DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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たいへん永らくお待たせしました。
ここまで時間がかかるとは予想外でした。
時間はかかっていますが、ちゃんと執筆活動は続けていますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。

それでは、第48話をどうぞ


第48話A 気持ち

「さすがに、ランニングをする必要はなかったよね」

 

陸橋のあたりまで走ってきた僕は、若干乱れた息を整えながらつぶやいた。

こうなった理由はほんの数分前に及ぶ。

 

 

 

 

 

「お、おはよう。浩介君」

「おはよう、梓」

 

共同スペースにいた僕は後から入ってきた梓に対して、若干ぎこちなくあいさつを交わした。

 

「私、顔洗ってくるね」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

無理に笑いながら洗面所に向かっていく梓を見届けた僕に真っ先に声をかけてきたのは

 

「あなた、布良さんに何かいかがわしい事でもしたの?」

 

と疑いの目を向けながら問いかける美羽さんだった。

 

「してません」

 

もちろん、そのような行為は一切していない。

それっぽいことをしそうにはなったが。

 

「え? なになに? ついにコースケが爆発させちゃったの?」

「ば、爆発!? 高月先輩大丈夫なんですか!?」

 

小悪魔のような笑みを浮かべるエリナさんの言葉に、稲村さんが過敏に反応して心配してきた。

 

「大丈夫だから。そもそも爆発なんてしてないし」

「そうなんですか。よかったです」

 

微妙に勘違いしているのだが、説明すればかなりややこしいことになりそうな気もするので、勘違いさせたままにしておくのが一番のような気がした僕は、そのまま説明することはしなかった。

 

「あ、僕ちょっと走ってくるっ」

「あ、ちょっと―――」

 

そして僕は、これ以上追及されないように、外に走りに行くことにしたのだ。

そして今に至る。

 

 

 

 

 

「絶対に戻ったら追及されるよね。これ」

 

どう足掻いても追及される運命は変えようがなかった。

 

(本当に、どうすればいいんだ?)

 

僕は梓のことが普通の相棒として見れなくなっている。

だが、それは許されるのだろうか?

彼女はどう取り繕っても狩人の人間だ。

だから何だというものだが、それでもどうしても気になってしまった。

僕はこの気持ちを彼女に告げるべきなのか、そうではなく心の中に秘めたままにするのかを。

自分の中にある疑問が渦を巻いて僕という存在を飲み込みそうになったとき、それは起こった。

 

”何、青臭いことを言ってるのやら”

 

自分の頭の中に、自分の声が響き渡ってきた。

何を言っているのかが自分でもわからなくなるが、ありていに言えば自分の声が聞こえたのだ。

しかも自分が到底言わないような口調の言葉が。

 

「ど、どういうこと!?」

 

”まさか通じ――。なら、ちょうど――――に――――が―――――る”

 

最初ははっきりと聞こえた声だったが、それは次第にノイズによって不鮮明になっていく。

「な、なに?」

 

”き―――――――えの―――――――に、――――――――――るぞ”

 

ノイズはさらにひどくなり、声がよく聞き取れないほどにまで悪化していた。

 

”―――――――――――――”

 

やがて、聞こえるのはただのノイズのみとなってしまった。

 

(本当に今日は分からないことがよく起こるな)

 

思わずボヤキにも似た言葉が漏れた。

だが、問題はいまだに解決はしていないのだ。

僕はどうするべきなのかという問題が。

 

(あ、そうだ)

 

ふと僕はアンナさんとメールアドレスの交換をしていたことを思い出した。

 

(アンナさんだったらいろいろと詳しいかもしれない)

 

人生経験が豊富(別に深い意味はないが)なので、もしかしたら僕にも分らないような考え方を提示してくれるかもしれないという思いがよぎったのだ。

 

(でも、いいのかな?)

