大変お待たせしました。
此処から少しずつ進展していきます。
いよいよ次話であの人物が登場します。
あのおかしな夢を見た日のことは今でも記憶に残っている。
あの後、結局佑斗君たちには変な目で見られはしたものの、諦めたのかそれとも呆れられたのか、ため息交じりに美羽さんから休めと言われた。
本当にあの時ほど、不安に包まれた日はなかった。
そんな今日も、交替時間を利用して布良さんから銃の指導を受けていた。
僕が銃の指導をお願いした理由。
それはいろいろある。
例えば、自分の戦い方の選択の幅だ。
これまで僕は相手の動きを止めるぐらいしかできなかった。
だが、もしそこに飛び道具を扱えるという、ステータスが加わればどうだろうか?
多少なりともこちらのアドバンテージになりうるはずさ。
だがそれは一種の建前に過ぎない。
本当の理由はもしかしたら何かにつけて布良さんと一緒にいたいと思っているからかもしれない。
佑斗君曰く僕は多かれ少なかれ布良さんに惹かれているらしい。
『自分の気持ちをしっかりさせることが大事だ』
一足早く美羽さんという恋人を得た佑斗君のそんな言葉は、とても重たかった。
アンナさんや佑斗君に指摘された通り、僕は周りの吸血鬼の少女たちを差し置いて人間に惹かれていた。
「23%か」
今は今日の締めくくりとして100発の射撃訓練だ。
決められたラインよりも内側に着弾したのは23発。
これは昨日よりも若干悪い状態だ。
やはり、余計なことを考えていたことが原因だろう。
「2日目だからね」
そんな僕の様子に、苦笑しながらフォローの声を掛けてくれる布良さん。
「でも、さすが吸血鬼さんだね。ポーズとかが様になってるよ」
「えっへん」
布良さんの称賛の声に、僕はどうだと言わんばかりに胸を張った。
「胸を張らないの」
「あてっ」
そんな僕は苦笑していた布良さんに頭を軽くたたかれた。
なんだかんだ言って、教えてくれる時の布良さんはどことなく上機嫌だ。
理由は分からないけれど。
「でも、昨日の記録は抜きたいし……あと少しだけいい?」
「別にいいけど大丈夫?」
僕の言葉に、心配そうに答える布良さんに、僕は大丈夫と答えた。
この最低でも5発を当てれば昨日の記録を大幅に更新することになる。
目指すは自己ベスト更新だ。
「あ、弾はあったかな?」
「こっちの方にあるよ」
僕は横の方に置かれた弾倉入りのカートリッジを手にしながら答えた。
僕はそれを素早く銃に装着すると、的に向けて構えた。
「よし、ラスト5発!」
「行ってみよー!」
布良さんの元気な声に押されるように、僕は照準を合わせる。
何となくではあるが、これはうまくいくという自信が湧き上がる
「よーし、見えた!」
「にゃー!? ちょっと、待って高月君っ!!!」
布良さんが悲鳴にも似た声を掛けてくるが、時すでに遅し。
その時点ですでに引き金を引いていた。
「きゃあああーーー!!!?」
「ぬごぉぉぉぉ!? な、なんじゃこりゃあ!!?」
銃声と同時に視界が白に染まり、悲鳴を上げる僕と布良さん。
「それ……閃光弾」
事態が呑み込めないでいると、力の抜けたような声の答えが返ってきた。
「れ、連射しちゃった」
肉体的なダメージはないが、どこか視界がふらふらとする。
「あぁぁぁ……」
そしてそのまま僕たちはその場に座り込むのであった。
ちなみに、視界が元に戻るのに数十分ほどの時間を要したのは余談だ。
「本当に申し訳ない」
