DRACU-RIOT!~最凶の吸血鬼~   作:TRcrant

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大変お待たせしました。

今回はかなり長くなっております。
ある意味今回の話が、一つのターニングポイントとなります。

それでは、どうぞ!


第52話A 想い

「近くのようだね」

「うん」

 

梓が相槌を打つのをしり目に、僕は周囲に視線を向ける。

どうやら話しているうちにジダーノがいるであろう場所に近づいていたようだ。

先ほど聞こえた銃声がこもって聞こえてきたことから,

場所はどこかの室内……教室と思われる。

 

(場所が悪いな)

 

教室という場所には様々な武器になりそうなものがある。

机や椅子などを武器にされればこちらはひとたまりもない。

これは少々手ごわいなと気を引き締める。

 

「っ!?」

 

そんな時、先ほどよりも非常に大きい銃声が数発聞こえたかと思うと、少し先の教室の廊下側の窓ガラスを突き破るようにして飛び出てきた人は床をゴロゴロと転がっていき、反対側の壁にぶつかることでその動きを止めた。

どうやらその人物はジダーノではないようで、教室内から飛ばされた人物の顔を確認する。

黒装束に身を包んだその人物には見覚えがあった。

 

「この人、もしかして狩人か?」

「うん」

 

神妙な面持ちで頷く梓に、僕は先ほどまでの考えを改める。

 

(これは、かなりやばいかも)

 

吸血鬼を退治することに特化した狩人の倒れている姿から相手はかなりの腕であることは想像がつく。

だからと言ってここで尻尾を巻いて逃げるという選択肢など僕たちにはない。

 

「一、二の三で突入するよ」

「わかった」

 

梓と簡単な打ち合わせを済ませた僕たちはお互いの武器構える。

 

「一、二の―――」

 

ゆっくりとドアノブに手をかけ、そして

 

「「三!!」」

 

一気に中に足を踏み入れる。

教室内はまさに惨状だった。

地面に折り重なるように倒れ伏す狩人たちの姿。

地面に倒れている人たちは、肩がかすかに動いているので生きているようだ。

 

「う、うわぁぁ!!」

「おせぇんだよ! ほらよ」

 

そしてさらに惨状さを増させているのが教室の中心にいた男の手によって、吹き飛ばされていく狩人の姿だ。

その人物がジダーノなのであろう。

彼の手にあるのはどこにでもある工事用のシャベルだ。

 

「相手は素早いぞ。距離をとって撃て、撃てぇ!!」

「お前らが遅すぎなんだよ。そんな鈍足で俺は狩れねえぞ」

 

まだ倒れていない数人の狩人たちが、一斉にジダーノに向かって銃を連射する

すべての銃がジダーノの体を射抜き、体の動きを鈍くさせるか、その命を刈り取っているはずだが

 

「無駄だ、無駄だぁ!」

「「「ぐぁぁ!!」」」

 

ジダーノは動きを鈍らせるどころか、今までよりもすさまじい迫力でシャベルを振り回して、立っていた数人の狩人たちを薙ぎ払って見せた。

気が付けばいまだに立っているのは、巫女装束に身を包んでいる楓という少女と僕たちとジダーノだけとなっていた。

 

「がはは! どうした、これで終わりかぁ! これが狩人の強さか! 恐るるに足らぬわ」

(嘘だろ)

 

目の前で見せつけられた状況に、僕は背中に冷たいものが流れるのを感じた。

いくら吸血鬼でもありえないパワーとタフさを見せつけられたのだ。

普通の人であれば一目散に逃げるであろう。

 

「僕があいつの気を引き付けるから、梓は援護射撃をお願い」

「わかった」

 

もう手遅れではあるが、吸血をしていなかったことが悔やまれる。

吸血をして、能力が使えるような状態にしておけば、いくらでも戦術は広がっただろう。

だが、いつまでも悔やんでいても仕方がないと割り切り、僕は梓に簡単に作戦を伝える。

 

(行くぞ!)

