警○24時ではないのですから。
一番大変だったのは、エリナの下ネタだったりします。
一歩間違えるとR-18規制に引っ掛かってしまうので。
初めての吸血を終えた翌日。
「ん……」
ふと目覚めた僕は大きく伸びをする。
(うん。やっぱり違和感はない)
体の調子を確認するが、昨日まで感じていたけだるさが嘘のようになくなっていた。
やはり、吸血をしたのが大きかったようだ。
「おはよう、コースケ」
「うわっ!?」
何の躊躇もなくドアを開けて入ってきた寝間着姿のエリナに、驚きのあまりにのけぞってしまった。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
まさかいきなり入ってきたのに驚いたなどとは言えず、そう答えるしかなかった。
そんな時、エリナさんの手に、やや大きめの箱があるのに気付いた。
「ん? その手に持っているものは何?」
「これ? なんか届いてたよ。コースケ宛だよ」
「僕宛?」
いったい誰から送られたのだろうか?
送り主の名前はなく、ただ単に『高月浩介様へ』としか書かれていない。
「一体何を注文したの? あ、もしかしてオ○○○ール」
「ぶっ!?」
エリナさんの口から発せられたとんでもない単語に思わずむせてしまった。
何と言ったのかは想像に任せる。
「そんなんじゃないって。大体頼んだとしたら、送り主くらいは書くでしょ」
「あ、そうか。つまりは裏モノってことだね」
「うん。全然わかってないし、より悪化してるしっ!」
裏モノって何?
「分かった。だったら、この場で開けて潔白であることを証明しようではないか」
「エリナに、そんなものを見せるだなんて、コースケってば変態さんだね」
僕の言葉に、エリナさんは恥ずかしそうな態度をとりながらからかってくる。
今、僕は言い返したいが、とりあえず無視して机の上に置かれた旅行用に入れておいた万能カッターを手にすると、箱に貼られたテープを切っていく。
そして切り終えた僕は、箱を開けた。
「なんだこれ?」
「やっぱり○○○ホール……あり?」
またもや危険なことを言いながら箱の中を覗き込むエリナさんは中身を見て目を丸くした。
箱の中にあったのは黒色の変哲のない一個の携帯電話だった。
「何か手紙があるね。何々『就職祝いにこれをやる。電話代はお主が払え』だって」
箱の中に同封されていた便箋を手にすると、エリナさんは朗読した。
「祝っているのかそれとも、ケチなのかわからないな」
僕は携帯電話を見つめながらそうつぶやくのであった
「おはようございます。高月先輩、エリナちゃん」
「おはよう、稲叢さん」
「おはよう、リオ」
あの後、エリナさんは着替えるため部屋を後にし僕も普段着に着替えて共有スペースに降りたのだ。
ちなみに携帯電話は自室に置いてある。
「みんな揃ったわね」
「それじゃ、夕食にしましょう」
そして、僕たちは夕食を取るのであった。
ちなみに、僕たちにとっては朝食だったりもするのだが、どうでもいいことだろう。
「浩介、ちょっといいかしら?」
「何かな? 美羽さん」
食事も終わり、共有スペースで雑誌に目を通していると美羽さんが話しかけてきた。
よく見れば後ろの方に布良さんも立っていた。
「あなた、今日何か用事とかあるかしら?」
「いや、とくには」
美羽さんの問いかけの意味が分からないまま、僕は答えた。
「だったら、ちょっと私たちと一緒に来てくれるかしら」
「別にいいけど、いったい何?」
「来たらわかるよ」
どうやら詳しいことは到着した時に話すようだ。
僕はそう納得することにして、読みかけの雑誌を閉じて元の場所に片づけると、美羽さんたちと共に量を後にするのであった。
