1年間も更新できず申し訳ありません。
本日ようやく最新話が完成しました。
今回はある意味最初の山場の始まりでもあります。
一年間待たせてしまった時間に釣り合うかはわかりませんが、楽しんでいただければ幸いです。
それは何の前触れもなく突然起こった。
「どういうことだ……これは」
私は、混乱する頭であたりを見回す。
ここは”彼”の自室だ。
それに間違いはない。
問題なのは、”私”が前に出ているということだ。
(覚醒用のパックは飲んでいないだろうし……となると、これは)
ふと、一つの可能性が頭の中をよぎる。
「覚醒の時が迫っているのか?」
もしそれが本当なのであれば由々しき事態だ。
”覚醒”すれば、取り返しのつかない事態を引き起こすことが予想できるからだ。
この間の彼女の登場で、とうとうカウントダウンが始まってしまったようだ。
(何とかしなければ……)
どうしたものかと頭ををひねらせていると、それを遮るように着信を告げるように電話が鳴り始める。
「電話か……」
机の上に置かれている彼の携帯を確認するが、画面には特に変化は見られなかったので、彼の携帯ではないようだ。
(だとすると……)
私はベッドの下にあるスペースの一番奥に隠すように置いたものを取り出す。
それはどこからどう見てもただの木箱であり、ふたを開ければそこには僕の宝物が入っている。
ちなみに宝物と言っているが中に入っているものは、世界のあらゆる武器が載せられている百科事典だ。
これを渡した人物曰く、子供向けの本らしい。
武器の特徴や威力などが詳細かつ分かりやすく記載されているこの本は、毎年出版されているので私としてはかなり重宝しているのだが、果たしてこれを子供向けとして出版してもいいものなのだろうかと疑問を感じてしまう。
(まあ、いいか)
今はそのことは関係ないので、考えることをやめ、百科事典を木箱から取り出す。
中身のない木箱の中敷きとなっている底の部分を取り除くと、そこにはけたたましく鳴り響いている携帯電話があった。
私はそれを取り出すと、ディスプレイを確認する。
(知らない番号……)
その番号は私には心当たりのない物だった。
そもそもこの携帯に電話をかけてくる人物は、おおよそ限定される。
何せ教えている人の数が少ないのだ。
つまりは、心当たりのないこの番号の主はただの間違い電話か、それとも何がしらかを企む者のどちらかだと推測することができるのだ。
私は通話ボタンを押して素早く耳にあてる。
「誰だ?」
相手が声を上げるよりも早く、私は電話口の人物に疑問を投げかける。
『――――だな?』
私の疑問に返ってきたのは、機械のようなもので声を変えた人の声であった。
どうやら赤穂社のほうだったようだ。
だが、私はそれすらどうでもよく思うほど、相手の口にした言葉に衝撃を受ける。
「……貴様、なぜそれを知っているっ」
私は声を荒げて電話口の人物を問い詰める。
今相手が口にした内容は、ごく限られた(それこそほんの数人程度)人でしか知りえないことなのだ。
少なくとも、私の正体を知っているであろう人物で、声を変えてこのような怪電話を掛けるような悪趣味な人物に、心当たりはなかった。
『私はお前の知りたいことをすべてを知っている』
私の追及を応えようともせずに、相手はさらに言葉を続ける。
『今から1時間後に、W10番の倉庫前に一人で来い。 そうすればお前の知りたいことをすべて話そう』
「戯け。誰が怪しさ満点の呼び出しに応じるかっ。そんなに話がしたければ自分から訪ねてこい。ボケっ」
相手の要求を切り捨てるように吐き捨てた私は、電話を切ると携帯を耳から離し木箱の中に投げ入れるようにしまう。
「……」
先ほど怪電話が掛かってきた携帯電話を見つめながら、どうしたものかと右手の指で足を軽くつつきながら考えを巡らせる。
(時期も時期だ……不安材料は極力排除しておくに越したことはない……か)
考えた結果、私はこの怪電話について調べることにした。
とはいえ、相手の要求に従うほど私は愚かではない。
何らかの罠が仕掛けられている可能性は非常に濃厚だ。
私がどれほど強くても、待ちかまえられていればその限りではない。
今、力を使うわけにはいかないのも理由の一つでもあったりするのだが。
(あいつを使うか)
こういう時程、頼りになる仲間が私に入る。
私は木箱から携帯電話を取り出すと、そのまま窓際まで歩き窓をゆっくりと開けた。