 

「邪魔をするなっ」

「こちらのセリフだっ」

 

自分に気合を入れた僕は、昇叙にそう言い返しながらジダーノの前に躍り出る。

 

「今度は風紀班の犬が相手か。売女に血でも恵んでもらっているのかぁ?」

 

教室という場所柄武器になりそうなものは大量にある。

それはこちらにとっては脅威でもありチャンスでもあった。

なんせ、武器を簡単に調達できるのだから。

 

(まずは近接タイプだと油断させて、隙があれば銃を使ってジダーノを撃つ)

 

相手は銃弾を浴びてもびくともしない怪物クラスの吸血鬼だ。

だが、いくら怪物でも至近距離から銃撃されれば多少はダメージが入るはずだ。

後ろの梓の援軍があるので、たいていの危機は乗り越えられるだろ。

そう踏んでの作戦だった。

 

「やぁ!」

「ひゃっはぁー! 力比べとは、おもしれえ!」

 

まるで戦闘狂なのではないかと思うほどのハイテンションでジダーノはシャベルをこちらに向かって振ってくる。

僕の振り下ろした椅子とジダーノの持つシャベルが”カキンっ”という金属音とともに拮抗する。

――否

 

「っぐ」

 

僕の持っていた椅子が後ろのほうに弾き飛ばされたのだ。

それは僕のほうがパワーで負けていることを意味していた。

 

(やばっ)

 

椅子が弾き飛ばされた反動で僕の体もバランスを崩して後ろによろける。

今の僕はまさに”どうぞとどめを刺してください”と言っているような状態だ。

現にジダーノが無言でシャベルを構えなおしていることが何よりの証。

ジダーノの手にあるシャベルが僕に向かって振り下ろされそうになった瞬間、後ろのほうから銃声が鳴り響いた。

 

「むっ」

 

それは梓の援護射撃だった。

まさか本当に僕の想定していた通りの援護射撃をしてもらうことになるとは、想定外だった。

 

「浩介君っ!」

「助かった!」

 

梓にお礼を言いながら、僕はもらったばかりの銃をジダーノに向けて構える。

 

「ぼうっと突っ立つとは、風紀班の犬は頭まで馬鹿のようだなぁ!」

「……」

 

ジダーノの言葉を無視して、すべての神経を手元にある銃に集中させる。

 

(大丈夫、できる。僕にはできる)

 

僕は自分に何度も何度も言い聞かせるようにつぶやく。

 

『銃を扱える素質があるのはあの時にわかっていたけど』

 

数刻前の梓の言葉が頭の中に再び蘇る。

もし梓がうそをついていないのであれば、うまくいくかもしれない。

 

「くらえっ!」

「効かないなぁ!」

 

やや離れた場所からの銃撃は前段命中という結果となった。

銃弾は模倣弾だったようで、ジダーノにダメージを与えることはできなかった。

だが、それでも意味はあった。

なぜなら

 

「浩介君!」

 

本命である梓を隠すことができたのだから

 

「うっ……そういう言うことか」

 

僕を呼ぶ声と同時に横に避けるのと同時に銃声が一つし、梓が撃ったものとみられる銃弾はジダーノへと命中した。

梓の銃撃を食らったジダーノは先ほどまでとは打って変わって一、二歩よろけると廊下側の窓を突き破って外へと逃げ出していった。

 

「梓、今のは?」

「麻酔弾だったんだけど」

 

僕の疑問に答える梓が途中で言葉を濁す。

だが、なんて言おうとしたかは僕にでもわかった。

”全く効いていない”と。

 

「そっちは大丈夫か? 必要だったら肩を貸すけど」

「うるさい。吸血鬼の世話になんか……っ」

 

どうやら足をやられたのだろうか、足首を抑えている彼女に声をかけていたが、返ってきたのはいつもの憎らしい言葉だった。

だが、それでも痛みをこらえることはできないようで、顔を歪ませる。

 

「梓」

「うん、わかってる」

 

僕の言わんとすることは梓に伝わっている(もっとも、梓がそれをしようとしていただけかもしれないけれど)のか、彼女の元まで駆け寄ると応急処置をし始めた。

 

「大丈夫、たぶん足をひねっているんだ思う。ちょっとだけ動かないでね」

「………」

 

梓の言葉に無言を貫く彼女は、悔しげな表情を浮かべながら応急処置をしている梓を見ていた。

 

「あいつは手負いじゃなかったのか?」

 

僕は彼女に気になっていたことを問いかける。

 

ジダーノのこれまでの動きは、まるで銃弾などを食らっていなかったといわんばかりの物だったからだ。

 

