更新の速度を重視して、一話当たりの文章の長さを、2500字ほどにすることで実現できたのですが、問題がありそうでしたら元に戻そうかなと思います。
あれから数日ほど経ったある日の深夜、僕はようやく病院を退院することができた。
ほんの数週間入院していただけで、病院の外の空気がとてもおいしく感じるのは、なんだか変な感じだった。
本当ならもう少し早く出られるはずだったが、某主治医が猛烈に駄々をこねたため、それの対応に少々時間がかかってしまった。
(き、今日はすさまじかったな)
はっきりと断っても引くどころか、さらにヒートアップする人に、僕はどう対処するべきだったのだろうか?
(いっそのこと意識を刈り取って……いや、やめておこう)
暴力はよくないと、僕は一瞬過激になりかけた自分を戒める。
決して、実力行使すると”僕と心中してくれるんだねっ”とか言いそうだとか思ったからではない。
いくらあの人でもそこまでの発言はしないだろうし。
………たぶん
そんなことを考えながら、僕は寮に向かって足を進める。
「皆、いるかな」
時間を確認すると、ちょうどいつもみんなが仕事を終えて寮に戻っているころだった。
(いつも通りに、いつも通り)
変によそよそしくするのもあれだし、ここはいつも通りの感じでいいだろう。
そう思いながら玄関のドアを開け、僕はリビングのほうへと足を進める。
リビングには明かりがついているので、誰かがいるのは間違いない。
おそらく、稲村さんが朝食でも作っているのだろう。
「皆ただい―――」
僕の声を遮るように鳴り響いたのは、なぜかパーティー用のクラッカーの音だった。
「へ?」
「「「「「「「おかえり、浩介(君)(高月先輩)」」」」」」」
あっけにとられる僕をしり目に、その場に集まっていた稲村さんに美羽さん、エリナさんに大房さん、ニコラに佑斗君に梓の7人が笑みを浮かべながら出迎えてくれた。
「た、ただいま……と、いうよりこれって何?」
「これはね、あまりにも入院が多い浩介への嫌がらせよ」
美羽さんの答えに、僕は首をかしげる。
(いったいどうしてこれが嫌がらせに……ああ、そういうことか)
これのどこが嫌がらせになるのかが分からなかったが、それもすぐに理解できた。
テーブルに置かれたのは、豪華な料理ではないがかなり手の込んだものだ。
しかも、仕事終わりで疲れているはずの大房さんまでもがいる。
(これじゃ、申し訳なさ過ぎていたたまれなくなる)
つまり、そういうことだ。
「これから浩介君が入院するたびにこれをやるからね」
「そうすれば高月君も、自分を大事にするんじゃないかなって思いますので」
にこやかな笑みで告げる梓に続いて大房さんも言い切った。
「それじゃ、高月先輩」
稲村さんがコップをこちらに差し出しながら促す。
それを音頭をとることだと解釈した僕は、コップを受け取って咳ばらいを一つする。
「えーっと、以後気を付けるので、本当にすみません。乾杯」
『乾杯!』
パーティーの温度が謝罪の言葉になるというのは、我ながら不思議な感覚だったが、パーティーは無事に幕を開けた。
「それにしても、浩介は入院のしすぎたぞ」
「それはあなたもでしょ。佑斗」
佑斗君の咎める言葉に、思わぬ場所から横やりが入った。
確かに、佑斗君も何度か入院しているような気がする。
「……」
「佑斗君、どうぞ」
「サンキュ」
美羽さんの呆れと心配の混じったジト目から視線をそらしつつ、僕たちは無言でジュースを飲み干すのであった。
「はい、浩介君。あーん♪」
「あ、梓……えっと」
リンゴの時からほぼ毎日食べさせてもらっていたからか、何の違和感もなしに料理(卵焼き)をこちらに差し出して食べさせようとしてくる梓に、僕は周囲に視線を向けながら止めようとするも、
「あーん♪」
「……あーん」
僕はすべてをあきらめてそのまま口に入れた。
(梓のあの笑顔の前じゃ、何も言えないよっ)
あまりにも満面の笑みを浮かべてくるものだから、受け入れる以外の方法ができないのだ。
(というより、こんなに堂々とやったりでもしたら)
僕は嫌な予感を感じて、周りを見てみる
「あの布良さんがここまで積極的になるなんて」
「にっひっひー。ラブラブだね~」
「お二人とも仲良しですね♪」
案の定、周囲からは好奇の視線が向けられていた。
「~~~~っ」
これが、”穴があったら入りたい”という気持ちだろう。
ものすごく恥ずかしい。
「次はこれだよ。はい、あーん♪」
そんな中、梓は我関せずといわんばかりに、笑みを浮かべながらウインナーを差し出していた。
「いや、梓。とりあえず人目があるんだし」
止めようと、僕は梓に告げようとするが、梓はそれまで浮かべていた笑みから一変し、悲しげな表情を浮かべた。
「ダメ……かな?」
「う゛っ!?」
弱々しい声+上目遣いの重ね技に、僕は言葉を詰まらせる。
(だ、誰? 梓にこんな凶悪な技を教えたのは!?)
告白する前の梓であれば、羞恥心が勝ってしない行動に、僕は誰かがたきつけているのだという結論に達し、文句を言うべく視線を巡らせると
「にひ♪」
目が合った瞬間に、片目を閉じてベロをちょこんと出しているのだから、間違いないだろう。
(まあ、もしかしたら退院したのがうれしかったというのもあるのかも)
とりあえず、僕はなすが儘に、梓の差し出した料理を食べることにした。
「うわ、とうとう浩介も受け入れ始めた」
佑斗君の若干引いたような声も気にしないことにした。
「……佑斗」
「な、なんだよ、美羽」
「あ、ああああ」
視線の端で、これでもかというほど赤い顔で料理を手にしながら(ものすごい勢いで震えているけど)何かを言いかけている美羽さんのことも。
「…あーん」
「……あー」
やがてすべてを察した佑斗君が、こちらに恨めしそうな顔を向けた後に、すべてをあきらめた様子で美羽さんに食べさせてもらう光景も気にしない。
(気にしたら負けなんだからぁ!)
僕はその後、料理がなくなるまでずっと梓に食べさせられることになった。
まあ、梓の幸せそうな顔を見れたのだから、いろいろな意味でよかったのかもしれない。
……もっとも、周囲には二コラ曰く、桃色のフォースにやられた皆が倒れている皆を元凶である僕たちと、唯一生き残った(変な言い方だが)稲村さんの5人で開放することになるのだが、それはまた別の話だ。
ついでに、美羽さんと佑斗君も、終始幸せそうだったということを付け加えさせていただきたい。
こうして、僕の退院祝い(という名の嫌がらせ)パーティーは、幕を閉じるのであった。
ということで、内容がパーティーのみという薄さですが、次回は学院に復帰+αの話になります。
それでは、また次回