 

相手は吸血鬼の長たる存在。

そんな人に気軽にメール(しかも恋愛相談)などをすれば最悪打ち首になるような気がする。

 

(ま、まあ大丈夫だよね)

 

エリナさんの変な質問でも大丈夫だったのだから、問題はない……はず。

とりあえず、このまま悩んでいてもらちが明かないので、僕は崖から飛び降りる思いで携帯を取り出すとメールを書いていく。

 

『吸血鬼と人間とでは恋愛はできないのでしょうか?』

 

件名のほうに『突然すみません』と書いておき、僕はその内容でアンナさんのアドレスに送信した。

 

「あ、返ってきた」

 

どうだろうと思っていると、メールの受信を告げる音が鳴り響いたので、僕は受信したメールを確認した。

 

『ありかなしかというよりは、君の気持ち次第ではないのではないかな?』

 

ある意味当たり前の返事だった。

 

『君は布良君のことをどう思っているのかな?』

 

そして、なぜか梓のことだとばれていた。

 

『自分は彼女のことが好きなのは間違いがないんですけど、でもそれは本当に心の底からの本心なのかがわからないんです。彼女という存在が好きなのか、それとも吸血ができるという理由だけで好きなのかが』

 

何度も書き直して僕は送信した。

それは僕にとっては本心だった。

僕は梓という人を好きになっているのか、ただ吸血の相手として好きになっているのかがわからなかったのだ。

前者ならばまだいい。

でも、後者ならばそれは絶対にいけないことだ。

そんなことを思っていると、アンナさんから返事が返ってきた。

 

『なるほど。それならば君は自分と対話してみるといい。そうすれば自ずと答えは見つかるものだよ』

「自分と対話?」

 

アンナさんの言わんとすることがわからず、僕は首を傾げた。

 

(いや、そういうことか)

 

だが、次第にそれがわかってきた。

 

『ありがとうございます。何とか答えが出せそうです』

 

僕はそう書いてアンナさんにメールを送信した。

 

「よし、行くか」

 

僕の行き先は決まった。

場所もちょうど分かれ道。

これならば遠回りになる心配もない。

 

(休憩時間もまだ40分はある)

 

目的地は片道10分の道のりだ。

現在地からだと歩いて5分もほどで着く距離のため、実質的な時間は約25分はある。

そして僕は目的地である病院へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあやあ! 君から僕のところに来るなんて嬉しいよ! さあさあ、こっちに座って座って」

 

病院……扇先生を尋ねるといつもの数倍のテンションで出迎えられた。

しかもかなり手厚い歓迎だし。

 

「それで、ついに僕の愛を受け入れてくれる気になったんだね!」

「違います」

 

僕に迫ってくる扇先生に、僕はきっぱりと否定した。

 

「またまたー。照れちゃって。そんな高月君もまたそそる」

「たとえ頭がおかしくなったとしても、扇先生の愛を受け入れることは確実にありえませんから」

 

僕の拒絶の言葉に全く動じた様子のない扇先生に、僕はさらにきっぱりと答えた。

 

「……そこまできっぱりと言わなくても」

「これほど言わない通じないでしょ。先生は」

 

不満げに抗議の声をあげる扇先生に、僕はため息交じりに答えた。

 

「それで、一体どうしたんだい?」

「本能と話をすることってできますか?」

 

扇先生の問いかけに、僕はストレートに尋ねた。

 

「また突然だね……どうしてかな?」

「実は、一度本能に聞いてみたいことがあるんです」

 

その僕の言葉に、扇先生の視線が少しばかり鋭くなった。

 

「理論上では可能だけど、一歩間違えれば二度と目が覚めないことだってある。本当にやる気かい?」

「はい」

 

扇先生の問いかけに、僕は力強くうなづいた。

その時、扇先生から視線を逸らさないように気を付けながら。

視線を逸らしてしまえば、その時点で扇先生は猛反対するだろう。

 

「そんなに見つめられると、僕君を襲ってしまうかもしれない?」

「まさか。いくら扇先生でも、そんな空気を読まないような行動をとるとは思えませんよ」

 

扇先生の言葉に、僕は軽く笑い飛ばしながら否定した。

 

「さりげなくひどいことを言ってるよね、それ。後、そう言いながら距離を取らないでっ」

 

扇先生から距離を取っていた僕に、すさまじいツッコみが入った。

 

「それはともかく、高月君の気持ちは確かに伝わったよ。その代わり、本能の言葉に賛同してはだめだ。参道でもしたら気味は二度と目が覚めることはなくなるから。わかったかい?」