そして、やってきたのはどこかの警備室のようなところだった。
「おはようございます」
「おう、矢来に布良か。それと、ん? 見ねえ顔だな」
そこで布良さんが挨拶をすると、軍服のようなものを着散るとさかヘアの中年男性が応じる。
そして僕の方に視線が向けられた。
「彼が、希望者です」
「なるほど、お前さんか」
矢来さんの言葉で納得がいったのか、男の人はこちらに歩み寄ってくる。
「お前、よく見るとあの時に巻き込まれたやつじゃねえか」
「高月浩介です」
どうやら、覚えてもらっていたようだ。
「お前、風紀班で働くことを希望していたようだが、吸血は? 能力は?」
「経験済みです。後者の方もそこそこではありますが」
男の人の問いかけに、僕はできるだけ落ち着いて応えていく。
「だったら十分だな。俺は枡形兵馬だ。一応、上司だ。呼ぶときは
「は、はい」
枡形さん………主任の言葉に、僕は上ずった声で返事をしてしまった。
「それよりも前にまずはこいつを受け取れ」
「これは?」
旬に手渡されたのは分厚い本二冊だった。
「マニュアルのようなものだ。そいつに目を通しておけ。風紀班の仕事に必要な知識だ」
「これを今からですか?」
「すぐにとは言わないが、近いうちに確認試験するから、まじめにな。それにある程度の訓練も受けてもらう」
やはり、治安維持活動を行う風紀班ともなると、色々と大変なようだ。
とはいえ、それを覚悟して決めたのだから、根を上げるわけにはいかない。
「それと並行して実務の方も研修を受けてもらう。まあ、仮採用と言うことで、様子を見つつ問題がなく確認試験の結果で本採用だ」
「分かりました」
確認試験の日程は後日言い渡すとのことで、僕は受け取った資料に目を通すことを心の中で決める。
「早速だが、高月。お前には”習うより慣れろ”ということで今から巡回に行ってもらう」
「は、はいっ」
どうやらぶっつけ本番になるようだ。
というより、巡回なんてものをしたことがないのにできるのだろうか?
「矢来に布良も制服に着替えろ。高月、お前さんの制服も男子更衣室に用意されているが、間違えても女子更衣室に入るなよ」
「は、入りません!」
主任の半分冗談(だと思いたい)言葉に、ツッコみつつ、二人に連れられるようにして更衣室へと向かうのであった。
「以外に似合ってるじゃない」
「何だか場違いのような気がする」
(以外で悪かったねっ)
美羽さんの間奏に心の中で突っ込みながら、自分の服装を確認する。
黒を基調とし茶色っぽいボタンが特徴的な軍服のような印象を感じる物だった。
なんとなく自分には似合っていないような気もしなくはない。
「美羽さんの方はある意味すごい似合ってると思うよ」
「それはどうも」
軍服の女性版の服装の美羽さんだが、完全にそっち方面を彷彿とさせるのは仕方がないことかもしれない。
「あれ、二人とももう着替えたんだ」
「布良さんのは……何だか大変そうだね」
遅れてやってきた布良さんの服装は、最初に出会った時と同じ巫女装束だった。
確かに、あの服を着るとなると時間と手間がもかなりかかるだろう。
「そうなんだよね」
「でも、すごく似合ってるよ」
「えへへ、ありがとう」
僕の感想に、布良さんは照れたようにお礼を言った。
「よし、着替えたな」
頃合いを見て主任が声を上げる。
「これから行ってもらうのは風紀班として非常に重要な仕事だ。仕事を覚えるのにちょうどいいだろう」
「確かにそうですね」
巡回ならばそれほど難しいものではないだろう。
「だが、犯罪を未然に防ぐためにも巡回は欠かせない仕事だが、心配するな。お前一人で行けとは言わん。教育係も必要だしな」
と言うことは美羽さんと布良さんの二人が、教育係と言うことだろうか?