その瞬間、まるで狙っていたかと言わんばかりのタイミングでそよ風が私の顔をなでるように吹き込む。
「……隼人」
それを受けながら、私は独り言のような大きさの声でその名前を口にする。
「如何されましたか?」
私の呼びかけから数秒ほど待たずして、頭上のほうに気配を感じたのと同時に声が聞えてきた。
「この番号の主を探れ」
私は視線を変えずにそう告げると、手に持っている自分の携帯を気配のする方へと放り投げた。
「御意」
ほんの数秒でその返事と同時に、今度は私の携帯が空から降ってくる。
それを受け取った私は、部屋の窓を閉めるとカーテンを閉じる。
(さて、どのような人物が出てくるのやら)
結果がわかるまでしばらくはかかるだろうと当たりを付けた私は、再び携帯を木箱の中にしまい中敷きと百科事典をその上に入れてもとあった場所に戻すと、ベッドに横になり静かに目を閉じるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
ある日の休憩時間。
佑斗君たちにアンナさんの警護を変わってもらった僕と梓は、月長学院内にある訓練場でいつものように射撃の訓練をしていた。
「それじゃ、ラスト5発いってみよー」
「はいっ」
撃った弾の数がいつもより少ないような気もしたが、深く考えずに返事を返すと僕は銃を的のほうに構えた。
狙いをしっかりと定めて引き金を引く、ひいたらすぐに隣の的のほうに照準を合わせてまた引き金を引く。
それを何度も繰り返して行っていく。
「当たーり~」
「やった、全弾命中っ」
ちょうど5発。
すべての的の中央部分に銃弾を命中させることができた僕は、喜びのあまりにガッツポーズをしてしまった。
これまでは良くて8割という確率だったが、初めて全弾命中という記録をたたき出せたのだ。
これを喜ばずにいる方が無理というものだろう。
「そろそろかな」
「何か言った?」
「な、何でもないよっ」
喜びを噛みしめている中何やらつぶやいた梓に、僕は問い掛けるが梓は若干慌てた様子で首を横に振りながら応えた。
「浩介君、ちょっとだけ待ってて」
「あ、うん」
怪しいと思ってさらに追及しようとするのを防ぐように、梓はとてとてと体育館の出口のほうに向かって駆けていった。
そんな梓の行動を首を傾げているとすぐに梓が戻ってきた。
「浩介君!」
その手には木製の箱のようなものが抱えられていた。
「お待たせ―」
「いや、それはいいんだけど……」
一体どうしたのかを尋ねようと口を開きかけた僕に、梓は手にしていた木箱を差し出した。
「えっと、これは?」
「今日届いたんだよ」
屈託のない笑顔で答えた梓は無言で僕に箱を開けるように促してくるので、僕は木箱を受け取るとふたを外し中を見る。
中に入っていたのは白を基調としたハンドガンタイプの銃だった。
それはどことなく梓と同じ銃にも見えた。
「もしかして……」
「うん。浩介君の銃だよ」
僕の予感を肯定するように頷いた梓は笑みを浮かべたままそう僕に告げた。
僕は高ぶる心を何とか落ち着かせ、今日届いた銃を手にする。
手にした銃の感覚は全く分からない。
嬉しさのあまり手の感覚がくるってしまったのだろう。
「これ、今撃ってもいいのか?」
「うん。もちろん」
梓のOKをもらった僕は、早速銃に模擬弾を装填して的に向けて構える。
(うん、大丈夫)
新しく届いた銃ということもあり、今まで使っていた銃の感覚と異なるのかもしれないと思っていたが、どうやらそれは僕の思い過ごしだったようだ。
それは僕の手に自然とフィットし、まるで自分の体のような感覚がした。
とりあえず試しに一発と僕は狙いを定めて引き金を引いた。
銃声とともに、的の中央部分に弾は着弾した。
(よしっ)
僕は命中したことに心の中でガッツポーズをとりながら、僕は隣の的に照準を合わせるのであった。
「今日はすごかったよ、浩介君」
「そ、それほどでも……あはは」
月長学園からの帰り道、梓の称賛の言葉に僕は後ろ頭を掻きながら相槌を打つ。
実際のところ、あのあとも命中率は99%を上回る勢いだったのだから、ある意味すごいとも言える。
「自分専用の銃が届いたからかな?」
「そうかもしれない」
梓のその一言にすべての理由はまとめられてしまうわけなのだが、それでも自分の実力だと思いたいのはプライドからだろうか?