「わかりました」

 

僕が頷いたのを確認した扇先生は、どこからともなく一つのパックを取り出すとそれを僕に差し出した。

 

「あの、これは?」

「僕が配合した特別な合成血液だよ。体には害はないけど、強烈な眠気に襲われるから気を付けて」

 

僕の疑問に扇船セリは真剣な面持ちのまま答えると最後に注意事項を口にした。

 

「はい」

 

僕はそれに頷くと、いつもの要領で血液パックを口にした。

そして、一パック飲みきったのと同時に

 

「うっ!?」

 

強烈な眠気に襲われた。

あまりの眠気に視界が歪んで見えた。

 

「大丈夫。その感覚に身をゆだねるんだ」

 

そんな中、扇先生の声だけがやけにはっきりと聞こえた。

 

「すぐに”彼”に会えるからね」

 

その言葉を最後に、僕の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いた時、最初に感じたのは風の吹く音だった。

 

「ん……」

 

目を開けると、陽の光によってオレンジ色に色づけされた空が見えた。

 

(夕方? それとも明け方?)

 

よくわからないが、とりあえず上半身を起こした。

 

「……」

 

そして、愕然とした。

今目の前に広がっているのは、僕の知らない風景だった。

どこかの丘の上なのか、そこから見える田園は日本のワビさびを十分に醸し出していた。

 

「ここどこ?」

 

ふと疑問の声が口から洩れた。

そこは僕の知らない場所だった。

でも、どうしてだろう?

この景色がとても懐かしく感じてしまうのは?

 

「そこは、私の家。そこは私の故郷」

「え?」

 

どこからともなく答えが返ってきたことに、僕は思わず声のほうへと視線を向けた。

そこには一人の人が立っていた。

声からしておそらくは男性だろう。

何より

 

(声が僕と同じ)

 

そう、声が全く持って同じだったのだ。

そんな人物に僕は一人だけ心当たりがあった。

 

「あなたが、本能?」

「本能かと聞かれれば、違う。私には理性があり、頭脳がある……だが、お前では予想ができないほどの言動をする時点で、それは本能と言える」

 

僕の問いかけに、その人物は遠まわしに答えた。

一つでも間違えたら間違えた解釈をしかねないような言い回しに、僕はなんとなく本能と話したと思われる人たちの反応の理由がわかったような気がした。

 

「それじゃ、一体なんて呼べば?」

「別にお前でもいいだろ。もとは同じなのだから」

「いや。でも、こうしてお互いに話しているわけなんだし」

 

何故か”お前”と呼ぶのが憚られたのだ。

 

「本当に面倒な奴だな」

「それはお互い様だと思うけど」

 

わかりにくい遠回しな言い回しをしたりするところが特に。

 

「これは一本取られたな」

 

苦笑したような声色で口にいながら、

 

「ならば本能でよい。間違ってはいないのだから」

 

と本能は答えた。

そしてそのまま僕の横に腰かけたので、僕もそれに倣ってその場に腰かける。

腰かけたはいいがなかなか話を切り出すことができない。

まるで、見えない何かに口をふさがれているかのような錯覚を覚えた。

そんな僕たちにまるで通り抜けるかのように風が吹いた。

 

「それで、何の用だ?」

「え?」

 

最初に口を開いたのは本能だった。

 

「何を呆けている。私に話があるからこそ、危険な橋を渡ってきたんだろ?」

「どういうことだ?」

 

本能の言葉の意味が分からない僕は、本能にそう尋ねた。

 

「本能である私とおまえの人格は、一つの壁のようなものによって区分けされている。そして一つの人格が前に出ているときはその出口は固く封じられている。だが、それは条件さえ満たせば簡単に開放することができる」

「それが、特殊な合成血液を飲むことか」

「それ以外にもあるが、まあそんなところだ」

 

僕の言葉に、本能はうなづいて答えた。

先ほどから顔を見ようとしているのだが、なぜか顔の部分には靄のようなものがかかりよく見ることができなかった。

 

「見なくてもいいものは見なくてよい、それが幸せになる秘訣だ」

「でも、そんなことをしていたら、何も変わらないんじゃ?」

 