「しかし、教育係二人と言うのは少々多すぎる」
「と言うことは」
なんとなくこの後の展開が読めた。
「お前、矢来と布良のどちらと仕事をしたいかを選べ」
「難しい選択をさせますね……えっと」
ある意味究極の選択を強いられた僕が選んだのは、
「それじゃ、矢来さんでお願いします。仕事もそうですが、吸血鬼としても半人前なので」
「だそうだが、矢来。問題はないか?」
「ええ、問題ありません」
主任の確認に美羽さんも異論を唱えなかったため、教育係の方は無事に決まった。
「矢来、いつもの巡回ルートを回りながら説明をしてやれ」
「分かりました」
「それじゃ、行くぞ布良」
主任の呼びかけに答えながら、頑張るように告げた布良さんは部屋を後にしていく。
「それじゃ、私たちも行きましょう」
「よろしくお願いします」
こうして僕の初仕事が幕を開けるのであった。
「巡回と言っても、歩いているだけでいいのかな?」
「ええ、そうよ。威圧感を与えながら歩くだけでも効果はあるわ」
巡回を開始した僕たちだったが、初めて早々の僕の疑問に美羽さんは歩きながら答えた。
「そういうものかね」
「そういうものよ」
僕のつぶやきに、美羽さんが返す。
そうして次々と巡回を進めていく。
「何だか土地勘を養っているような気がする」
「巡回中であることを忘れないで。まあ、言いえて妙だけど」
注意する美羽さんだったけど、僕の言っていることもある意味的を得ていたのか、複雑な表情を浮かべていた。
「しいて言うなら、あたりをきょろきょろ見ていたり落ち着きのない感じだったり……不審な人がいないかに注意して。私たちならば暗がりでも見えるはずだから」
「なるほど。参考になったよ」
吸血鬼になってから暗いところでも、よく周りが見えるようになった。
それを考えると、吸血鬼も悪くないのではと考えてしまう僕は、虫が良すぎるのだろうか?
「ところで、これは風紀班とは関係ないことだけど、ひとつ聞いていいかな?」
「いいわよ。でも、胸のサイズを知りたいとか言ったら叩くわよ」
「言いませんっ! と言うより、美羽さんの中での僕っていったいどんな風に写ってるの?!」
ジト目で美羽さんに忠告されるけど、僕は最初からそのような失礼なことを聞く気はない。
「それで、何?」
「えっと………」
いざ聞こうとするとどうしても戸惑ってしまう。
――吸血鬼喰いって何?――
考えるだけなら簡単なこれも、言葉にするのに抵抗があった。
美羽さんが先日初めての吸血を終えて寮へと戻る際につぶやいた言葉
『吸血鬼喰い』
それが何を意味するのか、僕は知りたかった。
「やっぱりいいや」
「何よそれ」
「また今度聞くよ」
非難の目で見られる中、僕はそう言って話を終わらせた。
結局、僕にはそれを知る覚悟が固まらなかったのだ。
そんなこんなで、巡回をするのであった。
「ただ今戻りました」
「戻りました」
巡回を終え、風紀班の支部に戻ってきた。
「矢来に高月。どうだった?」
「こちらは特に問題はありませんでした」
主任の問いかけに、美羽さんが答えた。
巡回した結果、特にこれと言って不審者は見当たらず、また酔っ払いとのけんかの騒ぎなども怒らなかった。
そういう意味では、初仕事にしては肩透かしを食らったような気もするが、慣れるにはもってこいだったので、僕としては勉強になった。
(それに何も起こらないのはいいことだしね)
平和が一番である。
「あの、主任、ひとついいですか?」
「おう、言ってみろ」
そんな中、僕は気になっていたことを主任に訊くことにした。
「さっきから布良さんが不機嫌なんですが、何かあったんですか?」
「あぁ。酔っぱらい同士の喧嘩の対応をしたんだがな……」
「どうせ私は子供ですよ。大人じゃありませんよーだ」
主任の言葉を遮るように、布良さんが不満の声を上げる。
「と言うことだ。ああいう喧嘩対応をした後は、たいていこうなるからそっとしてやれ」
「は、はい」
何だか、布良さんがかわいそうに見えてくるが、下手にフォローして傷口を広げかねないので、そっとしておくことにした。
そんなこんなで、僕の初仕事は何とか幕を閉じるのであった。