本当はプロット的には中途半端ですが、確実に1万時を超えてしまう(長すぎる)ため、前編・後編とに分けることとなりました。
今回はジダーノと対峙するところまでの話となります。
それでは、本篇をどうぞ!
寮の前まで戻った僕たちは、あたりを見回してみるが、そこはいつものように平和な雰囲気を醸し出していた。
まるで、あの時の銃声などなかったかのような雰囲気が。
そんな中、寮から少し離れた場所に黒塗りのワゴン車が一台止まっているのに気付いたが、おそらく風紀班の車だろう。
「何もない?」
「浩介君は中をッ」
どういうことなのか考えようとしたところに梓からの指示が飛ぶ。
(そうだ。今は考えているところじゃない)
「分かった」
僕は梓に返事をすると、急いで寮の中へと駆けこんだ。
「浩介!」
寮内の共有スペースに駆け込んだ僕を出迎えたのは、佑斗君と険しい表情でカーテンの隙間から外を見ている美羽さんだった。
寮内の様子から、どうやら発砲された場所はここではなく外のようだ。
だが安心はできない。
発砲した者はまだ捕まっていないのだ。
すぐにでも別の安全な場所に移る必要があった。
「アンナさんは?」
「打ち合わせ道理に駐車場のほうに移動をして控えて貰ってる。すぐにでもこっちは出られるぞ」
緊急事態が発生した際は、佑斗君は運転免許を持っている利点を生かして、アンナさんを安全な場所に連れて行くことになっている。
その際にはジダーノ達からの襲撃が来る可能性を考慮して、別動隊で僕達が動くというのが打ち合わせの内容だ。
うまくいくかは分からないが、それでもやるしかないのだ。
「主任からここに応援をよこしたって言う連絡は?」
僕の問いかけに美羽さんは首を横に振る。
(ということは、あれは応援で駆けつけた物ではないと言うことか)
敵なのか味方なのかは分からないが、用心するに越したことはない。
「周辺に襲撃者の姿は見えないけど、ワゴン車が一台止まっているのを見たから、二人とも裏口からお願い」
二人は僕の頼みに二つ返事で応える。
「浩介」
「何? 美羽さん」
二人に背を向けて外へ行こうとした僕を引き留める美羽さんに用件を尋ねるとどことなく苛立っている様子で
「布良さんのことお願いね。私あいつらと仕事ができるほど心が広くないから」
美羽さんの言葉にどういう意味なのかと首を傾げながらも、
僕はアンナさんを二人に任せて、外で見張っているであろう梓の元に向かうことにした。
外に出るとなんとなくではあるが、美羽さんの言葉の意味が分かったような気がした。
僕の目に飛び込んできたのは、梓を取り囲むように立っている、黒装束の男達の姿だった。
その梓の対面にいる少女は、この間会った楓という人物だったことから、彼らは狩人だと思われる。
僕は黒装束の男たちの間を縫うようにして、梓の隣に移動する。
「本当にここで吸血鬼を匿っていたんですね」
「な、なんのこと?」
彼女の言葉に梓は視線を逸らしながらとぼける。
アンナさんがここにいることはトップシークレット。
誰にも言ってはいけないためだ。
一応形だけでも彼女達は仲間なのだから話しても良いのだが、いかんせん信用することが出来ない。
「……あくまでもとぼけますか。よく化け物を匿えますね」
向こうにはどうやら全てがお見通しのようで、こちらを蔑むような口調で言葉を吐き捨てる。
「アンナさんは、ここに必要な人だよ」
梓の強い口調の言葉にそれまで口を閉ざしていた周囲の男達がざわめき立つ。
その中には″アンナ・レティクルって、あの悪魔の化け物のことか″やら、″これだから布良の血筋は。また同じ過ちを繰り返す気か″といった声が目立った。
僕が感じたのは梓を侮辱したことに対する怒りではなく、疑問だった。
(またって一体どういうことだ?)