「大丈夫だよ。あれは事故だもん」
射撃場(体育館のような場所だけど)を後にして、学院の校門前まで移動した僕は、布良さんに何度目かわからない謝罪の言葉をかけていた。
「それに、構えも良くなっているし、上達しているよ。だからドンマイだよ」
「……そうだね。明日は目指せ30%オーバー!」
「おー!」
空元気ではあるが、何とか気合を入れることはできた。
(それにしても、いつもはニャーニャー言っているけど、時たま今みたいに頼れる先輩になるんだよな)
そこが布良さんの不思議なところでもあった。
そのうち変なあだ名をつけられるのではないかという予感もしているが。
そんなこんなで、僕たちは寮に向かって歩き出した。
「そういえば」
その途中で、ふと布良さんが口を開いた。
「どうして高月君は銃を習おうとしたの?」
「………えっと」
布良さんの問いかけに、僕は考えるがどう考えても恥ずかしすぎる。
戦略的なことを言えば変に気を使わせるし、もう一つの理由に関しては論外だ。
「なんとなく……かな」
「……?」
僕に言えたのはそれだけだった。
当然のように布良さんは良くわからないと言った表情を浮かべるが、さすがにこれ以上の誤魔化し方は知らない。
「と、ところで布良さんはどうして銃を?」
「うーん………」
話題をそらすべく投げかけた僕の疑問に、今度は布良さんが頭を悩ませる晩だった。
「長い話になるから、また今度ね」
「そんなに長いの?」
「だって、もう寮の近くだから」
何となくではあるが、布良さんから拒絶の声が聞こえたような気がした。
とはいえ、あまり深く聞くのもあれなので、僕はそれ以上追及しないことにした。
そうすると、自然と口数が減ってきてしまう。
そんな沈黙を破ったのは、布良さんだった。
「私ね、美羽ちゃんから高月君とペアを組むようになってから変わったって言われたんだ」
「…………確かに」
よくは分からないが、なんとなく最初に会ったころに比べると布良さんは変わっているような気がした。
「私も、前より仕事ができるようになった気がするんだ」
「前も仕事をしていたような記憶しかないけど?」
逆に、僕は始末書を書かされることになったこともあった。
あれはある意味トラウマと化していた。
「ううん。前はあっち方面の仕事は尻込みしてたから。でも、今はそれも平気になったんだよ」
「……………それって、いい影響?」
尻込みして当然のような気もする。
僕だってまだ苦手なのだから。
「もちろん!」
だが、布良さんは力強い口調でそう答えた。
もしかしたら。
もしかしたら、僕という存在が布良さんにとって何らかの変化をもたらしたのかもしれない。
そして、それを予期したうえで枡形主任は僕と布良さんでコンビを組ませたのかもしれない。
だとするならば、
「枡形主任はすごいよね」
「うん」
そう言うことになる。
とはいえ、それはいいコンビであることを証明している。
「これからも、いいコンビでいよう!」
「あ……」
そんな時、僕の手の甲と布良さんの手の甲が重なった。
「ご、ごめん」
「う、ううん。大丈夫」
謝っては見たものの、一向には慣れる気配はなかった。
布良さんから言わせればこっちが離さないだけなのかもしれない。
それでも、僕の手が離れることはなかった。
まるで磁石か何かで、強引にくっつけられているかのような感じで。
「と、友達だもんね。これが普通だよね」
「そ、そうだな」
何なのだろう?