「3発命中しているのを確認している。それも退魔弾だ」

「退魔弾?」

 

聞きなれぬ単語に首をかしげると、応急処置を終えたのか梓が立ち上がりながら口を説明をしてくれた。

なんでも普通の人には効果はないが吸血鬼にだけは効果がある成分の薬が込められた弾らしい。

 

「効かないなんてことはあるのか?」

「絶対に聞くということはなくて、ただ吸血鬼さんの抵抗力を落とす成分と一緒に入っているから」

 

(どちらかに耐性があるか、もしくは運がいいだけってことか)

 

どちらにせよ、ジダーノがどれほどの強敵なのかは一目瞭然だ。

 

「梓、作戦変更をしたほうがいいかもしれない」

「どういう風にするの?」

 

僕が考え付いた作戦、それは

 

「確保をあきらめて、奴をここから外に追い出す」

 

ある種の逃げの一手でもあった。

情報が不足している現状で、戦っても奴を捕まえることは難しい。

せっかく黒幕が出てきて確保のチャンスがあるというのに、それをみすみす逃すというのは少し残念だが、仕方がないと割り切る。

 

「もう少し広い場所で籠城して時間を稼ごう」

「そうだね。救援も来るかもしれないし」

 

僕の提案に梓も頷いたことで、一応方針は決まった。

 

「あんたはどうする? もし戦えなそうだったらここに残って仲間の介抱をしてもいいけど」

「馬鹿にしないで」

 

苦虫をつぶしたような表情でこちらを睨みつけた彼女は、よろけそうではあるものの立ち上がった。

 

(もう少し言葉を選ばないと)

 

先ほどからどうも言い方がひどいような気がする自分を戒める。

こうして僕たちは籠城するのに適した場所へと移動するのであった。

 

 

 

 

 

「ここにするの?」

「ああ。ここだったら広いし身を隠す場所もあるから」

 

僕たちがやってきたのは深夜休みなどに夜食を食べる際によく利用していた食堂だった。

生徒たちが座ることができる席がある時点で、かなりの広さを誇る。

ほかにも体育館なども候補としてはあったが、身を隠す場所がないため除外。

物陰に身を隠して形成を立て直すことができる場所がここでしか思いつかなかったのだ。

 

「とりあえず机とかでバリケードでも作っておこう」

「何をのんきな」

 

バリケードを作るべく机を移動させ始める僕に呆れたような口調でつぶやかれてしまった。

 

「ねえ、楓ちゃんは吸血鬼さんたちをどうしたいの?」

「……本家のあなたにはわからないと思いますけど」

 

梓の静かな問いかけに、彼女はポツリポツリと口にする。

 

「私の両親は、昔吸血鬼に殺された」

「うん。知ってるよ」

 

(だからあそこまで吸血鬼を嫌うのか)

 

彼女の言葉に、子rまでの言動の理由が分かったのだが、同情するべきなのか、それとも自業自得だというべきなのか。

相反する二つの感情が僕の中でひしめきあっていた。

食堂内に重い雰囲気が漂うなか、それは唐突に訪れた。

感じたのは上空からこちらに向かってくる、大きな気配だった。

 

「上だっ!!」

 

僕の言葉と、何かをぶち破るようにして何かが降ってくる音はほぼ同時だった。

 

「きゃあっ!!」

 

天井(おそらく通気口だろう)をぶち破って表れたのは、ジダーノであった。

 

「しつこいぞ! 風紀班」

「だったらおとなしく捕まって!」

 

相手はかなり気が立っている様子でこちらに先制攻撃を仕掛けてきた。

 

「っ!」

 

ジダーノが持つ武器……鎌を紙一重でかわすとすかさず銃でジダーノの体を撃ちぬく。

だが、やはりジダーノにダメージなどはないようで、銃弾が命中したことなど気に留める様子はなかった。

 

「女が二匹に男が一匹か」

「舐めてるとケガするぞ」

 

僕にできたのは虚勢を張ることだけだった。

なんとなくわかるのだ。

今の僕には目の前の人物の足元にも及ばないということが。

だからこそ

 

(守らないと。梓を)

 

”梓を守る”