その疑問を考えようとした瞬間、鼓動が早まるのを感じた。
それと同時にからでの奥底から這い上がってくる黒い何かも。
「まあいいです。魚が餌に食いつきさえすれば」
「……さっきの銃声は君たちのか?」
彼女の言葉に、這い上がってくる黒い何かはまるで煙のように消えた。
そのことにほっと心の中で胸をなで下ろす。
よく分からないが、″何か″に呑み込まれたら大変なことが起こるような気がしていたからだ。
「ええ。ジダーノが網にかかりました」
僕の予想は合っていたようだ。
この場にジダーノらしき人物の姿がないところを見ると、まだ確保には至っていないようだ。
「数発命中したので、確保は時間の問題です」
「手際が良いようで」
どことなく、最初からこうなるように仕立てられたような気がした僕は、軽く皮肉を込めながら賞賛の言葉を贈ると、彼女は表情を変えることなく
「私達は梓姫とは違い、のんびりしておりませんので」
と言い放った。
「おい。梓は───」
「良いよ、浩介君」
彼女の気持ちも知らないその言葉に反論しようとする僕を止めたのは梓だった。
「楓ちゃん。ありがとう」
「………ふん」
梓の予想外の言葉に、彼女の顔が一瞬驚きに染まるがすぐにいつもの憎たらしい物に戻っていた。
「失礼いたします」
そんな中、一人の黒装束の男が彼女のそばまで移動すると小声で何かを伝え始める。
何を言っているのかはさっぱりだが、漏れ聞こえてくる”そんな馬鹿な”やら、”あれだけの弾を受けているのに”といったフレーズの言葉で、何伝えたのかを僕たちが知るのにそう難しいことではなかった。
「手を貸しましょうか?」
「結構、ジダーノを確保するのは私たちだけで十分です」
僕の提案を一蹴した彼女は、”このようなもの、放っておきましょう”という男の言葉に頷くとこちらを見向きもせずに走り去ってしまった。
その後ろ姿を無言で見送っていると、緊迫した空気を切り崩すように着信を告げる音が鳴り響き始める。
「あ、ちょっと待ってて」
どうやらそれは梓の携帯だったらしく、梓は携帯を取り出すと僕に背を向けて電話に出る。
電話はそんなに長くなく、ほんの数十秒で電話をしまいながらこちらのほうに顔を向けた。
「主任から。アンナさんは無事に別の場所に向かったみたい」
「そうか。よかった」
どうやら電話の相手は主任だったようで、梓からの吉報に、僕はほっとっ胸をなでおろした。
根本的な解決はまだだが、それでも無事に怪我もなく移動できたのは非常に大きい。
(後はジダーノを捕まえるだけだ)
「それとジダーノらしき男が潜伏している場所がわかったよ」
「本当っ! それはいったいどこに?」
早速巡ってきたチャンスに僕は叫びそうになるのを抑えて(それでも口調は強くなってしまったが)梓に場所を聞く。
「それは……」
聞かれた梓が真剣な面持ちで告げた場所は、あまりにも意外なところだった。
「本当にここにジダーノが」
「うん、間違いないよ」
ジダーノが潜伏していると思わる場所の前で、いまだに信じられない気持ちで梓に尋ねるが、返ってきたのは先ほどと何も変わらないものだった。
今僕たちがいるのは『私立 月長学院』の校舎前なのだ。
ここにあのジダーノが潜伏しているというのだ。
僕たちの学び舎がそういった場所になっているというのは、信じられなかったが現実から目を背け続けるわけにもいかないため、僕はそれを受け入れる。
梓から教えてもらったことによると、すでに学院の関係者の避難は済んでおり中にいるのはジダーノと狩人のみとのことらしい。
「あの人たちも……いるよね」
「うん……」
中からくぐもって聞こえてくる銃声に、思わず声のトーンを落とす僕に、梓は控えめに返事をするだけだった。
「相手が何であっても、私たちがすることは変わらないよ、浩介君」
「……そうだね」
かと思いきや力強い口調で言ってくる梓に、僕はいろいろと考えるのをやめた。
ここに狩人がいようがいてもいなくても関係ない。
ただジダーノの逮捕だけに集中しよう。
(それにしても、いつも通いなれているはずのここがなんだか違う雰囲気に見えるな)
中で何かが起こっていることをはっきりと伝えてくる雰囲気を、思いっきり放っている校舎内に足を踏み入れようとしたところで
「待って、浩介君」
「何? 梓」
呼び止められた僕の疑問に、梓は
首筋が見えるように襟元を引っ張る。
それによってそれだけで彼女の言わんとすることが分かったような気がした。
「相手はとても強敵なの。だから念のために吸血しておこう」
「……いや、止めとく」