この何とも言えない微妙は雰囲気は。
「友達にしては、少し変かな?」
「さ、さあ?」
僕は首をかしげながら答えた。
もしかしたら、これが普通なのかもしれないし、本当におかしいことなのかもしれない。
ふと、手が離れた。
それだけで、言葉にはいい表せない寂しさを感じた。
(本当に、どうしたんだろう)
自分でもわからないへんに、僕は正直戸惑っていた。
「ね、ねえ!」
そんな時、布良さんが大きな声を上げた。
「”浩介君”って、呼んでいい?」
「え?」
布良さんの突然の提案に、僕は驚きに目を瞬かせた。
「ほ、ほら友達として当たり前かなって思ったんだけど……ダメかな?」
「別にかまわないけど、一つだけ条件があるんだ」
僕は卑怯だと思いながら、布良さんに”条件”を告げた。
「僕も、布良さんのことをその………梓って、呼んでいいんなら」
「な、何だか照れるね」
「それはお互い様だと思うけど」
頬を赤く染めながら笑みを浮かべる布良さんの言葉は、僕にも言えた。
僕とて、恥ずかしくてその場から逃げ去りたい衝動に駆られているのを何とかこらえているのだから。
「うん。いいよ……浩介君」
優しく微笑みながら、布良さんは僕の条件を呑んでくれた。
これで、ひとまずは区切りを迎えられたのかもしれない。
「それじゃ、これからもよろしくお願いします。梓先輩」
「先輩がつくの!?」
梓のツッコミに笑いながら、僕たちは寮に向かって歩く。
だが、この時僕はまだ知らなかった。
今僕たちの下にゆっくりとゆっくりと、魔の手が近づいていることに。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「馬鹿野郎っ!!」
風紀班支部にて、兵馬の怒鳴り声が響き渡る。
「申し訳ありません。気が付いた時にはこのありさまでして」
「報告書を無防備に放置しているからだっ!!」
怒られていたのは男性隊員だった。
それは、報告書の紛失が原因だった。
問題なのは、その報告書の内容だった。
「あの報告書にはアンナ・レティクル女史の現在の各毎場所が記されているんだぞ。もし何かがあったらどうするんだっ!!」
「本当に申し訳ありませんでした」
報告書に記されていたアンナの居場所の項目が、さらに事態をややこしくさせてしまったのだ。
「とにかく、お前の処罰に関しては後程連絡がいくだろう。今日のところは自宅待機だったく、余計な仕事を増やしてくれるな」
「申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げると、支部を去っていった。
その背中を見届けながら、兵馬は深いため息をつくのであった。
それは、全ての予兆であった。
海上都市内のある開発地区にある倉庫内で、一人の男が立っていた。
その周囲には数十人の人物が、まるで主君に忠誠を誓うかのごとく跪いていた。
「さあ、復讐を始めよう。人類への復讐を。哀れなる者どもへの制裁を」
『おーっ!!』
男の言葉に、その場にいた数十人の雄たけびが倉庫内に響き渡る。
それは一種の決起でもあった。
「我々の目的は、彼女に対して裁きを下すこと! それをあのお方は望んでいる!」
「それは、アンナ・レティクルの処刑よりも重要なこと! 否、最重要なこと!」
「あの女と罪大し集団の殲滅なり!」
次々とあげられる言葉に比例して、倉庫内に集まる人物たちの熱気を上げていく。
それは、一種の予兆であった。
「必要なものはすべてそろった」
海上都市のとあるビルの上、そこには一人の男の姿があった。
「人員も、道化師も、悪役も」
静かに、されど力強い言葉には計り知れぬ何かが込められているのを感じ取るのに十分であった。
「ようやく始まる。私の宿願である、復讐が」
その声には喜びに交じって別の何かの意志が込められていた。
だが、それを知るのは本人のみだろう。
「別の方でちょろよろと動いている者もいるが、そんなものは関係ない。私は私のやることをやるだけだ。だが……」
男はそこまで口にすると、言葉を区切った。
「たまには、ためになることをするのもいいか」
そうつぶやいた男は、携帯電話を取り出すと突然どこかに電話をかけ始めた。
「私だ。お前に頼みたいことがある」
そして電話の相手に、男はそう言い放った。
「いまさら何を言っている? 私が頼みごとをするのはいつも唐突だろうが」
電話の相手の返事に、男は眉を顰めながら相槌を打つ。
「ああ。実はな―――――」
そして男は用件を伝える。
こうして、予兆が渦巻く海上都市はまた新たな一日を迎えようとしていた。