その言葉がやけに僕の中にぴったりとはまっていく。

俺がまるで、僕が生きている理由であるといわんばかりに違和感なくすんなりとなじんだのだ。

 

「浩介君!」

「くたばれ、吸血鬼め!」

 

僕の言葉を裏付けるように、二人はジダーノに向けて銃を撃ち始める。

 

「ふんっ!」

 

だが、ジダーノはそれを近くにあったテーブルを振ることで防いで見せたのだ。

 

「はぁっ!」

「ハッハァ! 全然効かねえ、なぁ!」

 

死角から拳を振り下ろすも、まるで見えているかのように簡単に止められた。

 

「がっ!」

 

そして体を蹴り飛ばされた僕は、後方に吹き飛ぶが何とか着地をすることができた。

 

「大丈夫っ!? 浩介君!」

「大丈夫だ!」

 

こちらを心配する梓に、無事であることを告げるが、現実は残酷なものだった。

 

(今ので右手と両足を痛めたか)

 

吸血鬼になって体が頑丈になったのだが、それでも今の一撃に体が耐えることはできなかった。

今も立っているだけで右足はジンジンと痛みを発し続けているし、右手に関しては痺れるような感触までする。

 

(これ、絶対に通院か入院コースだ)

 

なんとなく、この先の未来の光景が想像できてしまった。

主に病院にいる扇先生(悪魔)によって

だからと言ってここで引き下がるわけにはいかない。

まだ右手と右足を動かすことはできる。

ならば、まだ戦えるということでもあるのだ。

 

「さっきまでの威勢はどうしたぁ!」

「っと!」

 

ジダーノが振り回すテーブルをしゃがむことでやり過ごす。

それと同時に背中に嫌な汗が噴き出てくるのを感じた。

ジダーノの挑発を受けて前に踏み込んでいたら、大ダメージは免れなかった。

 

「ほぅ。ならばこれならどうだ!」

 

そんな僕をジダーノは、まるで小さな子供にものを教えているときのような余裕そうな態度で再びテーブルを振り回す。

だが、今度のそれは僕に向けている攻撃ではない。

 

「っ! 梓、しゃがんでっ!!」

「え? きゃああぁぁ!!」

 

ジダーノの狙いが僕ではなく、梓だと気づいて慌てて梓に指示を出すが、一歩遅かった。

まるで砲丸投げのように梓のほうにめがけて振り飛ばされたテーブルが、飛んで行ったのだ。

 

「貴様ぁぁ!!!」

「ハッハァ―、良いぜ良いぜ。その目、たまんねえっ」

 

その光景を見ていた僕が激昂する様子を、ジダーノは楽しげに声を上げると、手に何かを構える。

 

(絶対に許さないっ!)

 

梓を傷つけたということで頭に血が上っていた僕は、ジダーノの挙動など全く眼中にもなかった。

ただただ目の前で楽しそうに声を上げているジダーノに一発ぶん殴ることしか頭になかった。

それが、僕にとっては命取りとなった。

 

「……へ?」

 

最初に感じたのは熱だった。

右腕(肩に近いところ)が、熱くなったのだ。

 

「ッ!!」

 

次に感じたのはこれまでに味わったことのない強烈な痛みだった。

その痛みに、僕は声にもならない悲鳴を上げる。

恐る恐る自分の右腕を見てみると、右腕が不自然に揺れて(・・・)いた。

 

(腕を……切られた?)

 

そんな馬鹿な。

ありえないことだと否定したかったが、今見ているもの……感じている痛みがそれを許さない。

 

「ほらほら、どうしたぁ? 次は左腕を切ってやろうかぁ?」

 

笑みを浮かべて言葉を弾ませるジダーノの手にあったのは、斧のようなものだった。

それこそが、僕の腕を切り落とそうとした凶器だ。

 

(ここまで……なのか)

 

「浩介君!!」

 

体から力という力すべてが抜け落ちていき、立っている気力自体がなくなりかけていたところに、梓の悲鳴にも似た僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

(よかった。梓は無事だったんだ)

 

梓が無事だったことにほっと胸をなでおろす。

本当ならば返事をすればよかったのだが、それができるほど気力は残っていなかった。

 

「そうだ。次はそこの雌犬の腕をもらうとするか」

 

梓の声を聞いたジダーノは、そういうや否やこちらに背を向けて梓がいるであろう声がした場所へと歩き出す。

 

(止めないと)

 

いつの間にか座り込んでいたため、立ち上がろうとするが、力が出なくてうまく立ち上がることができ―――

 

(あ、れ?)