梓からの提案はありがたかったが、何となく吸血をする気分ではなかったため、僕は手持ちの武器を使うことにした。
「でも、浩介君」
そんな僕の答えに納得がいかないのか、食い下がろうとする。
そんな梓に、僕はつい最近使えるようになった梓と同じデザインの銃を取り出いながら
「大丈夫。そのためにこれがあるんだかr」
と梓を安心させるように笑みを浮かべながら伝えた。
「……無理はしないでね」
これ以上言っても無駄だと悟ったのか、梓は一瞬心配そうな表情でこちらを見ると念を押すように言ってきたので、それに僕は”わかった”と返す。
「それじゃ、行くよ」
そして僕たちは。ジダーノが潜伏しているとみられる学院内へと足を踏み入れるのであった。
学院内に足を踏み入れた僕たちは、お互い無言で廊下を歩いていた。
まだ夜になって間もないためか、廊下の明かりはすべて消されており、周囲はいつもとは違う雰囲気を放っていた。
ここが少し前まで通っていた学び舎だというのだから驚きだ。
薄暗いとはいえ、僕は吸血鬼だ。
このくらいの暗さでも周囲の状況を確認することなど造作もない。
とはいえ、このまま無言で歩き続けるというのは気分的にもよくない。
(何か言わないと)
「不気味だね」
「そ、そうだね」
何か言わないとという一心で出てきた言葉に返ってくる梓の言葉は、どことなく震えてるようだった。
それはただ単に暗いところが苦手だからというものではないことくらいすぐにわかった。
確かに今いる学院内は不気味だ。
まるで周囲に敵が潜んでいるような感じがするのだ。
その潜んでいる敵が、一瞬でも気を抜けば一気に襲い掛かってくるような錯覚さえ覚えるほどに強かった。
だが、周囲に人の気配などもなく、薄暗い廊下と相まって不気味さに拍車をかけていた。
これが文化祭の定番の催し物である”お化け屋敷”などであれば、お化け役の人が驚かせるために僕たちの前に躍り出るところだろう。
(そういえば、この学院ってあるのかな? 文化祭)
吸血鬼でも通える学院と迷降っているこの学院だが、どこにでもある催しの存在までは気にしていなかった。
もっとも、気にする暇など全くなかったわけなのだが。
「そういえば気になっていたんだけど」
「何?」
周囲に視線を向けながら、僕は気になったことを聞いてみることにした。
「この学院って文化祭とかある?」
「うん、あるよ。もう少し先の話だけどね」
僕の突拍子もない質問に驚いた様子ではあったがすぐに答えてくれた。
「そうなんだ。あのさ、梓」
「何かな?」
このとき、不思議と周囲から感じる重苦しい空気と、廊下の薄暗さからなる不気味さを感じていなかった。
それこそ、まるでいつもの日常の一コマのような錯覚を覚えるほどだ。
「文化祭の時は一緒に出し物とかを見て回らない?」
「……えぇ!?」
僕の言葉にhを赤く染めて驚きの声を上げる梓に、僕は心の中で首をかしげていた。
僕としては普通に文化祭を回りたいといっただけのはずなのに。
(まるで告白でもされたようなリアクションだ)
「そ、その……私でよかったら一緒に見て回ろ」
そんな僕の疑問など知る由もなく、梓はOKを出してくれた。
……赤い顔のままで。
(………あ、そういうことかっ)
そしてここでようやく僕は、梓のリアクションの謎を解くことができた。
文化祭を見て回るというのは、ある種のデートと言うことにもなる。
ならばこれはデートの誘いということになり……つまりは
(ぼ、僕、いま告白したっ?!)
ここが薄暗い廊下でよかった。
そうでなければ、真っ赤になっている僕の顔が梓に見られていただろうから。
文化祭=デートと言うのはかなり無茶のある考え方だったが、この時の僕にはそれを気にする余裕などなかった。
「あ、ありがとう」
何とか言葉を詰まらせながらもお礼を言うことができた。
いつものような日常の一場面。
こんな時間がずっと続くかと思っていた。
その矢先だった。
「「っ!」」
少し先のほうから聞こえる銃声が聞こえてきたのは。
「行こうっ!」
僕は無言で頷くと、銃声が聞こえた方向へと駆けていく。
この時、僕は何となくではあるものの、一筋縄ではいかないような、そんな予感を感じていた。
次回の投稿予定は未定ですが、来月中の投稿を目指して頑張りたいと思いますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。
ドラマCDで学園祭(?)を題材にしたものがあったような気がしたのでちょっとだけ触れてみました。
(学園祭の話を書くのかどうかは未定です)