。
残されたのは僕だけだった。
聞こえるのはセミの鳴き声。
川のせせらぎ。
「――――――――――よ」
「え?」
そんな時、ふと誰かの声が聞こえたような気がした。
声からしておそらくは女性の物だろう。
周りを見渡してみるが、人の姿はどこにもなかった。
「姫は、吸血鬼の餌袋になっているわ」
「それって、―――失格ですね」
女性の話声がさらにはっきりと聞こえてくる。
「餌袋? 姫」
それは暴言だった。
誰に向けての物かはわからなかったが、暴言であることだけは理解できた。
「あの方は吸血鬼の情婦がお似合いよ」
(ッ!?)
その言葉に、僕の鼓動はなぜか力強く脈づくことで反応をした。
そして、その言葉を最後に声が聞こえてくることはなかった。
(一体、なんなんだろう?)
僕が体験した出来事に、僕は理解することがd系なかった。
だが、答えなどとっくにわかっていた。
きっとそれは、―――――
「はっ!?」
気が付くとそこは僕の部屋だった。
「はぁ……はぁ……はぁ」
息が荒いので、僕はとりあえず乱れた呼吸を整えることに専念することにした。
呼吸が整うのに、さほど時間は必要としなかった。
「………………一体なんだって言うんだ?」
最近、こんなことばかりだ。
本当に僕の身体はどうにかしてしまったのだろうか?
「う……」
まただ。
また、あの意識の遠のく気配だ。
でも、おかしいな。
今までよりも遠のく速度が速―――――――――――――――
★ ★ ★ ★ ★ ★
「………」
明かりの消えた浩介の部屋。
窓からは日光の光がカーテンの隙間からあふれ出る。
そんな部屋のベッドの上で、浩介はじっと自分の手を見つめている。
「チェンジの速度が速まっている?」
ふと口から洩れた言葉。
それに返事をする人物は一人もいない。
「覚醒の時は近い……か」
彼の呟く”覚醒”が何を意味するのかは、彼自身も知らなかった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
浩介達と変わり、アンナさんの護衛をしながら俺が共有スペースで雑誌に目を通していると、ふと、ドアの開く音が聞こえたので雑誌から視線を外し、音のした方へと顔を向けた。
「お、浩介。交代まで時間はあるんだから、まだ寝ててもいいぞ?」
「……………」
ドアの前に立っていた浩介に声を掛けるが、それに反応を示さない。
それどころか、ただ佑斗を見つめているだけだった。
(な、なんだ?)
「お、おい? どうしたんだよ」
いつもの浩介と様子がおかしいことに気付いた俺は、浩介に再度声を掛ける。
(そう言えば、前にもこんなことがあったよな)
俺は少し前のことを思い出した。
あの時も、浩介はまるで別人のようになっていて忠告をしたんだっけか。
「どうかしたの、佑斗? って、浩介。まだ交替時間じゃないわよ」
「………………」
キッチンの方から姿を現した美羽の言葉にも、浩介は反応を示さない。
「無視するとは、いい度胸ね?」
「無視などはしていないさ。ただお前たちを観察していただけだ」
一向に反応を示さない浩介に、しびれをきたしたのか目を細め声のトーンを落とす美羽に、ようやく反応を示した浩介は俺と美羽を見比べはじめた。
「お前たちは、いわゆる”恋人”なのだろう? 非常に素晴らしい組み合わせだ」
「「ッ!?」」
浩介の言葉に、思わず息をのんで反応する俺と美羽に、浩介は面白そうに口の端を吊り上げたかと思うと、再び元の無表情へと戻った。
「だが、非常に残念だ」
「な、何がよ?」
浩介の言葉は俺に向けられたものだ。
だが、俺をかばうように反応した美羽に、俺は一瞬嬉こんでいた。
「六連佑斗。私はお前に忠告したはずだぞ」
その言葉で、俺の脳裏にあの時の浩介の言葉が頭をよぎった。
『気をつけろ。お前を利用しようと目論むものがいる。そいつはお前の身近にいる』
それがあの時、浩介から言われた言葉だった。
「教えてくれ。あれには一体どういう意味があるんだ?」
「………そのままの意味だ。お前を利用し、この都市に大いなる災いをもたらそうと企む不届き者がいるという意味だ」
「なっ!?」
浩介の言葉に、声を漏らしたのは美羽だった。
「浩介、何を知っているの?」
「方法は知らん。だが、犯人は分かる」
「それは誰っ!」
美羽の問いかけに、目を閉じながら答える浩介に、さらに美羽が詰め寄る。
「お前たちの身近にいるものだ」
「名前を言いなさい!」
この間と同じようにぼかして言う浩介に、美羽が声を荒げる。
「…………………」
「ち、ちょっと!?」
だが、それを無視するように浩介はまるで糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「さい! 浩介!」
「う……ン」
誰かに無理やりたたき起こされた僕は、眠り眼で周囲を見渡す。
(あれ?)
そこはなぜか共有スペースだった。
「浩介!」
「ふぇ? 美羽さんに、佑斗君?」
寝ぼけた状態の僕に声を掛けてきたのは、美羽さんと佑斗君の二人だった。
何だか二人とも顔が怖かった。
「目が覚めたようね」
「う、うん………」
美羽さんの言葉に答えながら立ち上がる。
(一体いつの間にここに?)
疑問が僕の頭の中に渦巻き始めた。
「なんで僕はここにいるんだろう?」
「はい?」
僕の口にした疑問に、美羽さんが素っ頓狂な声を上げた。
「浩介、覚えてないの?」
「だから、一体何を?」
美羽さんの反応を見るからに、どうやら本能が出ていたようだ。
「貴方、一度病院で診てもらったほうがいいんじゃないかしら?」
「そ、そうだね。今度扇先生に相談してみるよ」
美羽さんの刺々しい視線に苦笑しながら、僕はそう返すのであった。