 

出来ないと思っていたが、予想に反してすんなりと立ち上がることができた。

理由はわからない。

きっと、梓の声が僕に力を与えてくれたのかもしれない。

 

(何か……武器になるようなもの)

 

次に探したのが武器になるようなものだ。

銃はジダーノには通じない。

別の何かでなければいけなかった。

そう、近接用の武器……例えば刀とか。

その時ふと、左手に突然何かが現れたのを感じた。

視線を左手に向けると、その手にはいつの間にか一本の金色の刀を握っていた。

何の変哲もない刀だが、どうしてだろうか。

この刀を見ていると複雑な感情がこみ上げてくるのだ。

それは”怒り”でもあり、”悲しみ”でもあり”希望”でもある。

 

(今はそんなことどうでもいい)

 

どうしていきなりこの刀が出てきたのか。

この感情の正体は何なのかなどは、今の僕には必要のないことだった。

必要なのは、ただただ目の前の敵(ジダーノ)をこの刀で倒すことただ一つだけだ。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

自分でも、どこからそんな力強い声が出るのかと不思議に思うほどの力強い雄たけびを上げながら、ジダーノへと肉厚する。

突然発せられた雄たけびに、こちらへ振り返ろうとするジダーノの動きがやけにゆっくりと感じられた。

 

「やぁぁ!!!」

 

ジダーノがこちらを振り返るのよりも早く、その背中に向けて刀を振り下ろした。

 

「うぐっ!!」

 

刀を振り下ろしたときの感触と、ジダーノがあげた苦しげな声で僕は攻撃が初めてジダーノに命中したことを知る。

背中を切り付けられたジダーノにめがげて、さらに数発の銃声が追い打ちをかける。

追い打ちをかけたのは、先ほど梓に向けて放たれたテーブルの攻撃で地面に倒れていた彼女であった。

さらにそれに続くように梓の銃撃がジダーノに向けて放たれた。

 

「眠り弾です。次第に効果が出てくるはずです」

 

僕の袈裟切り、少女の数発の銃撃と梓の眠り弾のトリプル技。

ジダーノは行動不能となっておとなしくその場に伏すはずだった。

 

「の、ようだな」

「あっ!!」

 

意外にもふらつく足取りでジダーノは食堂の窓ガラスをぶち破ると、そのまま外へと逃げて行った。

ジダーノの身柄の確保には失敗したが、ここから追い出すことには成功したので当初の目的は見事達成できた。

 

「あ、れ」

 

それを見届けた僕は、力が突然なくなり地面に倒れた。

ぴちゃりと水の上に落ちたような音がする。

 

「浩介君っ!!」

 

(あぁ、そうか。僕腕を切られたんだった)

 

梓が悲痛な悲鳴を上げながらこちらに駆け寄ってくるのを見ながら、僕はどこか他人事のように現状を理解していた。

不思議と痛みはない。

だが、喪失感のような何かがなくなっていくような感じがするだけだ。

 

「梓……大丈、夫?」

「浩介君が守ってくれたから……大丈夫だよ。ごめんね、私のせいで」

 

涙ながらに謝ってくる梓に、僕は首を横に振ることで応える。

 

「大切な人を……守れたんだ。だから謝らないで」

 

梓のことを守ることができた。

その事実だけでも、僕にとってはこの上ないほどに喜ばしいことだった。

梓を安心させるべく、いつもの癖で右腕で頭を撫でようとするが、動く気配が全くなかったので左腕を動かす。

気が付くと、いつの間にか僕の右腕は止血処理が施されていた。

 

「救急車を呼んだからすぐに来てくれるよ。だから、それまでに血を吸って。それで少しでも力をつけよう。ね?」

「大丈夫。すぐに救急車が来るんでしょ。それに……今吸血したら、自分が自分でいられなくなるかもしれない……そんなのは嫌だ」

 

もしこの血を飲んで、自分というのがなくなったら?