「ねえ、浩介君」
「……何? 梓」
ふと、先ほどまでと梓の声色が変わったことに気付いた僕は、それにつられるように気を引き締める。
「どうして、銃を習いたいって思ったの?」
「………」
梓のその問いかけに、僕は言葉が出なくなる。
「銃を扱える素質があるのはあの時にわかっていたけど、浩介君は六連君のような感じのスタイルだし」
「……」
梓の言葉に何かを答えなければと思うが、うまく言葉が出てこない。
”あの時”というのがどの時を指しているのかはわからないが。
「理由なんてたいそうなものはないよ」
どのくらいの沈黙が続いたのだろうか。
ようやっと僕は言葉を発することができた。
「ただ、少し怖くなっただけ」
「怖い?」
僕の言葉が気になったのだろう、梓は足を止めて僕の口にした単語を口にする。
「血を吸うたびに自分が自分でなくなってしまうような気がするというか……おかしくなるんじゃないかって」
「浩介君……」
人の血を吸う。
それが吸血鬼にとっての”常識”だ。
でも、僕はこの間まで人間だったのだ。
人の血を吸えば吸う程、自分じゃない何かが目覚めるのではないかという不安感に苛まれる。
現に最近はやたらと記憶が途切れることが多くなった。
しかも気が付くとそこにいる人たちは、僕のことを何とも言えない表情で見ているのだ。
(本当にどうしたんだろう)
自分にもわからない何かが自分の中で起こっている。
それは恐怖でしかない。
でも、きっと……
「というのは建前で、もしかしたら梓だから……かもしれないけど」
一度口にしてみると、すっと頭の中がクリアになる。
(なんだ、そういうことだったのか)
確かに自分に起こっている異変に対する恐怖はある、
でも、それだけではない。
考えてみれば、今までそういう兆しがあったようにも見える。
今までの自分の行動を振り返れば、それはきっと―――
「私だから?」
「あ、いや別に梓が憎くていやだというわけじゃなくて――――」
僕の言葉にどこか悲しげな上目遣いでこちらを見る梓に、僕は慌てて自分が先ほど口にした言葉を言い直すが途中でそれを止める。
(そこから先を言ってもいいのか?)
僕の心は決まった。
後はそれを彼女に伝えるだけだ。
でも、もし断られたら?
今度はそんな不安が僕にのしかかる。
――……っ!!――
(でも、言うしかないんだよね)
なんだか誰かから思いを告げろという声を聞いたような気がするが、それは僕の幻聴だろう。
「なくて、なに?」
「それは、僕が梓のことが……」
感じるのは優しく吹くそよ風。
そしてこれ以上とないほどに強く鼓動する心臓の音。
「梓のことがす―――――っ!?」
僕の気持ちを言おうとした瞬間、数発の銃声が僕の耳に入ってきた。
その音は嫌でも仕事の時の緊迫したものへと意識を切り替えさせる。
ここ、アクア・エデンは吸血鬼が暮らせる場所ではあるが、日常茶飯事に銃声が鳴り響くことはまずありえない。
そもそもそんな状況だったら観光客が訪れるということもないのだ。
つまり、それが意味することは、何らかの事件がここで発生しているということでもあるわけだ。
しかも、それが銃撃戦とは無関係の学生寮の方向から聞こえてきたのであればなおさらだ。
「学生寮のほうからだっ」
「行こうっ!」
僕の言葉を聞くや否や、真剣な面持ちの梓が寮の方へと駆け出していき、それに続くように僕も駆けだした。
この事態が落ち着いたら自分の気持ちを伝えるという誓いを胸に秘めながら。
次回はおそらく、流れ的には原作通りになると思います。
次の話がいつ投稿できるかはわかりませんが、楽しみにしていただけると幸いです。