突然つぶやいた本能の言葉に、僕は反論した。

 

「やはり変わらないな。そのような考えでは、将来とんでもない地獄を見るぞ」

「……まるで見たような口ぶりですね」

「見てきたからな。数多の修羅場とそれを取り巻く思いの数々を」

 

その言葉には、僕にも理解しきれない思いのようなものが込められているような気がした。

 

「それと、敬語は無用だ。対面しているとはいえ、もとは一つ。ならばため口で話しても問題はない」

 

僕は本能の言葉に甘えることにした。

 

「……実は、僕には気になっている女の子がいるんだ」

「布良 梓か」

 

意外にも僕の相談に帰ってきたのは梓の名前だった。

 

「どうして?」

「どうしてもなにも、私は彼女とは面識もある。それに、私はお前でもあるのだから、知っていて当然だろ」

 

僕の疑問に、あきれたような口調で答える本能の言葉に、僕は苦笑するしかなかった。

 

「で、彼女が好きなのか?」

「……わからない。自分の気持ちがわからないんだ。ただ、鼓動が一瞬早くなるんだ。まるで吸血の衝動のように。だからもし、この気持ちが血を吸う対象としてだったらと思うと……」

 

僕はそこで言葉を詰まらせた。

そこから先を口にすることは僕はできなかったのだ。

 

「なるほど、そういうことか」

 

だが、本能にはすべてがわかったようで、ぽつりと言葉を漏らした。

 

「吸血欲求であれば、お前はすでにそれを満たそうとしているはずだ。お前の意志で止められるわけはない。お前は衝動に似たような感覚に襲われた時に、我を忘れて彼女から吸血したのか?」

 

本能の問いかけに、僕は首を横に振って否定した。

僕の記憶の限りでは、そのようなことはなかったはずだ。

もっとも”記憶の限り”だが。

 

「ならば、それが答えじゃないか。お前のそれは衝動ではなく、それに準じたもの………後は言わなくてもわかるよな?」

 

答えはすでに出た。

僕のこの気持ちが何なのかはこれではっきりとしたのだ。

後は、それを彼女に伝えるだけだ。

 

(それが一番大変そうだけど)

 

「何を笑ってる」

「いや、我ながらとてもシャイだなーって」

 

顔に出ていたのだろう、いぶかしむ様な表情で聞いてきたので、僕は苦笑しながら答えた。

 

「うるさい。だが、一つだけ忠告しておこう」

 

僕からそっぽを向く本能は、話題を変えるように、そう告げた。

 

「布良と付き合うのであれば、戦争を覚悟しろ」

「ど、どういうことだ?」

 

突然の本能の忠告に、僕は動揺しながら聞き返した。

 

「布良梓の置かれている状況がどれほどの物かは知っているだろ?」

「それは……」

 

梓は狩人。

だが梓は吸血鬼に対してわけ隔てなく接している。

それは相棒を組んでいた僕や量の皆でさえわかるほどだ

それに彼女の周辺には楓という少女がいる。

彼女は僕に……吸血鬼に対してあまりいい感情は持っていない様子が見受けられた。

ここで下手に動けば彼女を刺激することになる。

 

「ならば行動には細心の注意をはらえ。告げるタイミング次第では、無用な争いは回避できる」

「わかった」

 

どのタイミングが一番なのかは僕にも分らない。

だが、その時になればきっとわかることなのかもしれない。

 

「あれ?」

 

その時、周辺の景色に異変が生じた。

まるでノイズでも走るかのように周辺の風景が歪み始めたのだ。

 

「どうやら、時間切れのようだ」

「どういうことだ?」

 

本能の言葉に、僕の口から思わず疑問の声が出てきた。

 

「それは分かっているはずだ。お前の目覚めの時が近いという意味だ」

 

意味などわかりきっていた。

こうして話ができる時間が限られていることぐらい。

 

「最後に一つだけ忠告しておく」

 

徐々に周囲の景色が崩れ去る中、本能は口を開いた。

 

「気をつけよ。敵はすぐ近くにいる」

 

その言葉は、やけに僕の頭の中に響き渡ってくる。

そのまま、僕の意識は再び闇へと落ちるのであった。

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