僕はしっかりと胸の内に渦巻く、黒い何かを感じ取っていた。

もしこれが一気に表に出たらどうなるのかがわからない。

ならば、今はそういうったこおてゃ控えるのが得策だ。

幸いまだ意識はある。

少しの間ならば大丈夫だと、自分に必死に言い聞かせる。

 

「どっちが大事だと思っているのっ!!」

「っ!?」

 

だが、そんな僕の考えは梓の大きな声によって否定される。

 

「そんなことに命を懸けちゃ、めっ……だよ」

「……」

 

女の子に思いっきり怒られた後いう恥ずかしさと、懇願するような悲しげな眼に、僕は梓から視線をそらした。

 

「大丈夫だから。だから、ね」

「……わかった」

 

梓の”大丈夫”は僕に自信を与えてくれる。

全く根拠のないことなのに、不思議なものだ。

 

「んっ」

 

僕はゆっくりとこちらに覆いかぶさってくる梓の首筋に顔を近づけると、彼女の首に牙を立てた。

口の中に梓の血の味が広がっていく。

それを一口飲むごとに、体が温かくなり僕の中にある喪失感が埋められていくような気がした。

きっとけがを治そうとしているんだ。

僕はそう自分に結論付けながら梓の血を口にする。

もっとも、体の温かさに関しては梓の肌のぬくもりなのかもしないけど

 

「もういいの?」

「うん。ありがとう」

 

何口飲んだかは数えていないが、僕は梓の首元から顔を離す。

 

「それよりも、話し相手になってくれないかな。なんだか眠っちゃいそうで怖いんだ」

 

喪失感は消えると、今度は黒い靄かかり始めた。

それは、まるでブラックホールのように、僕の意識を刈り取ろうとし始める。

これに飲み込まれてはいけないというのを、僕は本能的に察したのだ。

 

「うん。いいよ。でも、話の内容はどうしよう……」

「僕も……とくにはないかな」

 

肝心の内容が思い浮かばないところが何とも僕たちらしかった。

 

「そうだ。今だったら、その……む、胸の話でもいいよ」

 

きっと、ものすごく無理をしていったのだろう、恥ずかし気に頬を赤らめる彼女の様子に、笑いそうになるのを必死にこらえる。

ものすごく魅力的なテーマだったが、さすがにそんなことを離せるほど僕は心が強くなかったので、別の話題にすることにした。

 

(なんにしよう……やば、意識が)

 

話題を考えようとしたところで目の前の視界がぼやけ始める。

 

「それよりも、今いい内容を思い出した。梓のことを好きになった理由とか、どうかな」

「ふにっ!?!?」

 

僕は慌てて頭の中に浮かんだ話題を口に出していた。

こんな時だからだろうか。

いつもの僕だったら絶対に口にはしなかった話題だ。

僕の口にした内容に驚いたのか、顔を真っ赤にしている彼女には悪いと思いつつ、僕は話を進めることにした。

 

「最初は……一目ぼれ、かな。ここに来たばかりの僕を嫌な顔一つしないで、案内してくれた」

「……うん」

 

ほんの数か月前の話なのに、遠い昔のようにも思える。

それほどまでにこの数か月間の出来事は濃いものだったのだろう。

 

「後は、優しさと……あとは外見と……それと一目ぼれと」

「……救急車まだかなぁ」

 

自分でもだんだんと支離滅裂になってきてるのは分かる。

いろいろなものが頭の中をぐるぐると回っていって、まとまらないのだ。

それでも、梓のことが好きだというこの気持ちだけは変わらない。

 

「……後は、わからないや」

「駄目だよっ」

 

考えることをあきらめようとする僕に、梓の言葉がそれを許さなかった。

 

「ちゃんと考えて……わからないままにしたら、だめだよ」

 

梓にあたあをポムポムと撫でられるのはなんとなく変な感じだなと思えてきたところで、再び意識に黒いもやがかかり始める。

 

「うん………でも、なんだか眠くな……って」

 

そこで、僕の意識は闇に落ちた。

だがそれは、先ほど感じたような二度と起きれなくなるといった恐怖心は、全く感じさせなかった。

ただ、あるとすれば

 

(扇先生の……セクハラが……)

 

そう、セクハラ行為が始まるということくらいだろうか。

 

「浩介君、今のはどういう意味っ!?」

 

完全に意識が途切れる直前、梓のそんな声がしたような気がした。

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